ファンタジー小説『陰陽師 蛍火ノ巻』夢枕獏(著)感想  平安の闇を払う!!晴明と博雅の幽玄探偵物語!!

 

 

 

平安京が地震に見舞われた翌日、源博雅は安倍晴明の屋敷を訪れる。
「今日は酒は無しじゃ」
何やら喫緊の事態が巻き起こったようだが、果たして、、、

 

 

 

 

本日(2018/04/05)は清明。

清明とは、二十四節気(にじゅうしせっき)の一つ。

二十四節気とは、1太陽年を24分割して、季節を表す名称を付けています。

立春や、夏至、冬至、春分、秋分なんかが有名ですね。

と、言う事で、本日・清明にちなんで、
安倍晴明が出て来る話、「陰陽師」を取り上げてみます。

 

著者、夢枕獏の人気シリーズ「陰陽師」。
陰陽師・安倍晴明とその親友・源博雅が平安の都を舞台に幽玄なる怪異に出会い、鮮やかに解決する連作短篇である。
本巻「蛍火ノ巻」はシリーズ14作目。

 

本巻でもいつものノリは健在。
事件が起こって、晴明と博雅が解決してゆく。

しかし、バリエーションの一つとして、本巻では

蘆屋道満が新しい活躍を見せる。

 

舞台は平安の都から外れ、怪異に見舞われた人間の下にふらりと現れ、
酒と肴を交換条件に事件を解決せしめるのだ。

長いシリーズでありながら、新しいパターンを開発、導入してみせた本巻「蛍火ノ巻」。

それでいて作品の読み味と雰囲気は変わらない、
安心にて読める質の高い幽玄怪異譚である。

 

 

  • 『陰陽師 蛍火ノ巻』の面白ポイント

晴明と博雅の面映ゆい掛け合い

様々な怪異を鮮やかに解決する幽玄探偵ぶり

あの蘆屋道満が気の向くままに事件に関わる

 

 

以下、内容に触れた感想となっています

 


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  • 探偵と助手

「陰陽師」シリーズはパターンが決まっている連作短篇

1:晴明の屋敷にて酒を飲みながら、徒然なるままに己の感興を述べる博雅。
それに応える晴明。

2:晴明もしくは博雅、または突発的な訪問者が事件の話をし、晴明に解決の依頼をする。

3:実際に現場に赴き、事件を解決する。

4:晴明と博雅の後語り。

 

事件は怪異譚、語り口は雅やかではありますが、
「陰陽師」シリーズは間違い無く探偵物語と言えます。

「陰陽師」シリーズのファンは、
晴明と博雅の掛け合い
そして数多の事件の怪異のバリエーションの多さと、その解決にまつわる人情ぶりに惹かれて読んでいると言えましょう。

 

さて、本巻ではその新しいパターンとして、蘆屋道満の活躍を加えています。

元々、「陰陽師」シリーズにおいてトリックスターの活躍をしていた道満。

基本パターンが決まってしまっている晴明と博雅。
都を離れられない彼等に変わり、物語の舞台を縦横無尽に拡げる役割を担います。

時には無情に荒々しく、
時には無常さを受け入れつつ、
それでも新しい「陰陽師」のパターンとして蘆屋道満が活躍するのです。

 

  • 作品解説

では、各エピソードを簡単に解説してみます。
本巻「蛍火ノ巻」は全9篇の短篇集である。

 

双子針
ファンタジーにおける地震と言えば、風水。
しかし、敢えてそこには触れず、都と主上の関わりとして事件を解決しています。

仰ぎ中納言
人知れず、人ならぬ能力を身につけてしまったパターンだが、スケールが意外にデカくて面白い。
北斗の拳で言う「死兆星」は、「アルコル」と呼ばれる星。
古代のギリシアやローマでは、徴兵検査時の視力検査として使われたと言われます。
また、この星が見えないと死期が近いという説もあったりする。
どちらも、「兵に採られるという事は死の危険がある」「視力が衰えるという事は老衰とも関係する」という観点から死とも関係した星の印象があるのでしょう。

山神の贄
蘆屋道満の活躍回。
死という理不尽にであった夫。
それを追おうとする妻。
「酒」という欲望を掲げながら、その実、困った人間に「おせっかい」して人助けする理由付けにしている照れ屋さんが蘆屋道満なのです。

筏往生
蘆屋道満の活躍回。
いわゆる「蜘蛛の糸」系の話。
希望無く生きてきた者が、希望を見出し、それが故に徐々に要求が大きくなって行く様は、儚く弱い人間としてどうして責められようか。
しかし、絡まれた方は晴天の霹靂。
空気の読めない相手にどう対処するかでその人間の度量が知れます
展開の無常さに思わず道満も呆然自失。

度南国往来
地獄往来の様子が楽しい作品。
しかし、度南国にて苦しむ妻や父は自業自得。
それの為に、敢えて自身が苦行を背負うというのが功徳を積むという事でしょう。
分かっていても、なかなか出来る事では無いが、そういう心根で生きて行きたいもの。

むばら目中納言
最初は本当に解決していたとしても、原因を握る事でマッチポンプとなってしまった男の話。
ほんの気の迷いとして、潔く罪を認めた人間を許してやるというのも、道の一つでしょう。

花の下に立つ女
博雅の葉二に誘われる怪異の話。

屏風道士
長く生きて、ふと気付き自分の人生を省みた時、その無意味さに絶望に見舞われる
そして、諦めきった後に、過去の自分の仕事の中にも意味があるものがあったと見出す事が出来れば、それが救いとなりましょうか。

産養の磐
蘆屋道満の活躍回。
存外とストレートな怪異譚。

 

新たに蘆屋道満の活躍がバリエーションの一つとして加わった「陰陽師」。

とは言え、本巻では晴明と博雅の掛け合いが少な目で、やや物足りなかったのも事実。

この辺の、新規具合と、いつものパターンとの兼ね合いがどうなるのか、その点にも注目して今後も読み続けたいシリーズです。

 


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