緑の宮殿を抜けて旅を続けるローランド一行。超低温をもたらす嵐<スタークブラスト>を避ける為に小休止を取る。吹きすさぶ烈風を屋外に危機ながら、ローランドが語るは過去の思い出。そして、母の記憶ともリンクする寓話、「鍵穴を吹き抜ける風」だった、、、
著者はスティーヴン・キング。
当代きってのベストセラー作家。
モダン・ホラーの帝王とも言われる。
代表作に、
『キャリー』
『シャイニング』
『ザ・スタンド』
『IT』
『スタンド・バイ・ミー』
『ミザリー』
『グリーンマイル』
『11/22/63』等多数。
本作、「ダークタワー」シリーズは著者スティーヴン・キングが30年近くの構想と執筆期間を経て完成させた作品。
全7部構成の大長篇ともとれる作品である。
そのシリーズは
ダーク・タワーⅠ ガンスリンガー
ダーク・タワーⅡ 運命の三人
ダーク・タワーⅢ 荒地
ダーク・タワーⅣ 魔道士と水晶球
ダーク・タワーⅤ カーラの狼
ダーク・タワーⅥ スザンナの歌
ダーク・タワーⅦ 暗黒の塔
という構成になっている。
また、『ダークタワー』としてオリジナルストーリーで映画化された。
そして、本作『ダーク・タワーⅣ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』は「ダーク・タワー」シリーズの一環として最終巻(2004)刊行後に発売された(2012)。
時系列的には「Ⅳ」と「Ⅴ」の間に入る話だが、
ストーリーはローランドの<カ・テット>の話では無い。
解説では、
「ストーリーのスピンオフ、別巻ではない」と書かれているが、
語られる内容は、
ローランドの昔話と、
それに絡む作中の寓話「鍵穴を吹き抜ける風」。
つまり、本筋とは関係無い、外伝的ストーリーである。
私の印象では、
「スピンオフ、別巻」的な話という解釈だ。
本筋では無くとも、しかし、
そのストーリーはローランドとは無縁では無い。
スタークブラストをやり過ごす間に語る昔話と寓話は、
現在のローランドに少なからぬ影響を与える。
一旦終わった話だが、
元々「ダーク・タワー」シリーズはいくらでも外伝が作れる構造となっていた。
その待望されたサイドストーリーがお目見えした、それが『ダーク・タワーⅣ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』である。
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『ダーク・タワーⅣ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』のポイント
<中間世界>を舞台にした冒険物語
本筋とは関わりの薄いサイドストーリー
お話の中の昔話の中の寓話、という入れ子構造
以下、内容に触れた感想となっております
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入れ子構造の解説
本作『ダーク・タワーⅣ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』は入れ子構造の物語となっている。
スタークブラストをやり過ごす間に、ローランドが語るのは
→ローランドの昔話。
メジスから帰還した彼が、再び任務にて向かうはデバリアの町。
そこで変身能力者(シェイプチェンジャー)である「スキンマン」が起こしたと見做される事件の捜査にあたる。
→その惨殺事件の唯一の生き残りの少年に語って聞かせる寓話、「鍵穴を吹き抜ける風」。
因果応報にまつわる少年の冒険譚。
→再びデバリアの町、「スキンマン」確保に臨むローランドのミステリ仕立ての昔話。
→スタークブラストが収まった、現在のローランド一行。
という構造だ。
分量的には「鍵穴を吹き抜ける風」が一番長い。
半分以上に当たる250ページが当てられている。
この「鍵穴を吹き抜ける風」が本書の核となり、その上に位置する入れ子構造の物語を支えている。
再び、より詳しく見てみよう。
1:ローランドがビリー・バンブラーのオイの様子と、渡し守のビクスの言葉でスタークブラスト現象を思い出す。
2:昔話は、ローランドの捕物帖。
メジスから帰還し、母を殺めたローランドはその後、ガンスリンガーとしての新たなる任務でデバリアの町へ赴く。
「スキンマン」の捜索線上にて、惨殺事件唯一の生き残り、ヤング・ビルを確保して目撃証言を得る。
塩混じりの砂嵐シムームが吹くなか、ローランドが父を殺されたビルを宥める為に寓話を語る。
3:「鍵穴を吹き抜ける風」。
少年ティム・ロスの冒険。
ティムは黒衣纏う<契約者の男>にそそのかされ悲劇に見舞われるが、
ドラゴンやスタークブラストを物ともせず冒険を成し遂げ、
父の無念を晴らし、母に解放と癒やしをもたらす因果応報譚。
2-2:「スキンマン」を発見するミステリ部分。
ヤング・ビルの決定的な証言にて父を殺した犯人をあぶり出す。
事件解決後、
ローランドは母ゲイブリエルが残した手紙を受け取る。
1-2:スタークブラストが収まった後。
スザンナはローランドに尋ねる。
母を許したのか?と。
ローランドは「許した」と答える。
見ての通り、この入れ子構造は「風」と「親の死の無念を晴らす事」によって繋がっている。
そしてこの入れ子構造よる語りは、
ローランドの母の死にまつわる鬱屈を晴らす役割もあるのだ。
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ローランドの解放
この入れ子構造は、
まず現在のローランドがいて、
昔話を語り、
その昔話の途中で寓話の「鍵穴を吹き抜ける風」が始まる。
一歩一歩、階段を下る様に、物語の深部で降りて行く。
寓話「鍵穴を吹き抜ける風」にこんな台詞がある。
「風が他の場所と他の人生についてのさびしい唄を歌っているのを聞いている感じです」(p.388より抜粋)
その風が、鍵穴を吹き抜ける風の様に、かすかに感じられるというのだ。
「鍵穴を吹き抜ける風」がクライマックスを迎えると、それに呼応して今度は、物語の階層を一歩一歩上がって行く。
クライマックスが、都合3度訪れるのだ。
(「鍵穴を吹き抜ける風」と「ローランドの捕物帖」と「ローランドの許し」)
その最後の部分。
ローランドが行ったこの入れ子構造の語り口。
この形態を採ったからこそ、ローランドは最後、母を「許した」と言えたのだ。
彼は、母の手紙の最後の部分を何度も手でなぞったと言う。
おそらく彼は、
母の願いを理解してはいても、「許すかどうか」という問題には敢えて決着を付けていなかったのではないか?
だから、自分の気持ちを確定させる事なく、
文を指でなぞるに留めていたのではないだろうか?
ローランドは、そのシンプルで冷酷な性向が邪魔して、「許す」と言えないでいたのではないだろうか。
だが、ローランドはスタークブラストに見舞われた今回、「過去の自分の昔話」と「母に教えられた寓話」を入れ子構造という形で<カ・テット>に語る事で、
寓話と過去、そして現在までも繋げる事を図らずも成し遂げた。
物語を階段の様に降りて、そして登る事で一本の道として繋いだのだ。
少年達、ティム・ロスやヤング・ビルでさえ、親の無念を晴らしたのだ。
どんな苦難があったとしても。
ならば、自分が母を許すと決断する事はそれ程難しい事なのだろうか?
結局、ローランドが許せなかったのは母では無く、自分自身であったのだ。
自分であるが故に、自分を許せなかった、
それは甘えと思われるからだ。
だが、ローランドは許すという事、
即ち、
母の願いを受け入れる勇気を自身にに授ける(少年達から受け取る)事で、
漸く自分の母殺しという業罪から自身を解放する事が出来たのではないだろうか。
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用語、設定
本巻での用語と設定について気になった部分を抜き出してみたい。
スロッケン(p.19,29,266)
ビリー・バンブラーをハイ・スピーチで言った場合こういう。
スタークブラスト(p.30,339他)
超低温をもたらす烈風。
一日近くは続く。
赤い手(p.65,72)
ジェミー・ド・カリーは<赤い手>と言われる。
その由来に何か意味があると思われるが、詳細は不明。
アーマニータ(p.262,310他)
緑の妖精。
契約者の男に利する行動をとった。
契約者の男(p.211他)
黒衣を纏い、魔法を使う。
RF/MB(p.378)という署名から、おそらくはローランドの宿敵<黒衣の男>ランドル・フラッグ、マーテンと同一人物と思われる。
アスラン(p.372)
獅子のビームの守護者。
「ナルニア国物語」シリーズの獅子王から。
ガルーダ(p.402)
鷲のビームの守護者。
ヒンドゥー教の神、ヴィシュヌの乗り物である、神鳥。
『マハーバーラタ』より。
本作『ダーク・タワーⅣ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』は入れ子構造にて描かれる、ローランドが母殺しという自責の念から解放に向かうまでの物語である。
何年も心に残って、忸怩たる思いを持ち続ける事は、
人はその人生においていくつか持っている。
もしかしてその思いも、何かの拍子に解消する事があるかもしれない。
『ダーク・タワーⅣ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』は、派手なサイドストーリーでは無い。
しかし、「ローランドの鬱屈」の一つであった、母との関係を清算した話として、爽やかな読後感をもたらす作品であると言えるのだ。
*シリーズ毎の解説ページは以下からどうぞ。
ダーク・タワーⅠ ガンスリンガー
ダーク・タワーⅡ 運命の三人
ダーク・タワーⅢ 荒地
ダーク・タワーⅣ 魔道士と水晶球
ダーク・タワーⅤ カーラの狼
ダーク・タワーⅥ スザンナの歌
ダーク・タワーⅦ 暗黒の塔
映画版『ダークタワー』
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さて次回は、少年の冒険の旅路はあの世!?映画『リメンバー・ミー』について語りたい。