映画『エリカ38』感想  金は愛よりも重い!!自己顕示欲と金銭欲の成れの果て!!

渡辺聡子容疑者は、国際指名手配の末、タイにて身柄を確保された。詐欺容疑の金銭トラブルにて、5億とも、10億とも言われる金額を集めた渡辺、彼女の生き様が明かされる、、、

 

 

 

 

監督は日比遊一
監督作に『ブルー・バタフライ』(2014)等がある。

 

出演は、
渡辺聡子/エリカ:浅田美代子
平澤育男:平岳大
母:樹木希林
ポルシェ:Woraphop Klaisang

橋本弘:窪塚俊介 他

 

 

 

電話がかかってきて、
「おめでとうございます」
と言われたら、その時点で電話を切ります。

かつて、
固定電話が主流だった頃、
そこから、うっかり会話してしまうと、

怪しい詐欺まがい、というか、詐欺なんですが、
教育商材とか、健康食品とか、
買わされる事になるんですよねぇ。

 

それが昭和の話ですが、

しかし、
令和を迎えた昨今でも、
この手の詐欺は息絶えず。

結局人って、
自分だけは大丈夫だと、
思ってしまうモノなのですよね。

 

さて、
現代における詐欺の中でも、
その主流を占めるのは、

やっぱり、投資詐欺。

端的に言うなら、

ネズミ講、
マルチ商法です。

 

本作『エリカ38』は、
マルチ商法で多数の人間から金銭を集めた人物の物語。

しかも、
どうやら、実話ベースだそうです。

 

…とは言え、
私には、そのモデルとなった事件の記憶がありません。

それ程、
投資詐欺というのは一般的で、

実際、
ストーリー的には月並みなものとなっております。

しかし、それでも、
本作を特異な作品にしている部分があるとすれば、

それは、

詐欺を働いた人物が、
自称38歳の、60オーバーのマダム

 

である事でしょう。

 

自身は若いつもりでも、

歳は、否応無く取ってしまうものです。

この不条理感がもたらす、
人間の哀しいサガが本作の持ち味と言えます。

 

他人から見ると、
果てしなく醜い。

しかし、
自分の事として翻って観るに、
共感出来る点も、
全く無いとは言い切れない感じです。

 

浅ましい人間の成れの果てを描いた『エリカ38』、
妙なリアル感のある作品です。

 

 

さて、本作のキャスティグですが、
ここで提案があります。

金に飽かして結婚した若い男性と別れた、
磯野貴理子を主演にして、

若い愛人との関係で、
女房と別れたビートたけしを、

磯野貴理子から大金を引き出される詐欺被害者としてキャスティングしたら、

タイムリーで話題性があったかなぁ、とかも思いますね。

どうでしょう?

 

 

 

  • 『エリカ38』のポイント

人の振り見て我が振り直せ、マルチ商法に気を付けよ

実年齢と自己認識の差

地獄の沙汰も、金次第…にはならず

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 自分だけは大丈夫、では無い

本作『エリカ38』は、
投資詐欺、
いわゆる、マルチ商法、
古くはネズミ講として、一般によく知られた詐欺を取り扱った作品です。

「投資額に応じて、数パーセントの配当金が得られる」
「売った分の、数パーセントが自分のお給金になる」
「会員や、顧客を引っ張って来ると、紹介料が得られる」

この文句が並んだら、
100パーセント詐欺なのですが、

何故だか、
自分の身に降りかかると、

話術に巻き込まれ洗脳されたか、
欲に目が眩んだか、

引っかかる人が絶えないのですね。

 

面白いのは、
渡辺聡子は作品冒頭、
食品のサプリメント系のマルチ商法をしており、

その手口に目を付けた、
通りすがりの女性が、
更に、大規模な投資詐欺に誘う、
という点です。

 

詐欺師は詐欺師を知るというか、
その誘い方も、マルチ商法の手法なのですね。

最初、信用させる為に、
相手に利益(金)を渡す。

その後、
相手が安心した所で、
骨までしゃぶり尽くすのです。

しかし、
渡辺聡子の場合、
自分がしゃぶられる前に、

投資詐欺を主導する平澤から、
その詐欺ノウハウとシステム自体を、
そのまま自分の懐へスライドしてしまっているのです。

詐欺師が、
顧客というカモのみならず、
詐欺師どうしで喰い合っているのが面白い所です。

 

平澤といえば、
もう、一目で胡散臭いですが、

人って、大きな事を言う人間に弱いんですよね。

しかし、
デカい事を言う人間は信用出来ないと知っていれば、
こういう詐欺には引っかかりません。

何故なら、
デカい事を言うのは、
自分がデカい事を出来ないから。

デカい事を出来る人間は、
それを、実践と経歴でもって示しています

 

平澤の台詞ですが、
「ペンタゴン関連の仕事云々」という時、
「ペラゴン」とか発音していますが、

アメリカの映画を観ても、
そんな発音するヤツなんていねぇよ、
と思ってしまいます。

昔、
カメルーンのサッカー選手に「サミュエル・エトー」という人がいましたが、

TVの解説者で、
「エトゥ」と、ちょっと格好付けた感じの発音をしている人がいました。

でも実際は、
日本語で「江藤さん」という感覚で「エトー」と発音する方が、
本来の呼び方に近いんですよね。

格好付けて、変な発音する事で、
自分の無知さを露呈してしまうのです。

よく喋るヤツほど、信用出来ず、
そのトークにより、化けの皮が剥がれる

詐欺師のトークは彼達の武器ですが、
同時に、弱点でもあると、覚えておく必要があります。

 

  • 渡辺聡子のパーソナリティ

本作の詐欺のパートは、
まぁ、フィクションにおいては、
よくある話と言えます。

その上で、
本作の興味深い点は、
渡辺聡子のパーソナリティにあると言えるでしょう。

 

学生の頃から、
男と遊び歩いていた(らしい)渡辺聡子。

その父は、
典型的なDV系というか、
家の中で、妻や娘に怒鳴り散らす存在。

娘には男と出歩くなと言いながら、
家の外では、自分にも浮気相手が居るという体たらく。

 

そういう、ある種の歪んだ家庭環境が影響したのか、
エリカの男性観は、奔放なものとなっております。

平澤と関係を持ちますが、
彼に他の女が居ると分かった直後、
彼との関係を切ります。

自身は、
平澤の詐欺ノウハウを吸収し、
「支援金」という名目で金を回収、

その金を湯水の如く使い、

ホスト遊びでシャンパンタワー、

また、
タイでは、若い愛人を囲って、家まで買い与えている始末。

しかも、渡辺聡子は、
ホストやタイの愛人・ポルシェの前では、
「私はエリカ、38歳」とバレバレの嘘を吐いているのです。

 

渡辺聡子は、
事実と自己認識の差、
つまり、
実年齢と精神年齢の差が、

20歳以上あります。

よく、
40代くらいのオッサンが、
10代の子供に手を出すニュースがありますが、

渡辺聡子のパーソナリティは、
それと全く同じ。

つまり、
金さえあれば、何でも出来る(正当性がある)と思っているのです。

自分は、金があるから、イケてる、
つまり、若い、
だから、60歳でも、38で通るだろう、

そう思っているのですが、
実際にそう認識するのは自分だけ、なのです。

自己認識と、客観性に隔たりがある、
そこに、自分と社会との関係に、隔絶があると言えます。

 

強権的な父親の下で育った渡辺聡子、

しかし、
そんな境遇にありながら、
自分がやっている事も、
「金」という権力に飽かせた男女関係なのです。

 

結局、
地獄の沙汰の金次第と言わんばかりに、

渡辺聡子は、
男女関係のみならず、
人間関係すら、金を介在とした上下関係でしか形成出来なかっのです。

金こそが信用であり、
それが無いと、
人との繋がれなかったと言えます。

『賭博黙示録カイジ』の利根川幸雄は、
「金は命より重い」と言いましたが、

渡辺聡子にとっては
「金は愛より重い」というのが信条になっているのです。

ただ一人、
母以外には。

 

「金」によるマウンティングさえあれば、
相手は裏切らない。

『賭博黙示録カイジ』の利根川幸雄は、
「金は命より重い」と言いましたが、

渡辺聡子にとっては
金は愛より重い」というのが信条になっているのです。

そういう思考に染まっている渡辺聡子は、

ラスト間際、
自分がやって来た詐欺行為を反省するでも無く、

ただ単に、
金の切れ目が縁の切れ目と言わんばかりに、
持ち金が無くなった事に、虚無感を感じているのですね。

良い悪いはさておき、
彼女には、罪悪感など全く無い事が、そこから解ります。

ある意味、
ぶっ壊れた精神性があるからこそ、
詐欺行為を行えるのです。

 

ラスト、
若い愛人のポルシェの手紙で、
涙する渡辺聡子。

そこには、
無償の愛が書かれています。

が、
それは勿論、若い燕であるポルシェが、
タニマチであるエリカ(渡辺聡子)から金を引き出す為の、
方便でしかありません。

ただ一つ残された最後の希望ですら虚飾という所に、
本作の本質があります。

 

 

 

信じられるのは「金」のみだという詐欺師が金を失って行く、
その破滅の道程を描いた作品、『エリカ38』。

他人から見たら、
どう見ても老人。

それでも、
自分の自己認識では、
若いまま。

その様子はまるで、
形は変えども、

自分だけは大丈夫だと勘違いする、
詐欺被害者の思考と共通するものがあります。

 

人の振り見て我が振り直せ。

『エリカ38』は、
醜い人間の性を描きつつ、
その悲哀を描いた作品と言えるのではないでしょうか。

 

 

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