映画『マトリックス レザレクションズ』感想  20年後の同窓会!!現代にアップグレードした、ノスタルジックさ溢れるSFアクション!!

かつて、人気ゲーム「マトリックス」3部作を制作し、その道では世界的な有名人となったトーマス・アンダーソン。トーマスは精神に不調を訴えアナリストのセラピーを受けており、現在は、スミス氏の会社にてゲームプログラムを担当していた。
過去、飛び降り自殺を図った事のあるトーマス。しかし、そんな彼の姿を目撃し「本当の自分」に目覚めたバッグスは、彼こそが、かつての英雄「ネオ」であると確信していたのだが、、、

 

 

 

 

 

 

監督は、ラナ・ウォシャウスキー。
性適合手術にて、2008年に、ラリー・ウォシャウスキーから改名した。
妹のリリー(かつてのアンディ)も、2016年に性適合手術を受けており、
長年コンビを組んで映画監督をしていたが、本作はラナの単独監督作品となる。
過去の監督作に、
『バウンド』(1996)
『マトリックス』(1999)
『マトリックス リローデッド』(2003)
『マトリックス レボリューションズ』(2003)
『スピードレーサー』(2008)
『クラウド・アトラス』(2012:トム・テイクヴァと共同監督)
『ジュピター』(2015)等がある。

 

出演は、
トーマス・アンダーソン/ネオ:キアヌ・リーブス
ティファニー/トリニティー:キャリー=アン・モス
モーフィアス:ヤーヤ・アブドゥル=マーティン2世

スミス:ジョナサン・グロフ
アナリスト:ニール・パトリック・ハリス

バッグス:ジェシカ・ヘンウィック
サティー:プリヤンカ・チョープラ・ジョナス
ナイオビ:ジェイダ・ピンケット・スミス 他

 

 

 

かつて、
映画の世界に革命を起こした作品『マトリックス』(1999)。

いや、
大袈裟では無く、
本当に『マトリックス』以前と以後とでは、
映画の表現方法が変わったと言って良い作品です。

当時のインパクトは凄まじく、
劇場で本作を観た、名も知れぬ同好の士達は、
お互い、興奮冷めやらぬ様子で、スタッフロール中も動けずに居た事を覚えています。

かく言う私も、
翌週に、直ぐさま二回目の鑑賞をしており、
どれだけの、面白さ、凄さ、格好良さに満ちた作品であるのか、
言葉には言い尽くせない感覚があります。

 

『マトリックス』のヒットにて、
シリーズは3部作として、続篇が製作され、
2003年に、
「~リローデッド」「~レボリューションズ」が連続して公開されました。

「レボリューションズ」は全世界同時公開でありながら、
キアヌ・リーブスが日本に来ており、その意味でも、ハンパ無い盛り上がりを見せていました。

また、
関連作品として、
『アニマトリックス』や、
ゲーム「マトリックス」などと世界観を共有し、
そのタイアップでも、当時は熱狂を煽っていました。

 

が、
確かに、面白かった、凄かった作品ですが、
続篇の「リローデッド」「レボリューションズ」には、
観客が1作目にて受けた革新性、共感性は乏しく、

何となく、期待外れだったな、
という印象が残ってしまいました

 

 

それから、約20年の月日が経った現在。

かつて、何度も噂されながら、
否定され続けた続篇「マトリックス4」たる本作、
『マトリックス レザレクションズ』が、とうとう公開されました。

一体、どんな作品なのか?

期待半分、不安半分です。

 

先ず、予告篇を観て思った事は、

本作は、
続篇なのか?
それとも、リブート作品なのか?
リメイク作品なのかもしれないな、
という事でした。

続篇は、
世界観をそのまま継承した、後日譚(もしくは前日譚、別時間軸の話)です。

リブート作品というのは、
映画『スパイダーマン』(2002)形式の、
「キャラ設定」のみを流用し、別世界線の作品を作り直す事、

リメイク作品は、
過去作を、現在の技術、観念にて、作り直す事です。

 

で、
『マトリックス レザレクションズ』を観た後で気付きましたが、

あ、コレは、
敢えて、予告篇の時点では、
続篇か、リブートか、リメイクか、分からない様に作ってあるな、

 

という印象を受けました。

 

こういう、
現実の不確実性を描いたのが、
当時の「マトリックス」シリーズであり、

それを、
実際の作品のプロモーションにて再現している手法に、
興味深さを感じましたね。

 

で、肝心の本作を観た印象ですが、
それは、

一作目を基本とした、
3部作を継承した続篇であり、
その総集篇

と言えます。

 

は?
結局何が言いたいの?
と思うでしょう。

でも、
言葉通りの作品なのです。

観れば、解る!!(ドヤッ)

 

そして、本作の「面白さ」を語るのは、
実際、難しいです。

何故なら、本作は、

過去のノスタルジーに溢れた作品であるからです。

 

 

本作が、
続篇であっても、
リブートであっても、
リメイクであっても、

その面白さを感じるには、
過去作を鑑賞済みである事が、
絶対条件と言えます。

なので本作は、初見さん、お断り系の作品です。

 

ですが、
一々、昔の事に言及する度に、

その昔のシーンが、カットインされるという親切設計。

何しろ、20年前の話ですからね、
老人のこちとらとすれば、内容を忘れている所もしばしば。

しかし、カットインで昔のシーンを入れてくれるので、

「あ、こんな事もあったな」と、

まるで、アルバムを見るかの如くに、
懐かしい思いが溢れだしてきます

 

本作は、
アクションSFとしての面白さは、
確かにあります。

しかし、
第一作目の様な、
世界を変える様な、革新性は、
最早ありません。

とは言え、
20年ぶりの同窓会には、
まぁ、ハッキリ言うと、
涙が出て来ましたね、あまりの懐かしさに。

 

涙もろくなったら、老人の証と言いますか、

古参泣かせの、
ノスタルジック作品、

それが現在に蘇った
私の『マトリックス レザレクションズ』です。

 

 

 

  • 『マトリックス レザレクションズ』のポイント

続篇であり、リメイク的なシリーズ総集篇

懐かしの同窓会

自由の困難と、服従の安心

 

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 続篇?リブート?リメイク?

現在に蘇った「マトリックス」シリーズ。
そのだい4作目たるが、
本作『マトリックス レザレクションズ』です。

で、結局、本作の立ち位置は、どれなの?
と、ハッキリネタバレしますと、

シリーズ最新の続篇でありますが、

基本の物語展開は、
一作目を踏襲しており、
その観点からすると、リメイク的な意味合いも含んでいます。

しかし、
全体的には、
過去作のシーンのカットインなどを多用しており、
過去の3部作を一作に詰め込んだ
いわば、総集篇的な様相も呈しています。

で、
ストーリーの内容的には、
「マトリックス」世界、
つまり、仮想現実世界が、
新たに作り直されているという設定であり、
それは即ち、世界観がリブートされているとも言えるのです。

 

つまりまとめますと、

立ち位置としては続篇ではありますが、

リメイク、総集篇、リブートという側面も含んだ作品と言えます。

 

こういう離れ業が出来るのが、
SFの特権であり、
自己言及を繰り返して来た「マトリックス」の本領発揮と言えるでしょう。

 

  • 自由の困難さと、服従の安心

さて、
「マトリックス」シリーズでは繰り返し扱われて来たテーマ、

本作でも踏襲されているのは、
「自由か、服従か」という選択です。

 

本作で興味深いのは、

モーフィアス前日譚から始まる所です。

本作では、
モーフィアスは、
その「マトリックス」内では、
かつてのライバル「エージェントスミス」として存在していました。

しかし、
自己進化するプログラムによって、
自意識に目覚める事で、
自由を獲得します。

 

この「自意識の獲得」という過程は、

子供が、親離れする時期に、
「自分が親とは違う」と認識して、
自分が「個人」であると気付く事であり、

しかしそれは、
寄る辺無き世界に、
孤独に放り出される事でもあります。

 

自意識の獲得、
即ち、自由の獲得は、
それ故に、自己責任によるスタンドアロンを余儀なくされる事であり、

それは、
自由に振る舞う事の「不自由と困難」直面する事でもあります。

 

一方、
何かに服従する事、

それは、
学校で優等生を演じたり、
会社に所属したり、
政治に疑問を持たなかったり、

体制に従属する事、
何かと争わない事、
組織の構成員として、その「電力」となる間は保護を約束されます。

それは、ある種、
責任を放棄したが故の、「服従による安心と開放感」があります。

 

人生において、どちらを選ぶのか?
それは、永遠の課題と言えますが、

『マトリックス』が革新的であり、

そして、
当時の映画ファンの心を掴んだのは、

より困難な自由を選ぶというメンタリティが故なのです。

 

…そして、
「レボリューションズ」では、
体制側である、機械のボスと「手打ち」を行い、

『マトリックス』一作目を支持した、自由を標榜するファンから、
「こんなの、違う」と違和感を指摘されたのは、過去の話です。

 

さて、
本作はその続きなのですが、
結局、体制側との「手打ち」は、
何だかんだ言って、
新たならる「支配」を産み出す事になったという、
皮肉を描いています。

そういう意味では、
「レボリューションズ」のラストを自分で否定しており、

ある種の自己批判と反省が見て取れます。

 

  • メタ構造的な「マトリックス」

「マトリックス」というシリーズは、
自己言及的な、メタ構造を内包しています。

それは即ち、

体制に従属する、安逸の虚構を拒否し、
困難な現実の自由を求めるという物語でありながら、

その実、観客は、
現実の生活の不満を、
「マトリックス」という物語(虚構)で、発散しているという、

逆転の自己矛盾を孕んでいるのです。

「虚構を否定する」という虚構を楽しんでいる、
それでいて、安易な現実批判でも、肯定でも無い、
それが「マトリックス」シリーズでした。

 

一方、20年ぶりの同窓会、
『マトリックス レザレクションズ』。

本作は、
続篇であり、
リメイクであり、総集篇であり、リブートでもありますが、

そういう作品構成の中に、
自己言及というか、

「マトリックス」シリーズ以降の、
「世間の声」を作品の中に取り入れているのが、
注目点の一つです。

 

それは、
スミス氏のゲーム会社「エクス・マキナ」での、
ゲーム「マトリックス4」の企画会議の場面。

マトリックスとな何なのか?
哲学がウケた、
アクションが最高だ、
やっぱり、スローモーションの「バレットタイム」だろ?
リブートが流行りだ、
いや、一番ウケるのは、ネコ動画だろ?(デジャヴという猫の事) etc…

また、この会議に先立って、
スミス氏が、
親会社が、我々抜きで、「マトリックス」シリーズの再開を図っている、

だったら、
我々自身が動くしか無い、という場面もあります。

会議は、
「マトリックス」自体への、ファンの批評そのものであり、
親会社云々は、
映画の「マトリックス」の続篇に関する、世間の噂を逆手に取った言及であります。

 

また、
トーマスやティファニーが、現実に違和感を感じているシーン。

虚構を否定して新たなる現実を獲得したハズが、
その現実も結局、虚構で、それに違和感を覚えるというのは、

「マトリックス」のヒットで名声を手に入れても、

人生に違和感を感じているという、
監督自身の自己言及なのかもしれません。

 

そして、
バッグスがトーマスと初めてサシでコンタクトを取った場面、
ビルの屋上のスマホに、トーマスの会社の同僚がかけてきますが、

バッグスはその同僚を、
「ボット」と呼び、彼は背後に「エージェント」(敵)を引き連れて来ると言います。

 

本作では、
モブの雑魚敵キャラを「ボット」と呼んでおり、

その特徴は、
意識の無い、体制の命令に盲目的に従属する「ゾンビ」であり、
体制の煽りに簡単に従い、カミカゼ特攻で攻撃してくる、
名も無き無数の「無個人」即ち、匿名の大多数として描かれています。

 

会社の同僚には、
自分が「ボット」であるという意識はありません。

しかし、
その無邪気な言説は、
時に、拡散される事で、
そのフォロアーが、より、過激な行動を取る事になる。

 

SNS社会である昨今、
個人の批評が、
時に、拡散され、一部が切り抜かれる事で、
より、批判として苛烈さを増す。

そういう、
現在の状況を、
作品の中に反映しているという意味で、

本作は、
過去作とは違ったメタ構造を獲得しています

 

故に、
ラストシーンにて、
アナリストをボコって、
「好きにする」と宣言したのは、

過去「レボリューションズ」で、
機械と手打ちした事の反省の現われと言えるのではないでしょうか。

 

  • キャストの補足

さて、
本作では、
キャリー=アン・モス演じるトリニティーが、

過去作の「ネオ」の様に覚醒する訳ですが、

それは、
物語の構造上、
「助けを求めるお姫様」に、
トリニティーが堕する事からの脱却を意味します。

 

「自己責任」についての物語である「マトリックス」においては、

男性が助ける側、
女性が助けられる側という、
男性優位のステレオタイプからの脱却は必然であり、

むしろ、今の時代であるからこそ、
漸く、こういう描写が成されたな、という感もあります。

 

また、トリニティーの覚醒は、

機械(体制側)によって「仕組まれた救世主伝説」からの脱却でもあり、

誰でも、自分で自分の理想を信じる事で、
自分が選んだ救世主と成り得る事を示してもいます。

 

そんなトリニティーを演じたキャリー=アン・モスの小ネタ。

彼女は、バイクアクションを「リローデッド」で演じましたが、
それまで、バイクに乗ったことする無かったそうです。

練習して、ドゥカティに乗れるまでになったトリニティー。

それが、本作において、
自由の象徴として描かれているのが、興味深いですね。

 

そして、
本作でスミスを演じたジョナサン・グロフと、
アナリストを演じたニール・パトリック・ハリスは、

共に、ゲイである事を公言しています。

 

女性の、体制からの解放をクライマックスで描き、

また、
メインキャストに、性的な多様性を持たせている事も、

本作の注目点と言えるのではないでしょうか。

 

 

 

一番ヒットした、
一作目への回帰を目指しつつ、

その実、
過去の3部作を早足でダイジェストにし、

現在風の味付けや、
社会批判、

そして、
過去3部作「マトリックス」への自己言及まで盛り込んだ、

アクロバティックなメタ作品、
『マトリックス レザレクションズ』。

SFアクションの面白さ、
現実と虚構の描き方、

やっぱり、面白く、興味深いですが、

私にとっては、やはり、
ノスタルジックな同窓会として、
感無量な作品と言えるのです。

 

 

 

 

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