映画『TENET テネット』感想  最高の映像体験!!考えるんじゃ無い、感じるんだ!!

キエフの国立オペラ劇場で、テロ発生。
CIAのエージェントである「名もなき男」は、同じCIAのスパイを救出する為に、特殊部隊を装い、テロ鎮圧活動に潜入する。
しかし彼はそこで、テロ鎮圧のドサクサに紛れ、観客もととも全てを破壊しようとする特殊部隊の行動に、何か、きな臭いものを感じる、、、

 

 

 

 

監督は、クリストファー・ノーラン
当代きっての、映像作家と言っていい存在。
その監督作品に、

『メメント』(2000)
『インソムニア』(2002)
バットマン ビギンズ』(2005)
『プレステージ』(2006)
ダークナイト』(2008)
『インセプション』(2010)
ダークナイト ライジング』(2012)
『インターステラー』(2014)
ダンケルク』(2017)等がある。

 

出演は、
名もなき男:ジョン・デイビッド・ワシントン
ニール:ロバート・パティンソン
キャット:エリザベス・デビッキ
アイブス:アーロン・テイラー・ジョンソン
マヒア:ヒメーシュ・パテル

クロスビー:マイケル・ケイン

セイター:ケネス・ブラナー 他

 

 

 

皆様、如何お過ごしですか?

昨今のコロナ禍の下、
映画館も、入場人数制限が課せられていました。

しかし、
今日(2020/09/19)から、その制限も緩和され、
5000人以下の規模なら、満員で収容が可能となります。

サブスクのストリーミングもいいですが、
やはり、
新作映画を観るならば、
映画館にて「非日常」を体験したい所です。

そして、
それにうってつけの作品が、このタイミングで公開されました。

それが、本作『TENET テネット』です。

 

さて、皆さんは、
映画を観る時は「監督」を気にしますか?

私は「気にする」タイプでして、

例えば、
「ローランド・エメリッヒ」とか、
「山崎貴」は、
その名前を見た瞬間に、鑑賞を回避してしまうレベルですね。

反対に、
「デヴィッド・リンチ」とか、
「クエンティン・タランティーノ」とか、
「デヴィッド・フィンチャー」とか言われると、
絶対観なきゃ!!ってなりますよね。

そして、本作の監督の、
「クリストファー・ノーラン」も、そのお気に入りの一人です。

今年は、
劇場の入場制限が課せられ、
目玉大型大作が、軒並み上映延期を繰り返す中

『TENET テネット』は、当初の予定通り公開され、
単身、漢気を見せてくれました

という訳で、
個人的に、体調の悪い日々が続きますが、
この作品だけは、万難を排して観に行った次第です。

 

クリストファー・ノーラン監督の作品と言えば、
「エンタメ」と「テーマ」を作品内に共存させるという離れ業を毎回観せてくれます。

本作も、その監督ならではの作家性が如何無く発揮された大作。

監督の過去作を使って、本作を表現するなら、

『インターステラー』の様なSF設定を使い、
『メメント』『インセプション』の様なミステリ、スリラー要素を織り交ぜつつ、
『ダークナイト』シリーズのアクションを観せる

 

正に本作は、
クリストファー・ノーランの集大成の様な作品となっているのです。

 

ノーラン監督作品と言えば、

『メメント』は、
10分しか記憶が保てない男の話、

『インセプション』は、
夢の中の、夢の中の、夢の話、という、

言葉で聞くと難解な設定のストーリーを、
実際に、映像で観た時には、
万人に解り易く仕上げているという、
これまた、離れ業をみせてくれていました。

そして、本作は、
まぁ、ネタバレにならない程度に、大雑把に言うと、

エージェントが「時間」に挑む作品

 

と言う、これまた、難解な設定の作品です。

 

で、です。

本作が、
過去作のミステリ系の作品の様に、
「難解ながらも、解り易い」作品かと言うと、
そうではありません。

むしろ、設定の難解さで言うならば、
同じSF作品の『インターステラー』寄り。

ぶっちゃけ、
初見では、何が起きているのか、全く解りません!!

 

 

しかし、本作が、
他の凡百の作品と違うのは、

何が起きているのか、解らなくとも、本作は、面白いのです。

何故ならそれは、

今まで、映画作品で観たことが無い様な、
「映像体験」を得られるからです。

 

「は?何、何、何?」
「意味、分っかんねぇんだけど!?」と言いつつも、
もう、観ているだけで、凄まじく面白い!!

出された料理の作り方は解らなくとも、
食べたら、もの凄く美味しい、
例えるならば、そんな感じ。

この作品こそ、是非とも、
映画館で観るべき作品なのです。

 

かつてブルース・リーは、
『燃えよドラゴン』にて、こう言いました、

「Don’t Think. Feeel!!」(考えるな、感じるんだ!)

 

圧倒的映像体験を、
是非、映画館で!!

本作は、
兎に角、観ているだけで、面白い!

そんな、
原初の映画体験を思い起こさせる作品と言えるのです。

 

 

 

  • 『TENET テネット』のポイント

SF設定にて、ミステリ的展開をみせる、アクション超大作!

何が起こっているのか解らなくとも、観ているだけで面白い映像体験

観た後で、あーだ、こーだと考察するのが楽しい作品

 

 

以下、作品の内容に触れた解説となっております

 


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  • 題名の意味

本作『TENET テネット』という題名は、
右から読んでも、
左から読んでも、「TENET」となっております。

これは、
時間の「逆行」を扱った本作を、
題名で象徴しているのですが、

この「TENET」という、
一見、意味不明な言葉には、元ネタがあります。

それは、
ラテン語の回文、
SATOR AREPO TENET OPERA ROTAS」です。

Wikipediaによりますと、
直訳すれば、「農夫のアレポは馬鋤を曳いて仕事をする」との事。

この、
右か読んでも、左から読んでも同じ文の面白いところは、

SATOR
AREPO
TENET
OPERA
ROTAS

と並べてみると、
縦読みでも回文が成り立っている所です。

 

更に、本作に当て嵌めてみると、

題名の「TENET」が、
一番目立つ、十字の位置にあり、

本作の敵役の「アンドレイ・セイター」の「SATOR」
キャットの浮気相手と疑われた、ゴヤの贋作作家の名前が「AREPO」(アレポ)
冒頭の舞台の、キエフの国立オペラ劇場の「OPERA」
オスロ空港の警備会社の名前が「ROTAS」(ロータス)

と、それぞれ引用されているのですね。

 

ちなみに、
日本語では「名もなき男」と訳されている、

ジョン・デヴィッド・ワシントンの役。

原文では、
Rotagonist」と言われ、
その意味は「主人公」となっております。

つまり、
ラストシーンでの、
「俺が主人公だ」という台詞と呼応しているという訳です。

 

  • 「エントロピー」とは?

さて、本作は、面白い事は間違いありません。

しかし、
ぶっちゃけ、
何が起こっているのか、
ちんぷんかんぷんであり、

それを理解するには、
初見では、
まず、不可能な作品となっております。

 

勿論、
例えば、
その構造を理解していなくとも、飛行機には乗れる様に、

ただただ、その映像体験を共有するだけでも、
面白い作品。

しかし、
とは言え、
本作はSFであるが故に、

その設定について、
あーだ、こーだと、鑑賞後に、
色々考察するのが楽しい作品でもあります。

 

さて、
SF慣れしていない人が、先ず躓くのが、
本作で繰り返される「逆行」の原理である、
「エントロピーの減少」という言葉であると思います。

そもそも、
「エントロピー」って何?

何故、それが減ったら、時間の逆行が可能なの?

そう思われるでしょう。

なので、
先ず、本作における「エントロピー」について、
私なりに、簡単に解説してみたいと思います。

 

先ず、「エントロピー」という言葉は、
様々な分野で使われており、一概に「コレ」という定義がある訳ではないのですが、

それを、あえて大雑把に言うならば、
エントロピーの増大とは、

「物事の経過により、秩序が失われている状態」
とでも言いますか。

 

例えるならば、

引っ越して来たばかりの部屋は、
なにも無い、がらんどうで、
それは「エントロピーが低い」(安定した)状態なのですね。

そこに、
家電やら、家具やら配置し、
更には、
漫画や小説やDVDが山程積み上がって行くと、
それは「エントロピーが増大した」(秩序が乱れた)状態と言えるのです。

 

前知識も無く「エントロピー」という言葉を聞くと、
何となく、
「エネルギー量」的なイメージを持たれると思います。

TVゲームにおける、体力ゲージみたいな感じで。

なので、
エネルギーが減少したら、
なぜ、時間が戻るのか?

むしろ、エネルギーを増大した方が、
時間が戻るんじゃないの?

という、勘違いをしてしまうんですよね。

 

「エントロピー」の場合は、
むしろ、そのイメージとは逆で、

宇宙は、徐々にエントロピーが増大している状態、

つまり、
元からあった秩序が崩壊し、
総エネルギー量が拡散していっているのです。

 

つまり、
乱雑に積み上がった、漫画や小説やDVDの山こそが、
「エントロピーが増大」した状態であり、

本作における時間の「逆行」、
つまり、
「対象物のエントロピーを減少」させれば
「時間が巻戻る」とは、

部屋の漫画や小説やDVDの山を片付けて、
元の綺麗な部屋にすれば、

これは、「時間を逆行している」状態なんだ!
と言っている
んですよね。

 

…んな、アホな!!

と、ツッコみたいのは、山々です。

しかし、
このツッコみ満載の理論を、
鑑賞中は、
「お、おう」と言うしかない状態に、観客を落とし込む

この力技こそが、
本作の面白いところなのです。

 

まぁ、SFというものは、
元来、トンデモ理論を、
無理矢理信じ込ませるという所に、その根幹があります。

意味不明だろうが、
よくよく考えたらツッコみ満載だろうが、

作る方も、
観る方も、
それを解った上で楽しむ、

それが、
SFの「おかしみ」であるのです。

 

  • 「逆行」を考える

『TENET テネット』の一番の目玉と言えば、
やはり、本作独特のタイムトラベルである、
時間の巻き戻し現象である「逆行」と言えるでしょう。

本作では、
未来の天才科学者が発見したという設定で、

物質のエントロピーを減少させる事で、
現在を「起点」として、
そこから、時間を過去方向へ「逆行」する事を可能せしめました。

 

SF的には、非常に面白い設定なのですが、

その一方で、
この「逆行」が理解出来ずに、モヤモヤしている人も多いかと思われます。

なので、
その「逆行」について、
自分なりに、簡単に解説してみたいと思います。

 

先ず、
本作における「逆行」が理解出来ずに頭がこんぐらがる、
その最大の要因というのは

劇中では、ちゃんと説明していませんが、
「逆行」が、
大きく分けて、3種類あるからという点が挙げられます。

一つ目は、
物質の逆行、
それは、名もなき男が冒頭近くで体験した、
「逆行する弾丸」の現象です。

二つ目は、
本作のメインのアクションが展開される、
人間が、回転ドアをくぐって、
まるで、ビデオの逆回しの様に動く、
「逆行のアクションシーン」。

そして、
三つ目は、
未来人が企み、
現代の生きとし生けるものを全て滅ぼさんと画策する、
「世界そのものの、逆行」です。

 

最初、
逆行する弾丸を観た時、
我々観客は、
「へぇ~、意思の力で、物質の巻戻りが可能なのかな?」と、思ってしまいます。

が、
実際、劇中では、然に非ず。

その先入観がある所為で
中盤の、
セイターが、キャットを拷問しつつ、人質にして、
名もなき男を脅すシーンで、
頭がこんぐらがり、オーバーヒートを起こすのではないでしょうか。

 

弾丸が巻戻るという現象を最初に観た所為で、
その後の、
「逆行アクション」を理解するのが阻害される。

 

それが、
本作の皮肉な点なのですが、

「逆行」自体を理解するには、
先ず、
二つ目の「逆行」である、
「アクションシーン」について焦点を合わせて考える必要があります。

 

本作におけるタイムトラベルである、「逆行」。

それをイメージするには、
二色ドーナツを意識すればいいと思います。

右半分が、いちご味
反対の左半分が、チョコといった具合のものを、思い浮かべて下さい。

そして、そのドーナツを「トンネル」と見立てて、
例えば、時計回りに回った時、

いちご味の方が、「順行」つまり、普通の時間の進み方、
チョコ味の方が、「逆光」だと仮定します。

 

その時、
いちご味チョコ味の接点にあるのが、
「回転ドア」なんです。

本作では、
どうやら、「回転ドア」は、
世界に複数個存在しており、

例えば、
「A」というドアを通ったとしても、
別の「B」というドアを通れば、
「順行」と「逆行」の反転が可能となっています。

 

しかし、
本作のタイムトラベルは、
『ドラえもん』のタイムマシンとかと違って、

過去に行くには、
現在の起点から、
過去の行きたい「日時」への時間差を、
リアルに走破する必要があります

つまり、
一年前に行くには、
一年間「逆行」しなければならないのです。

いちご味を食べるのと同様の時間が、
チョコ味を食べる時に、かかるのです。

 

この制約が、本作の面白い所なのですよね。

 

そこで気になるのは、
逆行」している時に、歳は取るのか?
という点です。

 

パンフレットの解説では、
一年間「逆行」したなら、
一年分、歳を取るのでは、と指摘されていました。

なので、
100年過去に行ったなら、
現在の年齢+100歳になっている、
という寸法です。

 

私の解釈は、それとは逆で、

「逆行」は、肉体の「エントロピーが減少」しているという状況なので、
一年分「逆行」したなら、
一年分、若返っているのでは、と思っています。

本作では中盤、
傷付いたキャットは、
「持って3時間」と診断されます。

それを聞いた「名もなき男」は、
キャットを助ける為、
彼女を連れての「逆行」を試みます。

何故そんな事をしたのかというと、
それは、
時間を「逆行」する事で、
傷付いたという事実は覆せないながらも、
「傷は塞がる」
つまり、
「肉体は以前の状態に戻る」という事であり、

それは、
若返っていると言えるのではないでしょうか。

 

また、
タリンのガレージから、
オスロ空港の倉庫へと向かう場面にて、

オスロ空港に近付いた「名もなき男」が、
急に、腕から血を流す描写がありました。

これは、
将来(というか、「逆行」しているのだから「過去」)に、
傷を負うという予告であり、

肉体自体が、
時間遡行の影響を受けているという証左なのだと思われます。

 

  • 『TENET テネット』と『メメント』

本作『TENET テネット』は、
監督、クリストファー・ノーランの集大成の様な作品です。

『インターステラー』(2014)の様なSF設定、
『メメント』(2000)『インセプション』(2010)の様な、奇妙なミステリ、サスペンス、
「ダークナイト」シリーズの様な、アクション。

その全てが、『TENET テネット』には詰め込まれています。

 

『インセプション』の様な、
視覚的な説得力もあり、

アクションをとっても、
「ダークナイト」シリーズで、毎回披露してきた、
ワイヤーを使った、立体的なアクションシーンもあり、

そして、過去の映画作品で度々見られた、
CGでは無い、本物のデカ物をぶっ壊すシーンもありました。

『ダークナイト』ではトラックをひっくり返し、ビルを爆破し、
『ダークナイト ライジング』では、飛行機を落っことし、
そして、今回、
『TENET テネット』では、旅客機を建物に突っ込ませました。

 

しかし、
やはり、本作が最も影響を受けている過去作は、
監督のメジャーデビュー作『メメント』であると言えます。

 

以下、『メメント』の内容に、触れた記述となります

 

 

『メメント』は、
10分しか記憶が続かない男、レナードを主人公にした作品。

その最大の特徴と言えば、
時系列をいじった、
パズルの様なミステリ作品だという事です。

 

その本篇は、
約10分のエピソード(レナードの記憶が維持出来る限界まで)を披露した後に、
20分後に飛ぶという、
つまり、10分毎に、
過去へと遡って行くカラー映像のパートと、

謎と真相が徐々に明らかになってゆく、
モノクロの順行パートの二つで成り立っています。

そして、作品のラストは、
作品の冒頭のシーンと繋がっており、
逆行」と「順行」が鉢合わせするところでクライマックスを迎えます

 

つまり、
『TENET テネット』のSF概念は、
監督の初期作の『メメント』の構成に酷似しており、

『メメント』でいじったミステリ的な時間トリックを、
アクション的に表現したのが、今回の『TENET テネット』という訳なのです。

 

本作を気に入った人は、
是非、『メメント』もご覧になる事をオススメします。

 

 

  • 「逆行」の疑問点を考える

さて、
『TENET テネット』は、
一見、複雑でありつつも、

まぁ、何となく理解すれば、
意外とシンプルな理論に支えられている訳ですが、

そういうSF設定は、
往々にしてツッコみ処が満載だったりします。

 

例えば、
本作は、

未来人が、
生存に適さなくなった未来の世界を捨てて、
過去へ向けて生きようとする、

その為に、
現代(未来人から見た過去)を含めて、
世界自体を逆行する事で、

過去を更地にして、
その「逆行世界」で生きようとする。

という、トンデモな大風呂敷を広げた設定が語られます。

これは、
現代と未来との、
第三次世界大戦なのだ!と。

 

しかし、
本作で実際に描かれるのは、
未来人の代理人である、セイターと、
名もなき男の戦いという、

何と言うか、
設定の壮大さから比べると、
意外と小規模な戦いに終始してるな、

何て思っちゃう部分もあります。

 

設定から連想されるイメージ的に、
未来から軍隊がワンサカ現われ、
ヤベェドンパチで、世界がぐっちゃぐちゃになりそうですが、

しかし、

「逆行」のシステムを理解すれば、
そんな事は不可能だと知れるのですよね。

 

結局、
「逆行」中も肉体の時間が経過するので、

「逆行」中、
歳を取るとするなら、100年過ぎれば老衰で死ぬし、
若返るとするならば、自分の年齢以上になるなら、赤ん坊から、胎児になって、消えて無くなってしまうんですよね。

だから、
伝言ゲームの様な形で、
その時代、その時代で、
セイターの様な代理人を立てざるをえないんです。

 

まぁ、
こういった感じで、
パッと思いつく疑問点には、
作中で語られる設定で、
ある程度説明が付く事が多いと気付きます。

 

例えば、

中盤のヤマ場である、
タリンでの、順行と逆行のカーチェイス。

その「折り返し」である、
「逆行」でのカーチェイスで、
「名もなき男」の車がクラッシュしてしまいます。

そこにセイターが近付いて来て、
車から垂れたガソリンに火を付けて、
「名もなき男」を焼き殺そうと
(「逆行」中は、事象が反転して寒気を感じる)
するシーンがあります。

 

このシーン、
後から思い返してみると、

あれ?
逆行」中の出来事なのに、
ガソリンに火を付けて車が燃え上がるという一連の状況は、
「順行」になってないか?

これを、「順行」側から見ると、
爆発炎上した車が最初にあり、
それから、逆回しで炎が収まることになり、
因果が逆転しているじゃないか、
つまり、
これは編集上の矛盾だ!
とか、思ってしまう訳です。

 

しかし、これは編集上のミスでは無く、

ここに、
「逆行」というシステムの恐ろしさというか、
トンデモさがあるのです。

つまり、
逆行」中は、世界は逆回しになりはするが、
そこで起こす「アクション」による原因と帰結は、順行になっているのです。

実は、
その事を説明する為に、
わざわざ冒頭に、
「逆行する弾丸」の事象を、シーンとして挿入したのですね。

 

順行(普通の時間経過)中でも、
その世界の中で、堂々と事象が反転して「逆行」する弾丸。

壁にめり込んだ弾丸が、
そこから飛び出して来て、銃に収まるという、
因果の逆転。

 

ここにつまり、
これまた作中で語られる、
「祖父のパラドックス」についての、解答が含まれているのです。

この「祖父のパラドックス」とは、
タイムマシンで過去へ行き、
自分の先祖を殺したら、
自分は、存在しなくなるのか?
という思考実験ですが、

本作においては、
「逆行」における、
原因と帰結の因果が逆転しても、そこに矛盾は生じず、
そのまま世界は続いて行く
というスタンスをとっています。

故に、未来人は、平気で過去を亡きモノにしようとするのです。

 

これが、面白い。

『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985)で描写された様に、
過去を変えれば、自分が消えるという事もなく、

『ドラゴンボール』の人造人間編で描写された様な、
過去を変えると、その時に、別の世界線が生じるといった様な、
量子論的な多元世界の設定でも無いのです。

 

本作では、
「アルゴリズム」という謎アイテムを9つ集めたら世界滅亡!とかいう、

ドラゴンボール集めが始まるのかと思いきや、

既にセイターが8つ、集めてました!!的な、

打ち切り漫画の最終回みたいな巻きの超展開を観せて笑えますが、

未来人が、
過去を消し去っても、自分達には関係無いと自信を持つのは、
逆行」が因果律の崩壊を可能にしたからなのです。

 

本作のクライマックスは、14日。
場所は、ロシアのスタルスク12。

それは、作品冒頭の、
キエフの国立オペラ劇場がテロに見舞われた日と同日であり、

時間軸的には、
「名もなき男」は、まだセイターに会ってはいません。

しかし、
時間を逆行したキャットが、
その日にセイターを殺してしまった為、

セイターが死んだ日以降に、「名もなき男」はセイターに出会っている事になり、

ここでも、
因果律の崩壊が見て取れますが、

原因と結果が矛盾しても、
そのまま、世界は続いて行く様が、普通に描かれています。

 

 

もう一つ、
これは「逆行」とは関係ありませんが、

本作、
セイターの「世界を巻き込んだ自殺」の理由は、
キャットに言わせれば、
「膵臓癌の為」だと言っていましたが、
私はそうじゃないと思っています。

 

セイターは中盤、
ボートで、キャットに殺されかけた日の夜、彼女に、
「自分のものにならないのなら、他の誰にも渡さない」的な事を言います。

また、
「自分の最大の過ちは、息子をもうけた事だ」とも言います。
(キャットの愛を独占する息子への嫉妬)

これは、
歪みきって、独占欲に塗れてはいますが、
ある意味、激しい愛の告白とも受け取れます。

つまり、
14日のクルーズの日。

結局、キャットとの仲直りが失敗に終わったセイターは、
「もう、どうにでもなれ」と、
自暴自棄になったのだと、私には思えるのです。

つまり、
セイターの動機というのは、
極個人的な、
女にフラれた腹いせ、なのだと思うのですが、どうでしょうか?

 

 

 

本作には、
何とも言えない無常観というか、
諸行無常の響きがあります。

近い将来、何が起こるのか判明している、
それは、人によっては、
運命とか、神の意志とか言うのかも知れませんが、

そんなの定められた事象があるのなら、
努力する意味なんて、ねーんじゃねーか?と…

 

しかし本作は、
そんな無常観に覆われながらも、
決して、腐る事無く、
不撓不屈の精神で、ミッションに邁進しているのです。

…まぁ実際は、
因果律の崩壊が起こり得るので、
定められた事象を確定させる為の努力は必要なのですがね。

 

作中、何度も繰り返される言葉があります。

「先に起こる事は、知らない方がいい」
「起こる事は、起こる」
「起こる事が決まっているからといって、そこへ向かって努力しないでいい理由にはならない」と。

 

この、本作を覆う、ニヒリズム、

しかし、それは、諦めのニヒリズムでは無く、

生を全うする為の、覚悟のニヒリズム

これこそ、
停滞し、窮屈になってしまった現代を生きる我々に、
正に今、必要なもの。

図らずも『TENET テネット』は、
その指標を示してくれているのですはないでしょうか。

兎に角、本作は面白い!!

是非、映画館で、ご覧になって下さい!!

 

 

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『TENET テネット』の元祖とも言える、クリストファー・ノーラン監督の初期作、『メメント』もオススメ

 


 


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