映画『モービウス』感想  厨二御用達!!正統派(!?)ダークヒーローの悲哀に酔い痴れろ!!

幼少の頃から血液の難病を患っていたマイケル・モービウス博士。同様に血液の難病に苦しむ幼馴染みのパトロン、マイロの支援を経て、遂に非合法ながら治療法を見つけ出す。
それは、血液のみで生存する蝙蝠のDNAを人間と組み合わせるというものだった。ラットによる実験を経て、自らの肉体で治験を行ったモービウス。すると、彼の肉体に変化が訪れ、、、

監督は、ダニエル・エスピノーザ。
スウェーデン出身。
監督作に、
『イージーマネー』(2010)
『デンジャラスラン』(2012)
『チャイルド44 森に消えた子供たち』(2014)
ライフ』(2017) 等がある。

出演は、
マイケル・モービウス:ジャレッド・レト
マイロ:マット・スミス
マルティーヌ:アドリア・アルホナ
ニコラス:ジャレッド・ハリス
ロドリゲス:アル・マドリガル
ストラウド:タイリース・ギブソン 他

昨今のアメコミ系の映画は、
別の主人公の作品でも、その世界観を共有するという設定の作品が多いです。

例えば、
アベンジャーズ系の「マーベル・シネマティック・ユニバース」とか、
バットマン、スーパーマンの「DCエクステンデッド・ユニバース」があります。

そして、
第三の世界観共有アメコミ系映画として、
ソニー・ピクチャーズ系列で、マーベルコミックのスパイダーマンの世界観を共有する、
ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」というものがあります。

というか、
出来ました。

作品としては、
ヴェノム』(2018)
ヴェノム:レット・ゼア・ビー・カーネイジ』(2021)があり、

本作
『モービウス』(2022)が、
その第3弾という事になります。

第4弾として、
『クレイブン・ザ・ハンター』(2023予定)が控えており、
いずれも、
コミックのスパイダーマンのヴィラン(敵役)を主役として描いた作品群であり、
今後、それぞれの作品がどの様に絡み合って行くのか、
その展開にも注目があつまる所です。

コミックでマイナーなキャラクターだとしても、
映画として魅力的に描いたならば、
ヒットが見込める

更に、
世界観を他の映画作品と共有していたのならば、

単品として楽しむ観客だけでなく、
シリーズとして楽しむ観客の集客も見込める

この二つの利点により、
シェアード・ユニバース(世界観共有)系の映画は作られます。

今回映画化された「モービウス」も、
「スパイダーマン」の敵役としては、

「ヴェノム」や「グリーンゴブリン」程の知名度はありませんが、
映画の主役として、どう描かれていたのでしょうか?

モービウスは正統派のダークヒーロー。
厨二的な、心の琴線に触れるキャラクターです。

ダークヒーローと言えば、

信念や行動は高尚ですが、
暴力自警団である「バットマン」とか、

若干コミカルな雰囲気をまといつつ、
ルール無用の生き方をしている「ヴェノム」がありますが、

本作の「モービウス」は、
イメージとしてのダークヒーローに、
最も近い感じがあります。

医師としてのキャリアを持ち、
人々を多く助けてきたにも関わらず、
期せずして、呪われた力を手に入れてしまったモービウス。

その能力で虐殺を繰り広げて、
日の当たらない道に踏み込んでしまった。

本人の性質としては、善でも、
罪を犯し、社会的には悪と見做されてしまう。

判官贔屓の日本人としては、
或いは、
厨二病を発症している方々ならば、

本作のモービウスに感情移入してしまう所。

そうです、モービウスは、
特撮変身ヒーローなのです。

アクションとしては、
モービウス独自の特殊能力、
「バットレーダー」というものがあり、

超音波の反響で位置情報を獲得している蝙蝠の特性を、
視覚的にイメージしており、

まぁ、
アクション的には、スローモーション系列、
いわゆる、
「マトリックス」シリーズの「バレットタイム」なのですが、

エフェクトと描き方がカッコ良くて、
面白いですね。

アメコミ系列の映画特有の、
ド派手なアクションを絡めつつ、

厨二病的な
正統派変身ダークヒーローの悲哀に酔い痴れる、

『モービウス』は、
そんな作品となっております。

  • 『モービウス』のポイント

正統派(!?)ダークヒーロー

変身の悲哀

大いなる力には、大いなる責任が伴う

以下、内容に触れた感想となっております

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  • 変身ヒーローの悲哀

本作『モービウス』は、

医師として高尚な経歴、活動を行い、
本人の信念、行動も「善」ですが、

生存の為に「人の生き血」を求めてしまい、
その能力に目覚めた時に、虐殺を行い、
社会的には「悪」と見做されてしまう。

本人の信念と、
手に入れた特殊能力が背反しているという点において、

正に、
正統派のダークヒーローと言えるのではないでしょうか。

元はガリガリだった主人公が、
実験によって筋肉ムキムキになっている点では、
『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(2011)の
スティーブ・ロジャース(キャプテン・アメリカ)を思い浮かべますが、

それより、
本作のモービウスの映画的な元ネタとして影響を与えているのは、

デヴィッド・クローネンバーグ監督の『ザ・フライ』(1986)と言えます。

『ザ・フライ』は、

ノーベル賞を獲得する程のレベルの科学者、セスが主人公。

瞬間移動装置の実験の失敗で、
期せずして超能力を手に入れますが、

徐々に、人間離れして行く自分の精神と肉体に苦しむという内容です。

『ザ・フライ』は、
ジョルジュ・ランジュランの原作小説『蠅』を元にした、
『ハエ男の恐怖』(1958)のリメイク作品。

『モービウス』は蝙蝠であり、
原作コミックもありますが、

設定的には、
『ザ・フライ』の更なるリメイクと言える程、類似しています

興味がある方は、
ホラー映画である『ザ・フライ』と、
アクション映画である『モービウス』を見比べて観ると面白いと思います。

又、
モービウスは、
悲哀の変身ヒーローでもあります。

ある程度、自らの意思で変身出来るという点が、
『ザ・フライ』との差別点になっていますね。

小説で言うと、
夢枕獏の『荒野に獣、慟哭す』的な感じであり、

何より、変身ヒーローとしては、
日本の特撮TVシリーズの、初代『仮面ライダー』(1971~73)を彷彿とさせます

「仮面ライダー」の主人公は、本郷猛。

科学者である彼は、悪の秘密結社「ショッカー」に囚われ、
バッタの改造人間にされてしまいます。

しかし、
悪の組織のアジトを抜け出し、
「ショッカー」の送り込んでくる刺客である、
同じ改造人間と戦いを繰り広げるという作品です。

『モービウス』は、
これら先行する作品の影響を受けており、
(実際に監督が「仮面ライダー」を観ているのかは知りませんが)

そう言った意味で、
本作は、
最新映画ではありますが、

よく言えば王道、
悪く言えばテンプレの、
慣れ親しんだ、何処か、懐かしさすら漂う作品となっているのです。

  • 大いなる力には、大いなる責任が伴う

期せずして特殊能力を獲得したモービウス。

卓越した身体機能と、
特殊能力を手に入れますが、

その代償として、
人の生き血を求めずにはいられないという
呪われた宿命を背負ってしまいます。

医師としての倫理、
そして、
本人の性質として、
モービウスはその能力に、
悩み、苦しみますが、

その彼の対立軸として描かれるのは、
本作の「悪役」である、
幼馴染みのモリスです。

モリスは、
モービウス同様、
血液の難病に幼い頃から苦しめられており、
それを克服したモービウスを羨みます。

故に、モービウスの警告を無視し、
「血清」を使ったモリスも、
同じく、呪われた宿命と特殊能力を背負います。

しかし、
モリスがモービウスと違うのは、

自らの意思で、その前提条件を受け入れ、
寧ろ、特殊能力に酔い痴れている点です。

幼い頃から難病を患い、
劣等感を抱えて生きて来た

そんな彼が、
人並み外れた身体能力を突然獲得する。

社会の倫理など、何のその、
自分の思うままに、力を振るう事が、何が悪い?

だって、今まで、
私を虐げて来たのは、社会、世界、運命の方だろ?

モリスの行動は、
確かに悪です。

しかし、
日々、ストレスを抱えて生きている一般人としては、

どうしても、
モリスの主張にも、感情移入する部分があるのも又、
事実なのではないでしょうか。

実際に、
自分が力を獲得した時、
それでも、
倫理と道徳を貫けるのか、

本作には、観客に問いかける、
そういうテーマ性も持っています。

「スパイダーマン」シリーズで有名な、
「大いなる力には、大いなる責任が伴う」
という名言があります。

「力」を自らの為に使うのが、
ヴィラン(悪役)であり、

一方、

「力」を、社奇奉仕として使ったからこそ、
スパイダーマンは稀有の存在、
ヒーローと言えるのです。

映画としては、
まぁ、よく有るアメコミアクション作品として仕上がっている『モービウス』ですが、

主人公として、残虐になりすぎず、

しかし、
悪の存在に「成らざるを得なかった」者の悲哀を描く事で、

正統派ヒーロー(スパイダーマン)と
ダークヒーローの対比がなされています。

この様に、
様々な作品と絡める事で、

色んな見方が出来る作品と言えるのではないでしょうか。

映画的な元ネタ(?)
『ザ・フライ』はコチラ

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