映画『七つの会議』感想  この世から、不正は無くならじ!!


 

東京建電のぐうたら社員、万年係長の八角は会議中でも爆睡。花の一課に属していながら実績を上げない八角に、一課課長の坂戸は苦々しく思っていた。坂戸は八角を注意するが、八角は逆に坂戸をパワハラで訴える。営業部長の北川の信頼の篤い坂戸だったが、蓋を開けてみると、坂戸に異動が命じられたせ、、、

 

 

 

 

監督は福澤克雄
TVドラマの演出として、
『半沢直樹』(2013)
『ルーズヴェルト・ゲーム』(2014)
『下町ロケット』(2015)
『陸王』(2017)
等といった、
池井戸潤原作ドラマを多く手掛ける。

映画監督作に
『私は貝になりたい』(2008)
祈りの幕が下りる時』(2018)がある。

 

原作は池井戸潤の『七つの会議』。
TBS系で、著作が多数の映像化がなされている。

 

出演は、
八角民夫:野村萬斎
原島万二:及川光博
浜本優衣:朝倉あき

北川誠:香川照之
坂戸宣彦:片岡愛之助

他、
橋爪功、世良公則、吉田羊、藤森慎吾、鹿賀丈史、北王子欣也 等。

 

 

「原作・池井戸潤」。

これだけで、鉄板に面白い印象が出来上がってしまった昨今。

勿論、本作、
『七つの会議』も、鉄板の面白さです。

 

人が働いている様子を観て、
それが面白いのか?

面白いんです!

サラリーマンが、
その日々の業務で直面する苦悩、屈辱、挫折の数々、

共感せざるを得ない、その負の感情が、

物語のクライマックスにて、
エンタテインメントとして昇華される。

 

それが、池井戸作品の特徴であり、
本作も、その「いつもの」鉄板の面白さを踏襲しています。

 

期待通りの面白さ、

しかし、
期待以上の面白さを提供するのが映画の面白さ。

なんと言っても、本作は、

出演陣が豪華!

キャラが濃い!

 

喋るだけでカッコ良い、
野村萬斎、香川照之、片岡愛之助、

チャラさが凄い、
藤森慎吾、

画面に映るだけで存在感のある、
鹿賀丈史、北王子欣也 etc…

演技が良い、
画面を観るだけで面白い、

映画の醍醐味を味わえます。

 

 

とは言え、エンタテインメントだけでは無い、

「働くって何だろう…」
観終わった後、そんな事をしみじみと考えてしまう作品、
それが、
『七つの会議』なのです。

 

因みに、
題名は『七つの会議』ですが、
会議が七つある訳では無く、
沢山会議する、という意味で、そういう題名をつけたらしいです。

私は会議の数を数えていましたが、
途中で分からなくなっちゃいました。

実際、作中では、何回会議があったんでしょうかねぇ、、、?

 

 

  • 『七つの会議』のポイント

前半のミステリ展開

後半の追い込み

日本から、不正は無くならない!?

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 作品の空気感

組織で働くサラリーマンの苦悩、屈辱、挫折、苦肉の選択

そんな色々な仕事の悩みを題材に、

そして、そこから、その悩みを乗り越えて、
現状を打破しようとする奮闘を描く、

池井戸潤の作品。

今作『七つの会議』の、
池井戸作品の例に漏れず、
そういうエンタテインメントに仕上がっております。

 

その作風上、
描き方次第では、重苦しい雰囲気にもなりかねない題材ですが、

本作では、
観せ方を工夫する事で、
映画的なエンタテインメントの面白さが味わえます。

その「観せ方」というのは、
本作が、
視点人物が3人居る、という事です。

 

先ずは作品の冒頭、
二課の係長として登場する原島の目線で物語は進んで行きます。

舞台である東京建電という会社の社風、
会社の状況、
そして、「ハッカク」とあだ名される「八角(やすみ)民夫」を始めとした、
各登場人物の紹介がなされます。

 

次に、
その原島が、一課の係長に就任するにあたって紹介される、
寿退社を控えている浜本が登場します。

この浜本が、
「どうせ、会社を辞める身だし」
というノリで、

ハッカク周辺で起きている、
奇妙な異動の数々についての、会社の謎について迫ります。

 

この、
無邪気に、積極的に頑張る浜本と、
ちょっと頼りないけれど、ある種のコメディリリーフとして「癒やし」の存在である原島が組んで、

ハッカクの暗闘の謎を解いた時、

そこから、ハッカクの、対組織の奮闘が始まります。

 

物語の「起承転結」で説明するならば、

「起」が原島、
「承」が浜本
「転・結」がハッカクが主人公

そういう物語構成となっているのです。

 

本作は前半、
コメディリリーフの原島と無邪気で親近感が湧く浜本がバディを組んで、
ハッカクの謎を解くまでが、
ミステリ的な展開を観せます。

「何故、ハッカクに関わった人間は、異動させられるのか?」

「ぐうたら社員のハズのハッカクが、何故、そこまで優遇され、権力?を持っているのか?」

その謎に迫る展開は、
軽妙で、テンポが良いので、観ていて面白く、楽しいものとなっているのです。

 

そこで明かされるのは、
東京建電が、組織ぐるみで行った不正。

コストを抑える為に、意図的に強度不足のネジを部品で使った商品(椅子)を納品していた事、

そして、
不具合を抱えているという現状を認識しつつ、
その「リコール隠し」を行っているという事。

組織人としては、
目の前が真っ暗になる事実が判明しますが、

前半の軽妙さが、
そのショックを上手く中和し、
「ハッカク」なら、なんとかしてくれるんじゃないか?

そういう期待感を抱かせているのが見事です。

勿論、
その期待感というのは、
上手い具合に前半の展開を組んでいたという事もありますが、

その上、
「ハッカク」を演じる野村萬斎さん自身のキャラクター性にも拠っています

その点、
ベストなキャスティングと言えるでしょう。

 

意外に、肩肘張らずに、軽妙に観られる前半の面白さ、

そして、後半、
そこから満を持して、
主人公は遅れてやって来る、

その言葉を体現する、ハッカクの奮闘の開始。

物語が、
必要以上に悲壮にならない、

むしろ、
謎の解明や、
戦う事の意義に焦点が当てる、

そういう風に、
観客が作品を観るにあたって、
視点を絞って描いてくれているのは、
本作の面白い所であります。

 

  • 北川というキャラクターの変化

それを踏まえて観ると、
本作、
香川照之が演じる北川誠というキャラクターに面白味が感じられます。

 

北川は、
作中において、そのキャラクター性が一貫していません

前半は、
「鬼の北川」とあだ名される事からも分かる通り、

営業部の部長として、
パワハラまがいの叱咤激励で社員を追い込む様が描かれます。

モロに会社側の人間、
観客から観れば、主人公の敵として映ります。

 

しかし、
後半、ハッカク目線の物語となると、
北川の印象が変わります。

同期入社の旧知の間柄である二人、

同じ、一個の人間として、
悩みもすれば、怒りもする様子が描かれます。

サラリーマンの悩みを産み出す、上司のパワハラ

それを体現していたハズの人物もまた、

その更に上司によるパワハラや、
会社の運営方針について

悩みに悩んでいたのです。

正に、負のスパイラル。

ここに、
日本企業が抱える闇と限界が描かれているのです。

 

視点が違えば、立場が違う。

それどころか、
人物像、キャラクターまで違って見える、

そこが、本作の興味深い所です。

 

  • 不正の無くならない社会

映画版『七つの会議』では、
そのエンディングにて、
八角民夫が、日本の隠蔽体質について語るシーンがあります。

これは、
原作には無く、
監督が、自分の主張を盛り込んだシーンだそうです。

確かに、
他国がどうかは分かりませんが、

本邦においては、

寄らば大樹の陰
長いものには巻かれろ
触らぬ神に祟りなし

これらの諺が、
社会生活を送るにあたって、
ほぼ全ての国民に行き渡っていると言っていいでしょう。

 

人の命令だけ聞いて、
自分の責任を放棄したなら、
それは楽な生き方でしょう。

しかし、
皆が皆、責任を放棄したとしたなら、
その先は、
隠蔽と責任転嫁しか残らないのです。

 

この事に関連しますが、

私は、本作を観て、
昨今(執筆時:2019/02/03)、世間を騒がせているニュースを思い出しました。

それは、
「父のDVで娘が殺された事件」と
「厚生労働省による、統計の不正問題」です。

 

小学生の娘を虐待死させた父親の事件。

これは、
少女が学校での「いじめアンケート」にて、父から虐待を受けている旨を報告しましたが、
その回答を、
何故か、市の教育委員会が、
その虐待を加えていた、当の本人である父親に渡していたという、

信じられない事件です。

このアンケートの回答を見た父が、
娘を更にいたぶったであろう事は、想像に難くなく、
胸が痛くなり、ため息しか出ません。

この事件、確かに、
市の教育委員会は責められるべきですが、

ここに、
人間のどうしようもない弱さを垣間見る事が出来ます。

教育委員会の担当者は
「父の言動に恐怖を感じて渡してしまった」と言うのです。

赤の他人でさえ怖い相手なら、
その娘は、もっと怖い思いをしている、
そんな事は誰でも想像が付きます。

しかし、人間、
職業倫理も、人倫も、道徳も、

いざ、目の前に、
暴力や権力を楯にわめき散らす人間が現われると、
そういう人間の「建前」が全部吹っ飛んでしまうという事です。

 

本作で言うと、
ハッカクの様に、
上司の要求を突っぱねられる人間というのは、
本当に極一部です。

大抵は、
北川や坂戸の様に、
いけない、いつか破綻する、そう思いつつも、
唯々諾々と、上司の罵倒混じりの無理難題に従わざるを得ないのです。

 

しかし、要求を突っぱねたハッカクですら、
「自分は逃げた」という自己嫌悪を挫折感、無力感で、
20年間も無気力に過ごす事になっています。

一方、北川も、
「20年間、何して来たんだろうなぁ」と、
悔し涙で顔を歪める事になりました。

行くも地獄、行かぬも地獄の、
サラリーマン地獄変

 

組織の為、
命令されたから、
社風であり、慣例だから、

そういった、不正を行う理由付けを自分に許し、
責任を放棄した時、

そこに、隠蔽と責任転嫁が生まれます。

それこそ、
「厚生労働省の統計にまつわる不正問題」の事件です。

 

この事件は、
統計を行うにおいて、
その前提の調査が、手順に従っていなかった事が発覚した事に、端を発します。

この事件、
野党は「アベノミクス偽装」と言って、政府の責任を追及しています。

効果があったという「アベノミクス」ですが、
その前提となる統計結果自体が都合良く操作されたものなのではないか、
と言うのです。

実際の事の真偽は、未だ不明ですが、
不正が起こった時
大抵は、その結果から判断するに、
得をしているのは、上司に当たる人間で、
責任を負わされ、切られるのは、現場で動いた人間のみだという事です。

この事件、
統計方法を意図して偽装したのか、
それとも、
面倒臭くて、サボっていただけなのか、
それも、今後明らかになるでしょう。

 

更に、この事件が極まっているのは、
不正に関わったとされる人間に対する、
特別監査委員会の聞き取り調査に、
なんと上司が同席していたと言うのです。

厚生労働省に務める様な優秀な人間が、
自分が行ってきた不正を「自覚していない」なんて事があるでしょうか?

恐らく、意図して、
しかし、不正を報告して波風を立てる事を怖れて、
だから、自分も、
見て見ぬ振りをしつつ、不正を行っていたハズです。

そんな、意思の弱い人間が、
上司立ち会いの下、
本当の事を言いますかね?

上司は無言でも、
部下は勝手に、上司の意思を忖度して、
ある事無い事でっち上げるに決まっています。

そして上司は、
「私は、何も言っていない」という免罪符の下、

自分も不正を追及する側に回ろうとするのです。

 

公務員も、
その本分を見失ったら、
サラリーマンと何ら変わる所はありません。

これもまた、
サラリーマン地獄変の一篇なのです。

 

強権や暴力に忖度して、
自己の意思、即ち責任を放棄する。

そこから、
不正と責任転嫁が生まれる

人間は、弱い。

それを思い知らされる事件であり、

『七つの会議』のエンディングは、
そこ事について述べているのです。

 

  • 出演者解説

本作で、
視点人物の一人を担当する、浜本優衣を演じるのは、朝倉あき

TVドラマの『とめはねっ! 鈴里高校書道部』(2010)や、

映画では、
『神様のカルテ』(2011)
『横道世之介』(2013)
『白ゆき姫殺人事件』(2014)
『ハロウィンナイトメア』(2015)
『四月の永い夢』(2018)等に出演しています。

中でも、印象的なのは、
『かぐや姫の物語』(2013)
にて、主役の「かぐや姫」の声の出演をした事。

その『かぐや姫の物語』にて、
かぐや姫はこんな趣旨の発言をします。

「(色んな選択肢があったのに)こんな無駄な人生を送ってしまった」

何だか、
『七つの会議』での北川にも通じるセリフだなぁ、
と思いました。

 

 

 

サラリーマンの苦悩と奮闘の様子、
その、鉄板の面白さを描く池井戸潤の作品。

それを、豪華キャストで映画化するのだから、
面白くない、ハズが無い。

そして、
時事問題と絡めると、
日本人の弱さが浮き彫りになる、

『七つの会議』とは、そういう作品と言えるのです。

 

 

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コチラ、池井戸潤の原作です



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