宮崎県の高校に通うすずめは、叔母の環と二人暮らし。
ある日、通学中にすれ違った長髪イケメンに「廃墟」の場所を尋ねられる。一旦は学校へ向かったものの、そのイケメンが気になるすずめは廃墟に向かい、そこで扉を発見するのだが、、、
監督は新海誠。
今や、日本トップの映画アニメーションクリエイター。
監督作に、
『ほしのこえ』(2002)
『雲の向こう、約束の場所』(2004)
『秒速5センチメートル』(2007)
『星を追う子供』(2011)
『言の葉の庭』(2013)
『君の名は。』(2016)
『天気の子』(2019) がある。
声の出演は、
岩戸鈴芽(すずめ):原菜乃華
宗像草太:松村北斗
ダイジン:山根あん
岩戸環:深津絵里
芹澤朋也:神木隆之介 他
今や、日本の映画アニメーションのトップクリエイターとも言える新海誠。
宮崎駿が、実質引退した現在において、
最も、劇場公開が待たれる映画監督と言えるでしょう。
しかし、近年、
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(2020)が、
日本映画の興行収入を更新したり、
また、
『ONE PIECE FILM RED』(2022)が、
今年公開の映画で最も好評を博し、
やっぱり、
「TVシリーズは強いな」という印象を強烈に印象付けました。
その意味で、
劇場オリジナル作品としての矜持を見せつけられるのか?
ヒットが宿命付けられているなか、
どんな作品を観せてくれるのか?
その期待感にどう応えてくれるのか、
楽しみに観に行きました。
そして、観た感想なのですが。
いや、流石、
新海誠監督、
ブレないです。
いつもの、新海誠です。
先ず、
もの凄く綺麗な絵作り。
新海誠作品と言えば、
「絵」「画」の綺麗さが上げられます。
背景の細やかさ、
光のハイライトの描き方。
その拘り具合が、
素晴らしい。
そして、
描かれるテーマは、
世界の破滅と恋愛至上主義!
世界がどんなに困難に陥り、
そして、混沌に沈もうとも、
人を愛する心を忘れ無い。
誰かを愛すると言う事が、
そのまま、世界の趨勢に関わってくるという、
壮大なスケールで、
卑近なテーマを描くという手法は、
この作品でも変わりません。
で、本作、
舞台が南から北へ、
日本列島を縦断するというロードムービー的な要素もあります。
…これは、
聖地巡礼が大変だぞ!!
アニメーションの舞台の、
モデルとなった現実の場所、
そこを訪れる事を「聖地巡礼」と言いますが、
もし、本作でそれをやるなら、
これは、
一大アドベンチャーになるな!!
恐らく、
そういう事を、敢えて意図して作っていると感じます。
また、
製作側が強く意図しているテーマは他にもあり、
それは、
これは、東日本大震災の「後」の映画なんだ
という事です。
世界の破滅を作中で多く描いてきた新海誠。
その監督が、
実際に起こった災害に、作中でどう向き合うのか。
その点も、
本作の見所と言えるでしょう。
そんな重いテーマでも、
スペクタクルとして
エンタテインメント作品に昇華している
本作『すずめの戸締まり』は、
商業映画作品として、
評価され続けている新海誠監督の、
安定して面白い、
流石の職人芸が見られる、
素晴らしい作品と言えます。
また、
新海誠監督作品と言えば、
毎回、ヒロインの声優が、
その後、ブレイクしているという印象があります。
『君の名は。』の「宮水三葉」役の上白石萌音、
『天気の子』の「天野陽菜」役の森七菜。
本作のヒロイン
すずめの声優の原菜乃華は、
過去、『地獄でなぜ悪い』(2013)で、
「全力歯ぎしりレッツゴー」とか歌っていた、元子役。
彼女の今後のブレイクにも、
期待大ですね。
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『すずめの戸締まり』のポイント
世界の破滅を救うのは恋愛至上主義!?
東日本大震災への手向け
聖地巡礼が大変だぞ!!
以下、内容に触れた感想となっております
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オマージュミエミエ作品
その昔、
漫画『ジャングルの王者ターちゃん♡』などを描いた徳弘昌也が、
新人賞の(「手塚賞」だったかな?)の選考にあたって、
こうアドバイスしていた事がありました。
「面白い作品を描く秘訣は、上手くパクること」だと。
言葉は、ちょっと過激ですが、
趣旨と致しましては、
面白い作品を描くには、
自分が過去「面白い」と思った作品の良い所を、
上手い具合に、
自分の作品に取り込む事が肝要だ、
といった内容のアドバイスだったと記憶しています。
と、言う事で、
本作『すずめの戸締まり』です。
先ず冒頭、
イキなり、何か、変なウネウネ(作中では「ミミズ」と言われる)が扉から出て、
クライマックスから始まるのが、
この作品。
これを見て思ったのが、
コレ『もののけ姫』(1997)のディダラボッチじゃん、です。
実際、
ミミズは、
倒れたら「地震」を発生させるという設定であり、
災害という事象を視覚化した存在なのですが、
その意味で、
『もののけ姫』のディダラボッチと共通点が見られます。
また、
「扉」を閉める事で災害を未然に防げた場合、
ミミズははじけて、雨(のようなもの)が降り、虹が出るのですが、
その様子は、
『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序』(2007)などで描かれる、
使徒の形象崩壊時の、
爆発後の血の雨に、描写が酷似しています。
更には、
東京から、車で東北地方の自分のルーツを目指すという展開は、
奇しくも、
広島から、
車で北海道へと旅した『ドライブ・マイ・カー』(2021)と同じです。
また、
扉を閉めながら北へ旅するという展開は、
妖怪と戦いながら北を目指した、
藤田和日郎の漫画『うしおととら』も彷彿とさせます。
他にも、
作中はそう思わなかったのですが、
グッズ売り場にある、
「サダイジン」のぬいぐるみを見たら、
「あ、これ、デザインが『魔女の宅急便』(1989)のジジそのままじゃん」と気付いたり、
あ、コレは、意識して「パクって」いるな、
という描写が、本作には多かったです。
作品の冒頭は、つかみが大事、
そこに、
『もののけ姫』のクライマックスを持って来るのは、
反則級の手法。
しかも、
ミミズをやっつけた後は、
「ヱヴァンゲリヲン新劇場版」の使徒みたいな状態になるあたりに、
観客に
「あ、ミミズは、使徒みたいにコミュニケーション不能の存在なんだ」と、
無意識に理解させる効用があります。
他作品の設定を用いて、
説明を省くという手法は、
驚きの離れ技です。
で、作品のマスコットに、
「喋るネコ」という、
誰でも思い付く鉄板キャラを持って来る訳ですが、
それは『魔女の宅急便』のジジで描かれており、
しかし、
もう、時が経って、みんな忘れてるやろ?
と、言わんばかりに
白猫をマスコットキャラクターとして描くあたり、
大胆過ぎる設定と言えます。
また、パクりとはちょっと違いますが、
細田守映画では、
毎回、人外(ケモミミ)キャラが出てきますが、
本作では、
椅子が人外キャラとして(!?)登場します。
メインキャラを無機物で描くという手法が、
細田守映画以上に、ぶっ飛んだ設定です。
まぁそれが、
まるで、映画内で描かれると、
ロボットのキャラクターの様に愛らしく見えてくるのが凄いのですが。
まぁ、
ざっと列挙するだけで、
これだけ、過去の名作から設定を流用しています。
それを、
意識して、自分の作品に落とし込んでいるあたり、
いよいよ、
作品作りに年季が入ってきたな、と感じさせられます。
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世界の破滅と恋愛至上主義
設定、描写の多くを、
過去作の流用における「本歌取り」を多用してはいても、
しかし、
新海誠作品であると、確固として言えるのは、
本作が、いつもの如く
「セカイ系」の作品だからです。
「セカイ系」とは、
90年代後半から、00年代前半に流行った作品世界設定で、
簡単に言うと、
少年と少女の極個人的な恋愛関係の行方が、
そのまま、
世界の破滅を占う趨勢に直結するという世界観です。
何を無茶苦茶な、
と思われるかもしれませんが、
コレが、
実際に読むと、面白い作品が多いのです。
代表作に、
高橋しんの漫画『最終兵器彼女』や、
秋山瑞人の小説『イリヤの空、UFOの夏』、
ゲームの『マブラヴ オルタネイティヴ』などが挙げられます。
そして、
「セカイ系」を語る時、
新海誠監督の
『ほしのこえ』や『雲の向こう、約束の場所』も、
その例に挙げられ、
『君の名は。』も
『天気の子』も、
言ってみれば「セカイ系」の作品であり、
本作も、
新海誠監督の過去作の例に漏れず、
まっこと、セカイ系の作品なのです。
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震災と追悼とレクイエム
そんなセカイ系の『すずめの戸締まり』は、
宮崎県から東北地方を目指すロードムービー。
日本列島を縦断するという物語は、
「これは、聖地巡礼が大変だぞ」と思うと同時に、
各地を舞台にする事で、
聖地巡礼を盛り上げたいという「あざとさ」も見え隠れします。
で、
セカイ系という事で、
世界の危機が描かれるのですが、
本作における危機は、
地震という災害の視覚化=ミミズ。
で、
旅の出発点は、宮崎県なのですが、
宮崎県は過去、
台風による水害の被害を受けた事がある地域でもあります。
また、
旅の舞台の一つ、
神戸は、
兵庫県南部を震源とする「阪神・淡路大震災」(1995)で
最も被害が甚大だった場所の一つ。
そして東京は、
関東大震災(1923)が過去に起こり、
そこから東北地方を目指すのですが、
無論、
東日本大震災(2011)にて甚大な被害を被った場所が、そこです。
『君の名は。』の彗星や、
『天気の子』の水害など、
過去、
天災を「世界の終わり」として描いてきた新海誠監督ですが、
本作においては、
未だ、記憶に新しい東日本大震災などの
現実の脅威と直結する「地震」災害を描いた作品であるのです。
SF小説にパオロ・バチガルピの短篇『第六ポンプ』という作品があります。
簡単に言うと、
ディストピア的世界観、
上司や役人など、誰にも頼れない状況で、
市の水道局の下っ端主人公が奮闘し、
人知れず孤独に、ギリギリの状況で人々の生活を守っている、
という内容です。
『すずめの戸締まり』も、
いわば『第六ポンプ』と設定は同じで、
一度、
滅びや災害を迎えた世界において、
それでも、
その後の更なる被害を、
人知れず、未然に防いでいるという、
意義深くも、孤高な「閉じ師」の仕事を描いています。
そんな本作では、
「常世」が描写されます。
「常世(とこよ)」は、
いわば、「あの世」の事ですが、
本作で描かれる「常世」は、
人の心象によってその世界が変わると言われており、
人に拠って、
お花畑であったり、
凍り付くような孤独の寒さの海辺であったり、
或いは
東日本大震災における、気仙沼市の様な、
燃え上がる家々の有様だったりします。
時が経っても、
災害の記憶、トラウマというものは、
消えずに残っています。
しかし、
その哀しみも、苦しみも、
それを過去とする日々の奮闘、
それは、
復興に携わる人々の仕事であったり、
日常の何気ない生活の繰り返しであったりで、
和らいで行きます。
そういう日々の奮闘は、
人目に触れないものなのかもしれませんが、
しかし、
それによって、
ゆっくり、着実に、日常を守っているのだという事、
それを「儀式」の形で物語として描いたのが、
本作と言えるのではないでしょうか。
いわば本作は、
新海誠が、
震災に対して行った追悼とレクイエム。
災害、天災、戦争に直面した時の危機を描き続けた監督が、
「その後」を描いたという事に、
新たなる境地を観せてくれたと言えます。
本作『すずめの戸締まり』は、
設定として民俗学的ファンタジーを取り上げつつも、
それを深掘りしません。
何故、
「要石(かなめいし)」が二つあるのか?
「要石」がネコなのは何故か?
「要石」の過去に何があった?
「ダイジン」は、普段は白色なのに、力を使う時は黒くなるのは何故か?
同じく「サダイジン」は何故、黒ネコが、白になるのか?
「閉じ師」とは一体、いつから存在しているのか?
また、叔母の環との関係、
「ダイジン」を「追う」すずめが、
環には「追われて」いるという、
まるで、
『ジョジョの奇妙な冒険』の第三部のDIOの様な立ち位置、
(ジョースターを追いつつ、ポルナレフには追われている)が面白く、
そして、
雨の道の駅で本音を吐露し、一瞬ギスりますが、
そこの関係性も、
深掘りはせず、
何となく、解決してしまいます。
恐らく、
細かい部分まで設定を詰めているのでしょうが、
それを敢えて劇中で描かないというのは、
『君の名は。』や、
『天気の子』でもそうでした。
限られた上映時間内において、
何を主題として描くか、
それは、
「愛が全てを救う」というセカイ系であり、
それを徹底して描く新海誠監督の一本気に、
職人芸を感じます。
私個人は、
非モテの陰キャなので、
新海誠作品世界と親和性が無く、
作品自体を「好き」だとは言えませんが、
しかし、
新海誠作品は「面白い」と毎回思わせてくれる、
複雑な思いを抱く、作家性があります。
色々思う事があっても、
アンチをも黙らせる完成度の作品を作り続ける新海誠監督の作品に、
今後も期待大です。
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