映画『ゴールデン・リバー』感想  父を巡る、息子達の物語!!

1851年、オレゴン。辺りを仕切る提督の手駒、イーライとチャーリー。人呼んで姉妹兄弟(sisters brothers)の次の「仕事」は、連絡係のジョン・モリスから情報を入手し、ウォームという男を始末する事。しかし、ジョンはウォームと接触してしまい、彼に感化され仲間になってしまう、、、

 

 

 

 

監督はジャック・オーディアール
フランス出身。
監督作に、
『天使が隣で眠る夜』(1994)
『つつましき詐欺師』(1996)
『リード・マイ・リップ』(2001)
『真夜中のピアニスト』(2005)
『予言者』(2009)
『君と歩く世界』(2012)
『ディーパンの戦い』(2015)等がある。

 

原作は、パトリック・デウィットの『シスターズ・ブラザーズ』。

 

出演は、
イーライ・シスターズ:ジョン・C・ライリー
チャーリー・シスターズ:ホアキン・フェニックス

ジョン・モリス:ジェイク・ギレンホール
ハーマン・カーミット・ウォーム:リズ・アーメッド

提督:ルドガー・ハウワー 他

 

 

「フリーザの野郎、短期間であれだけ仕上げてきやがった」

と、言ったのは、
ドラゴンボール超 ブロリー』のベジータ。

この、
「仕上げて来た」というのは、
勿論、
フリーザの新たなる変身「ゴールデン・フリーザ」の事です。

そう、
「ゴールデン」と言えば、
それだけで、強そう!

「ゴールデンカレー」は美味そう!

では、
『ゴールデン・リバー』は、
どうなの?

 

 

さて、本作『ゴールデン・リバー』。

予告篇を観た感じだと、

金を巡って、4人が手を組むが、
それぞれ、腹に一物ある曲者同士、

欲望が噴出して、悲劇が起こる、、、

みたいな感じのストーリーを想像していました。

全然違うよ!

 

本作、

基本は、ウェスタン的なロード・ムービー。

 

そして、
4人、それぞれにスポットが当たる訳では無く、

あくまでも、主役はシスターズ・ブラザーズ、
イーライとチャーリーの兄弟の物語だと言えます。

 

二人が、

旅によって、
何を得て、何を失うのか、

 

そういう物語ですね。

 

では、4人は、絡まないのか?
と、言われると、そうでは無く、

本作において、
この4人は、テーマによって結び付いています。

それは、

父を巡る、息子の物語。

 

 

旅と金と欲望、そして、父親というテーマによって、
結び付いた4人が、一体、何を見て、

そして、何が起こるのか、

そこに至る、

過程、結果、その後、

この流れを「旅」という形で描く

それが、本作『ゴールデン・リバー』と言えます。

 

ぶっちゃけ、
邦題は、ちょっとミスリードを誘います。

原題も、
『The Sisters Brothers』(姉妹兄弟)
イーライとチャーリーの兄弟の名字が「シスターズ(sisters)」
という、味も素っ気も無いものですが、

勘違いさせる位なら、
原題の方がよっぽどマシというもの。

 

ともあれ、
西部劇として、
ロード・ムービーとして、
『ゴールデン・リバー』は面白い事は間違いありません。

人生とは、旅、
そんな事を、言ってしまう作品です。

 

 

  • 『ゴールデン・リバー』のポイント

ウェスタン・ロード・ムービー

行きて帰りし物語

息子達と、父にまつわる物語

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • 行きて帰りし物語

人生とは、旅であり、
故に、人は皆、須(すべから)く、旅をすべし

 

本作『ゴールデン・リバー』は、
ウェスタン(西部劇)です。

アウトローが、銃をぶっ放し、
欲望のままに、殺し合いをする。

しかし本作は、その上で、
ロード・ムービーでもあるのです。

もっと端的に言えば、

『指輪物語』や
『ホビットの冒険』の様な、
行きて帰りし物語」なのです。

 

平和な日常から、

旅という、非日常を経て、

何かを得て、そして、失い

故郷に帰れども、
以前とは違う自分になって戻る

それが、
「行きて帰りし物語」の基本原則です。

いわば、
古くからある、
「神話ファンタジー系」の成長物語の系譜、

本作は、そういう作劇となっております。

 

本作において、
その「旅」が描かれるのは、

イーライとチャーリーの、
シスターズ兄弟の物語です。

では、
彼達は、何を失い、そして何を得たのでしょうか?

 

  • 父を巡る、息子達の物語

そこを語る時、
主役の二人に加え、
ジョン・モリスとハーマンが話題に加わります。

そして、この4人にて、
本作のテーマとして描かれるのは、
父を巡る、息子の物語なのです。

 

ジョンは、
父を憎み、自由になる為に家を出たと言います。

しかし、
「恨み」が動機となっている以上、
それは、依然として、反面的に父の影響下にある事を意味していると、
ジョンはハーマンと語らう事で、そう思います。

 

又、
イーライとチャーリーも、
父によって、トラウマが植え付けられています。

イーライによると、
弟のチャーリーが、父を殺したとの事。

それ以来、弟は変わってしまったと言います。

 

兄はイーライですが、

提督の信頼が篤いのは弟のチャーリーであり、
二人の内で、主導権を握っているのも、チャーリーの方です。

作中、イーライは、ハーマンに言います。

「弟の尻ぬぐいに、いつも俺が出張る」

そして、

「父を殺すべきだったのは、自分だった」と、
悔いてもいるのです。

 

父を殺した事で、人が変わったという当のチャーリーは、
「ロクデナシの父だが、その血が流れているからこそ、俺達は殺しが出来る」
と嘯(うそぶ)きます。

そしてチャーリーは、
「仕事」を辞めたいというイーライに、

「辞めたら、提督から追手がかかる」
「追手を殺し続ければ、最終的には提督を殺す事になる」
と言います。

その言葉からイーライは、
チャーリーが、提督を殺し、
彼に成り代わって、その権力の座に就こうとする意図がある事を見抜きます。

 

シスターズ兄弟にとって、
自分達に命令する提督とは、父権の象徴

本来は、
兄が負うべきだった重荷を、
弟であるチャーリーが、彼に「成り代わって」成し遂げた、

つまり、
実父殺しを成したチャーリーは、

兄の「権利」を横取りしたのと同じように、
父の象徴である提督から、彼の「権力」を奪い取ろうとするのです。

 

一方、
兄であるイーライは、
その強面とは反比例するかのような、
繊細な内面の持ち主。

昔の思い人のショーツを、いつまでも大切に持ち歩き、
寝る前には、その匂いを嗅いでいます。

自分の乗馬に名前を付け、
その死の際には、深く傷付き、悲しんだりします。

そんなイーライが見る、
「父の悪夢」の実態は、

「父の悪行」の恐ろしさでは無く、
「父を殺す」弟の行為、そのものであるのです。

自分が本来負うべきだった重荷を、弟に負わせてしまった
その負い目が、
チャーリーに主導権を与え、

故に、
チャーリーが変節してしまった事を、
イーライは、悔いている
それが、悪夢として彼を苦しめているのですね。

 

  • 帰るべき場所

そんな彼達を惹きつけるのがハーマンです。

正確に言うと、
ハーマンの語る「夢」です。

 

ハーマンは、金を元手に、
真の自由な共同体を形成し、ユートピアを作るのだと、
大言壮語をのたまいます。

騙る夢や嘘、詐欺は、
デカい程、全貌が見えない、
故に人は、
それに、否応無しに惹かれてしまうのです。

シスターズ兄弟も、ジョン・モリスも、

ハーマンの夢のデカさに、
自分の夢が含まれると感じ、

故に、ハーマンに乗っかろうとするのです。

いわば、
ハーマンは、彼達を引っ張る「父権」の様なものを発揮するのです。

 

しかし、彼達が、ハーマンに父権を与え、
自分達のこれまでの生き方を「放棄」する事になるのも束の間、

欲望が絡むすったもんだにより、

結局は、
ハーマンの夢は、取らぬ狸の皮算用と終わってしまいます。

その結果、
ジョンとハーマンは死に、
チャーリーは、片手を失ってしまいます。

彼達の「父権」は、
それぞれ、死ぬのです。

 

しかし、
一人生き残ったのは、イーライ。

彼は、
片手を失って意気消沈するチャーリーの世話をしつつ、
自分が裏切られたと知った提督の追手を、殺しまくります。

遂に、提督自身を殺す事にしますが、
その時、チャーリーが言うのは、
「お前一人で殺る事になるぜ」という台詞です。

 

元々は、
チャーリーは、提督を殺して、自分が父権を手に入れようとしていた。

しかし、
チャーリーは、
それを兄に「やってくれ」と言うのです。

実父を殺した事で人が変わった=父権を手に入れた
チャーリーですが、

その父権は、
ハーマンの夢の挫折と、
自らの身体の欠如の末に死に、

イーライは、
本来なら、自分が負うべきだった責任と権利を、
チャーリーから禅譲される事になるのです。

 

チャーリーの「お前が殺れ」という言葉にて、
二人の「父」にまつわるトラウマは終わるのです。

故に、
実際に、父の象徴である提督を、自分達が殺す必要はありません。

二人は、
殺すまでも無く、提督が既に死んでいる事を知りますが、

死体を見た後、
イーライが提督の死体を殴りつけたのは、

ほんのオマケ程度に、
「父を潰せる」という事を、イーライは証明してみせた行為と言えます。

 

二人が、最後に辿り着くのは、
母親の下。

そこで、
父の存在しない、

つまり、
トラウマとしての父権の無くとも、
兄と、弟と、母との関係性に、

イーライは家族としての安らぎを見出して、
物語は終わります。

 

「父権」という狂気に縛られたアウトローの兄弟が、

しかし、
その「父権」を手放す事で、
安寧を手に入れる。

シスターズ兄弟の「旅」は、
そのラストシーンにて、終わったのです。

 

 

それにしても、
本作では、ホアキン・フェニックスが、
若干メタボながらも、普通体型だったのが、衝撃ですね。

いっつも、ガリガリだから、
逆に、それに見慣れた印象ているからです。

 

一方、イーライを演じたジョン・C・ライリーは、

無骨な外見とは違った、
繊細な内面の葛藤を、余す所なく表現していました。

 

ジョン・モリスを演じたジェイク・ギレンホールも、
曲者役の上手い役者。

 

彼達をまとめるのが、
見た目は普通ながらも、
最もぶっ飛んだ事を、然も当たり前の様に言うハーマン。

演じる、リズ・アーメッドの髭がまた、
嘘くささを演出していて、良い感じです。

 

 

西部劇を舞台に、

アウトロー達が夢に懸け、

しかし、その夢が散る事で、
逆に、再生へと繋がる。

ウェスタンであり、
ロード・ムービーであり、

そして、父を巡る、息子の物語である『ゴールデン・リバー』。

つらい「旅」の果てに、
救いが待っているという、
意外に爽やかなラストが、胸を打つ作品です。

 

 

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コチラは原作本。キャラ設定が映画とは若干違うそうです



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