父親の運転する車の交通事故で、頭蓋にチタンプレートを入れる事になったアレクシア。
長じて彼女は、モーターショーのコンパニオンとなりダンスを披露していた。
ある日、アレクシアはファンを自称するストーカーに車までついてこられ、交際を迫られる。無理矢理キスをされ、されるがままになっているかと思いきや、アレクシアはストーカーをあっさりと「処理」してしまう、、、
監督は、ジュリア・デュクルノー。
本作において、2022年のカンヌ国際映画祭において、
最高賞のパルム・ドールを獲得。
他の長篇映画監督作に、
『RAW~少女のめざめ~』(2016)がある。
出演は、
アレクシア:アガト・ルセル
ヴァンサン:ヴァンサン・ランドン
ジュスティーヌ:ギャランス・マリリエ
ライアン:ライ・サラメ 他
2021年、
カンヌ国際映画祭は、
新型コロナウィルスの世界的流行を受けて、
開催が中止されました。
1年空けた、
今年、2022年、
最高賞のパルム・ドールに輝いたのは、
ジュリア・デュクルノー監督作、
『TITANE/チタン』です。
『TITANE/チタン』は、
パルム・ドールを獲る前から、
話題になっていました。
何やら、凄い映画である、と。
で、実際に賞を獲って、
無事、日本でも公開されている訳ですが、
前情報全く無しで、
楽しみに観に行った訳ですよ。
で、どうだったのかと言うと、
まぁ、忖度無しにハッキリ言うと、
は?意味分かん無いんだけど!?
という作品です。
何がどうして、
何故こうなった!?
そういう因果関係が、
傍から物語を観ている私には、
皆目見当が付きません。
いや、
私だけではあるまい、
恐らく、
本作を観た10人が10人、
心の中では、
「意味分かんねぇ~」と言ってるハズです。
でも、ですよ。
意味分かんない、
訳、分かんない、
そんな本作は、
退屈する暇ナッシング!!
最初から最後まで、画面に釘付けです。
私もね、
年を取りましたよ。
映画も、沢山観ましたよ。
なので、そんじょそこらの作品では、面白さなんて感じないし、
何なら、
普通レベルの映画作品となれば、
映画館という環境が気持ち良すぎて、
眠気との戦いが始まります。
しかし、本作は、
前日、3時間しか寝てないのに、ウトウトする瞬間すら無く、
老人の弛緩した集中力さえも、
ガッチリ掴んで離しませんでした。
恐らく、
カンヌ国際映画祭の審査員もそうなんでしょうね。
映画祭の審査員ともなれば、
映画を飽きる程観ているでしょうし。
そんな映画鑑賞玄人からすると、
普通の映画では、満足出来なくなっているのではないでしょうか。
で、
そこに『TITANE/チタン』が現われた。
何しろ本作は、
暴力的で、過激で、理解しがたく、
しかし、だからこそ興味深い
そういう作品。
「良識ある、普通の作品」を観慣れた人ならばこそ、
本作に強く惹かれたのと思われます。
万人が「面白い」と感じる作品ではありません。
しかし、
超刺激的である事は、紛れも無い事実。
しかも、
真面目でシリアスだからこその、
妙なブラックユーモアも持ち合わせています。
本作、
例えるならば、「超人ハルク」です。
アメコミ・マーベル系のキャラクター、
アベンジャーズのハルクって、いるじゃないですか。
ハルク(ブルース・バナー)には彼なりの人生があり、
又、彼なりの悩み、葛藤があります。
しかし、
傍から見ると、
ハルクは脳筋で暴れるだけの「力こそパワー」タイプでしかありません。
でも、
そこが、ハルクの魅力でもあります。
『TITANE/チタン』もそうです。
本作の登場人物の行動原理、及び、ストーリー展開は、
余人の理解を超越します。
しかし、
過激で意味不明な本作は、
結局、無理に理解する必要は無いのです。
ありのままの様子を先ず、受け入れ、
その素っ頓狂さを楽しむのが、
本作を鑑賞するポイントだと思います。
過激で、暴力的で、意味不明なのに、
刺激的で、妙なユーモアがあり、興味深い。
そんな
『TITANE/チタン』という作品を、
怖いもの見たさで、体験するのも、悪くないですよ。
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『TITANE/チタン』のポイント
過激で暴力的で意味不明、故に、刺激的でユーモラスで興味深い
肉体改変型ホラー
割れ鍋に綴じ蓋
以下、内容に触れた感想となっております
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生まれ変わってパルム・ドールを獲得した作品
ネットで噂になっていた作品、『TITANE/チタン』。
「話題になっていた」という事を知っていたので、
事前情報を持たずに、
期待値だけで、観に行きました。
私が知っていたのは、
「主人公の女性が、交通事故で頭にチタンを入れている」という事のみ。
で、
何となく、
「あ~、『クラッシュ』みたいな映画かな?」と思っていました。
で、
観てみると、実際に本作は、
J・G・バラード原作、
デヴィッド・クローネンバーグ監督の映画作品、
『クラッシュ』(1996)の影響を多分に受けた作品でした。
『クラッシュ』は、交通事故に性的興奮を覚える人を描いた、
まぁ、率直に言うと、
変態的な作品。
で、『クラッシュ』は、
1996年に、カンヌ国際映画祭に出品されているのですが、
当年の審査委員長を務めたフランシス・フォード・コッポラが、
『クラッシュ』を痛烈批判、
しかし、他の審査員には評価された為、
審査員特別賞を獲得したという、いわくが付いています。
一方、
マーティン・スコセッシなど、
本作を高く評価する人も多く、
カルト作品の多いデヴィッド・クローネンバーグ監督の面目躍如、
2021年には、4K無修正バージョンが劇場公開されるなどしており、
今なお、毀誉褒貶が相半ばする、
話題の作品と言えます。
パンフレットによりますと、
『TITANE/チタン』の監督、ジュリア・デュクルノーは、
影響を受けた監督の名前に、
デヴィッド・クローネンバーグをあげている様です。
つまり本作は、
ジュリア・デュクルノー監督なりの、
『クラッシュ』本歌取り作品という事は、明白なのです。
奇しくも、
本作は、ラストシーンにて出産をしている訳ですが、
それは、
『クラッシュ』のDNAを受け継いで、
『TITANE/チタン』に生まれ変わったと言えます。
そんな、
『クラッシュ』の生まれ変わりとも言える
『TITANE/チタン』が、
26年の時を経て、
晴れて、パルム・ドールを獲得したという事に、
何だか、不思議な感動を覚えますなぁ…
息子の
ブランドン・クローネンバーグが監督した『ポゼッサー』(2020)、
『ザ・フライ』(1986)の影響が見られる『モービウス』、
そして『クラッシュ』の本歌取りたる、本作『TITANE/チタン』と、
デヴィッド・クローネンバーグ遺伝子を受け継ぐ作品が、
続けて日本公開されている事に、奇縁を感じますね。
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で、結局、何が言いたいんだ?
とは言え、
本作『TITANE/チタン』は、意味不明ですね。
まぁ、元となった『クラッシュ』も、
意味不明だから、仕方ないよね。
そんな『TITANE/チタン』のストーリーを簡単にまとめてみると
以下、ネタバレありです
車を偏愛するアレクシアは連続殺人鬼。
車とファックして妊娠してしまう。
殺人現場を目撃され、自宅に放火、
指名手配されて人相画が出回ったアレクシア、
逃げられないと悟って、
何を思ったか、行方不明者名簿の他人になりすまし、
その親と偽りの再開を果たす。
しかし、潜り込んだ先のオヤジも、中々のサイコ。
女性のアレクシアを「行方不明の息子」と信じて疑わず、
周囲の人間にもゴリ押し。
二人は奇妙な愛情を育み、
オヤジがアレクシアの出産を手伝って赤ん坊が生まれてエンド。
いやぁ、
文字にしても、意味分かりませんね。
で、本作は結局、何が言いたいんでしょう。
ぶっちゃけ、分かりません。
しかし、
分かる必要は無いのです。
本作が目指した先とは、
結局、唖然呆然としながらも、ノリで楽しめたとしたら、
それで、作った方も、観た方も、
両方勝ちになるのです。
とは言え、
映画を鑑賞して、
それを独自に解釈するのは、
楽しみの一つなので、
ちょっと、考えてみますかね。
パンフレットの監督のインタビューによりますと、
本作は、「愛の物語、詳しく言うなら、愛が始まる物語」
なんですって。
成程、分かった様な、分からない様な。
でも、
それを踏まえて、
独自に解釈してみますと、
本作は、
「割れ鍋に綴じ蓋」の物語なのだと思います。
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割れ鍋に綴じ蓋
「割れ鍋に綴じ蓋」とは、
壊れた鍋にも、それに合う蓋がある、
と、いう意味で、
人間関係に転じて、
「良き伴侶」とか、
「良いコンビ」的な意味で使われています。
で、『TITANE/チタン』はそこから派生して、
どんな人間にも、
それに相応しい居場所がある、
そういう物語なのかな、と感じたのですが、どうでしょう。
で、
ストーリーを追いながら、
ちょっと、解説してみます。
アレクシアが、
ストーカーの男を殺した次の日の朝のニュース。
そこで、
連続殺人の被害者が、また見つかったと言っていました。
それを、平然と見つめるアレクシア。
そこから、
どうやら、始めての「殺人」では無い、
又、
連続殺人と言われたいるので、手口が同じだろう、
という事が、想像されます。
アレクシアの犯行手口は、
鉄製の髪飾りで、突き刺すというもの。
それはまるで、
必殺仕事人の暗器というか、
漫画『北斗の拳』のマミヤが持っている武器「蛾嵋刺(がびし)」の様でもあります。
で、
アレクシアは、父親に性的虐待を受けていたのではないか、
と思います。
父親から虐待を受けている間、
その苦痛からの逃避の為に、
自分は、自分が好きな車とファックしているのだと、
見做していたのかもしれません。
何故車なのかと言いますと、
それは、
過去に、父の運転で、
アレクシアは自動車事故に遭っているから。
つまり、
アレクシアは、車を偏愛する事で、
父親に後ろめたい思い出を想起させて、
精神的な優位を築いていたのではないでしょうか。
又、朝、
医師である父親が診察しますが、
どうでも良さげに「何にも無い」と言っていた辺り、
妊娠に気付いていても、
気付かない振り、
つまり、自分が虐待しているから、
とも受け取れます。
そして、
車は自分を壊した訳ですが、
それは、イコール、虐待する父からの解放
でもある訳です。
なので、
アレクシアにとって、他人を傷付ける事は、
彼女なりの愛情表現の一つなのかもしれません。
で、度が過ぎて、
相手を殺してしまう、と。
だから、彼女にとっては、
妊娠は忌まわしいもの。
それから逃げる為に、
性別まで偽って、別人になろうとしたと考えられます。
それで、
精神は妊娠を拒否しているから、
勝手に、妄想で、
血や、乳の代わりに、
エンジンオイルだか、グリースだかを流していると
「思い込んで」いるのです。
後半、
彼女の体に、
まるで拷問の様な傷が増えて行くのは、
望まぬ妊娠で、
お腹の赤ん坊が育って行くという事自体が、
父親の虐待が、今なお継続中である、
その事の比喩とも捉えられます。
で、探し人の届けが出ている行方不明者になりすまして、
その家庭に潜り込むわけですが、
その潜り込んだ先のオヤジ、
ヴァンサンも、
心が壊れた、中々のサイコ野郎です。
ヴァンサンは、消防士の隊長。
訓練中、
燃えさかる下駄箱(?)の中に、
消し炭になった子供らしき人物を幻視します。
つまり、
深層心理は、息子の死を理解していますが、
理性はそれを拒絶しているという事なのです。
もしくは、
息子は既に、火事で死んでいる、
それなのに、
失踪届けを出していたのかもしれません。
ヴァンサンの元妻が、
アレクシアに、
「彼の妄想に付け込んで何するつもり?」とか、
「憐れな、彼(の妄想)を支えてあげて」とか言っていましたからね。
ヴァンサンが体を鍛えていたのは、
全盛期の自分を維持する
=息子が居た時代を維持する、という事、
つまり、
筋肉を維持しているなら、
息子も生きているという、
彼なりのジンクス、願掛けであると思われます。
故に、
漫画の「バキ」シリーズの、
ジャック・ハンマーみたいに、
明日を捨てても、
過去に縋って、ドーピングをしていたのでしょう。
そして、アレクシアを保護したヴァンサンは、
彼女を、自身の息子の名前「アドリアン」と呼び、
「お前を殴る者を殺す」
「私がお前を殴ったら、自殺する」とまで言います。
自身の保身の為に身構えていたアレクシアは、
徐々に、ヴァンサンとの共同生活において、
実際に、身に感じる彼の愛情に触れる事で、
それを受け入れて行きます。
ヴァンサンも、
アレクシアが明らかに女性だと分かっても、
「俺の息子だ」と言い張ります。
「何でそうなるんだよ!」と、ツッコまずにはいられない、
本作は、
全体的にブラックなユーモア感覚に包まれていますが、
このヴァンサンとアレクシアの歪な関係も、
滑稽であるが故に、
不器用で、笑えない真剣さを纏っています。
そんな二人の関係は、
「出産」という共同作業において、
頂点を迎えます。
アレクシアにとっては、
自身を苦しめ続けたものからの解放であり、
ヴァンサンにとっては、
息子(この際性別は関係無い)の再獲得です。
歪な二人だからこそ、
最後にはピッタリと嵌ってしまった。
何が何だか意味が解らなくとも、
清涼感すら漂う、
爽やかなラストだったのではないでしょうか。
-
ブラックなユーモア感覚
解説してみたとは言え、
それは、私の独自解釈であり、
正解という訳ではありません。
過激で刺激的で意味不明というのが、
本作の基本だと思います。
しかし、です。
本作が意味不明なのに面白いのは、
その過激さ、刺激だけでは無く、
全篇に亘って、
妙なユーモア感覚が漂っている点ではないでしょうか。
ストーカーを髪飾りで刺し殺すという突拍子も無い展開も、
突然過ぎて笑えますし、
そもそも、
鉄製(?)の暗器を仕込んでいる時点で笑えます。
連続殺人の現場も、
ドタバタ喜劇のようですし、
行方不明者になりすます、
しかも対象が男性という点も滑稽で、
トイレで自分の鼻を折るシーンも、
まるでコントです。
連続殺人鬼が逃げ込んだ先のオヤジが、
サイコ野郎だったという状況も、
最高にホラーで笑えます。
ヴァンサンがポージングする様子を、
三面鏡で映すのも笑えるポイントであり、
人工呼吸に合わせて、
「マカレナ」を歌うシーンも、
絵面のシリアスさと対比される「ウキウキ感」があります。
基地でパーティーをして、
屈強な男達がドゥンドゥンと踊っている場面で、
消防車にあげられたアレクシアが、
艶めかしいストリップダンスを披露し、
消防団員達をシラけさせるシーンも最高です。
本作は、
ジャンル的には、
「身体改変型ホラー」と言えるのかもしれませんが、
全篇に漂う、
恐怖を振り切った先の笑いの感覚も、
見逃せないポイントだと言えるのです。
過激で、暴力的で、意味不明、
それなのに、面白い、
興味深い、
目が離せない、
不謹慎だけど、笑えちゃう。
兎に角、刺激的な作品である『TITANE/チタン』は、
魂が傷付いた者の遍歴の物語であり、
そのラストには、
歪で清々しいな感動が待っているのです。
こんな作品があるから、
映画を観る事は、止められないんだよなぁ。
そういう事を再確認させてくれる、
奇妙な傑作と言えるでしょう。
『TITANE/チタン』の元ネタ!?
デヴィッド・クローネンバーグ監督の『クラッシュ』はコチラ
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