ゲット・アウト ブルーレイ+DVDセット [Blu-ray]
写真家のクリスは週末、白人の彼女ローズ・アーミテージの実家に訪問する事になった。飼い犬は友人のロッドに預けるが、そのロッドは「彼女の実家に行くなんぞ、止めておけ」と冗談交じりに警告する。そして、そのアーミテージ家には黒人の使用人がいた、、、
監督はジョーダン・ピール。
本作が初監督作、脚本と製作も手がける。
本職はコメディアンだそうだ。
主演のクリス役にダニエル・カルーヤ。
他の出演作に
『ジョニー・イングリッシュ 気休めの報酬』(2011)
『キック・アス/ジャスティス・フォーエバー』(2013)
『ボーダーライン』(2015)
『ブラック・パンサー』(2018予定)等がある。
他共演に、アリソン・ウィリアムズ、ブラッドリー・ウィットフォード、キャサリン・キーナー、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ等。
本作『ゲット・アウト』が初監督作だというジョーダン・ピール。
コメディアンは映画監督に向いているのか?
本作はホラーでありながら、クレバーさも感じさせる作りになっている。
まず、一目見て分かるテーマが
人種問題。
黒人男性が白人女性の実家に行く。
そこで、何も起こらないハズも無く、、、
さらに、作品自体がホラーである事を意識しており、
観客の期待に応える形で物語が進んで行く。
登場人物がアホな事をして観客のフラストレーションを溜めるという事が無い。
ホラー映画においては「アホな事」をする役割の人物も必要だが、本作の被害者役は主に一人なので、その必要性を除外している。
その上で100分の観賞に堪え得る物語を構築している。
これは凄い事である。
クレバーでしっかりした構成であるが故に、
展開はある程度読める。
しかし、それでいて
話の続きをハラハラしながら観る事が出来る。
期待感と恐怖感のバランスがいい。
話の構成や伝えたいテーマを明確にし、舞台と出演者を絞る事で、洗練された感じすら受ける。
これが監督第一作だとはとても信じられない完成度である。
ホラー映画ファンはもとより、
今後傑作をモノにする可能性を秘めたこのジョーダン・ピールという監督、映画ファンならば今後チェックしておきたい存在である。
以下ネタバレあり
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ホラーと出演者
ホラー映画には色々な楽しみがある。
その一つに、見慣れない役者の発見がある。
基本、ホラー映画に人気役者が出る事は少なく、売り出し前の意外な人物がひょっこり出演する事が多い。
つまり、過去のホラー映画を観ると、現在の人気役者に出会えたりするのだ。
例えば、ジョニー・デップはそのキャリアのスタートは『エルム街の悪夢』(1984)だし、
ブラッド・ピットも『処刑教室-最終章-』(1989)という作品に出演している。
最近では「マイティー・ソー」ことクリス・ヘムズワースの『キャビン』(2011)なんかも思いつく。
本作『ゲット・アウト』も、役者ありきではなく恐怖ありきの作品である。
ホラー映画はアイデア重視の作品なので、役者の知名度に頼る必要が無いのである。
なので、あまり見慣れない出演陣となっている。
だが、この作品を切っ掛けに、主演のダニエル・カルーヤやアリソン・ウィリアムズなどが有名になり人気役者になっていくかもしれない。
それも、楽しみだ。
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構成の上手さ
恋人の実家に行く事ほど、苦痛な行為は無い。
実際に何が起きるか分からない、人生におけるリアルホラー体験の一つである。
だが本作『ゲット・アウト』は、そんな日常的な恐怖を描いた作品では無い。
それは冒頭部分、夜の街を歩くだけで黒人男性が拉致される様子で明確に示されている。
また、クリスの親友ロッドが事ある毎に警告をする。
「恋人の実家なんぞに行くな」
「洗脳だ」「性奴隷にされる」と。
どの警告も当たらずとも遠からず。
むしろ、観客が思う心の声をそのまま劇中で発言する、ある意味メタ的な存在であるのだ。
冒頭の暗示とロッドの警告。
この二つで、進行する「恋人の実家での居心地の悪い体験をする」という表のストーリーが、実は化け皮だとどうどうと宣言しているのだ。
その上で、
奇妙な言動の黒人使用人、
あからさまに怪しい催眠療法、
ブルジョア白人連中の無言のビンゴゲームと
段階を踏みつつ期待感と恐怖感を煽ってくる。
この展開が上手い。
そして、異変を感じ、すぐさま撤退を決意するスピーディーな決断力もホラー映画らしからぬ面白さがある。
とは言え、一度は捕まってしまうのがストーリー上の宿命ではあるのだが。
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横たわる人種問題
島国の日本では感じづらいかも知れないが、未だに根深くアメリカ社会に残っているが黒人と白人の人種問題である。
本作では、白人連中が黒人の体を乗っ取り若く生まれ変わる人体実験の様子が描かれる。
黒人である理由は、「身体的に優れているから」と口では言っているがその真の理由は明確。
黒人ならば、意識を封じ体の自由を奪う事に抵抗がない(と白人が思っている)から、というのが本音だろう。
本作で観られる、白人社会の中での黒人の疎外感、黒人に対して躊躇無く振るわれる有形、無形の暴力。
これらはアメリカの実社会において、紛れもなく現存している。
実際、昨年(2016)も白人警官が縛った無抵抗の黒人を射殺して問題になった事件があった。
本作もその事件を受け、結末を変える選択をしたという。
それ程、現実に恐ろしい事があり、本作ではその恐怖をテーマの一つとして描いているのである。
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ソリッド・スリラーとホラー
ホラーとソリッド・スリラーは似て非なるジャンルである。
人間の恐怖を描いたホラーに対し、
ソリッド・スリラーは限定された状況そのものを描いている。
しかし、舞台設定が限定的になり、ホラーであっても「ソリッド・シチュエーション」である場合は多い。
ではどう見分けるか?それは反撃の有無である。
恐怖に立ち向かうカタルシス部分があるのがホラー(成功の是非は問わず)、
人間をゲーム的に餌食にし、黒幕がやりっ放しになるのがソリッド・スリラーである。
この観点からすると、『ゲット・アウト』はホラーと言える。
自分としては、少なからず抵抗の意思を見せて欲しい。
それこそ、実社会においては、抵抗すら許さず封殺してくる輩がいるのだから。
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君は親友を持っているか?
また、『ゲット・アウト』で描かれる大事な事に、「親友の大切さ」がある。
アーミテージ家はクリスに身の上話を尋ね、家族が居ない事をさりげなく確かめる。
人一人消えてしまっても差し支えないと判断したのだろう。
しかし、クリスにはロッドという世話焼きの親友がいた。
彼は、クリス(と観客)に警告を与え、
警察にバカにされても諦めず、
独自に調査して自ら修羅場へ乗り込んで来る。
ロッドは最高にクールで格好良かった。
最近でも、連続殺人事件が発覚したのは、被害者の兄の独自行動が切っ掛けというものがあった。
他人の事を心配して、行動してくれる存在は正に有り難い。
こういう人間が一人でもいたら、人生は大分違う。
それこそ救われるのだ。
どんな陰キャでも、親友は必要だ。
『ゲット・アウト』でもロッドの存在が大分雰囲気を軽くしていた。
それは、人生においても同じであるのだ。
ホラーというジャンルは案外と懐が深い。
本作『ゲット・アウト』においては人種差別という社会性をテーマに据え、見事な構成力でホラー作品に仕立て上げていた。
また、過去のトラウマ、交際相手の実家への訪問、催眠術、生まれ変わり等、様々なネタを絡めつつ、観客を飽きさせずのめり込ませるストーリーも面白い。
展開は分かり易い。
しかし、それは意図した結果であって、ストーリーよりテーマの重要性を感じて欲しかったのだろう。
未だに根深い人種差別。
それは多人数がマイノリティに押し付ける圧倒的偏見でもある。
胸くそ悪いが、これも解決されざる問題を意識しなければならない。
そして、それが解消される社会を目指さねばならないのだ。
新世代ホラーの傑作達
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さて次回は、社会を変えるなら、まず自分の殻を打ち砕け!?漫画『ドレース』について語りたい。