映画『キングスマン:ゴールデン・サークル』感想  面白過ぎた作品の続篇を作る難しさ!!

 

 

 

キングスマンのエージェント:ガラハッドとして、公私ともに順調なエグジー。店を出た直後、元キングスマン候補生のチャーリーに突然襲われる。そのチャーリーの裏には、世界最大の麻薬カルテル「ゴールデン・サークル」の影がちらついていた、、、

 

 

 

監督はマシュー・ボーン
本作含め、アメコミの映画化作品が多い印象だ。
監督作に、
『キック・アス』(2010)
X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011)
『キングスマン』(2015)等がある。

 

主演のエグジー役にタロン・エガートン
主な出演作に
『レジェンド 狂気の美学』(2015)
『イーグル・ジャンプ』(2016)
『ロビン・フッド』(2018:予定)がある。

他、共演にコリン・ファース、マーク・ストロング、チャニング・テイタム、ジュリアン・ムーア、エルトン・ジョン等。

 

過激で刺激的なアクションで毀誉褒貶相半ばし、大ヒットを飛ばした『キングスマン』の続篇、『~ゴールデン・サークル』。

キャラクター紹介は前作である程度出来ているので、本作では

冒頭からアクション全開でブッ通す。

 

とにかく、派手に、スタイリッシュにキメる。

アクションの描写がいちいちカッコいい!

 

その分、ストーリーはツッコみ所満載だが、そこはご愛敬。
カッコイイアイテムでのスタイリッシュアクションを楽しめば良いのだ。

とりあえず頭カラッポにして観れば、
ど派手さを楽しめる。

 

そういう映画である。

…しかし、前作のファンであるならば、

何となくスケールダウンした感が否めないだろう。

 

とは言え、アクションの量も質も今作の方が上。
前作の様な作品とは別物の「ど派手スタイリッシュ・アクション映画」として観れば十分楽しめる。

「スパイアクションだった前作とちょっと違うな~」と思ってガッカリするよりも、
観ている間に素早く切り替えて「これはど派手アクションを楽しむべきものだ」と気付ば良いのだ。

頭カラッポにして英国紳士の活躍を堪能しよう。

 

 

以下、内容に触れた感想となります。
前作『キングスマン』の内容にも触れています。


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  • 前作が面白過ぎたのだ、、、

本作『キングスマン:ゴールデン・サークル』は、
前作『キングスマン』よりもアクションの質も量も上である。

しかし、前作より確実に見劣りする

それは何故か?

ストーリーや設定にツッコミ所が多い事もその理由の一つだが、やはり最たる点は、
サプライズ不在の展開の所為であろう。

前作はとにかく凄かった。
こちらの予想を斜め上に超える展開の連続だった。
特に、教会でのバトルロイヤル、ハリー死亡、裏切り者発生、孤軍奮闘、「汚ぇ花火」のコンボは怒濤の展開であった。

しかし、本作にはそれが無い。
全てが予定調和であった。

何故かハリーが生きており、
そのハリーが作中で語る通りに組織内に裏切り者が居り、
ポピーは嘘のパスワードすら言わずに、
みんなめでたしめでたしで終わる。

最後までストレス・フリーなのだ。

面白かった展開は、復活したハリーが上手く動けない所だ。
しかしそれも、いつの間にか直っている。
(彼女の父の質問にカンニングで答える部分も面白かったかな)

前作では、観客がビックリするサプライズ要素を仕込んでいた。
しかし本作は、前作での「やり過ぎだ」という批判に答えてしまったのか、随分と大人しい。
上品ぶっているのである。

 

  • エルトン・ジョンって必要?

前作はストーリー展開で悪ノリし、それが作品の最も面白かった部分であった。

本作ではそれが無い。
その代わりなのか、悪ノリしているのはエルトン・ジョンである。
そして、これがストレスとなっている。

本作のエルトン・ジョンは、映画でたまに見かける「本人役」で出演している。
何しろ生きる伝説(リビング・レジェンド)。
兎に角存在感がハンパ無い。
志茂田景樹さんみたいな見た目で、知らない人でも一目でゲイだと気付くレベルの存在感である。

ラスト近くではカメラ目線で跳び蹴りかましたりするが、
ぶっちゃけ、この映画でエルトン・ジョンの出演シーンを全て削っても何ら問題は無い

映画の登場人物全てに理由と意味を持たせる必要は無い。
「脇役」という遊びがあるからこそ、深みが出る映画もある。

だが、映画の内容に全く必要無い存在で遊んで(悪ノリして)みるよりも、
もっとストーリーや展開で面白いモノを観せて欲しかったというのが本音である。

前作では出来てきた事をやらずに、
表面的な部分でお茶を濁しているのが残念なのだ。

 

  • 映画のストレス

映画において多少のストレスを観客に与える事は、後のカタルシスと合わせると必要不可欠な物である。

しかし、その匙加減が難しい。
不愉快なレベルでイライラを感じたら「つまらない!」という感情が先行してしまうからだ。

前作はストーリー展開でストレスを与え、その加減が絶妙だった。
(引いている人もいたが)

しかし、本作のストレスはエルトン・ジョン個人であり、「ウザいな」と思わせるだけで、映画のストーリー上の起伏にはなっていない

映画のストーリー自体は予定調和のフラットなのに、登場人物でストレスを感じて引っかかりがある

このアンバランスさが本作が前作に劣る理由なのだ。

 

  • ストーリーにツッコんではいけない

まず、ポピーがよく分からない。
麻薬カルテルの大ボスなので、身の安全の為に隠れているハズが急に自意識に目覚め、
成り立ての中学生YouTuberみたいに、私を見て!と言い出す

合法化すれば云々と言っていたが、合法的に商売しても暗殺される時はされるぞ。
王将の社長みたいに。

また、ハリーにゾイドを一匹ずつしかけしかけなかった意味も分からない。
ここは「2匹同時にどうやって一人で対処するのか?」という見せ場だったハズだろ。

そもそも、何故「キングスマン」にミサイルぶち込んだのか?
ストーリー的な説明が無いのでチャーリーの私怨としか思えない。

その割に、エグジーのスケジュールを確認して無かったり、重要人物のマーリンを殺り逃したりしている。
夜だから家に居るだろうというガバガバ理論なのか?
「キングスマン」が要注意組織という情報がありながら、マーリンが前回、重要な役目を負っていたと知らなかったのか?
意味が分からない。

秘密基地崩壊は、展開次第では盛り上がるが、舞台をアメリカに移す為の理由としてだけ使用されたのは勿体ない事である。

秘密基地と言えば、ポピーのアジトにあまりに人員が少ない。
あんなに少数なら、普通にアメリカの急襲部隊で事態が解決出来そうだが、どうだろうか?

…なんか、みんなスタジャンで弱そうだったし。

そして、ハリーが生きていたのはあまりにおかしい。
頭撃たれたら死ぬだろう。
これで死なないなら、死すら信用出来ない。

漫画の『刃牙道』で、宮本武蔵に烈海王が切られても、「どうせ生き返るだろ」と思われて危機感が無くなるのと一緒である

以上の様に、ストーリーに整合性はあまり求められていない。
むしろ、その部分はあまり疑問に思わずに、軽く流すのが正しい楽しみ方であろう。

 

  • 大統領の選択

色々言ってきたが、本作でも面白い部分がある。
それが、大統領の選択である。

麻薬に毒を混ぜたポピーは、麻薬を使用した感染者の命を人質に、麻薬合法化を迫る。

しかし、これに対し大統領は渡りに舟とばかりに、
「麻薬使用者も、麻薬カルテルも一網打尽のチャンス」と言ってのける。

そう、本作ではポピーが計画して実行した事よりも、さらに怖ろしいのは大統領の選択の方なのだ。

スポーツのスタジアムに集められた人間が、檻に入れられ積み重ねられていたシーンはゾッとする。

だが、作中では人道に反する選択として非難されていたが、
ぶっちゃけ、大統領の選択の方が、世界が良くなる様な気がすると正直思ったのも事実

しかしこれは、日常に麻薬が存在しない一般的な日本人の感覚だ。

日本では、麻薬使用者はイコール犯罪者でしかない。
しかし、オランダの様に国によっては合法的に接種出来る場所もあり、海外ではもっとカジュアルに浸透している。

日本で似た感覚としては、NHKに受信料を払わない、といった事と似ているのかもしれない。

日本で、総理大臣が「NHKに受信料払わない人間は年金停止だ」と言ったら暴動が起きるだろう。
それと同じレベルなのではないか?

そう考えて見ると、大統領の言葉が如何に選民思想に溢れたものなのかが理解出来る。
俺は大丈夫だから、お前等死んでもどうでもいい」という発想なのだ。

犯罪行為をしている相手に叩く理由があるからと言っても、死ぬまで叩いて良い訳では無い
窮地に陥った他人を助ける事が出来るからこそ、人間に理性が生まれたハズだ。
それを捨て去るのはケダモノと同類よ。

まぁ、とは言え、助かった犯罪者側が、「俺たちを見捨てたな、この差別主義者が!」と大統領を槍玉に挙げるのはある意味別の恐ろしさがあるが。

前作では、無料SIMで釣った貧乏人を抹殺し金持ちだけ生き残るという計画を、
本作では、死ぬのは麻薬使用者のみなので、主に犯罪者が消える、巻き添えでは無い自分にとってはラッキーという大統領の選択という、
いずれも選民思想が世界を危機に陥れる話となっている。

「キングスマン」シリーズのテーマはこの辺りにありそうだ。

 

 

本作『キングスマン:ゴールデン・サークル』は面白い。
これは間違い無い。

しかし続篇である為、傑作だった『キングスマン』と比べてしまう。
その時、どうしても見劣りしてしまうのだ。

面白過ぎた作品の次回作とは、かくも難しい
超えるハードルはあまりに高く、それを設定したのが自分であるが故に。

とは言え、単にアクション映画としては面白い。
おそらく、さらなる続篇があるだろう。

なにしろ、頭撃たれても死なない世界だ。
マーリンも生きているだろうし、ランスロットも生存しているハズ。
チャーリーも敵役として復活するだろう。

その時に、また面白いものを観せてくれる事を期待したい。

 

これが傑作の面白過ぎた前作だ!

 


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さて次回は、全世界規模の危機!?こちらは太陽フレアの影響で電気が途絶してしまう、小説『赤いオーロラの街で』について語りたい。