船が難破し、無人島で一人過ごすハンク。孤独に耐えられず、浜辺で自殺しようとしたその時、打ち上げられた遭難者を発見する。しかし、その男は既に死体。再び絶望するハンク。だが、その死体は「屁」をひり、途端に水上をジェットスキーの如く滑りだした、、、
監督はダニエルズ。
ダニエル・クワンとダニエル・シャイナートの二人組。
ミュージックビデオの制作をしており、映画は本作『スイス・アーミー・マン』が初監督作である。
主演のハンク役はポール・ダノ。他の出演作に
『リトル・ミス・サンシャイン』(2006)
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)
『プリズナーズ』(2013)
『それでも夜は明ける』(2013)等。
共演のメニー役にダニエル・ラドクリフ。
ご存知『ハリー・ポッター』シリーズのハリー・ポッター役で有名だ。
他出演作に
『ウーマン・イン・ブラック 亡霊の館』(2012)
『ホーンズ 容疑者の告白の角』(2013)
『グランド・イリュージョン 見破られたトリック』(2016)等がある。
不思議な題名、『スイス・アーミー・マン』。
これは、スイスが発祥の地である、アーミー・ナイフ(十徳ナイフ)から採られている。
即ちこの映画は
死体をアーミー・ナイフの如く様々な用途に使い、
野外生活を行う男の物語である。
スイス・アーミー・ナイフならぬ『スイス・アーミー・マン』という訳である。
奇矯な設定だが、死体を冒涜する様な感じではない。
独特なユーモアがあり、グロさとは縁遠い。
まぁ、ユーモアというか
下ネタ満載なので、そこで人を選ぶかも。
しかも、そのレベルが
「うんこ、ちんちん」という感じなので、バカバカし過ぎて笑えるのだ。
そして森の中、死体と二人きりの話なので、自然と
内省的な部分にも踏み込んで行く。
下ネタも交えつつ、人生についても考えを巡らせる。
言わば、心の旅とも言える『スイス・アーミー・ナイフ』。
あなたも一緒に旅してみては如何だろうか?
以下ネタバレあり
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サバイバルというよりキャンプ!?
『スイス・アーミー・マン』。
予告編を見た最初の印象では「死体を使ってサバイバル」という印象であった。
しかし実際には、文明社会への帰還を目指しながらも、どちらかというとあまり動かず、「死体を使ってキャンプ」といった趣がある。
しかも、バスで見かけた「サラ」という女性の家の直ぐ近くなのだ。
…これはつまり、インスタ等のSNSで素性を調べて住所を特定していたという事である。
怖っ!!
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妄想?
そこから翻って考えると、そもそも最初のシーンの「無人島」という設定も嘘っぽい。
元々、サラの家の近くまで来たケド、何も出来ない自分に呆れて、浜辺で自殺をしようとしていたダケだったのでは?
メニーのジェットスキーは海を渡った訳ではなくて、沖に出て、そこから再び浜に打ち上げられたダケなのではないだろうか?
そこからさらに考えると、そもそもメニーの挙動はハンクの幻覚だったのか?
ただ、確かなのは、片思いの横恋慕している相手の近くの森でキャンプ生活を送っていたという事実だけである。
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メニーとな何だったのか?
そもそも、浜辺はサラの家からダッシュで行ける位の距離である。
ラストシーン、サラの旦那が娘を抱っこしていたので、子供の足でも行ける位なのだ。
メニーをおんぶしていても、1日かからずに町に戻れるハズである。
では、何故何日も森にいたのか?
メニーの「コンパス」が狂っていたからなのか?
おそらくそうでは無い。
ハンクの隠れた希望を汲んで、わざわざ遠回りをしていたのだろう。
ハンクもハンクでそれ程動かず、ホームレス気味のキャンプ生活を楽しんでいたのだ。
では、何故ハンクはホームレス生活をしていたのか?
ハンクはホームレスというよりホープレス。
つまり、生きる希望を失っていた。
それはの理由は色々あるのだろうが、『スイス・アーミー・マン』の作中で明らかにされていたのは、自身のコミュニケーション不全能力に自信が無いという点であった。
ハンクは、メニーとの関わりの中で自身の人生を振り返りる。
何しろ、自殺の瞬間に走馬燈はよぎらなかったのだ。
ならば自ら、思い出してゆくしかない。
そして、メニーとの奇妙な共同生活の中で、あり得たかもしれない人生を妄想の中、人形劇でもって再現するのだ。
作中ハンクは、パーティーでのメニーの嬉しそうな表情を見て、ふと我に返る瞬間がある。
そして翌日、「進まねば」と口にする。
これは、人生も前に進まねば、という意味であろう。
いつまでも、野外で引きこもっていないで(?)、文明社会に帰り、自らが望む人生に挑戦する準備が出来たという意味なのだ。
そして、メニーは仕上げにわざわざハンクに「走馬燈」をプレゼントする。
最も、それが原因で熊に喰われそうになるのは皮肉ではあるが。
つまり、である。
メニーは結局、ハンクの心象を写した鏡であったのだ。
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人の人生とは色々である
ハンクは、コミュ症の男子ならではではあるが、大人の女性とは話せないが、子供とは会話出来る。
と、自分では思っている。
だが実際は、子供といえどコミュ症の相手は苦手なのである。
ハンク(コミュ症)の方が、遠慮していないだけなのだ。
だから、会話が成立する。
つまりである。
コミュ症は自信を持つ事が出来れば、それを乗り越えられるのだ。
町へ戻ったハンクはキャンプ生活で生まれ変わったメニーとして新しい人生のスタートを切ろうとする。
しかし、メニーが無縁仏として葬られるという話を聞き、居ても立ってもいられず再びメニーと森へ飛び出す。
ハンクは再び、ハンクというパーソナリティに戻る。
しかし、野外生活で「一皮剥けた」ハンクは、自身のイタイキャンプ生活を晒しつつも、それを引け目にせず、どうどうと、皆の前で、死体のメニーが生きていると主張する。
この自信こそ、ハンクが真に必要としたものなのだ。
だから、それを見届けたメニーは笑顔で去って行ったのだ。
いいエンディングだが、ハンクの人生は普通の人と同じでは無い。
メニーと共に夢見た、愛する人と楽しく映画やパーティーに繰り出す様な生活とは程遠いかもしれない。
ハンクはメニーとして生まれ変わる機会もあったのだが、不器用なハンクとして生きる事を選んだ。
そこに、普通とは違う困難があるかもしれない。
だが、ハンクはその生き方を受け入れ、誰に遠慮する事もなく主張したからこそ、最後に自信を持てたのである。
人の人生は十人十色である。
中には、人と違う自分を卑下し、劣等感を感じている人もいるだろう。
だがその自分を、自分がまず受け入れる事で自信が生まれ、人生が始まってゆくのだ。
『スイス・アーミー・マン』は、そんなメッセージに溢れた作品である。
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小ネタ
最後に小ネタを少々。
メニーの名前がメニーなのは、多機能だからだろう。
そして、多機能のスイス・アーミー・ナイフの代表的なメーカーに「ビクトリノックス」という会社がある。
見るだけでワクワクするアイテムを販売している。
因みに日本ではスイス・アーミー・ナイフ(十徳ナイフ)を理由無く持ち歩く事は禁止されている。
また、本作『スイス・アーミー・マン』は劇場で笑いが多数起こっていた。
しかし、メニーがサラの名前を思い出す場面で
「ローラ・……ダーン!」と言った場面では皆沈黙していた。
ちょっと解説したい。
ローラ・ダーンはアメリカの女優。
デイヴィッド・リンチ監督の諸作品
『ブルー・ベルベット』
『ワイルド・アット・ハート』
『インランド・エンパイア』に出演しており、最近もTVシリーズの『ツイン・ピークス』に参加した。
また、意味も無くおっぱいを見せてくれる時があるので、彼女の出演作は要チェックである。(1967年生まれ)
そんな彼女の代表作の一つは『ジュラシック・パーク』。
そう、メニーがあの場面でローラ・ダーンの名を口走ったのはツッコミポイントだったのだ!
「お前、やっぱり観てたのかよ!!」
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さて次回は『魔女王の血脈』について語りたい。死体なのに動くメニーは黒魔術ではないが、こちらは黒魔術の話だ。