王の即位に反旗を翻すスターク家のロブは「北の王」として立つ。一方、バラシオン家のスタニスは自らの継承権の正当性を主張し、玉座を求める。さらにその弟レンリーは南部で諸侯を糾合し、最大の軍を形成し王を目指す。実に、国内に4人の王が乱立する事態となった、、、
著者はジョージ・R・R・マーティン。
ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』の原作となった「氷と炎の歌」シリーズで人気を博す。
『七王国の玉座』
『王狼たちの戦旗』(本書)
『剣嵐の大地』
『乱鴉の饗宴』
『竜との舞踏』までが既刊である。
他の著作に
『洋梨型の男』
『タフの方舟』
『サンドキングズ』等がある。
前巻、『七王国の玉座』にて最悪の結末を迎えた「氷と炎の歌」。
シリーズの第2部となる本巻『王狼たちの戦旗』では、それを受けて国が戦争状態に突入する。
各地で我こそはと王が乱立。
実に、4人の王が覇権を目指す。
この混乱具合が面白い。
また、「氷と炎の歌」シリーズと言えば
群像劇。
道が分かれてしまったスターク家の面々、
ラニスター家のティリオン、
ターガリエン家のデナーリスを中心に、
本巻では新たな視点が加えられる。
只でさえ多い登場人物がだんだん増えてくる。
しかし、登場人物紹介がちゃんと巻頭に付いているので混乱は少ない。
チェックしながら読めば、その内覚えてくるのだ。
人物把握で世界が拡がる感じが楽しい。
人によっては煩雑とも思われるだろうが、ここが本作の魅力の一つである。
乱世を生き残るのは誰で、
どの家が覇権を握るのか?
その戦乱の端緒となるのが本巻である。
以下ネタバレあり
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王の乱立
『王狼たちの戦旗』ではウェスタロス大陸にて4人の王が立つ。
さらに、ベイロン・グレイジョイやマンス・レイダーも含めると実に6人もの王がいる。
しかし、それぞれ自分の正当性を主張するが、全員に王たる決定力が無いのが混乱を拍車している。
ラニスター家擁するジョフリーは、近親相姦の子である事が公然の秘密となっている。
その意味で、バラシオン家のスタニスに正当な権利があるが、
彼は異国の宗教を利用しており、その性格も含めて民に愛されていない。
その兄の正反対の存在であるレンリーは民に愛されており、武力によって戴冠出来る可能性が最も高い存在。
しかし、王位簒奪である点は動く事無い事実である。
父の解放を謳っていた筈のスターク家のロブは、
いつの間にか北部の独立を目指す戦争となっている。
いずれの人間にも王位を継ぐ正当性が無く、
それ故に各自が己の主張を張り上げるだけで、共闘関係が結べない。
勝手な自己主張のみで相容れないこの関係性、
見てるだけなら面白いというワイドショー的な楽しみがある。
一方、「正統な継承権」を持つターガリエン家のデナーリスには、未だその主張の後ろ盾となる「力」が無い。
結局は、力こそ全て。
陰謀こそ手段。
厳しい現実である。
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視点人物
スターク家の面々、
キャトリン、サンサ、アリア、ブランとジョン・スノウ。
ラニスター家のティリオン。
ターガリエン家のデナーリス。
本巻では彼等に加え、
スタニス・バラシオンの側近のダヴォス。
グレイジョイ家のシオンの視点にて物語が進む。
この二人の対比も面白い。
信義に篤く、歴戦の実力を持つダヴォス。
権利を主張するだけで、空しいシオン。
シオンは、「俺は本社からやって来た幹部候補だぞ」と実務能力も無いのに偉ぶるのみで現場に嫌われる若造そのものである。
しかし、どんな高潔さも、卑しさも、戦乱においては等しく木の葉の様な命しか持たない。
どちらも「生死不明」で終わったのが印象的である。
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陰謀と権力闘争、そして会話劇
本作『王狼たちの戦旗』では、クライマックス部分にキングズランディングの攻防戦が当てられている。
普通なら盛り上がる大規模な戦闘のシーンだが、これが微妙に面白くない。
戦艦の進撃のシーンは《固有名詞》の連続で、殆ど飛ばしても問題無い。
さらに、城門外の攻防もバトルシーンの描写にイマイチ熱が無い。
これはやはり、本作「氷と炎の歌」においてのメインは陰謀と権力闘争、そして各キャラクターの内面描写と成長にこそ面白さがあるという事なのであろう。
バトルシーンより会話シーンの方がバチバチにやり合っていて面白いのだ。
本作『王狼たちの戦旗』は前作『七王国の玉座』を経て戦乱が始まった、その端緒の物語。
言うなれば、離散した各キャラクターが各自の道を歩み始めた物語なのである。
単体としても面白かった『七王国の玉座』。
それに比べ『王狼たちの戦旗』はキャラクターを使って物語を次に繋ぐ部分という印象が感じられる。
各自の道に進む登場人物達に、今後どんな苛酷な人生が待っているのか?
その楽しみを引きとして使って終わった印象の本作。
次巻以降の盛り上がりに期待である。
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さて次回は、インド産権力闘争アクション巨編、映画『バーフバリ 王の凱旋』について語りたい。