ファンタジー小説『風の名前(5巻)』パトリック・ロスファス(著) 感想  終わらないまま終わっちゃった!!

 

 

 

『風の名前』の5巻が出た。

この5巻は派手なシーンが多くて面白い。
面白いが、、、

ストーリーは一区切りどころか何も決着していない。
引きだけ作って第1部は終わってしまいました。

 

以下ネタバレあり


スポンサーリンク

 

  • お約束?だからこそ面白い

5巻では、ドラゴンならぬ巨大トカゲの「ドラッカス」が登場する。

ドラッカスと言えば、作中で紀伝家のデヴァンの著書『ドラッカス類の交配習性』で名前だけは何度も出て来ていた。

そして、私などは「交配」という文字だけで、勝手に植物だと思い込んでいた。
それが青い炎を吐く巨大トカゲで、しかも大暴れするとは、、、
嬉しい驚きである。

ファンタジーのお約束だが、「暴れる未知の巨大生物を制圧する」という展開が素直に面白い。
その方法も、この作品特有の「共感術」と使ったものなので尚の事いいのである。

しかし、このドラッカスは今後ストーリーにも絡んできそうだがとうだろうか?

吐く炎がチャンドリアンの上げる青い炎と同じ色というのも気になる。
また、作中で曖昧にぼかした「炎を吐くメカニズム」にも何か秘密があるのかもしれない。

そして一番気になるのは、その体に鉄分を多く含むという設定だ。
『風の名前』の世界観では魔物は鉄を恐れるという神話がある。
この5巻では大暴れしたものの、本来の性質は魔物除けの生物なのかもしれない。

木をなぎ倒したり、丸太を丸呑みする姿は想像するだけでワクワクする。
そして何処かユーモラスな感じのドラッカスの今後の活躍に私は期待したい。

 

  • 現代パートがちょこっとある

個人的にはずっと読みたかった現代パートがちょこっとある。

謎の存在の襲撃、本性を現した魔物の警告など、見所が多い。
演じている内に、そのものの存在になる」というバストのセリフは、実生活においても頷ける言葉である。

気になるのは現代のクオートが音楽を避けている?事、そして、どうやら共感術が使えなくなっている点だ。

作品冒頭で魔物を体力勝負で倒していた点と、魔法修行をしていた思い出シーンの雰囲気の違いはここにあったのだ。
つまり、共感術が使えないからゴリ押ししていたのだろう。

その理由は、まぁ、本作では明かされない。
今後の回想で明かされる…のか?

 

  • 引きすぎるのも良くは無い

本作は回想で始まり、クォートの人生を振り返る形を取った。
しかし、その回想が終わらないまま第1部が終わる。
それどころか、話としても全くオチを付けずに引きだけ作っている。

これはよろしくない。

はっきり言うと、回想シーンは安全過ぎるのだ。
何故なら、本人が生きて語っているから、どんな危険にあっても「どうせ乗り切ってピンピンしてる」という前提が読者にバレてしまっているからだ。
よっぽど面白いネタを張っていないとダレる。

そして、本作はこの回想展開を中心として今後も使っていくつもりなのだろう。

冒頭に、クオートの設定として、
「何か英雄的な行為をした」
「しかし、現在は隠遁している」
というものがあった。

そして、それを補完する為に、前提として
「英雄にも若い頃があった」
「英雄にも修行時代があった」
という事柄を描写しようとした。

そして、この『風の名前』では、その前提条件の描写すらまだ終わっていないのだ。
全ての謎や因縁を解け、とまでは言わないが、せめて冒頭で予告した回想シーン位は消化して欲しかった。

本作は3部作を謳っている。
しかし、その前にとりあえず評価出来る部分まで話にオチを付けて欲しかったというのが本音だ。
エピソード自体は大変面白いのに、引きにばかり拘っているので話が全然進んでいない
この点が残念に感じる。

恐らく、3部作では完結しないであろう。

そして、出版社が本作のシリーズを続けて翻訳してくれる保証は何処にも無いのだ。

 

むしろ、これを契機に英語の勉強をして、原書を読める様になった方がいいだろう。

 

 

 

 


スポンサーリンク

 

さて、次回は出なかったはずのおかわりが出た!!荒俣宏(著)『お化けの愛し方』について語りたい。