幻想・怪奇小説『怪談のテープ起こし』三津田信三(著)感想  実話?創作?実話怪談風怪談!!


 

「小説すばる」に掲載された6つの短篇。これを一冊にまとめたのが、本書『怪談のテープ起こし』である。しかし、これにさらに、序章、幕間(一)、幕間(二)、終章を加えた。これは、編集作業中に起きた奇妙な体験を描いたものである。本書を読む時、これと同じ症状が出たら、読み進めないで下さい、、、

 

 

 

 

著者は三津田信三
ミステリとホラーを融合させた作品を多数発表している。
代表作に
『忌館 ホラー作家の棲む家』、
「刀城言耶」シリーズ、
「死相学探偵」シリーズ、
『禍家』
『黒面の狐』
『のぞきめ』
どこの家にも怖いものはいる
誰かの家』 等がある。

 

 

 

三津田信三という作家は一貫しています。

どの作品も、
ホラー要素がある。
そして、メタ的なミステリ要素がある。

それが、面白い。

私にとっては、鉄板の作家と言えます。

 

さて、本作『怪談のテープ起こし』は、
その鉄板作家、三津田信三の本領発揮、

というか、

三津田信三の短篇ホラーの作風が如何無く発揮された作品集です。

 

自分が短篇を書くときの作法、パターン、
それを自覚し、
敢えて、それを強調している、

そういった印象を受けます。

 

しかし、
それだけに非ず。

本作は、仕掛けとして、

実話?
創作?
その判断は読者自身が下して下さい。

 

そういうスタンスを採っています。

 

何せ本作の収録作は、
全て、「実話」という触れ込み。

その題名から分かる通り、
人がテープに吹き込んだ「怪談」を文字に起こしたものや、

人の恐怖体験を元に、
解り易く構成し直したもの、

人から聞いた恐怖体験を、そのまま書いてみました!
というものまで、

つまり、

人から聞いた「実話」、

いわゆる「実話怪談」というジャンルに属します。

 

いわば、
個人で編んだ、テーマアンソロジーとも言える作品集です、
が、、、

本作は、ホラー作品、
なので、どの作品も基本的に、

何か、
怖い、事が、起こった!
ギャーッ!!

 

的に終わります。

これを、
ホラー的な演出として楽しむか、

「謎を解かない」事に、消化不良を起こすか、

どちらに受け取るかで、
本作の評価が、人に拠って変わってくるでしょう。

 

とは言え、
「何か、ゾッとする、怖い話が読みたいな~」

そういうノリで、
『怪談のテープ起こし』は、十分に楽しめる作品です。

 

 

  • 『怪談のテープ起こし』のポイント

実話?創作?「実話怪談」風怪談!!?

短篇としての共通点

オチの不可解さ

 

 

以下内容に触れた感想となっております

 


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  • 実話か?創作なのか?

本作『怪談のテープ起こし』は、

もしかして、本当に実話なのか?

それとも、やっぱり創作なのか?

そう疑問に思ってしまいます。

 

構成としては、
いつもの三津田信三の短篇ホラーのパターン。

つまり、創作ではあるのですが、

そのアイデアの源泉として、
元ネタの「実話」があるのかもしれません。

 

普通、
「実話」である事を読者に意識させる
「実話怪談」というものは、

その特徴として、
訴えかけるような語り口、
物語の面白さよりも、リアリティを重視する、

シンプルな方が、却って本物的な印象を読者は受け取るのです。

 

しかし、
本作の短篇は、
あくまで「創作」である事を読者に意識させます。

三津田信三ファンの一部は、
話が本篇に入る前の、メタ的な導入部の語りが好きだという人も多い、
そう語っている部分があります。

また、
本作はホラーなので、
各作品、ミステリ的な展開を見せつつ、
ラストは敢えて謎を解かず、投げっぱなしに終わります。

そういう、
ある種の「気持ち悪さ」を残す事が、
ジャンルとしてミステリでは無く、
ホラーである所以だと語るシーンもあります。

そして、
収録作品はいずれも、
メタ的な導入部があり、
投げっぱなしで終わるという方式を採っています。

 

つまり、
本作の収録作は、
敢えて「創作」のパターンをきれいに踏襲する事で、

逆に読者に違和感を与えているのです。

ここまであからさまに創作ならば、やっぱり、実話の元ネタがあるのかも?

…そういう思考に陥る、
ミステリ好きの天邪鬼的なサガを逆手に取っている!?

私はそう思うのですが、如何でしょうか?

 

  • 収録作品解説

本作は6篇の短篇と、
それを繋ぐ形で序章、幕間(一)、幕間(二)、終章が存在します。

いうなれば、7つの短篇がある、
そんな印象ですね。

では、それらを簡単に解説してみます。

 

死人のテープ起こし
これから死を迎える人間の実況中継という、
悪趣味かつ、魅力的な題材。

モラルに反している事を、
自分は安全な場所から覗き見する、
そういう快感がありますが、
しかし、
本作は、そういう人の好奇心をエサとして釣って罠を仕掛けているという、
怪異のおぞましさを見る事になります。

本作の怪異は、
いわば、『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部に出て来るスタンド能力、
「アトム・ハート・ファーザー」と同じなのです。

「アトム・ハート・ファーザー」は、
心霊写真と思いきや、それは現在進行形のスタンド攻撃だった、というものでした。

つまり、本作は、
「自殺の直前の実況中継」という過去の出来事では無く
忌まわしい出来事に興味を持った人間を、その好奇心で釣って、怪異に誘い込む罠、
即ち、
テープの聞き手=読者を「現在進行形で襲う怪異」であるのです

メタ的な構造を逆手に取った、
本書の軸となる作品と言えます。

 

留守番の夜
人は、自分の体験を意外と上手く語れないものです。
況してや、
本作品の様に、魅力的なものとなれば、稀も、稀。

簡単に言うと、
本作を「実話怪談」と言うには、
出来過ぎで、面白過ぎる、という印象です。

しかし、ホラーをして読むと話は別。

ラストのオチにサイコ的な怖さがありますが、
むしろ、謎が解けて腑に落ちた納得感の気持ち良さの方が勝っているという、
なんとも不思議な作品です。

 

集まった四人
この四人が、何か不可思議な事象に出会うのか?
と思わせておいて、
実は最初から怪異は始まっていた、
いわゆる「メンバーの中に、予定外の異物が紛れ込む」というネタは、
ホラーやミステリなどでは鉄板のシチュエーション

「山の怪異」として不条理を楽しむも良し、
謎の一本足、丸い石、などから、元ネタの意味合いを推測するも良し、
色々な楽しみ方?がある作品です。

 

屍と寝るな
人から聞いた話を、作品にする、
という二重構造を持つのが、本書の収録作の特徴ですが、
「屍と寝るな」に至っては、
同室の老人の体験談
→同級生の話
→それを文章にする作者
という、
もう一つ階層を多く入れたものとなっています。

更に、
同室の老人の体験談の中に、
←列車で乗り合わせた怪人の怪談
まで存在し、
もう一つ階層が多い、つまり、四重のレイヤーを持つ入れ子構造となっております。

まるで伝言ゲームの様な構造の果てに、話がループして唐突に終わる辺り、
不気味な印象を受けます。

さて、
列車で乗り合わせた謎の老人が特殊能力で、
眠った相手と入れ替わるというのなら、
同室の老人の話を聞いた同級生及び、その母も危ないのではないのか?
読者としては、そうツッコまざるを得ません。

同級生は、眠っていませんでしたが、
眠り放しだった母は、現在、本当に母なのか?
もしかして、入れ替わってしまっているのでは?

そう考えてしまいます。

 

黄雨女
自分に過失が無くても、怪異は通り魔的に訪れる事もある。
この理不尽さがホラーと言えます。

「動く心霊写真」とか、
「再生する毎に、こっちを振り向く心霊ビデオ」とか、
徐々に状況が悪化してゆくというシチュエーションが恐怖を煽る、
というより、読者としては、ドキドキで楽しめる

ホラーファンは、
「病膏肓に入る(やまいこうこうにいる)」という事を自覚してしまう作品と言えます。

 

ちょっと面白い小ネタですが、
文庫版の表紙、
帯を取ったら、
黄色い長靴が見えます。

マニキュアをしている手も見えますし、
表紙の人物は女性と考えると、
もしかして、黄雨女?

 

すれちがうもの
これも「黄雨女」同様、
理不尽に、徐々に状況が悪化してゆくというシチュエーション。

黒い影の障りで、友人がおかしくなったのか?
それとも、
おかしくなった友人が辿る道筋が、未来予知的な感じで表出した怪現象だったのか?

その判断は、読者に任せますという終わり方ですね。

 

序章、幕間(一)、幕間(二)、終章
メタなネタが好きな著者、
編集とのやり取りと、作中に入れる事が多いですが、
本作品では、
それを作者自身が体験した怪談風味に仕立てて、
本書の傾向を代表するネタとオチを入れています。

それは即ち、
実話か怪談かは、読者の判断に委ねる
謎は謎のまま残す
というスタンスです。

 

  • もあぢろびぢうぢなまばぢま、づめねぢぬんねがう

収録作品に共通する特徴として、

冒頭で作者(聞き手)が作品について語る導入部、
怪談本篇、
最後は、怪異を解決せず、逃げ出して(投げ出して)唐突に終わる、
という作品の構成

「水」に関わる怪異

そして、その性質が、
たまたま行き会った人間、又は、人の持つ好奇心を釣る形で呼び込み、
条件が合えば自動的に発動する、
いわばトラップ(罠)タイプの怪異である事が挙げられます。

 

さて、その上で、
「序章、幕間(一)、幕間(二)、終章」におけるオチの部分、
「もあぢろびぢうぢなまばぢま、づめねぢぬんねがう」という言葉の謎について考えてみたいと思います。

 

編集者の時任は解いたというこの謎の言葉。

近くにヒントが隠されている、と書かれていました。

それは、おそらく直前(p.311)の
「急に左側からしか聞こえてこなかった」
という描写だと思われます。

これに従い、
五〇音順の表の、
隣の文字にズラしたら、意味が通る言葉になるのではないか?

…と、思いましたが、全く意味が通りません

私の頭脳では、謎が解けません!
助けて、コナン君!!

 

ズルしようと、
ネットで調べてみましたが、
この言葉の意味について考察している人自体皆無。

それもそのハズ。

元々、単行本で出した時、
おそらく、言葉に意味がある事自体に気付く人が居なかったのでしょう。

単に、水でゴボゴボ言って、聞き取り難い言葉と、
皆が受け取ってしまったと思われます。

なので、
今回の文庫本では、
「言葉に意味がありますよ」
「だから、誰か考察して」
という事を促す為、敢えてラストを加筆したのでしょう。

しかし、今現在(2019/02/13)誰もこの謎を解いていないようです。

 

…しかし、この言葉、
そもそも、本当に意味があるのでしょうか?

 

解くなよ、解くなよ、と言われれば、
解きたくなるのが人間の性。

というか、
「禁忌」を破ってしまって窮地に陥るのがホラーという作品、
つまり、
ホラー好きなら「止められれば、逆に行動してしまう」のです。

 

更に、本書に収録されている作品に共通するネタとして、
「トラップタイプの怪異」であるという事実があります。

これにより読者は、
「もあぢろびぢうぢなまばぢま、づめねぢぬんねがう」という言葉にも意味があり、

この謎を解いたら、
ゾッとするネタ=怪異のトラップが仕掛けてあるハズ、
と思うのです。

 

しかし、です。

そう思わせる事が、実は罠だったとしたら?

解けない謎を延々と考える事自体、
罠というか、呪いみたいにならないでしょうか?

意味の無い言葉に、さも意味があるかの様に思わせる。

本書全体の内容を前フリとして仕掛けた罠
それが、「もあぢろびぢうぢなまばぢま、づめねぢぬんねがう」
の謎なのかもしれません。

文庫版の加筆は、
その罠を際立たせる為のもの、とも考えられるのです。

 

…まぁ、これで、実は本当に意味があったら、
私の頭脳の間抜けさを笑って下さい。

助けて!
コナン・ザ・グレート!!

 

 

 

本作は、実話か?創作か?

そういう謎を扱いつつ、
作者・三津田信三お得意の短篇ホラーのパターンに則り、
最早、様式美とも言うべき面白さを楽しめる、

それが本書『怪談のテープ起こし』です。

ミステリ的なサスペンスで展開しつつ、
オチで敢えて謎を解かない、
これがホラーであり、

この「違和感」を飲み込む事が、
面白い(?)のだとも言えるのです。

 

 


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