孤独のグルメ Season2 第十話
北区十条の鯖の燻製と甘い玉子焼
監督:溝口憲司
脚本:田口佳宏
出演:
井之頭五郎:松重豊
茶髪母:松金よね子
黒髪母:川俣しのぶ
だるまや母:山口美也子
菅沼:嶋田久作 他
ふらっとQUSUMI:久住昌之、斎藤清六
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*タイムラインはBDソフト準拠となっております
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ドラマパートあらすじ
北区十条にやって来た井之頭五郎。
大衆演劇の劇場を眺める。
「渋いなぁ、連綿と続いてるんだよなぁ」
演劇場通り商店街を経て、十条銀座商店街へと入ってゆく。
体が冷えている五郎さん、お汁粉でも飲んで温まろうと甘味処「だるまや」に入る。
メニューを眺めていた五郎さんに、店員さん、かき氷を勧める。
この店、一年中かき氷を出しているご様子。
くり、鳴門金時、いちぢく、りんご、キウイ、ラフラン。
「栗?」と反応した五郎さん。
栗をすり潰して、和三盆と合わせているとの事。
「じゃ、その栗のかき氷下さい」(37:57)
と、思わずいつものノリでオススメに食い付いてしまった五郎さん。
「いかん、俺は温まりにこの店に入ったんじゃなかったのか?」
自家製かき氷(くり)がやって来る。(38:20)
「栗のかき氷、びっクリ、季節、デタラメ」
ハンドボールくらいの大きさ。
手をかざすと、寒気で震える。
「おお、紛う方無く、栗。濃い、栗氷」
「栗をかき氷にしてみようって、一体何時思いついたんだろう?」
「でも美味しい。クリあり。合う、栗」
しかし店員さん、売れないし、面倒くさいから栗のかき氷は止めようかと言ってしまう。
五郎さんが美味しいのに、と言うと、満更でもなく、
じゃ、続けようかしら、と答える。
かき氷を食べている家族連れを眺める五郎さん。
「ああやって色々食べるのが楽しいんだよなぁ」
一方自分は一人、
「栗、アローン」(41:10)
「この氷、羽毛みたいに軽い、バクバクいける」
「これだけ食べても、全然キーンとならない」
「流石栗のかき氷、うん、最後までしっかり栗。かき氷、秋味」
と、温まりに来たハズなのに、しっかり食べた五郎さんであった。
十条銀座から、富士見銀座へ。(42:26)
提灯屋さんを訪ねた五郎さん。
張り紙には「節電中」の文字に「えいぎょうちゅう」のルビが。
「なーる程、電気が消えれば提灯が点くって事か」
ドイツのミュンヘンでの屋台の出店に、提灯を使用するとの事で訪れた五郎さん。
提灯屋の菅沼さんは、色々説明してくれる。
型や大きさ、色など、
一言で提灯と言っても色々だ。
資料を取りに奥へ行った菅沼さん。
しかし、赤提灯を見るて触発された五郎さん、
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「それに、赤提灯って、腹に来るなぁ」(44:50)
ポン、ポン、ポォン。
「すみません、今日は有り難う御座いました、それでは、また。失礼します」
と早口でまくし立てて足早に去って行く五郎さん。
菅沼さんが戻って来た時には、影も形も無い。
「店を探さなければ」
五郎さん、見切り発車で富士見銀座に入る。
「腹が減っているが、何を食いたいのか全くわからん」
しかし、商店街の終点まで辿り着いてUターン。
「焦るんじゃ無い、俺は腹が減っているだけなんだ」
十条仲通りというまた違う商店街を経て、今度は住宅街へと至る五郎さん。
「いかん、十条の樹海に迷い込んでしまった」
「何故だろう、今日はビシッと腹に響くものが無い。優柔不断では無いんだが…」
現在地は演芸場通り商店街。
「一体十条には商店街がいくつあるんだ?」
「商店街の蜘蛛の巣に引っかかったみたいだ」(47:14)
困惑する五郎さんが見つけたのは赤提灯。
「赤提灯、しかもこれって、提灯屋さんにあったのと同じじゃないか」
「そうか、俺は赤提灯が心に引っかかってたんだ」
「飲まないからぴんとこなかったケド、今日の俺は珍しく赤提灯気分だったんだ」
五郎さん、看板の「家庭的ふんいきの店 大衆割烹」の字に惹かれる。
「この縄暖簾も、今日は妙にそそる」
「よし、その家庭的とやらに身を委ねてみるか」
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大衆割烹 田や(48:20)
カウンター席に座る五郎さん。
「確かに、ほっとしちゃう雰囲気」
しかし、メニューを見てビックリ、壁にズラリと並んでいる。
「メニュー多いなぁ。こっちにも」
前後の壁を見比べる五郎さん。
「アレ?あっちのメニューと少し違う。でも同じもんもあるし…」
「メニューで神経衰弱が出来そうだ」(49:35)
店員さんが注文を取りに来るが、もう少し待ってもらう五郎さん。
「腰を据えてかからないと、いつまでも決まらないぞ」
メニューに集中する五郎さん。
天ぷらに、どじょう。
おにぎりがあるからご飯もあるハズ。
鍋も沢山、他のお客さんはきりたんぽ鍋を食べている。
鯖の燻製なんてものもある。
「うーん、持ち駒が多すぎる、どう攻める?」(50:56)
店員さんに聞いてみる事にした五郎さん。
ご飯はあるかと尋ねると、あるとの事。
みそ汁とセットで行けるらしい。
気になるメニューの質問もする五郎さん。
「ももハムとキムチ」は、キムチをハムで巻いて食べるもの。
常連さんのリクエストで出来たメニュー。
鯖のくんせいは珍しいが、正に鯖の燻製との事。
秋田の物が多いのは、先代の出身が秋田だったから。
茨城のものも多いらしい。
質問に答える店員さん二人、段々かぶり付で五郎さんに寄っている。
「何か近い、、、」
目の前に居る他のお客さんはうどんをバターで絡めた裏メニュー何てものを注文している。
「あぁ、迷わせるな」
しかし五郎さん、漸く注文。
鯖のくんせい、ももハムキムチ、カキフライ、とんぶりしらす、ご飯とみそ汁のセット。
飲み物はウーロン茶。
お酒は飲めないと言うと「見えないよねぇ」「へぇー」と店員さん。
「よく言われます」と答える五郎さんのセリフを聞かずに去って行く店員さん達であった。
お通しがとりあえずやって来る。(53:15)
今日のお通しは、一口肉団子、おくら、一口唐揚げ。
「うん、久々のおくら、有り難き幸せ」
「うんうん、よそん家の肉団子って感じ」
四人組の学生が入って来る。
彼達の注文、「オニオンポークスパゲッティ」に反応する五郎さん。
すかさずメニューを確認する。
「最初には絶対にそんなメニュー無かったハズだ」
成り行きで出来たメニューだと推測する五郎さん。
そうこうしている内に、五郎’Sセレクションがやって来る。
鯖は醤油をかけないで、このままで美味しいとの事。
「いただきます」との五郎さんの声に
「召し上がれ」との答えが返って来る。
先ずは鯖のくんせいから。(55:40)
口に入れ、風味を感じる五郎さん。
「おお、くんせいだ、くんせい、くんせい、感動的にサバくん」
「塩焼きよりも、味噌煮よりも、ご飯に合うんじゃないか、コレ」
みそ汁をズッと啜り、お次は
お次も初対面、ももハムとキムチ。(56:36)
「巻くんだよなぁ、へぇ面白いな」
「これ、ぶっといももハムってのがポイントなんだろうな」
「薄いハムじゃキムチ負けちゃうよ」
「うんうん、キムチもハムも巻いて、よる」
お次はカキフライ。(57:51)
「コイツはおかずの常連さん、やっぱり安定感があるなぁ、どっしり落ち着いている」
「今じゃあ一年中食べられるけど、やっぱり季節のカキフライがいいんだよなぁ。しみじみ美味い」
とんぶりしらすをご飯に載せて食べる五郎さん。(58:42)
「よしよし、とんぶりも素晴らしい」
「畑のキャビア、貧乏くさい謳い文句、そろそろ止めてあげようよ」
「とんぶりは、とんぶりだ」
「しらすがまた良い」
しかし、五郎さん、何か物足りず、もう一品欲しい様子。
そこで、玉子焼(砂糖入り)を注文する。
「オニオンポークスパゲッティ」を食べている学生の会話が聞こえる。
「美味しい」「そこら辺のイタ飯より美味しいよ」
その言葉に五郎さんは思う、
「そうだろう、でも青年よ、こういう店は何処かと比べられる味じゃないんだ」(01:00:17)
玉子焼登場。(01:00:34)
「うん、黄色が加わってしっくり来た」(01:00:49)
「うん、おろし醤油とバッチリ、チリバツ」
周りを見ると、みんなくつろいでいる。
「何かいいなぁ、こういう雰囲気って飯を美味くするんだよなぁ」(01:01:19)
「うん、甘味が切ない程だ」
五郎さん、いつもみたいにガッツかず、
ゆっくりを噛みしめて食事をする。
「良いじゃないか、良いじゃないか」
「ハァ、美味かった、ご馳走様でした」
退店。(01:03:02)
赤提灯に火が入っている。
「酒飲みが赤提灯に誘われる気持ちが分かるよ」
「心が寒くなったら、そっと訪ねてみよう」
ふらりと去って行く五郎さんであった。
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ふらっとQUSUMI(01:03:52)
十条にある「大衆割烹 田や」の前で久住さんを待っていたのは、タレントの斎藤清六さん。
Season2 第七話において、銚子電鉄の車掌さん役で出演していました。
*2013年当時のデータなので、現在も営業中なのかは要確認
顔のアップが無いままに出番が終わった斎藤さん、声で絶対そうだと言われていたそうです。
その斎藤さんが常連として通っている「田や」は、
お客さんのリクエストに答えるうちにメニューが増え、その数70を超えているとの事。
先ずは、ビールの生中が来る。
しかし、どう見ても「大」のジョッキ。
メニューはつまみの他にも食べ物が一杯あるのが特徴。
酒飲む気ビンビンな感じの、ビールじゃ終わらない感じの注文をした久住さん。
「みずこぶしんこ」が来る。
*みずのこぶ、とは:
秋田の代表的な山菜「ミズ」の茎にコブの様な実が付いたもの
「美味しい、ちょっとトロみがあって」
そして、活ジメ水ダコのさしみ。
「タコじゃないみたいな感じ、もの凄い柔らかいです」
これはビール飲んでる場合じゃ無いとの事で、
秋田のにごり酒「ぬぐだ丸」を頂く二人。
しかし、久住さん、
「今日、これから俺本当は仕事するハズなんだけどね」
「ここで終わりそうな気配が…」(01:07:52)
と、言いつつぬぐだ丸を味わう久住さん。
斎藤「終わりますね、間違い無いですよ」
そして、斎藤さんオススメのきりたんぽ鍋の登場。
店員さん曰く
「あの、食べる寸前にこの根っこ、セリの根っこを食べないと、きりたんぽ」じゃないと言わんばかり。(01:08:09)
そのセリの根っこ、煮るのはほんの十秒足らずでOK。
店員「あんまり煮ちゃうとシャキシャキ感がなくなるので」
との事。
セリの根っこも、
勿論、メインのきりたんぽも美味しいと久住さん。
お酒はドンドン進んでしまう。
さて、斎藤さん、出演シーンについて言いたい事があるとの事。
自分が演じた車掌さんの顔が全く出ずにムッと来ているのだそうです。
斎藤「冗談じゃないですよ」
久住「顔も作ってたのにね」
斎藤「ドーランまで塗ったんですよ」
「ある意味怒り心頭ですよ!km」
不満をぶちまけ、気分良く(?)大笑した二人でした。
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声に出して言いたい!五郎さんの名台詞
今回の「声に出して言いたい」五郎さんの名セリフは、
「うーん、持ち駒が多すぎる、どう攻める?」(50:56)
メニューが多いのは嬉しい反面、
選択肢が多いと迷う事もある。
その時はこの言葉を呟いて、一旦冷静になる事が肝要ではないだろうか?
「何かいいなぁ、こういう雰囲気って飯を美味くするんだよなぁ」(01:01:19)
迷った末にメニューを選び、そして美味い飯にありつく。
飯が美味いのは味だけでは無い、場の雰囲気も重要なのだ。
そんな幸福な場所に辿り着いた時に言う台詞だろう。
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感想と解説
まさかの真冬(作中設定)にかき氷で幕を開ける本エピソード。
かき氷もシーズン外なら、栗の時期も過ぎている。
しかし、それを敢えて勧めるお店の奇矯さに触発されたか、
珍しい物、オススメの物大好きな五郎さんは、
遂いつものノリで「じゃ、それお願いします」と口にしてしまいます。
しかし、そこは五郎さん、怖気(?)を震いながらも、ちゃっかり食べるのが素晴らしいですね。
その五郎さん、久しぶりに「腹が減った」展開での早口でその場を立ち去るやり方を見せてくれました。
そして、繰り出したのは十条、大衆演劇場もあります。
この土地は、ドラマに出ただけでも
演芸場通り商店街
十条銀座商店街
富士見銀座商店街
十条仲通り商店街
と、4つもの商店街が出てきました。
Wikipediaによると、何と11もの商店街が存在するとの事。
そこまで多かったら迷いに迷ってしまう五郎さんの状況も分かる様な気もしますね。
この迷いマイマイ状態はお店に入っても継続。
つまり、本エピソードのテーマの一つは「迷い」なんですね。
「大衆割烹 田や」はメニューが多すぎて、
五郎さんの拘る所の、「食の構成」を組み立てるのが困難です。
「うーん、持ち駒が多すぎる、どう攻める?」(50:56)
というセリフでも象徴されている通り、
人間、下手に選択肢が多いと、それが迷いになるんですよね。
しかし、将棋などで勝ち筋を読むのが苦しくも楽しいのと同じで、
この大量のメニューの中から最適解を選ぶのは五郎さんにとっては無上の喜びなのです。
とは言え、五郎さん、基本店員さんやメニューのオススメを中心に選ぶ事が多いですね。
本エピソードでは、前半にて店員さんのオススメに食い付き寒い思いをした五郎さん。
しかし、日和らずに後半でも店員さんのアドバイスを受け入れる五郎さん。
このブレなさが安定した(食選びの)勝率を産む秘訣でしょう。
また、今回は
「何かいいなぁ、こういう雰囲気って飯を美味くするんだよなぁ」(01:01:19)
というセリフも印象的です。
「食」が楽しめるのは、その味のみならず。
場所の雰囲気や、誰と、どんな状況で、
これらも重要な「美味しさ」の要因だと教えてくれます。
五郎さん、一人でかき氷を食べているとき、
家族連れが楽しそうにかき氷の食べっこをするのを眺めます。
「栗、アローン」(41:10)
ちょっと冗談っぽい感じですが、
自分の状況と食べているものを引っかけた、
そして、ちょっとうらやましさも感じる深いセリフです。
しかし、後半は、
そんな「孤独」を貫く五郎さんでも、自然体で居られる和やかな雰囲気をお店から感じます。
いつもなら、勢いに任せてドカ食いする五郎さん。
しかし、今回はこの居心地の良さを噛みしめるようにゆっくりと食事を頂いています。
家族連れがちょっと羨ましく見えた五郎さん、
でも、後半は、そんな「孤独」な五郎さんでも受け入れられる空気があったのですね。
前半と後半で、両極端な「孤独のグルメ」の描写があった。
その意味でも特徴的なエピソードであったと言えます。
迷ったからこそ、辿り着いた理想郷(ユートピア)。
五郎さんにとっては、今回の様な場所はそんな場所だったのではないかと思うのです。
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