漫画『昭和の怖い漫画』キクタヒロシ(著)感想  怖いのに笑える!?怪奇マンガに突っ込みまくる!!

 

 

 

「怪奇マンガ」それは、近代漫画発生時からその歴史のある由緒正しきジャンルである。いつの時代も一定数のファンがいるが故に、未だに廃れず、連綿と描き継がれているテーマだ。しかし、それ故に有象無象が数々とあり、名作もその中に埋もれている、、、

 

 

 

著者はキクタヒロシ。
他の著書に『昭和のヤバイ漫画』がある。
また、著者のブログ(←クリックにて外部リンク)にて本作で収録されなかったお蔵入り作品の解説も読めます。

 

*本書『昭和の怖い漫画』は漫画解説本で、漫画本ではありません。

 

本書『昭和の怖い漫画』にて紹介されるのは、その名の通り「怪奇マンガ」の数々。

その中でも、昭和時代の

今では手に入りにくい
奇作、怪作、名作(迷作)の数々を、著者の独断と偏見による好みで紹介している。

 

こんな漫画もあったのか、とバリエーションの多さに驚く。
(とは言え、全部怪奇マンガではあるが)

また、解説系の文を書く場合、色々方向性がある。

本書におけるスタンスは「ツッコミ」である。

 

ともすれば現実離れする「漫画的展開」に、著者は楽しみつつもツッコミ混じりの解説を施す。

この「ツッコミ」が面白過ぎて、
怪奇マンガの紹介のハズなのに、思わず笑ってしまう。

 

その為か、本道からは逸れたハズのアングラな世界のハズなのに、何故か読後感は爽やかな印象がある。

また、解説用に引用図も多用し、それを下部に統一してあるので読み易いレイアウトだ。

怪奇マンガファンは勿論、
怪奇マンガにさほど興味が無かった人も、本書『昭和の怖い漫画』を読めばその独特な魅力に取り憑かれる事間違い無しである。

 

 

以下、本書が面白い理由、解説文は如何にすべきか?という持論を展開してみます。


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  • 解説文のパターン

本書『昭和の怖い漫画』は漫画解説本である。

そして、いわゆる解説文を書く場合、色々な方向性がある。

内容には触れずに、歯がゆい制約の元、ある事無い事扇情的な事を書いて読者の興味を惹くパターン。

作品の内容に触れ、それが何を意味するのか考察したり、自分の思いを書くパターン。
(本ブログはこのパターンを目指しています)

そして、本書の様に
未読の方に興味を持って貰える様に、作品の魅力を引き出すパターン。

この「未読の人間でも読んで面白い作品解説を書く」という行為は、案外と難しい。

ある程度はネタバレになってしまうし、著者の解説センスも問われるからだ。

この困難な行為に、著者のキクタヒロシは「ツッコミ」を武器に挑んでいる。

 

  • ギャグセンスで読む怪奇マンガ

本書『昭和の怖い漫画』は読んでいて面白い。

「怪奇マンガ」はいずれも超展開を見せる。
その理不尽や不条理さに、冷静にツッコミを入れて行く。

このツッコミの的確さと、言語センスに思わず笑ってしまうのだ。

「怪奇マンガ」の解説なのに、笑ってしまうとは何事か?それでは意味を為さぬのではないのか?
と、思われるかも知れない。

しかし、「笑い」と「恐怖」は紙一重
特に漫画に至っては親和性があると私は思う。

それは、ギャグ漫画を長く続けた漫画家が、いつの日か壊れた様にホラーに手を出す様がそれを証明している。
(例:吾妻ひでお、古谷実 等)

マンガ内の恐怖そのままの解説をするのではなく、
「ツッコミ」により、親和性のあるギャグとして変換し作品を捉え直す

この一ひねりというか、一枚フィルターを掛けたスタンスが味になっているのだ。

なので、恐怖を捉えれば陰惨になるハズの解説が、雰囲気が変わり途端に読み易くなっている。

 

  • 作品の楽しみ方

この「ツッコミ」を用いたスタンスが何故有効なのか?

それは、作品に対する楽しみ方の「目線」の問題であろう。

作品と楽しむというのはどういう事か?

先ず第一に、テーマ性やストーリー(1)という作品の核たる部分に共感したり没入するのが事。

また、キャラクターや作品内設定(2)の凝り具合を楽しむという事。

そして、作品の構成や作者の意図を推測する「メタ目線」(3)で楽しむ事が上げられる。

漫画や映画など、作品を多く見て加齢を重ねた人間は、不思議とその楽しみ方が、上記1→2→3へと変遷して行く

それは、自らの人生経験を重ねた結果、作者の作り出す世界より、読者自身の人生の方が「奇想天外」だったり「絶望」だったりする事から起こる。
「事実は小説より奇なり」である。

また、単純に、よくあるストーリーや類型的なキャラクターでは満足出来なくなっている場合もあるだろう。

「怪奇マンガ」の場合はどうか?

ぶっちゃけ、子供だましの稚拙なストーリーだったりして、大人の観賞には耐えない、と一見思ってしまうだろう。

しかし、それは、ストーリー目線(1)で作品を捉えた場合である。

これを超展開や前後の整合性の無さ、不条理や理不尽さ等の読者の理性的な判断を上回る「奇抜な展開」(3)に着目し、その部分に期待して読むと、作品の評価がガラッと変わる

この目線で見た場合、「怪奇マンガ」とは途端に名作(迷作)の宝庫となる

そして、本書『昭和の怖い漫画』で著者のキクタヒロシが採用している解説スタンスも、正しくそれであり、
この「メタ目線」のツッコミが的確であるので面白いのである。
「そうそう、確かにそう思う」と読者も感じ入るのだ。

 

 

故に、この「ツッコミ」を駆使して作品を解説する本書『昭和の怖い漫画』は面白い。

その解説は、
作品を読んでいなくても面白く、且つ、解説読後に作品自体も読みたくなる」という理想的な物となっているのだ。

これは、なかなかどうして難しい。
しかし、私もそういう解説を書いてみたいものである。

 

*関連作品として『戦後怪奇マンガ史』について語ったページもあります。
題字クリックでそのページへと飛びます。

 

こちらは著者の別書


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さて次回は、妖怪や黄泉の国が出て来ても、不思議と怖くない!?映画『DESTINY 鎌倉ものがたり』について語りたい。