高校生、逸見裕は学校を自主的に早引きし、何となく中野駅で降り、人の波に飲まれるまま「中野ブロードウェイ」に辿り着く。そこで美少女アイドルの雨宮マイ出会うが、直後、ビルを揺るがす衝撃に見舞われる、、、
著者は渡辺浩弐。
ゲーム、サブカル系の小説で人気を博す。
代表作に
『1999年のゲーム・キッズ』
『BLACK OUT』
『アンドロメディア』
『プラトニックチェーン』
『iKILL』
『死ぬのがこわくなくなる話』等がある。
本書『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』は角川ホラー文庫から刊行されている。
確かにホラーチックではある。
しかし、どちらかというと、
ラノベ+SFといった趣だ。
最初のとっかかりがラノベテイスト全開なので、そこで挫けてしまう人もいるかもしれない。
しかしそこを乗り越えれば、
圧倒的なリーダビリティでグイグイ読ませてくれる。
とにかく、色々なジャンルを詰め込んだ面白さなのだ。
脱出サバイバル、
ボーイミーツガール、
設定SF、
アイドル論、
モンスターホラー、
渾然一体となった様々なジャンルの闇鍋的テイストが、何故か中野ブロードウェイにて炸裂する。
土地勘があれば、さらに面白いのかもしれない。
しかし、全く中野ブロードウェイを知らない私でも問題無く楽しめた。
面白いエンタメ小説が読みたい!
そう思うなら、本書『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』を手にとっても損は無いハズだ。
以下ネタバレあり
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起承転結作品
本書『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』は起承転結がハッキリクッキリした作品だ。
起:ラノベ
承:サバイバルホラー
転:設定SF
結:まとめ
といった展開を見せる。
そして、それぞれで読み味が違うのが、本書の面白い所だ。
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とりあえず掴みは裸
かつて漫画原作者の小池一夫は言った。
「作品は掴みのインパクトが大事」だと。
『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』においても、その精神で冒頭が描かれている。
何故だか、アイドルをしている美少女が初対面の少年の前で自主的に裸になる。
この現実感皆無の作品導入部、ハッキリ言って「必要ないのでは?」と思って鼻白んでしまう人も多いだろう。
しかし、この後の展開は「ビルが人間を捕食する」という物。
こちらも現実感が無いが、冒頭の童貞妄想爆発展開の後では、案外すんなりと受け入れられる。
これは、最初にあえて受け入れ難い物を提示し、
その後に、最初の物よりはマシな物を提示して相手に取り入るという心理的な作用を狙った、計算された構成なのかもしれない。
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懐かしのパニック・ムービーテイスト
さて、冒頭のラノベ展開の後はサバイバルが始まる。
まず、『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』という題名から想起されるのは、『エスケープ・フロム・L.A.』みたいなノリである。
しかし、どちらかというと、
『タワーリング・インフェルノ』や
『ポセイドン・アドベンチャー』のサバイバルに
『エイリアン』や
『アビス』といったモンスターテイストを加えた様な読み味となっている。
(例えが映画で申し訳ない)
懐かしのパニック・ムービーやサバイバルホラーを想起させる。
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流行の死亡フラグ
裕とマイは最初は屋上に居る。
そこから一階ずつ降下する事でストーリーも進む。
その最初の10階~5階部分はパニックに遭遇したモブキャラメインのホラー短篇となっている。
著者は『1999年のゲームキッズ』等でショートショートの上手さを見せており、この部分でも駄目人間ショーを楽しめる。
また、4階以降は「旅の仲間」が加わり、パーティーを組んで脱出を目指す展開となる。
さて、ここで犠牲者となる人間達には共通点がある。
それは、餌食になる前に、自分語り的なキャラの掘り下げが始まるのだ。
この、「やられる前にキャラの過去のエピソードや掘り下げを行い、読者の感情移入を促してから悲劇のドラマチックさを演出する」スタイルは最近流行の死亡フラグである。
『ジョジョの奇妙な冒険』や
『グラップラー刃牙』の最大トーナメント篇でよく見られた演出で、今では一般の作品にも広く普及した印象だ。
単純に見えるが絶大な効果がある。
特にサバイバル物との相性は抜群だろう。
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まさかの転調、設定SF
そして、「旅の仲間」が次々と犠牲になりつつ、再び裕とマイの二人だけとなる。
ふつうはこの辺りでラスト直前のハズだが、『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』はまだ半分。
なんと本書はここから「サバイバルホラー」から一転、イキナリ「設定SF」が始まる。
戦中、乃木希典将軍が推進した粘菌コンピュータシステムから発展し、
戦後の日本を支えたシステムを作る陰の秘密結社となり、
科学者の石井四郎が推進し、自立型AIシステムを取り込んだ、、、
ビルが人間を喰う以上の衝撃でトンデモ理論が展開する不条理さ、
何と、日本の科学の中枢は「中野ブロードウェイ」の地下にあったのだ!!
何故だが、いきなり『帝都物語』並のスケールで伝奇テイストのSF設定を延々繰り広げる。
これには将門様もビックリだ!!
パニック・ムービーやサバイバルホラーにおいては、普通「事件の原因」部分はサラッと説明するか、完全無視する場合が多い。
『シン・ゴジラ』では、何故ゴジラが生まれたか?よりも、ゴジラがどれだけ暴れるか、どうゴジラに対抗するかの方に焦点が当てられる。
『バタリアン』においては、バタリアンの原因はそもそも何なのか?それは軍関係だとしか分からず、モンスター相手のサバイバルがメインである。
映画作品として考えた場合は、限られた時間の中、その方が作品テーマがブレずにエンタテインメントとしての面白さを追求できる。
だが、本書は一見必要ない様なありあまる分量を投入する。
しかも、作品の読み味を一転させる程の質・量の説明を延々と始める。
むしろ、この部分が本書で一番言いたかった所では?とも思わせる。
神とは何か?と問い、永遠の生命を求め、基底現実を超えネット空間に転生する。
これらの展開は
小説『順列都市』
漫画・映画『攻殻機動隊』
映画『her/世界でひとつの彼女 』
等を想起させる。
ともすれば、読者が戸惑う作品の転調だが、敢えてそうしたのには理由があった。
それは、『アンドロメディア』である。
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まさかの展開、アンドロメディア「2」!?
ラノベから始まったサバイバルホラーを設定SFにしたのは何故か?
それは、本書を『アンドロメディア』と繋げる為だった!
というか、『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』は実質『アンドロメディア』のパート2である。
『アンドロメディア』とは、著者・渡辺浩弐が1997年に刊行した初の長篇作品。
こちらもSFをメインに恋愛、アイドル、アクション、サスペンス等、様々なジャンルをミックスしたエンタテインメント小説で、1998年に映画化もされた。
『アンドロメディア』のメイン登場人物はAI(アイ)と舞(マイ)とユウ。
『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』も、裕(ユウ)、マイが出て来て、AIが登場する。
I、My、You、である。
名前が共通している。
恥ずかしながら、直ぐには気付かなかった。
(ほら、普通「裕」って「ゆたか」って読むから気付かなかったと言い訳してみる)
まさか20年の時を越えて『アンドロメディア』の復活、しかもAIが再びヤンデレヒロインとしてこの世に現れたというのが、渡辺浩弐のオールドファンとしては堪らない展開である。
面白いサバイバルホラーから、
ごちゃごちゃ設定を述べ出したと思ったら、
『アンドロメディア』キター!!
それだけで興奮MAXである。
本書『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』は盛り沢山の面白さだ。
ラノベ展開、サバイバルホラー、設定SF、伝奇、アイドル論、アクション、過去作発掘、と680ページのボリュームを存分に活かしたお腹一杯の作品である。
社会情勢を反映したり、
それらしい問題提起をしてみたりする小説も良いだろう。
しかし本書の様に、構成や統一感とか考えず、兎に角作者自身が思う「面白い物」を全部ぶち込んでみました!!みたいな作品も偶には読みたい。
そして、それが自分の趣味に合う物だったなら、その幸運を作者と共に楽しめるのだから素晴らしい事である。
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さて次回は、『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』の元祖と言える『アンドロメディア』について語ってみたい。