エス・エフ小説『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』ダグラス・アダムス(著)感想  SF?ミステリ?奇想天外な物語!!

 

 

 

ケンブリッジ大学のカレッジ食堂へ、リチャードはアーバン・クロノティス教授=レジと共に食事に行く。レジは少女を喜ばせる為に手品を披露し、リチャードはソファを自分の家に入れられず、デートの約束をすっぽかし、会社の社長は撃ち殺される、、、

 

 

 

著者はダグラス・アダムス
イギリス生まれ。
TVシリーズのモンティパイソンの脚本に携わっていた経験あり。
代表作に
『銀河ヒッチハイクガイド』シリーズ、
長く暗い魂のティータイム』等がある。

 

『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』。
この題名を見て、どんな内容だと思うだろうか?

「全体論」って何だろう?著者はイギリス人だし、理屈っぽい感じかな?

「gently(ジェントリー)」って「優しい、穏やか」という意味だから、
黒い服、もしくはちょっと陰のある英国紳士が活躍するのかな?

「探偵事務所」って言う位だから、謎解きミステリかな?

そして、裏表紙に「抱腹絶倒」の字があるので、笑える話なのかな?

こんな所だろう。

残念!違います!!

 

「ダーク・ジェントリー」という探偵は、

理屈っぽいと言うより、口八丁。
紳士的と言うより、胡散臭い。
ミステリと言うより、SF。
内容が突拍子も無いので、笑い所に気付けない。

 

こんな印象だ。

まず、最初に訳者がわざわざ追加してくれた解説部分がある。
これは作品理解の為には必須の部分で必ず読む必要がある。
さらに、開始100ページ位まで何が起きているのか分からない。
200ページを過ぎてようやく探偵のダーク・ジェントリーが登場する。

総ページ数の

半分くらいは我慢して読まなければならない。

 

前半のタメを活かし、後半に話が動き面白くなるタイプなので、

構成の上手さを楽しむのが正しい読み方となる。

 

一体全体何が起こっているのか?
きっとあなたの推理は当たらない。

奇想天外な展開を楽しむべき作品。

 

それが『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』である。

 

 

以下ネタバレあり


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  • ミステリ的に書かれたSF

本書『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』は、構成、謎解きを楽しむという部分においてはミステリである。

前半の事件(ネタ)を後半に探偵が解き明かす『刑事コロンボ』系の展開は、ミステリの常套手段である。

しかし、そのネタはSF的な発想を元にしている。

前半、個々に描写されている事は、実は後半につながる伏線であり、最後に話が上手くまとまる。

そのミステリ的な構成で、後半のSFネタをまとめたのが本作である。

前半を読んでいる時は、
「これ、何がしたいんだろう?」と頭をひねってしまう。
だが、後半、ダーク・ジェントリーが出て来て、実はSFネタで話が繋がっているという事が分かってきたら途端に面白くなる

しかし、印象としては
ミステリとして読むとSF部分が気になり、
SFとして読むにはミステリ部分が長い。

さらに、前提条件としてサミュエル・テイラー・コールリッジという詩人の作品とエピソードを知っていなければならないという、
ある程度の教養も必要となる。
(本訳では、わざわざ訳者の安原和見氏が解説しているので、それを読めばいい

これらの部分がちょっと鼻につくのが残念な部分である。

 

  • ラストの意味が分かりましたか?

前半がかったるいので、そのノリで後半も読み飛ばすと、オチが理解出来ずに終わってしまうかもしれない。

オチをちょっとまとめてみたい。

*以下、ラストのネタバレを含みます。

 

太古の霊は、「コールリッジの詩集」に描かれた通りに行動し、タイムマシンで自分の行動を変えようと目論むが、
ダークがコールリッジにタイムマシンで会いに行って、コールリッジの詩作(クーブラ・カーン)を途中で邪魔する事で、太古の霊がタイムマシンを使うという発想?思想?自体を無かった事にするのだ。

ソファはタイムマシンの中を通ったので途中まで進められたが、タイムマシンを抜けたら引っかかってしまい、二進も三進も行かなくなった。

また、リチャードが感動した音楽は、レジが気を利かして昔の音楽家の作曲という事にして歴史に残した。
その音楽家が、今で言うバッハ。

ダークがコールリッジの詩作を邪魔した事で、太古の霊は今でも何処かで彷徨っている。
さらに、詩作を邪魔された事で無念の思いが残っているので、コールリッジの霊も彷徨っているかもね、という意味で「霊が2体になった」とダークは発言する。

つまり、バッハという作曲家がいて、
コールリッジの「クーブラ・カーン」が途中までしかないこの現在の世界は改変後の世界、という訳である。

 

 

後半のネタ明かしの部分は怒濤の展開で面白いSFなのである。

しかし、前半の意味不明さで読書の意欲が殺がれるのが惜しい。

私の様に短気な人は、開始5分で事件が起こらないと飽きてしまうのだ。

しかし、後半にタメを設定する為には前半はどうしても平坦にならざるを得ない。

この辺のバランスをどうするのか?
どの程度の読者層に向けた前提条件の教養を要求するのか?

難しい所である。

 

続篇はユーモア小説、こちらのページで語っています。

小説『長く暗い魂のティータイム』ダグラス・アダムス(著)感想  どっちらかりユーモア小説!?深い事は考えずにたのしみましょ!!

 


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さて次回は、ミステリ的に書かれたホラー作品、小説『淵の王』について語りたい。