1983年、夏の日の北イタリア。一七歳のエリオは、大学教授の父に師事するインターンのオリヴァーと出会う。ギリシア彫刻の様な均整の取れた美しい肉体、潑溂とした性格で、たちまち地元に溶け込むオリヴァーをエリオは何となく気に入らないが、、、
監督はルカ・グァダニーノ。
イタリア出身。
監督作に
『ザ・プロタゴニスト』(1999)
『ミラノ、愛に生きる』(2009)
『胸騒ぎのシチリア』(2015)等がある。
次回作は
『サスペリア』にリメイク作だそうです。
出演は、
エリオ:ティモシー・シャラメ
オリヴァー:アーミー・ハマー
共演に、マイケル・スタールバーグ、アミラ・カサール、他。
本作は、原作小説『君の名前で僕を呼んで』アンドレ・アシマン(著)の映画化作品。
北イタリアを舞台に、
夏の日の夢のような六週間が描かれる本作。
未だ無垢さを備える美少年と
ギリシア彫刻の様な美青年が
美しい夏のイタリアで出会う。
何も起きないはずがなく…
そう、一言で言えば、この物語は
BL(ボーイズ・ラブ)である。
こう書くと、
「あ、俺、ノンケなんでこの映画はパスだな」
と思われるかもしれません。
しかし、本作は
「すまない、ホモ以外は帰ってくれないか!」
という作品ではありません。
本作で描かれるのは、
初恋の物語。
美しい風景と美男子の物語。
しかし、描かれるのは、どんな普通の人間にも訪れる甘酸っぱい思い出の出来事なのです。
その部分で共感出来るからこそ、
BLでは無い私の様な人間でも楽しめる。
美しい恋愛映画の逸品。
『君の名前で僕を呼んで』は、恋をした事ある人間なら、誰の胸にも届く作品と言えるでしょう。
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『君の名前で僕を呼んで』のポイント
美しい北イタリアの風景と、美男子二人
夏の日の初恋
生涯に唯一のもの
以下、内容に触れた解説となっております。
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初恋の物語
本作『君の名前で僕を呼んで』はBL、
男子同士の恋愛を描いた映画となっています。
とは言え、メインのテーマはそこに非ず。
本作は「初恋」の物語。
恋に落ちるまでの心情の変化、機微、
そしてそれが叶い、
終わってしまうまでを描いた作品となっています。
本作はただ、その対象が同性だったというだけの話なんですね。
殆ど全ての人間の、その生涯にて、
たった一度だけ訪れる夢の様な出来事。
これを描いているからこそ
性差や状況に関わらず、
その感情の機微に共感出来る作品なのです。
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感情の機微を描いた作品
エリオのオリヴァーとの初対面。
彼はオリヴァーを「自信家」と称し、その所作が何となく気に入りません。
一緒にバレーをやろうと肩を組まれ誘われても拒絶し、
ピアノを弾いてくれと言われても、べつのリズムで演奏して意地悪したりしてみます。
しかし、オリヴァーが女の子とダンスをしているのを見るエリオの姿。
彼自身(そして観客である我々も)その時に気付くのです。
自分はオリヴァーを好きなのでは無いのか?
いわゆる、好きな人に意地悪する、アレなのではないのか?
自分は今、女性の方に嫉妬しているのではないか?と。
また、当のオリヴァーの方も、
エリオの父、パールマン教授と美術品のスライドを見ているときの、青年の像を見る時の眼差しが、
エリオをその姿に重ね合わせているのではないのか?と思わせます。
エリオは自らの感情を持て余し気味。
それを端から見ている両親は、エリオの気持ちを言わず語らずに察っしています。
ある夜、母アネラがドイツ文学を朗読します。
それは、王女に愛を告白出来ない騎士の物語。
告白するか、然もなくば死か。
告白する事は勇気が必要。
しかし、その勇気も、何かの切っ掛けがあれば発揮出来る。
エリオは母の朗読を聞き、その話をする方法をとってオリヴァーにそれとなく自分の思いを告げます。
この、ジリジリ、お互いを手探りで計り合う様な感じ、
「相手は自分をどう思っているのか?」
「自分が感じている様に、相手も自分の事を思っているのか?」
この不安感こそ、初恋の胸焦がす想いであり、
本作のテーマとなっています。
題名にもなっている
「君の名前で僕を呼んで(Call me by your name)」という言葉。
これは、自分と相手(の気持ち)が同じであって欲しいという願いから出て、
それを確認する言葉であるのです。
エリオはオリヴァーと交わる前、
女友達とも性行為をしています。
これはつまり、SEXと初恋は別物である事を物語っているのですね。
普通に相手とイチャイチャするだけでは無く、
嫌われるのを恐れて不安になったり、
相手に想いが届いたかどうかヤキモキしたり、
別の相手と話している様子に嫉妬したり、
この唸る様な感情の動きが伴ってこそ、それが初恋となるのです。
印象的なシーンがあります。
エリオが、果物を使って自慰行為をするシーンです。
そしてエリオは、その事をオリヴァーに知られ、
涙を流す程に恥じ入ります。
つまりエリオは、
男性同士で性行為する事よりも、
果実を使った事の方が、冒瀆的で変態的だと感じているのですね。
エリオの持つ感性、
フラットな倫理観というか、世間の常識ではなく自分の価値観と感性で以て生きている事を表しているのです。
ラスト近く、父はエリオに言います。
自分の愛するものを、感情のままに常識に囚われず素直に享受せんとするその行為は、尊いものだと。
殆どの人間はそれを投げ捨てたり、見逃したりして、後に後悔する。
そして、年を取り、肉体も精神も衰え、感受性が摩耗してしまう、と。
若いエリオが、その強烈な感情に身を委ねる事を、父は止めていないのです。
どんな結果になっても、
そういう想いが抱けるうちに、その感情に飛び込んだエリオを称賛し、
そして、その感情をしっかり受け止めろとアドバイスしているのですね。
エリオとオリヴァーの様々な感情の機微、
そしてそれを理解ある見解で見つめる両親の心遣い。
これらが、自分の初恋の思い出と重なり、
心に染み入る想いがします。
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原作あり映画
本作の様に原作のある作品んを映画化する場合、
何処まで原作に忠実に再現するのか?
原作から離れすぎたら、作品を使う意味が無くなり、
原作の忠実な再現だと、ただの劣化模写になってしまいます。
スタンスを決めて、
何をテーマにしたいのか?これを絞って描くと映画は絞られた面白さとなります。
本作『君の名前で僕を呼んで』も、
原作に忠実ながら、割と思い切った改変を施しています。
先ず、原作は20年後から、昔を回想する形。
映画ではこれを、現在進行形で描いて居ます。
そして、大きな変更と言えば、
原作はエリオとオリヴァーの二人が20年後に再会する後半部分があると言います。
しかし、映画ではこれをバッサリカット。
あくまで「初恋が終わるまで」の部分に焦点を当てた作りとなっています。
ですが、ここに絞ったからこそ、
同性愛の問題というより、初恋の儚さを描く事で、
より多くの人間の共感を得る事になったのだと思います。
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小ネタと出演者解説
エリオを演じたのはティモシー・シャラメ。
常に上半身裸で、あのぬめりとしたやせ型は、女性受けしそうな感じです。
主な出演作に
『インターステラー』(2014)
『レディ・バード』(2017)等があります。
オリヴァーを演じたのはアーミー・ハマー。
出演した『J・エドガー』(2011)でもゲイの役をしていました。
他、出演作に
『ソーシャル・ネットワーク』(2010)
『コードネーム U.N.C.L.E』(2015)
『ノクターナル・アニマルズ』(2016)
『ジャコメッティ 最後の肖像』(2017)等があります。
ストレートな役より、ちょっと変わった役が多い印象ですね。
エリオの父、パールマン教授役を演じたのはマイケル・スタールバーグ。
最近、露出が増えて来た印象です。
2017年は出演した3つの作品、
『君の名前で僕を呼んで』
『シェイプ・オブ・ウォーター』
『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』
の全てがアカデミー賞の作品賞にノミネートされています。
他の出演作に
『メッセージ』(2016)
『ドクター・ストレンジ』(2016)等があります。
本作後半に出てくるゲイのカップル。
その一人、ムニールと呼ばれていた方が、実は原作小説の作者のアンドレ・アシマンです。
こういうサプライズは、ちょっと嬉しいですね。
美男子同士の恋愛を描いた『君の名前で僕を呼んで』。
しかし、BLがその主眼では無く、
あくまでも「初恋」の美しさと痛みを描いた作品です。
初恋のジリジリと胸を焦がす様子。
あの感覚が観るものの内にも蘇って共感をもたらす。
だからこそ、誰にとっても鑑賞に堪え得る、
何処か甘酸っぱい作品となっているのです。
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