福岡県、某所に存在する、最凶の心霊スポット、犬鳴村。
西田明菜と森田悠真のカップルは、興味本位でその場所に訪れる。しかし、恐怖体験により、明菜は発狂し自殺。怒りと悲しみに震える悠真は、再び犬鳴村を訪れようとしたが、事件のあった夜に通れたハズのトンネルは、入り口がコンクリの壁で塞がれていたのだった、、、
監督は清水崇。
OVAの『呪怨』(1999)のヒットにより、
映画版『呪怨』(2003)も監督し、これが大ヒット。
以降、ホラー映画の旗手の一人として知られる。
監督作に、
『富江 re-birth』(2001)
『呪怨2』(2003)
『THE JUON/呪怨』(2004)
『ラビット・ホラー3D』(2011)
『魔女の宅急便』(2014)等がある。
出演は、
森田奏:三吉彩花
森田悠真:板東龍汰
森田康太:海津陽
森田晃:高嶋政伸
森田綾乃:高島礼子
西田明菜:大谷凛香
山野辺医師:寺田農
中村隼人:石橋蓮司 他
子供の頃、
よく聴いていた、ラジオ番組。
「PAO~N ぼくらラジオ異星人」という番組がありました。
目当ては、その水曜日、
「超心理学コーナー」です。
ラジオ視聴者の投稿怪談を読み上げるそのコーナー、
尺八の「ぶおお~ん」という音から始まり、
謎に、パーソナリティの声にエコーがかかっていました。
それは、ちびっ子の恐怖心と好奇心をガッチリ掴んで、
次の日の学校で、
「ばりこわ~」と、皆で感想を言い合い、
キャッキャウフフを繰り返していました。
今でも覚えているのは、
レベッカの『MOON』という曲。
歌詞の一部、
「思い出一つも持たずに、家を、飛び出して戻らなくなった」の後に、
「センパ~イ」という霊の声が入っているという、
まことしやかなネタです。
水泳の大会に行く途中、
誰が入れたのか、バスの中で、超心理学コーナーの録音したテープが流れ阿鼻叫喚、
しかし、
問題の「センパ~イ」という部分になったら、
皆、聞き耳をおっ立てて、
「聞こえた?」「聞こえんかった!」とお互い尋ねあう地獄絵図となった事は、
今でも青春の思い出です。
ええ、勿論、
私はその後、
問題の箇所を何回も聞き返して、
遂に、霊の声を聴くに至りましたよ…
興味がある方は、
レベッカの『MOON』を、是非、聴いて欲しいですね。
この歌自体が、素晴らしい楽曲です。
(問題の箇所は、大体、2分経過くらいの所です)
ボーカルのNOKKOが抜群にカッコ良いですから。
さて、閑話休題。
その「超心理学コーナー」で鉄板の、
「もう聞き飽きたよ」とすら言われる程繰り返されたネタが、
「犬鳴峠の旧トンネル」に纏わる怪談でした。
今で言う所の「都市伝説」と言われる括りですが、
当時、
この「犬鳴峠」の「怖い噂」は、
ラジオ番組のみならず、
「友達のお兄ちゃんが聞いたっちゃけど」とか、
「先輩の知り合いの話なんやケドさ」とか、
先輩から後輩、
友人から友人へと語り継がれる形の、
口コミ的な、
息をしている、リアルご当地ネタであり、
知らぬ者が居ない「常識」の怪談として存在していました。
曰わく、
犬鳴峠の、旧トンネルを通ると、霊が車のボンネットにくっつく、
走って、追いかけて来る、
逃げ切れたと思ったら、窓ガラス一面に、血の手形が付いている…
とか、
犬鳴峠の電話ボックスは、丑三つ時(午前2時?3時だっけ?)に鳴りだし、
それを取ったら、霊の声が聞こえる、
電話ボックスの中に、
血だらけの女性が立っている、とか…
兎に角、
その多くが、
「犬鳴峠に興味本位で行った、冷やかしのヤンキーが、霊に遭遇するなどの恐怖体験により、死ぬなり、発狂するなりしてしまう」
というテンプレを形作っていました。
ホラーが好きだったから、
「超心理学コーナー」を聴いていたのか、
「超心理学コーナー」を聴いていたから、
ホラーが好きになったのか、
そんな可愛らしいちびっ子だった私も、
今ではすっかり年老いて、
体力の衰退と病気の苦痛に憔悴する日々。
それでも、三つ子の魂百までと言いますか、
今でも、ホラーは大好きで御座います。
しかし、
何と、
そんな青春の一ページ、
「犬鳴峠」の怪談が、
映画『犬鳴村』として復活する事になるとは、
なんともはや、
ホラーであるハズなのに、
私は、懐かしくて、涙が出てきますよ、
まだ鑑賞してないのに!!
と、言うわけで、
長々と前置きを語りましたが、
いや、むしろ、
今回に限っては、
この前置きがメインなのですが、
ここでようやく、
『犬鳴村』の解説に移ります。
先ず、ご覧下さい、
日本で、最も犬鳴峠に近い映画館、
「ユナイテッド・シネマ トリアス久山」にて、
一般公開日最速で鑑賞して参りました。
さて、一時期、もてはやされた「ジャパニーズ・ホラー」。
それを担った旗手が、
『リング』(1998)の中田秀夫と、
『呪怨』(2003)の清水崇でした。
しかし、
両者が手掛ける、
両シリーズ以外は、
あまり振るわず、
現在は、
中々の良作はあっても、
インパクトのある邦画ホラーの産出には至っていなのもまた、
事実です。
だからって、
ホラー映画を切り捨てるのか?
それが出来ないのが、ホラー映画ファンの因果な所。
今回も、
まぁ、ご当地ホラーだし、
お義理で、鑑賞しておくか、
位のノリで観に行ったのですが、
あれ?
意外と、面白い!?
といった感じです。
やはり、
一度、天下を獲った手腕はお見事。
どんなに美味しい食材でも、
私が料理するのと、
道場六三郎が料理するのとでは、
全く違うもの。
本作も、
「犬鳴峠」の怖い噂という元ネタが、
上手く『犬鳴村』という映画に昇華されています。
犬鳴峠を全く知らない人は、
その恐怖描写の連続に楽しめます(?)し、
知っている人は、
鉄板ネタの数々が、
余さず盛り込まれている事が、
嬉しい(?)所であり、ニヤリと出来ます。
さて、
噂を、
映画というエンタテインメントとして昇華するには、
その屋台骨とも言える、
テーマ、ストーリーが必要となります。
その部分に、本作の、
エンタメとしての、オリジナリティがあります。
ちりばめられた「都市伝説」を、
どう、パズルの様に組み立て、ストーリーにしているのか、
その職人芸の鮮やかさも、
本作の見所と言えるでしょう。
基本は、ドッキリホラーの本作。
しかし、
私にとっては、
懐かしい、幼年時代の思い出を、
人生の後半を迎えた今、
改めて、
一つ一つ思い出す切っ掛けとなる作品であり、
むしろ、
懐かしくて、
やっぱり、ちょっと泣けて来るという始末。
そんな作品ですね、
『犬鳴村』は。
因みに、
友人に「こんな映画があるよ」って紹介したら、
「絶対、観に行かんわ!毎週犬鳴峠越えるのに、そんなの観たら、怖くて通れんやん!」と拒否られたとさ。
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『犬鳴村』のポイント
王道の、ビックリ、ドッキリホラー
「都市伝説」を、上手く物語として昇華した、その構成
知らない人でも面白い、知ってる人は、尚、面白い!
以下、内容に触れた感想というか、
考察的な事を書き連ねてみます
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いぶし銀の出演者
私にとっては、
内容云々というより、
極、個人的な思い出と結び付いているが為に、
面白さというより、
懐かしさで胸が一杯になる作品、
『犬鳴村』。
しかし、本作、
基本はホラー映画です。
そして、
ホラー映画というものは、
基本、
新進の役者をメインに据えて、
脇を、ベテランで固めるというのが、
配役の鉄板。
本作でも、
その構図が採られています。
主役の森田奏を演じる三吉彩花は、
それなりに知名度がありますが、
他の森田兄弟や、その友人、恋人は、
割と、知る人ぞ知る、と言った所。
それに反して、
親世代を演じる、
高嶋政伸や高島礼子(どちらも名字が「たかしま」というのが面白いですね)
祖父世代の寺田農、石橋蓮司など、
ベテラン勢の演技は、
鬼気迫るものがあり、
何も知らない若者=初々しい演技、
何か知っている長老=謎めいた怪演、
という、
演技指導せずとも、
演じ分けが、年代で出来ているというのが、興味深いです。
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「犬鳴峠の噂」を、『犬鳴村』という映画へ
さて、
本作の元ネタとなっているのは、
福岡県に実在する、
犬鳴峠の旧トンネル周辺にまつわる、恐怖の噂話。
今風に言う所の、
「都市伝説」ですね。
1980年代~1990年代にかけて、
犬鳴峠周辺で、
実際、殺人などの陰惨な事件が起こり、
それが、噂の出所となり、
尾ひれはひれが付いて、口コミで噂話がエスカレートしていったというのが、
真相の様です。
そして、実際、
その年代を生きていた私としては、
キャンプや、
或いは、夜の公園や、
或いは、修学旅行や、
或いは、部活の帰り道などで、
「誰々の兄の知り合い」とか、
「先輩の先輩の先輩」とか、
曖昧でありながら、
現実に体験した人がいる(らしい)という、
ある種のリアリティがある噂が、
折に触れ、
友人から聞いたり、
先輩から語られたりしたものです。
そうして知った「犬鳴峠」の噂を、
私自身も、
「こういう話知ってる?」と、
他の人間に、語ったものです。
今思えば、
「怪談の伝播」という現象に、
自分自身が、リアルに荷担していたんだなと、
不思議な気持ちになりますね。
さて、
お気づきの方も居るかもしれませんが、
実は、
「犬鳴峠の噂」というものは、
主に、
「旧トンネル」にまつわる部分が、
その震源地となっていました。
少なくとも、
私が体験した「犬鳴峠」の怪談は、
そこが、メインで語られていましたね。
一方、
映画でも語られた部分ですが、
「この先、日本國憲法通用セズ」の看板とかは、
そんなに当時は語られず、
トンネルの先にあった集落は、
ダムの底に消えたというエピソードも、
メインでは無かった印象があります。
そして、
集落が、犬を狩っていた云々というのは、
完全に、映画オリジナルの話、
当時は、全く、そんな噂はありませんでした。
集落その物では無く、
そこへ向かう旧トンネルと、
その周辺の電話ボックスが、
怪談のメインの舞台であり、
興味本位で其処に出かけた者に、
逃げても、
恐怖体験と発狂と死をもたらす。
それが、
「犬鳴峠の旧トンネルの怪談」なのです。
しかし、
この構成は、
集落という、
本当に、何らかの不都合な出来事が掘り返される事を忌避する為、
そこへ至る者が呪われるという「物語の構成」を噂話として形成する事で、
結果的に、
集落へ行く事自体を禁忌として、
人々に周知させる装置として成り立っていたのではないのか?
その事に、
今更ながらに、気付かされ、
薄ら寒い思いがしました。
勿論、
映画を作っている制作側も、
その事の違和感に気付いたのでしょうね。
だから、
「語られない禁忌」としての集落を、
これは、使えるとばかりに、
ダムを作る為に虐げられ、虐殺された村民達という、
オリジナルの設定を盛り込んだ「犬鳴村」として作り上げたのだと思います。
大体、
「犬鳴」というネーミング自体、
何だか、空恐ろしいものがあるじゃないですか。
しかし当時は、
空恐ろしいものを感じながらも、
その、名前の由来については、
誰もツッコんでいなかったのが、不思議な所。
映画では、
そういう、
名前の由来が無いという所にも着目し、
「犬鳴」という名前から、
「犬神憑き」という家系の呪いを絡めた話に繋げているのですね。
つまり、まとめると、
「犬鳴峠の旧トンネル」という怪談を元ネタにした本作、
その噂話に忠実な部分は、
本来の噂話通りに、
「心霊スポットに近付いただけで、何の因果も無い人間が、無為に祟られる」という、無作為の恐怖を描いており、
一転、
ホラー作品の常套手段や、他の地方の民間伝承を上手く取り入れた、
本作オリジナルの部分、
犬鳴村のストーリー部分には、
血統という因縁による恨み辛みが描かれているのです。
「犬鳴峠の旧トンネル」を元ネタとして映画を作るにあたって、
メインとなるストーリーを、どう作るか。
その時、
噂話においては、
空白地帯であった所に、
「過去の因縁」という設定を盛り込む事で、
怪談を、映画というエンタテインメントへと昇華した手腕が、
本作の凄い所。
思わず、唸りましたね、
う~ん、上手い、こうきたか、と。
トンネルを抜けた先に(本来の噂話)、
本当の恐怖の終着点(映画オリジナルの因縁話)がある、と。
だからこそ、
本作の題名は、
犬鳴「峠」では無く、
犬鳴「村」なのですね。
私にとっては、
あまりに懐かしすぎて、
私情が入ってしまい、
正常でフラットな評価が難しい『犬鳴村』。
しかし、
これだけは言える。
断片的な噂話を繋げ、
それにオリジナルの恐怖を加える事で、
映画としてのエンタテインメントに作り上げたのは、
見事だと。
ええ、
勿論、
そういう意味では、
私は大満足の作品、それが『犬鳴村』です。
*現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
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