ミステリー作家のハーラン・スロンビーが死んで数日後。警察は自殺と断定したハズだが、もう一度、家族に事情聴取を行う。その時、同伴していた男こそ、数々の難事件を解決した名探偵ブノワ・ブランだった!
何故、彼は調査を開始したのか?
ハーランは自殺ではなかったのか?、、、
監督は、ライアン・ジョンソン。
長篇デビュー作である、『BRICK ブリック』(2005)はミステリ映画である。
他の監督作に、
『ブラザーズ・ブルーム』(2009)
『LOOPER/ルーパー』(2012)
『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)がある。
出演、()内はハーラン・スロンビーとの関係、
ブノワ・ブラン(探偵):ダニエル・クレイグ
リンダ・ドライズデール(長女):ジェイミー・リー・カーティス
リチャード・ドライズデール(長女の夫):ドン・ジョンソン
ランサム・ドライズデール(孫):クリス・エヴァンス
ニール・スロンビー(長男):過去に死亡
ジョニ・スロンビー(長男の妻):トニ・コレット
メグ・スロンビー(孫):キャサリン・ラングフォード
ウォルト・スロンビー(次男):マイケル・シャノン
ドナ・スロンビー(次男の妻):リキ・リンドホーム
ジェイコブ・スロンビー(孫):ジェイデン・マーテル
グレート・ナナ・ワネッタ(母):K・カラン
マルタ・カブレラ(看護師):アナ・デ・アルマス
フラン(家政婦):エディ・パターソン
アラン・スティーブンス(弁護士):フランク・オズ
エリオット警部補:キース・スタンフィールド
ワグナー巡査:ノア・セガン
ハーラン・スロンビー:クリストファー・プラマー 他
さて、ここまで見てくれている人は、
居るのでしょうか?
もう、
登場人物を列挙するだけで、
かなりの文字数になってしまいました。
因みに、題名の「ナイブズ(knives)」というのは、
刃物であるナイフ(knife)の複数形、
中学生殺しの英単語ですね。
ナイブズ・アウト(knives out)という事は、
刃が剥き出しという事、
そんな不穏な題名の本作の冒頭の展開は、、、
警察の捜査では、自殺と断定されたハーラン・スロンビー。
しかし、探偵ブノワ・ブランの家に、
依頼人不明ながらも、大金と共に捜査の依頼が迷い込んでいた。
誰が、何故、探偵に依頼したのか?
もしかして本件は、自殺では無く、巧妙に隠された他殺なのか?
ハーランの家に住む家族とその関係者は、
いずれも、個性豊かだが、
とても、親(祖父)殺しを敢行する様な動機があるとは思えない。
何か、隠された理由があるのか?
探偵の捜査が始まるのだが、、、
そんな本作『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館』は、
登場人物が多く、
しかも監督が、
「アガサ・クリスティみたいなミステリ映画を撮りたい」という発想の下に作られたオリジナル脚本のミステリという事で、
何だか、頭がこんぐらがって、
観るのが難しそうだなぁと、
思われるかもしれません。
しかし、
本作は凄いのです。
映画とは、
様々な年代の人間が鑑賞するエンタテインメントです。
それを意識して、
ミステリでありながら、
解り易い構成、展開を心掛けているのです。
死んだ作家のハーラン・スロンビー、
その家族と多数の関係者で描かれる本作。
確かに、メインの登場人物は多いですが、
基本、
ここで書かれた登場人物のみで、物語は構成されています。
ここでちょっと、登場人物を紹介した部分に戻ってみましょうか。
見て頂くと解ると思いますが、
本作、
登場人物が、基本「三人一組」で描かれています。
子供と、その配偶者と、孫のセットが3組、
探偵と、警官が二人、
看護師と、家政婦と、弁護士、
ワンパターンなので、
意識せずとも、理解しやすい構成になっています。
しかも、冒頭の事情聴取の場面で、
各キャラクターの紹介が自然と行われ、
誰が、どんな人物なのかを、丁寧に紹介してくれるという至れり尽くせり。
髪型、髪の色、眼鏡、服装、髭、性別、etc…
登場人物の把握には、
これらがキャラクターを印象付ける特徴として描かれますが、
本作では、
巧妙に描き分けされ、被っていないので、
「外人の顔は全部同じに見える」という、私みたいな人間でも、
無理なく、無駄無く、全員を把握する事が出来ます。
ミステリにおいては、
登場人物さえ把握すれば、感情移入が起こり、物語に集中出来るので、
犯人捜しに没頭出来る。
このミステリの面白さを監督は理解し、
それを活かしているのです。
そして、本作のもう一つの特徴としては、
物語のテンポと展開が速い
という事が上げられます。
ミステリ作品というものは、
犯人捜しと、トリックの判明が、
その面白さの根幹として存在します。
シャーロック・ホームズとか、
ポワロとか、
そういうイメージがありますよね。
一方、
刑事コロンボや古畑任三郎の様に、
犯人が、犯行を隠す為に右往左往する様を暴くという様な作品もあります。
そして本作は、
それらの作品の良いとこ取りと言いますか、
犯人捜しを楽しみつつ、
犯人側の右往左往の様子も楽しめるというお得感。
成程、
こういう感じのミステリもあるのか、
と、井之頭五郎なら、そう言うね!
多数居る登場人物を無理なく、無駄無く活用しつつ、
テンポの良い展開で、楽しく観る事が出来る。
脚本と構成の見事な展開が映える、
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館』は、
昔ながらのミステリでありながら、
しっかりとエンタテインメントしている、
面白い作品と言えるのです。
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『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館』のポイント
テンポ良く展開される、正統派ミステリの面白さ
オールスターキャストで送る、個性豊かな登場人物
誰が、何故やったのか?
以下、内容に触れた感想となっております
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オールスターキャスト!どいつもコイツも怪しさ満点!?
本作『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館』は、
ミステリ映画。
今時、
ここまで正統派のミステリ映画というのは、
逆に、珍しいですね。
そして本作、
その登場人物が豪華というか、
役柄同様に、役者自身も個性的なんです。
リンダ・ドライズデール(長女)を演じるのは、ジェイミー・リー・カーティス。
昨年公開されたホラー映画『ハロウィン』にも出演し、
同シリーズの主役ローリーを演じています。
因みに、ジェイミー・リー・カーティスのデビュー作は、
「刑事コロンボ」だと言われています。
リチャード・ドライズデール(長女の夫)を演じたのは、ドン・ジョンソン。
ロックシンガーでもある彼は、プレイボーイとして名を馳せ、
娘のダコタ・ジョンソンも役者をやっており、
彼女はリメイク版の『サスペリア』(2018)で主役を演じていました。
ランサム・ドライズデール(孫)を演じるのは、クリス・エヴァンス。
「アベンジャーズ」シリーズでのキャプテン・アメリカ役でお馴染みです。
ジョニ・スロンビー(長男の妻)を演じたトニ・コレットは、
2018に公開された、最凶の恐怖ムービー『ヘレディタリー/継承』の主人公、アニー役が強烈に印象に残っている人物。
ウォルト・スロンビー(次男)を演じたマイケル・シャノンは、
『マン・オブ・スティール』(2013)のゾット将軍や、
『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)でのストリックランドなどを演じ、
近年は悪役の印象が強いですね。
ジェイコブ・スロンビー(孫)を演じたのは、ジェイデン・マーテル。
彼は、スティーヴン・キング原作の、大ヒットホラー映画、
『IT/イット ”それ”が見えたら、終わり。』(2017)
『IT/イット THE END ”それ”が見えたら、終わり。』(2019)にて、
少年時代のビル・デンブロウという、主役級のキャラクターを演じていました。
マルタ・カブレラ(看護師)を演じたのは、アナ・デ・アルマス。
キアヌ・リーブスが間抜けなオッサンの役を演じた『ノック・ノック』(2015)にて、
オッサンを手玉に取る、悪女二人組の一人、ベルを演じていました。
ハーラン・スロンビーを演じるのは、クリストファー・プラマー。
作中では、85歳の誕生日に死んだのですが、
現在の年齢は、1929年生まれの、90歳です。
『ゲティ家の身代金』(2017)にて、
誘拐された孫の身代金を、びた一文払わない大富豪の役を演じていましたね。
そして、探偵ブノワ・ブランを演じたダニエル・クレイグ。
今ではすっかり、
「007」シリーズでの、ジェームズ・ボンド役として有名です。
クールで、タフで、ハードボイルド、
『ミュンヘン』(2005)や、
『ドラゴン・タトゥーの女』(2011)などでも、
そういう役のイメージがありますが、
今回演じた探偵というのもまた、しっくり来る感じです。
こうして見ると、壮観。
意図しているのか、いないのか、
過去に出演した作品を鑑みるに、
誰が犯人でも、おかしくない印象です。
ローリーが殺したのか?
それとも、ゾット将軍なのか?
ヘレディタリーよろしく、アニーがまた発狂したのか、
それとも、「IT」のピエロが出て来るのか!?
もしかして、
『ノック・ノック』よろしく、
男を手玉に取る話なのか?
いや、
そもそも、身代金を払わない、ドケチなジジイを演じた位だし、
自作自演の可能性だってあるぞ!?
もう、
色んな可能性が、
キャストを見るだけで渦巻くのですね。
以下、
犯人、ミステリ部分のネタバレについて語った箇所を含みます
そして本作は、
そういう背景を知っている映画ファンの考察を逆手に取った、
メタ的な内容でもあるのです。
実際、
私生活では、プレイボーイで名を馳せたドン・ジョンソンに、
浮気をする役を演じさせていますし、
そして、
犯人役がクリス・エヴァンスというのは、
ホラー映画や、悪役出身者では無く、
正義の味方である、あの「キャプテン・アメリカ」が!?という、
今まで演じた役柄とのギャップが、
意外性を演出しているのです。
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構成の妙が光る作品
さて、そんな『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館』ですが、
本作は、ストーリーが、
テンポが良くポンポン進んで行くのが、
気持ち良い作品です。
そして、ミステリとしては、
3つ分のストーリーラインが含まれているというのが、
このスピード感を生んでいるのです。
先ず最初は探偵が登場し、
「謎の依頼者(ミステリ:1)」が自分を呼んだと語ります。
そして探偵により、
「自殺では無く、他殺ではないのか?(ミステリ:2)」という問題が提起されます。
物語の開始直後は、
この(ミステリ:2)が展開され、
家族、関係者の内で、誰が犯人なのかを、
探偵と共に、観客も推理する事になります。
しかし、皆、動機が弱い。
そこで、物語は急転を見せ、
看護師のマルタの回想で、
実は、自殺は自殺だが、複雑な事情が存在すると判明します。
ここから、物語の様子が変化。
犯人ではありませんが、
真相を知るマルタの「自分が事件と関わった痕跡を消そうとする奮闘(ミステリ:3)」がメインで描かれて行きます。
王道的な犯人捜し(ミステリ:2)から、
「刑事コロンボ」的な、犯人主体の、証拠隠滅に奮闘する演出(ミステリ:3)への変化。
この鮮やかさが、
本作の面白い所。
しかし、展開はこれで終わらず、
更に、
「マルタを脅す、謎の脅迫者(ミステリ:4)」が登場、
ミステリ的な展開から除外されたと思われた、
家族、関係者の中から、再び「犯人捜し」が再開されるというのがまた、
憎らしい演出です。
つまり本作、
犯人捜しから始まり
→犯人側の証拠隠滅描写
→犯人捜し&証拠隠滅の奮闘 という描写により、
「謎解き」の答えを惜しみなく披露しながら、
矢継ぎ早に、
新たな「謎」が生まれるという展開になっているのです。
また、
最初の(ミステリ:1)が、
最終的に(ミステリ:4)と繋がるという決着を見せ、
見事な円環構造を成しているのもまた、
ミステリとして、美しい形ですね。
ここに、
飽きさせずに、
観客の興味を持続させる工夫が見えて、
本作が面白かった所以なのだと思われます。
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小ネタ、伏線など
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館』には人死にが出ており、
探偵が事件を暴くという性質上、
陰惨な感じになりもしますが、
何処か、陽性な雰囲気を持っており、
作品全体に、ユーモアが含まれています。
先ず以てして、
看護師のマルタが、
「嘘を吐くと、ゲロを吐く」という設定自体、
ちょっと、面白いですよね。
そして、
名探偵と言いながら、
そんなに、キレ者風ではない、
ブノワ・ブランの飄々とした雰囲気もまた、良い感じ。
また、物語の基本に、遺産相続というテーマを据えたのは、絶妙なチョイス。
他人から見ると、滑稽で無様だが、
当事者となると、必死で大真面目という、
笑ってはいけませんが、奇妙な面白さがありますよね。
また、本作は小ネタというか、伏線なども、多く仕込まれています。
気付いたものと言えば、
先ず、シーンは忘れてしまいましたが、
「How dare you !」という台詞がありました。
これは、
スウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリが、
2019年9月、国連の環境サミットにて行った演説でのキメ台詞ですね。
意味としては、
「手前ェ、よくもそんな事が出来るなァ!!」といった、
怒りの表現ですね。
…しかし、本作がアメリカで公開されたのは2019年11月27日なので、
撮影期間を考慮すると、
これは、偶然の一致のように思えます。
伏線として、
長女:リンダが、父との謎々が恋しい、と言った台詞があります。
これは、
何も描いていない手紙から、
あぶり出しでメッセージを見つけるシーンに繋がっていますね。
また、
ハーランが、孫のランサムを評する時、
「あやつには、物の真贋が区別出来ない」と言って、
ナイフ(本物)を机に突き立てるシーンがありました。
そのシーンは、クライマックスにて、
ランサムがマルタにナイフ(オモチャ)を突き立てるシーンに繋がっています。
不倫がバレるシーン、
殺人を犯そうとするシーン、
どちらも、シリアスな状況ですが、
しかし、
伏線と絡ませる事で、
何処か、スカッとする、陽性のあるシーンにもなっているのがまた、
本作ならではの、ユーモアである様に思えます。
テンポの良い展開と、
練られた構成にて、
今時珍しい、王道のミステリとして楽しめる作品、
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館』。
正統派のミステリとして、
犯人捜しの楽しみ、
また、
犯人側の、証拠隠滅の奮闘としてのミステリ、
そして、
個性豊かな登場人物をオールスターキャストが演じる事で、
過去に演じた他の映画の役柄まで観客に考慮させる、
メタ・ミステリ的な配役。
「アガサ・クリスティに捧げる」という文句が、言葉倒れに終わらない、
成程、
中々、練られた構成の、面白い作品ではないか、
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館』は、
そういう、王道ミステリ映画と言えるのではないでしょうか。
*現在公開中の新作映画作品をコチラのページで紹介しています。
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