ブルックリンのワインセラーにて事件発生。警官7名死亡、1名重傷という惨事が起きた。
捜査に当たるのは、アンドレ。
かつて、殉職した父と同じ道を選んだ警察官である彼は、スゴ腕と一目おかれながらも、犯人を射殺した事で内務調査を受けていた、、、
監督はブライアン・カーク。
TVシリーズの
「刑事ジョン・ルーサー」シリーズや
「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズのエピソード監督を務める。
出演は、
アンドレ・デイビス:チャドウィック・ボーズマン
フランキー・バーンズ:シエナ・ミラー
マッケナ警部:J・K・シモンズ
マイケル:ステファン・ジェームズ
レイ:テイラー・キッチュ 他
コロナの影響で、主にハリウッド系大作映画が公開延期を繰り返している昨今。
それは、
外出自粛の煽りで、
おいそれとは、映画館等の娯楽に行けないような「空気」の所為です。
映画館や美術館でクラスターが発生したという事実は、
少なくとも、日本では聞いていません。
どういう行動が、
最も感染リスクがあるのか。
そういうデータが取れているのなら、
「そうでない」経済行動には、
もっと、寛容になるべきとも、思います。
とは言え、
大作映画は制作費を回収しなければならないので、
何とか、
コロナ終息後に公開したいという、
配給会社の欲が見えます。
「悟空~!!早くきてくれ~」ならぬ
「ワクチン!!早くきてくれ~」&
「観客!!沢山入ってくれ~」とクリリンが絶叫している様子が目に浮かびます。
そんな状況ですので、
最新作の公開は延び延び、
故に、ちょっと過去の「掘り出し物」が日本の劇場で公開される事になります。
それが本作『21ブリッジ』、
本国アメリカでの公開日は、2019年12月です。
主演を演じたチャドウィック・ボーズマンは、
『ブラックパンサー』(2018)等の作品で、演技を高く評価されましたが、
2020年8月28日に、
癌で亡くなってしまったそうです。
映画としては、
Netflixのオリジナル作品、
『ザ・ファイブ・ブラッズ』(2020)
『マ・レイニーのブラックボトム』(2020)が遺作となりますが、
劇場公開作品としては、
本作がラスト出演作となります。
ちょっと不謹慎ですが、
「~の遺作!!」的な売り方は、
日本では、効果があるのも事実。
そういう意味でも、
コロナの影響がある現在、
ちょっと遅れて、日本での劇場公開に踏み切られたのだと思われます。
さて、
そんな忖度抜きに本作はどうだったのかと問われると、
『21ブリッジ』は、
正統派の王道ハリウッド・アクション映画です。
頭のキレる、タフな主人公が、
兎に角、走り回りながら、犯人を追いかける、
ある種、理想像のタイプのキャラクターの活躍物語です。
そして本作には、
時間制限みたいなものが設定されているもの、ポイントですね。
マンハッタンを封鎖するのは、
朝五時まで。
事件発生が12時、
犯人の行く先判明が1時なので、
残り、4時間で事件解決せねばならなりません。
故に、物語は、
テンポ良く、
怒濤の如くに進んで行きます。
ド派手でテンポの良いアクション!!
そうそう、これこれ、
ハリウッド映画と言えば、こういうの、
コレが観たかったんだヨ!!
アクションはやはり、
映画の華!!
何も考えずとも、
99分という上映時間中、
口を開けて楽しめます。
勿論、ちゃんと脚本も練られていますので、
例えば、
主人公の人種が黒人という事もあり、
そういった面からも、
考えさせる部分があります。
設定もキチンと作られているので、
安心して観る事が出来ますね。
久しぶりに、こういう派手な作品を観ると、
平和って、大事なんだなぁという気持ちにさせる、
改めて、
アクション映画の有り難みを感じる、
『21ブリッジ』は、そういう映画でもあるのです。
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『21ブリッジ』のポイント
テンポの良い刑事アクション
バディムービー
「正義」という信念の行使
以下、内容に触れた感想となっております
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バディムービー
久々公開のハリウッドアクション映画、
『21ブリッジ』。
本作は、黒人刑事のアクション映画であり、
相棒が白人女性というバディムービーでもあります。
バディムービー、
相棒二人が活躍するタイプの映画は古くからあり、
ある意味、鉄板であり、王道の一つだとも言えます。
『48時間』(1982)
『リーサル・ウェポン』(1987)
『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012)など、
黒人と白人のバディムービーをちょっと思い出すだけでも、
これだけあります。
しかし、
本作のフランキー・バーンズのイメージと言えば、
私が思い浮かべるのは、
『ストリーオ・オブ・ファイヤー』(1984)の、
エイミー・マディガン演じるマッコイです。
かつての恋人を救出せんとする、主人公トム・コーディの相棒は、
流れの軍人のマッコイ。
このマッコイの外見、
そして、タフでラフでクールな雰囲気が、
本作のフランキーと、そのまま重なります。
とは言え、
本作では、「相棒」感というより、
何となく、後に裏切られる時の失望感の方が大きいので、
その点は、他のバディムービーと違う所。
また、
本作がバディムービーと言える点は、
犯罪者側も、
マイケルとレイという、バディを組んでいる所です。
このマイケルとレイも、
黒人と白人という二人組であり、
レイが、マイケルの「兄」役を務め、
銃撃戦ではリードしながら、
他人との交渉では、
マイケルが話し役としてリードし、
ストーリーの目線も彼が中心だという、
複雑に絡みながらも、
ちゃんと、バディとして機能しているのです。
そして寧ろ、
犯罪者側のマイケルとレイのバディの方が、
刑事側のアンドレとフランキーのバディよりも、
相棒としては機能しているように見えるのが、
本作の面白い所です。
それは、
アンドレとフランキーが急造コンビだったという事もありますが、
相棒というよりも、
寧ろ、フランキーは、アンドレの「お目付役」であり、
アンドレは犯罪者を追いかけながら、
同時に、
相棒の脅威にも晒されていたという点が挙げられるからです。
この「バディ」の変則的な活用が、
本作の見所の一つとなっています。
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顔認証と監視社会
本作『21ブリッジ』、
犯罪現場から逃走するマイケルとレイが、
制限速度違反を犯し、防犯カメラに写真を撮られた事で、
顔認証システムにより忽ち身元が判明するシーンがあります。
まるで、SFの様な描写ですが、
実は、このシステム、
既に実用化がなされています。
例えば、
中国、南京では、
交通違反(横断歩道の信号無視など)を犯した人間を顔認証し、
約5秒ほどで身元を判明、
交差点の巨大ディスプレイにて違反時の画像、違反者の顔、氏名等をデカデカと晒し上げにするという監視社会が成り立っています。
現実として、
『21ブリッジ』で描かれた以上の情報出力速度があるのです。
個人情報の管理が厳しいアメリカや日本では信じられませんが、
個人の人権より、統制の方を重んじる中国ならではのシステムだと思います。
このシステムを開発したのは、
微博(ウェイボー:Weibo)、
中国のSNSでの最大手です。
必要性がある所に、
技術革新は炸裂して行くのです。
最近では、
店に入店時、
監視カメラに偽装した顔認証システムにより、
顧客の購買情報をビッグデータとして収集している、
なんてニュースもありました。
映画『エンド・オブ・バイオレンス』(1997)では、
監視カメラが暴力の撲滅を促す的な内容の作品でしたが、
最早、『AI崩壊』(2020)の様な社会は、
中国においては訪れていると言っても過言では無いのです。
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信念による正義の行使
私は、
クライマックスにて、悪人が命乞いをするシーンが好きなんですが、
皆さんはどうですか?
例えば、
漫画『ドラゴンボール』のナメック星編のフリーザとか、
『リベリオン』(2002)のラストシーンとかですね。
そして本作も、
ラストシーン、
5時を過ぎたアディショナルタイムにて、
アンドレに追い詰められたマッケナ警部が「言い訳」するシーンがあり、
本作の私のお気に入りのシーンとなっています。
以下、ラストシーンの内容に触れた感想となっています
麻薬取引を闇で主導し、
その上がりでバイト代を稼いでいた、
NYPD(ニューヨーク市警)85分署の面々。
事件の真相を葬る為に、
麻薬強盗犯のマイケルとレイを「警官殺し」の罪で追い詰め、
ほぼ無関係の下っ端チンピラを殺し、
85分署の資金洗浄をしていたアディをドサクサで口封じする。
自らが犯した罪を隠蔽する為に、罪を重ねて、
その挙句の口上が、
「それの何が悪い」。
悪いに決まっているだろう!!
マッケナ警部は言います。
「自分達は命懸けで街を守っているのに、住民は感謝や協力すらしない」と。
その背景には、
現実の事件として、
NYPDの汚職や、売春、麻薬取引、
また、黒人に対する暴行などが起こっており、
市民の警察に対する目の厳しさがあり、
また、
ニューヨークは人種が混在しており、
犯罪が実際に起こったとしても、
単純に関わり合いになりたくない人がいる一方、
同族意識で、警察に協力するより、
黒人なら黒人の、
ヒスパニック系なら、ヒスパニックの、
アジア系なら、アジア系の同胞の味方をする事も多い、などの要因があります。
マッケナ警部は、要するに、
自分達は命懸けでやっているんだ、
少しくらい、いい目を見ても、良いじゃないか、
そう言っているのです。
「桜を見る会」と同じですね。
私は最高権力者なんだ、
少しくらい税金を使っても良いじゃないか、と。
そして、
警官に協力しない住民が、
少しくらい不利益(麻薬汚染)を被っても、
それは自業自得だという理屈なのです。
自らの悪行を正当化し、
本来守るべき市民に非があると主張する。
事実を、
自分の都合の良いように解釈してみせるという行為は、
完全に、詭弁です。
まさに、
悪人の断末魔の言い訳ですが、
『検察側の罪人』(2018)のラストシーンでも、
キムタクが同じような事をしていました。
そして、これは、
劇中ではハッキリとは明言されませんが、
白人のマッケナが、
黒人のアンドレに対してそう言っている点に、
根深い人種差別の問題があると思われます。
白人が、
黒人に対して、
「お前達、潜在的犯罪者がどうなろうと知った事では無い」と、
言い放っている様に聞こえます。
これまた劇中では語られませんが、
マイケルが上司を殴って軍隊を不名誉除隊したという事件も、
劇中のマイケルの行動を観る限りでは、
何か、事情があったような、
例えば、
戦死した兄を(白人の)上官に侮辱されたのでは?
そういう風にも推測する事ができます。
あくまでも、妄想ですが。
本作では、
本来、正義側であるハズの刑事のバディより、
犯罪者側のバディの方が、
正しい形で描かれています。
レイはその死に際に、アンドレに言います。
「マイケルは俺とは違う、良い奴なんだ」と。
それは、心から言っている、
信頼している人間の言葉で、
「マイケルに手心を加えてやってくれ」と頼んでいるのです。
自らの命乞いなどせずに。
翻って、
アンドレはラストシーン、
フランキーに投降を促す時、
情や正義に訴えるより、
「子供は施設送り、何十年も刑務所に入り、家族に会えなくなるぞ」と、
あくまでも、利害関係と損得勘定によって、彼女の心を動かすのです。
そこには、信頼関係などありません。
黒人と白人の関係、
正義と、犯罪者との関係、
それが、奇妙に絡まり合ったのが、
本作の設定の妙だと言えます。
アンドレは、
マッケナ警部以下、
犯罪に関わった85分署の面々を次々と射殺して行きます。
それは、
観客にはフラストレーションの解放という恰好の感情移入シーンではありますが、
アンドレには、そういう私的感情というより、
厳格な正義の行使であるのです。
冒頭のシーンから連続する内務調査の場面で、
アンドレは言います。
ベトナム戦争に参加した前線の戦士でも、
銃を撃てたのは、3割だった、と。
働きアリでも、
実際に働いているのは、巣の全体の「1割」というデータがあるように、
それも、ちょっと考えさせられるデータです。
その3割は、
ただ命令だったからと唯々諾々と従ったのか、
或いは、
「俺がやらねば、誰がやる」という、
並外れた使命感からだったのか。
信念の為の正義の行使は、
個人的な感情や、復讐心とは無縁のもの。
それ故に、
他人の不正や私利私欲を罰する事が出来ます。
ですが、
そういう、厳格で清廉な使命感が、
本来は市民生活を守るべきなのに、
麻薬汚染で市民を脅かしていた警官を倒す事となり、
結果、
麻薬中毒者に殺された父の、
間接的な仇討ちとなっているのです。
市民を守るべき(目的)85分署の面々は、
自分の生活の為と嘯き、麻薬取引(手段)に手を染め、
厳格な目的の為に、手段を選ばないアンドレが、
故に、私的な復讐をも果たす事となる。
手段が目的と化した為に、
主客転倒した犯罪者(85分署)を、
信念の正義が裁きを下すというのが、
本作で描かれるクライマックスなのです。
よく有るハリウッドアクションとしても充分楽しめる本作『21ブリッジ』。
単純に楽しめますが、
バディムービー、
人種関係、正義と信念などのテーマに着目して観ると、
また、興味深い面に気付く、
そういう作品なのではないでしょうか。
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