時は1978年。
かつてカウボーイとして活躍しながら、今は引退の身のマイク・マイロ。マイクは、恩のある牧場主のハワードの依頼を受ける。メキシコで暮らす息子を、自分の下へ連れてきて欲しいと言うのだ。かくして、メキシコシティに向かうのだが、、、
監督は、クリント・イーストウッド。
本作で、監督業50年、監督作は40本になる。
最近の監督作に、
『アメリカン・スナイパー』(2014)
『ハドソン川の奇跡』(2016)
『15時17分、パリ行き』(2018)
『運び屋』(2018)
『リチャード・ジュエル』(2019) 等がある。
原作は、N・リチャード・ナッシュの小説『クライ・マッチョ』。
出演は、
マイク・マイロ:クリント・イーストウッド
ラフォ:エドゥアルド・ミネット
ハワード・ポルク:ドワイト・ヨーカム
マルタ:ナタリア・トラヴェン 他
先日紹介した映画『ハウス・オブ・グッチ』は、
物語が1978年から始まりますが、
奇しくも、
本作『クライ・マッチョ』も、
その物語の舞台は、1978年。
ノリとしては、
昔の話ですが、
まぁ、
メキシコが舞台という事で、
年月の違和感がありません。
更には、
これも先日紹介した、
リーアム・ニーソン主演の『マークスマン』とも、
メキシコと、少年との二人旅という共通点があります。
おそらくは意図して、
この両作品は、被せて公開したのだと思われます。
それはさておき、
『クライ・マッチョ』です。
本作は、
コロナの影響の下、
2020年に、メキシコシティにて撮影されたそうです。
どうやら本作は、
1988年に一度、
クリント・イーストウッド主演で映画が企画されましたが、
当のイーストウッドが断った為、紆余曲折。
2000年代には、
アーノルド・シュワルツェネッガー主演での話もありましたが、
それも頓挫。
そして、
今回、漸く映画化されたそうです。
老境に達した今なら、
『クライ・マッチョ』の主人公、
マイク・マイロを演じられると、イーストウッドは言ったそうです。
とは言え、
本作の撮影時のイーストウッドの年齢は、なんと90歳!!
これで創作意欲がまだ存在しているというだけでも、奇跡的。
まぁ、
実際の所は、
本作のイーストウッドは、
立ってるか、座ってるか、運転しているか、
そのどれかなんですけどね。
流石に、
激しいアクションや駆け足は、
もう無理そうです。
で、本作はどんな映画なのかと言いますと、
老人が抱く、理想的ファンタジー作品です。
最早、
アクションシーンを演じる事は出来ない。
それでも、
人生のシブさで魅せる事は出来るンだぜ!?
そういう事を表現した作品なのです。
ほら、
ライトノベルってあるじゃないですか。
異世界転生して、
ツンデレの可愛い娘が多数登場して、
ハーレム状態でウハウハする、アレです。
まぁ、
本作はハッキリ言うと、
その老人版ですね、ええ。
確かに、
映画として描いているテーマもありますが、
よれよりなにより、
老境に差し掛かった自分に対するご褒美の様な、
そんな理想の晩年を体現したと、
本作からは感じました。
本作『クライ・マッチョ』を我々が観るという事は、
いわば、
90歳でも頑張ったイーストウッドへ贈る賛歌であり、
そんな老人でも、
いまだに現役である彼の姿から、勇気を貰う。
そんな作品と言えるのかもしれません。
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『クライ・マッチョ』のポイント
老境の理想郷のファンタジー
老いて尚現役の、その姿から勇気を貰う
自分の現状を受け入れるという「強さ」
以下、内容に触れた感想となっております
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本当の強さとは?
『クライ・マッチョ』。
ぶっちゃけ、
クリント・イーストウッドが描く、
老人向けファンタジー映画と一言でまとまってしまう作品です。
課せられた使命を果たしつつも、
旅先で見出した理想郷にて、
安住を受け入れる。
これが、
クリント・イーストウッドが辿り着いた理想郷なのかもしれません。
それはさておき、
本作で描かれるテーマは、
至ってシンプルです。
マイクが連れ歩く、
少年ラフォ。
彼は、自らが飼っている鶏を、
「マッチョ」と名付けています。
鶏とは、チキンの事、
チキンとは「臆病者」の謂いです。
つまり、
「臆病者」を「マッチョ」と言っているのは、
他人から見ると、それは虚勢だと、
しかも、
自分ではそれに気付いていない分、
より、滑稽だと、
本作では描かれています。
まぁ、
鶏の「マッチョ」は、
映画本篇にて活躍しますが。
とは言え、本作のテーマは、
人間は、等身大の価値しかない。
過度に自分を大きく見せるより、
分相応の役割、現状を受け入れるべきだ。
それが、本当の強さだ、と、
そういう事を描いているのです。
若く、オラついた人間が観たなら、
「何を、老人の世迷い言を」と思うでしょう。
しかし、
90歳で、役を演じているという凄さ、
ただ、立って、座って、歩いている、
その佇まいだけで、
雄弁なる説得力があります。
どうやら映画の基になった原作では、
妻との裁判を有利に進める為の切り札として、
息子を利用しようとするハワードの企みを知ったマイクは、
ラフォをメキシコシティに返すそうです。
しかし、
本作のラストは、
その真逆。
マイクは、
ラフォをハワードの下に送り届け、
自分は、理想郷へと引き返します。
原作と映画を比較した場合、
確かに、
本作のラストの方が、より、作品のテーマに即していると思われます。
与えられた状況、
世界に突っ張ってみせるのが「マッチョ」ですが、
実際に、人生を重ねたマイクにとっては、
「そんなもの、何になる」と言った所。
むしろ、現状を乗り越えて見せろと、
そうして、
コツコツ実績を積む事が、
本当の強さだと、
そして、
どうしても駄目なら、
俺が力になる、と言っています。
何も無い所に飛び出す蛮勇は、
若者ならではの特権ですが、
しかし、
本作で描かれるのは、
虚勢を張らない、
現状をそのまま受け入れるという勇気、
その強さです。
夢と希望を抱き、
グイグイ行く事だけが、勇気では無い。
真の強さとは何か、
それを、
老人目線で語った物語、
それが『クライ・マッチョ』です。
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