「アンブレイカブル」な肉体を持つデヴィッド・ダンは、夜な夜なチンピラを粛正する自警活動を行っていた。そしてある日、凶悪な誘拐犯と遭遇する。彼は解離性同一性障害(多重人格)であり、超人「ビースト」の人格を擁するケビン・ランデル・クラム。『アンブレイカブル』と『スプリット』の対決が始まるが、、、
監督はM・ナイト・シャマラン。
インド出身。
彼の独特の演出、展開は、
「シャマラン・ムービー」として一部の特定ファンに親しまれている。
主な監督作品に
『シックス・センス』(1999)
『アンブレイカブル』(2000)
『サイン』(2002)
『ヴィレッジ』(2004)
『レディ・イン・ザ・ウォーター』(2006)
『ハプニング』(2008)
『エアベンダー』(2010)
『ヴィジット』(2015)
『スプリット』(2016)等がある。
出演は
ケビン・ウェンデル・クラム(他23の人格):ジェームズ・マカヴォイ
デヴィッド・ダン:ブルース・ウィリス
イライジャ・プライス/ミスター・ガラス:サミュエル・L・ジャクソン
エリー・ステイプル(医師):サラ・ポールソン
ケイシー・クック:アニャ・テイラー=ジョイ
ジョセフ・ダン:スペンサー・トリート・クラーク
イライジャの母:シャーレイン・ウッダード 他
主要キャストは過去作と共通しているのが、嬉しい所です。
2000年に公開された(日本では2001年)、
『アンブレイカブル』。
観客にはそれなりの評価を得ましたが、
興業的なヒットには及ばず、
元々は3部作のアイデアもあったとの事ですが、
その後、続篇が作られる事はありませんでした。
しかし、
『スプリット』(2016)のラストにて、
『アンブレイカブル』のデヴィッド・ダンが登場、
エンドクレジット後のオマケにて、
『スプリット』の続篇が、『アンブレイカブル』と繋がると示唆されました。
つまり、19年の時を経て、
『アンブレイカブル』の続篇として実現し、
しかも、
いつの間にか3部作の完結篇的な位置に置かれている作品、
それが本作『ミスター・ガラス』なのです。
実質3部作の、
『アンブレイカブル』
『スプリット』
『ミスター・ガラス』。
本作『ミスター・ガラス』は単体でも楽しめるのか?
そう問われると、少々厳しいです。
『アンブレイカブル』もしくは『スプリット』
最低でも、どちらかを鑑賞している事が最低条件となります。
(念のため、下の方に過去作のあらすじを書いておきます)
そして、作品としては、
『アンブレイカブル』の世界に、
『スプリット』のケビン・ウェンデル・クラムが、悪役として参加した、
そういう雰囲気となっております。
なので、
『スプリット』的なサイコ・スリラーを期待すると、
毛色の違いに戸惑う事となります。
しかし、
『シックス・センス』や『アンブレイカブル』からのシャマランファンや、
もしくは、
『ヴィジット』や『スプリット』でシャマランを最近知った人なら、
彼の独特の演出、
そして、
いつも通り「意外なオチ」が待ち構えていますので、
その点に満足する事は間違い無いです。
さて、
本作は『アンブレイカブル』V.S.『スプリット』。
期待通り、
デヴィッド・ダンとビーストのアクションシーンはありますが、
その対決をメインに据えつつ、
描くテーマは別の所にある印象です。
なので、
ど派手なバトル・アクションを期待すると、
それは裏切られる事になります。
アクションも確かにある。
でも、
この映画はシャマラン・ムービー。
観る人の好みを選ぶ傾向があり、
その事を理解して観る必要があります。
私?
私、実は『アンブレイカブル』は未見で、
何となくネタバレで内容を知っている程度です。
しかし、
『シックス・センス』
『サイン』
『ヴィレッジ』
『スプリット』を観た程度の私でも、
本作は十分楽しめるシャマラン・ムービーとなっております。
初見の人が、イキナリ本作のみを観て楽しめるのか?
それは疑問ですが、
もし、そういう人がいるなら、
それは間違い無くシャマラン・ファンの素質があります。
いつも通りのシャマラン・ムービー。
いつも通りの、ちょっと変わった映画。
しかし、
なんとなくちょっと豪華な出演陣で、
監督のファンにはお得感のある作品、
それが『ミスター・ガラス』なのです。
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『ミスター・ガラス』のポイント
『アンブレイカブル』と『スプリット』の共演
スーパーヒーローは存在するのか?
シャマラン的、オチの妙
以下、
『アンブレイカブル』と『スプリット』のネタバレ有りのあらすじの後、
『ミスター・ガラス』の内容に触れた感想を書いて行きます。
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『アンブレイカブル』(2000)あらすじ
フィラデルフィアで起きた列車事故。
100人を超す死者を出した大事故にて、唯一デヴィッド・ダンは生き残った。
しかも、かすり傷一つ負わずに…
そんな彼の元に、コミックコレクターであり、
その生涯にて何度も骨折を繰り返して来た、体が人一倍脆い男、
イライジャ・プライスが訪ねて来る。
イライジャは、デヴィッドこそ、自分が探し求めて来たスーパーヒーローだと断言する。
デヴィッドはそれを否定するが、
彼自身、怪我も病気もしない自分に気付いており、
しかも、危険人物に触れた時に、その思考が映像として読み取れる能力にも覚醒する。
彼は、その能力で犯罪者を見つけ、対処する。
自分の存在意義を知ったデヴィッドは、イライジャに礼を言いに行くが、
実は、そもそもの列車事故は、イライジャがスーパーヒーローを探すために仕組んだものだと知ってしまう。
デヴィッドは、通報し、イライジャを精神病院に送り込む。
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『スプリット』(2016)あらすじ
女子高生のケイシー・クックは、
クラスメイトのクレア、マルシアと共に、突如、拉致され、監禁される。
犯人は、
解離性同一性障害(多重人格)のケビンの中の人格の一人、デニス。
24もの人格を持つというケビン。
それぞれの人格は、体の操作権を持つ行為を、照明(スポットライト)の下に出ると言い、
少年や女性、潔癖症など、多数の人格をケイシーらに見せる。
ケビンの24番目の人格は「ビースト」。
ビーストはケビンの人格の一部の集団に信奉されており、
不純な女性を彼の生贄に捧げる為に、ケイシーらは拉致されたのだ。
一方、ケビンの理解者である、精神科医のフレッチャーは、
ケビンの様子がおかしい事に気付き、女子高生失踪事件と絡め、彼を追求する。
彼女はケビンの家で、誘拐された女子高生を見つけるが、
ビーストの前に、クレアも、マルシアも、フレッチャーも殺されてしまう。
壁を這い、銃弾も効かず、鉄製の檻を素手でねじ曲げるビースト。
ケイシーは追い詰められるが、しかし、
ビーストはケイシーが自分と同じ存在、
過去に虐待を受けた経験があると知る。
彼女は純粋だとビーストは言い、ケイシーを見逃して、外の世界へと去って行く。
ビーストの信奉者は、
ビーストの存在が世界に革命を起こすと信じているのだ…
そして、
女子高生誘拐事件をダイナーのTVで見つめる男がいた。
彼の名は、デヴィッド・ダン…
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3部作完結篇としての『ミスター・ガラス』
『アンブレイカブル』と『スプリット』を繋ぎ、
過去の2つの作品を含め、
3部作としてまとめた完結篇となるのが本作、
『ミスター・ガラス』です。
『スプリット』のラストシーンにて、
ダイナーで食事をするデヴィッド・ダンの隣の客はTVを観つつ、
15年前の事件(フィラデルフィアの列車事故)を思い出します。
その時、車椅子に乗った犯罪者の事に言及し、
そいつの名前は「ミスター・ガラス」だ、
とデヴィッドは指摘するのです。
本作の題名『ミスター・ガラス(原題:Glass)』は、
そのデヴィッドの発言を受けて付けられています。
しかし、それだけではありません。
『アンブレイカブル2』でも無く、
『続・スプリット』でも無い、
本作は、
デヴィッド・ダン、
ケビン・ウェンデル・クラム、
そして、
ミスター・ガラスこと、イライジャ・プライスの3人の主役が存在する、
謂わば、
シャマラン版アベンジャーズとでも言える作品であるのです。
超人的な身体能力を持つ、
デヴィッド・ダンとビースト。
彼達をスーパーヒーローと、イライジャは信じて疑いません。
そして、
人一倍脆い骨を持つ代わりに、
明敏な頭脳を持つ自分も、
ある種のスーパーヒーローであり、彼達に並び立つ存在だ、
そういうイライジャの主張が、
本作の題名に『ミスター・ガラス』として現われていると言えます。
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スーパーヒーロー像
さて、本作のスーパーヒーロー像には、
独特の描写というか、
コミック的なお約束を観る事が出来ます。
それは、
「スーパーヒーローには必ず何らかの弱点がある」
というものです。
デヴィッド・ダンは水。
ケビン・ウェンデル・クラムは、
解離性同一性障害による人格の転換が強味であり、
しかし、弱点でもあります。
そして、ミスター・ガラスは、
脆い骨。
圧倒的な能力を持つスーパーヒーローが、
弱点を突かれて、一転、危機に陥る。
最も有名なアメコミヒーローである「スーパーマン」にも、
「クリプトナイト」という弱点があります。
本作は、
そういうアメコミのお約束を踏襲しているのですね。
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コミック的展開のお約束
また、コミックのお約束と言えば、
そういうコミック的な展開を知っている事を、
予め織り込み、
言わず語らずに済ましているシーンも観られます。
イライジャの母はコミックの「限定版」について言及します。
これはつまり、
「限定版」では、
コミックの別々の主人公が集合し、
最初は仲違いしながらも、
最後には共闘する、
そういうものがあります。
つまり、
デヴィッドも、ケビンも、イライジャも、
最後には協力し、ハッピーエンドに向かうハズだという、
母の願いが込められているセリフとなっているのです。
また、
ジョセフ、ケイシー、イライジャの母が、
ステイプル医師と面談している場面で、
ケイシーにはこんなセリフがあります。
「最初のスーパーマンには、飛行能力は無かった」と。
一見、
前のセリフと繋がらず、
そして、
その後にこのセリフをフォローする事も無く、
意味の無い、浮いたシーンの様に思えます。
しかしこのセリフは、
ステイプル医師の「特殊能力など無い、進化した人類など存在しない」というセリフを受けたものであり、
ケイシーがこのセリフを言ったのは、
「特殊能力というものは、設定により追加される」つまり、
「今は持っていなくても、特殊能力は、後からいくらでも獲得出来る」という事を反論として挙げているのです。
進化は存在する、と、ケイシーはステイプルに言っているのですね。
また、デヴィッドを補佐する息子のジョセフは、
コミックのみならず、
ヒーロー作品において不可欠な存在、
主役を補佐するコンパニオンの役割を果たしています。
コミックで言うと、
「バットマン」に対する「ロビン」みたいなものですね。
そういうコミック的展開、
コミック愛を、本作からは感じる事が出来ます。
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驚異のオチ!!
さて、
お約束と言えば、
シャマラン・ムービーにおいては、
「意外なオチ」というものがあります。
そして本作は、
数あるシャマラン・ムービーの中でも、
オチの破壊力が大きい作品となっています。
以下、本作のオチのネタバレが含まれています
先ず一つ目が、「列車事故の真相」。
ビーストは、脆い存在であるミスター・ガラスを無垢の存在と見做し、
彼の為に戦うと宣言します。
謂わば、
ミスター・ガラスは猛獣使い(ビーストテイマー)になる訳ですが、
しかし、
意外な真相がデヴィッドの息子、ジョセフにより暴露されます。
ケビンは、
母により虐待を受けていた。
では父は何をしていたのか?
ケビンの父は、
デヴィッドが乗って事故にあった、
あの列車の乗客の一人だったのです。
つまり、
ケビンの多重人格の発症にミスター・ガラスは関わっており、
あの事故で、
デヴィッド・ダンとビーストという、
二人のスーパーヒーローを作った事になります。
これは、かなりの衝撃です。
普通、ネタの再利用というのは、陳腐な展開になりがちですが、
本作では、
『アンブレイカブル』の大オチを、
『スプリット』の因縁と繋げるというアクロバティックな展開で伏線を回収し、
説得力のある「意外なオチ」の形成に成功しています。
この「オチ」は、後付けなのか、
元々考えていた「ネタ」なのかは定かではありませんが、
過去作を知っているシャマラン・ファンならば、
あっと驚く展開であると言えるでしょう。
二つ目のオチが「謎の組織」。
世界には、
イライジャが信じた通りに、スーパーパワーを持つ人間が存在した。
しかし、
彼達は、人間社会に自分達の存在を隠す為、
各地をジプシーの様に回り、
目立った能力者を粛正するという邪悪な存在だったのです。
デヴィッド、
ビースト、
ミスター・ガラスと、
クライマックスにて、
次々に処理されて行く彼達の姿に、
物悲しい衝撃を受けます。
オチとしては、やり切れない展開ですが、
シャマラン・ムービーを観慣れたシャマラン・ファンならば、
「ああ、この展開も、シャマランならあり得るな」
と、妙に納得して、受け入れてしまうのです。
今回は、
「意外なオチ」の為に、
イキナリ、ラストでぽっと出て来た謎の組織に全て覆される。
そういう展開を採用したのか、
と、勝手にシャマラン・ファンは察してしまうのです。
オチも二つ目だし、
これで映画も終わりなのかな…
そう思ったシャマラン・ファンの予想をさらに裏切るのが、
最後の三つ目のオチ、「黒幕ミスター・ガラス」です。
本作の題名が『ミスター・ガラス』、
本篇中に観られた、数々の行動、
そして、
今際の際(いまわのきわ)に吐いた
「これは、最初からオリジン・ストーリーだ」というセリフ。
後から考えると、
ミスター・ガラスの行動は、
オチに向けて一貫性があったのだと、気付きます。
そもそも、
ミスター・ガラスの、
デヴィッドやビーストを巻き込んだ脱出劇は、
最初から死を覚悟した特攻(suicide mission)だったのです。
その目的は、
スーパーヒーローの能力を世間に知らしめる事だった!
イライジャの夢は、
「スーパーヒーローの実在を証明する事」。
『アンブレイカブル』はその物語であり、
「最初からオリジン・ストーリー」というセリフも、
自分の行動は、スーパーヒーローの誕生を意図したモノだ、
という意思と行動原理の現われなのです。
2番目のオチで終わったら、雰囲気が暗いままで劇場から出る事になります。
しかし、
3番目のオチ、
権力者の鼻を明かし、
自分の意思を貫き、
彼達の存在に意義があったのだと終わるのは、
ある種の救いがあります。
シャマランなら、バッドエンドもあり得る。
そういうファンの予想を逆手に取ったどんでん返し、
だからこそ、
シャマラン・ファンなら、なお一層の爽快感があるのです。
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『アンブレイカブル』とサミュエル・L・ジャクソン
『ミスター・ガラス』は、
こと程然様に、
シャマラン監督のコミック愛に溢れた作品となっています。
ある意味、
「ミスター・ガラス」は、シャマラン監督自身とも言えるのではないでしょうか。
因みに、シャマラン監督、
作品の最初の方にて、ジョセフから商品を買う客の役にて出演しています。
役名は「ジャイ」。
『スプリット』、
そして、
『ヴィレッジ』にも同名で出演しています。
もしかして本作は、
『アンブレイカブル』『スプリット』のみならず、
シャマラン作品は全て共通の世界観で繋がっている、
そういう事を示唆しているのかもしれません。
閑話休題。
『アンブレイカブル』公開当時。
観た人には評価は高かったですが、
「コミック的なスーパーヒーロー?ぷふっ」
的な感じで、そもそも観客動員が、
思ったよりも伸び悩んだという経緯があります。
まだ、当時(2000)は、
アメコミヒーローをフューチャーした作品には、
今程、市民権が得られていなかったのです。
映画『X-メン』の公開が2000年。
現代のアメコミ映画隆盛の走りとなった作品と、
同年の公開。
その後アメコミ映画は、
『スパイダーマン』(2002)の興行的大ヒット、
『ダークナイト』(2008)の批評的な高評価を経て、
『アベンジャーズ』(2012)にて世界興行収入の歴代3位(当時)を稼ぎ、
全世界的に市民権を得る事になります。
その『アベンジャーズ』の世界観、
マーベル・シネマティック・ユニバースにて、
スーパーヒーローを結集させる黒幕的な存在として暗躍したのが、
ニック・フューリー。
それを演じたのが、
本作でミスター・ガラスを演じたサミュエル・L・ジャクソンなのです。
サミュエル・L・ジャクソンと言えば、
1990年代当時の、
エンタメ映画の黒人と言えば、
陽気なお喋りのムードメーカー的なイメージを、
『パルプ・フィクション』(1994)でのクールでスマートな演技にて、打破した存在と言えます。
エンタメ映画での黒人イメージに新風を吹き込み、
アメコミ映画を牽引する様々な作品に出演し、
アメコミ映画を世に知らしめた、
サミュエル・L・ジャクソン。
その彼が演じる、ミスター・ガラス。
『アンブレイカブル』公開当時と違って、
現在、
映画において、スーパーヒーローは何たるかを語る事に、
偏見はほぼ無いと言えます。
つまり、
「スーパーヒーローを世に知らしめる」というミスター・ガラスの宿願は、
現在、ある意味においては果たされているのです。
それも、サミュエル・L・ジャクソンという、
これ以上無い適任によって。
『ミスター・ガラス』は、
アメコミ映画が隆盛を極める現代において、
その状況を素直に喜ぶシャマラン監督がアメコミ愛を溢れさせ、
「今なら、出来る」と、
自分の長年の宿願だった、
自らのヒーロー映画『アンブレイカブル』の再生と再評価を狙った作品でもある、
『ミスター・ガラス』は、
そう言えるのかもしれませんね。
因みに、
数々の映画に出演しているサミュエル・L・ジャクソン。
私は、悪役に扮した彼が好きです。
特に、
ダメージを喰らって、
「アーーッ、ファッ、ファッ」と呻き、
「F**K」とか口汚い言葉を連発するシーンが最高です。
皆さんはどうですか?
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