映画『JUNK HEAD』感想  異形のディストピア!!これが執念のSFアドベンチャーだ!

遠い未来。
変異ウィルスの影響で不老不死に近い肉体を得た人類は、代わりに生殖機能を失い、絶滅の危機に瀕していた。
地上で享楽的な生活を送る人類。
一方地下では、かつて、クローン技術により人間により創造され、労働力として使役されながらも、独立を勝ち取った生物種「マリガン」が独自の進化を辿っていた、、、

 

 

 

 

 

監督は堀貴秀
2013年に一人で制作した、短編『JUNK HEAD 1』(30分版)を元に、
3~4人の少人数にて、追加の70分を制作。
長編『JUNK HEAD』は2017年に完成し、海外で様々な賞を獲得。
本作は逆輸入的に、2021年3月26日に日本で劇場公開にこぎ着けた。

 

 

 

かつて起きた、ゲーム機の覇権争い。

その一つに、
「セガサターン vs. プレイステーション」という構図がありました。

当時、
というか、今もですが、対戦格闘ゲームが好きだった私が選んだのは、
「セガサターン」。

しかしゲームユーザーは、2D表現では無く、
より新しい3D表現に魅力を感じ、

人気RPGの続篇などがこぞって参入したことも相俟って、

時代が選んだ勝者は「プレイステーション」となりました。

 

選んだ道が、偶々時代にそぐわないのか、
はたまた、判官贔屓として、敢えて「負け確」の方を嗅ぎ取っているのか、

それは定かではありませんが、

私個人の嗜好はその後、
「ドリームキャスト」→「XBOX」へと進んで行きます。

 

今思えば、私の場合、
こういう「人生の選択」を悉く間違うというのは、
「セガサターン」から端を発しており、

あの頃「プレイステーション」を選んだ人間のその後と比べると、
人と違う分、苦難に満ちたモノとなってしまっている様に感じます。

 

しかしそれも、
自分で決めた事だから、敢えて受け入れるしか無いと、
悪を成さず、多くを求めず、
『ふしぎの海のナディア』のエンディングテーマの『Yes, I will…』みたいな事を日々思って、

孤独に歩んでいる訳ですよ、「林の中の象のように」ね、、、

 

 

と、言うわけで、
本作『JUNK HEAD』です。

監督の堀貴秀氏は、
芸術家を志し、様々な制作活動を試すが長続きしなかったとは、本人の談。

しかし、パソコン1台あればアニメを作れると知り、
映像制作の知識な無かったが、アニメ映画を作る事にしたと言います。

だが、そこで目指した方向性が、

3DCGアニメでは無く、
何故か、ストップモーションアニメーション!?

 

この時点で、結構意味不明です。
だって、人形作って、ミニチュアのセットを実際に手造りして、
1秒24コマだっていうから、
ほんの少しずつ動かして、
その労力で、
一日に作れるのは、たったの9秒という狂気!!

自宅に工場があるとは言え、
素直に、3DCGアニメを勉強した方が、
楽でお金もかからなかったのじゃあないのか?

 

しかし、
短篇の『JUNK HEAD』から含めると、
足かけ7年かけて制作し、
劇場公開までは11年強の時間がかかっている本作、

実際、面白いのかどうかと問われると、こう言うしかないですね。

 

バツグンに面白い!!忖度無し!!

 

 

不老不死となったが生殖機能を失い、
地上で享楽的で退廃的な生活を送る人類は、
新たなウィルスの脅威にさらされ、
絶滅の危機に瀕していた。

打開策として、
地下で独自の進化を遂げたマリガンを調査し、
その遺伝子を持ち帰るミッションを計画した。

その公募に名乗り出たのは、主人公のパートン。

眠った様に生きる日々の生活に飽きていたパートンは、
冒険に心を躍らせ、地下世界へと赴くが、、、

 

 

本作、
一見して解りますが、
先ず、作り込みが凄い!
その背景に心躍らされます

配線、配管、ダクト、階段、壁のシミ etc…

鉄鋼工場を観る時の、ワクワク感と言いますか、
ゴチャゴチャした過剰な機能美と言いますか、

執念にも似た美意識を感じます。

 

そして、世界観。

少人数で制作している為、
作者の趣味嗜好が、モロに反映していますが、

これも又、まぁ凄い。

その昔、
セガサターンのゲームに『バロック』(1998)というゲームがあり、
2020年、ニンテンドースイッチにも、当時のまま移植されました。

本作はその、

『バロック』の世界観を探索する、
『BLAME!』といった様相。

 

『BLAME!』の作者は二瓶勉。
フル3DCGにて劇場アニメ映画化もされたSF漫画です。

例えが局所的すぎて、解らない人も多いと思いますので、
より万人向けに言い直しますと、

グロさとブラックユーモアに彩られた、
SFアドベンチャー

 

と言った所でしょうか。

合わない人には、
合わないでしょう。

しかし、
私には、どストライク。

『バロック』や『BLAME!』のみならず、
様々な先行する作品の要素を取り入れており、

それでいて、
オリジナルに昇華している所が、本作の凄さ。

 

さらに本作は、
登場するキャラクターも、魅力的。

独特のグロ可愛いさがあり、

ちょっと出のモブキャラでさえ、
異彩を放っています。

 

そうそう、コレコレ、
こういうのが、観たかったんだよ

『孤独のグルメ』の井之頭五郎なら、そう言うね!!

 

海外でも、
スタジオライカという、
ストップモーションアニメーション専門のスタジオがありますが、

それと比べても、本作は遜色ない出来と言えます。

 

 

冒頭、何か良く分からないことが起こって、
ちょっと戸惑いますが、

スグに世界観に惹き込まれ、
それからは、もう、無我夢中に観入っていました。

上映時間1時間40分があっという間

観終わった後、
「え?もう終わり?食い足りないな…」

 

と、思ってしまいます。

こんな感覚、何年ぶりだろう。

 

今時、3DCGでは無い、
ストップモーションアニメーションという困難な道に挑戦して、
これを成し遂げた、
もう、本当に凄いデスね。

 

さて、大絶賛の本作に、
敢えて、苦言を呈するなら、

実は、ちゃんと完結していない所ですかね。

まるで、
週刊少年ジャンプの打ち切り漫画の様に、
「俺達の戦いはここからだ」みたいな終わり方をします。

 

どうやら、制作資金が尽きたそうで、
パンフレットがバカ売れしないと、
続篇もままならないそうです。

 

どうやら3部作であるらしい本作、

「エヴァ」も終わった、
「アベンジャーズ」も終わった、

それでも、
我々には『JUNK HEAD』が残っている!!

続篇と完結篇を観るまでは死ねない!?
そう思わせてくれる作品と言えるでしょう。

 

 

 

  • 『JUNK HEAD』のポイント

グロブラックユーモアSFアドベンチャー

圧倒的な執念、作り込まれたセット

少人数制作故の、世界観モロ出しの拘りの凄さ

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 


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  • 先行作品の影響

本作『JUNK HEAD』については、
多くを語れないというか、
兎に角観ろ、観れば、解るさ
といった内容なので、
ネタバレ無しの解説で、殆ど言いたい事は伝えている感じはします。

それでも敢えて、多少の付け加えの解説を行ってみたいと思います。

 

セガサターンのゲーム『バロック』は、
退廃した世界観の中、
「神経塔」という場所の最深部を目指し、
異形と呼ばれるクリーチャーと戦いながら地下に潜って行く、
ローグライクのアクションアドベンチャーゲームです。
塔なのに地下に潜るという設定がご愛敬)

1998年にオリジナル版がリリースされ、
プレイステーションや
プレステ2、Wiiなんかにも移植されましたが、

私は、
ポリゴン映像がグチャグチャなオリジナル版が、
最も雰囲気があって好きです。

で、今回、
『JUNK HEAD』を観て『バロック』を思い出したので調べてみたら、
2020年に、ニンテンドースイッチにダウンロード版がリリースされていた模様です。

『JUNK HEAD』を気に入った人で興味がある方は、
是非、『バロック』もプレイして欲しいですね。

 

その『バロック』的な世界観の中を、
ネット端末遺伝子を求める、
漫画『BLAME!』の主人公・霧亥の如くに、
本作の主人公・パートンは、進んで行きます。

本作の地下世界の世界観というか、背景は、
『BLAME!』で描写されたメガストラクチャーのイメージと重なる部分があり、

それこそ、
本作のどこか別の場所では、
霧亥がネット端末遺伝子を求めて彷徨っていると言われても過言では無いと思います。

 

『バロック』や『BLAME!』だけではありません。

本作に影響を与えたと思われる作品は多数あり、

先ず冒頭は、
映画化もされた、漫画『銃夢』の影響が見てとれるし、

地上の退廃的な世界観は、
映画『ブレードランナー』(1982)的な感じもします。

クライマックスでパートンを助ける
フランシスとジュリアンは、
漫画『北斗の拳』のライガ、フウガを思い起こさせます。

クリーチャー造型は、
映画『エイリアン』(1979)や
映画『リバイアサン』(1989)、
漫画『寄生獣』(1988~1995)もそうですが、
映画『ナイスの森~The First Contact~』(2006)のキモグロシュールシーンのクリーチャーを、私は思い出しました。

 

これら、
先行する名作SF作品の影響を受けながら、
ライトノベルなどでよくある、
登場人物が語る、唐突なジョジョネタみたいな借り物具合では無く、
ごく自然に、本作ではイメージが融合しています。

このリスペクトとパクリの境界が、
作品が傑作か駄作かの印象の線引きとなりますが、

その分本作は、
独自の世界観が確固として成り立っているので、
そのパーツとして、上手い具合に嵌っているのです。

 

あと、

エンドクレジットがまた、興味深いですね。

本作は、登場人物が、
謎の言語を語っており、
全篇字幕なのですが、
その声優のキャストが、ほぼ、「堀貴秀」。

その他にも、
監督、原案、脚本、絵コンテ、編集 etc…
少人数の制作故に、
殆ど、名前が「堀貴秀」だったのが面白いです。

(主要メンバーは、堀貴秀、杉山雄治、牧野謙、三宅敦子の4人)

まるで、
ゲームの『エルミナージュ』のエンドクレジットの
「五十嵐大介」無双を思い出しましたね。

 

  • キャラクターの魅力

本作は、その独特の世界観と、
それを支える背景セットの説得力がが一番の魅力だと個人的には思いますが、

更に、
その世界観の中で、生き生きと行動する、
各キャラクター設定もまた、魅力的です。

 

先ず、主人公のパートン。

「転石苔むさず」という格言がありますが
それを地で行くキャラクター。

本来の人間顔、
仮面、
マスク、
初期の丸顔、
がらくたロボ、
後期の丸顔 と、
頭の見た目だけでも6変化。
正に、ジャンクヘッド。

元々、地下を探索する動機も高尚なものでは無く、
何となく、カッコ良いから、
というのが何とも、
俗人っぽくて、良いですね。

俗人っぽくありながら、
「変わらない日常を打破したい」という、
ある種、人間の根源的な欲求というか、冒険心みたいな所に、
観る人の感情移入を促すところも、ポイントが高いです。

 

また、冒頭で出て来た、コミカルな3人組が、
実はスゴ腕のハンターだったという、
地獄の3鬼神こと、
アレクサンドル、
フランシス、
ジュリアン。

普段はバカっぽくても、
やる時はやるみたいなノリは、
黄金期のジャンプ漫画を彷彿とさせ、

まるで、
『CYBORGじいちゃんG』みたいに、
クライマックスで筋肉バリバリに変身した時には、
テンション、アガりましたね。

 

他にも、
詐欺師のトゥリックや、
バルブ村の職長とそのゴマ摺り部下、
お尻が顔になっている、凶悪な野生マリガンのスパイク
実は、巨大生物だったという、8番管の巨大マリガン etc…

モブキャラであっても、一見して忘れ難い印象を残します。

 

このキャラクター性、
パンフレットの監督の言葉によると、
どうやら、役割や欲望といった行動原理を先に決め、
そこから導き出される形で、個性や行動を決めていったといいます。

こういった、
緻密な制作重視な視点から、
逆に魅力的なキャラクターが生まれているのが、興味深い所ですね。

 

  • みんな、パンフレットを買おう!!

本作、実際には、途中で終わってしまいます。

観終わった瞬間、
「え~、これで終わり!?」っていう、
何か、
もの凄く面白かっただけに、
中途半端で終わってしまって、食い足りない感覚が残ってしまいます。

 

それもそのはず。

どうやら、制作費が尽きてしまったようなのです。

続きを作るには、
映画がヒットする事は勿論ですが、
パンフレット(1500円)も売れて欲しいそうです。

私なんかは、
鑑賞当日は、劇場でパンフレットが売り切れていたので、
後日、再入荷時、
片道1時間半の道のりを、
パンフを買うだけに、もう一度訪れました。

私の場合、
会員カードの割引価格で鑑賞したので、
映画鑑賞料金よりも、パンフレットの方が高額という逆転現象が起きてしまいました。

 

さて、
そうまでして購入したパンフレットですが、
個人的には、満足方面の内容です。

 

映画パンフレットでよくある、
何処の誰とも知れない人の、
毒にも薬にもならない、意味不明のポエム的な解説は無く、

簡単な世界観の設定の解説、
制作過程、制作現場の写真、
制作に使った機材、工房の紹介、
ストーリーやクリエイティブと、制作時間、資金との兼ね合いの話、
スタッフの言葉 等、

映画そのものについて知りたい事が、
直接的、実際的に含まれています

 

対戦型のゲームなどでは、
戦略のネタバレは、
なんだかんだ言っても、門外不出ですが、

本作のパンフレットでは、
その制作過程のノウハウ(の一部)を、惜しげも無く披露しています。

まぁ、ストップモーションアニメーションという性質上、
制作のネタバレをした所で、
本作以上のモノを作ろうとしても、
凡人には不可能な領域だという事が知れるだけでも、

パンフレットを購入する意味があるというものです。

 

もっとこういう、
映画のオーディオコメンタリーみたいな感じの、
制作者目線のパンフレットが増えれば読み応えがあり、
面白いと思いますね。

 

 

 

少人数の制作故に、
監督の趣味嗜好、拘りが、モロに反映されている奇作『JUNK HEAD』。

本作は、
その執念故に、
単なる自己満足を超えた、
何処か、人間の欲望、欲求、希望といった普遍的なモノが、
バシバシと伝わって来ます。

その世界観、
キャラクター、
奇想天外なストーリー展開、
これが、私の観たかったものなのだと、
自分でも知らなかった世界を発見させてくれた感があります。

観ている途中ま夢中になり、
観終わった後も、「ああ、続きを観たい」と強烈に思わせる、この魅力。

ハマる人は、極ハマりする事間違い無しの本作『JUNK HEAD』は、
新たなる傑作の誕生だと、言えるのではないでしょうか。

 

 

 

本作に影響を与えた!?セガサターン版『バロック』の設定資料集はコチラ


 

 


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