アーカーシュは盲目のピアニスト…を装っている!
芸術の追究という名目の元、他人を欺いて暮らしていた。
そんなある日、往年の名優プラモードの家に呼ばれ、妻へのサプライズ・プレゼントとして演奏をして欲しいと依頼される。
当日、家に向かったのだが、妻のシミーに招き入れられた室内には、プラモードの死体があり、それを「目撃」してしまう、、、
監督は、シュリラーム・ラガヴァン。
インド出身。
監督作に
『エージェント・ヴィノッド最強のスパイ』(2012)
『復讐の町』(2015)等がある。
出演は、
アーカーシュ:アーユシュマーン・クラーナー
シミー:タブー
ソフィ:ラーディカー・アープテー 他
インド映画って、どんなイメージ?
というと、
歌って、踊って、面白く、楽しく、人情ドラマもアクションもあって、
てんこ盛りの満漢全席!
個人的には、
そんなイメージを持っていました。
しかし近年は、
確かに、従来の豪勢な盛り盛り映画もありますが、
割と、ハリウッド的な、
普通の、解り易い、一直線の映画も、増えた様な印象があります。
コレが、グローバル化の弊害か!?
広く、一般に訴求出来るのは良い部分ではありますが、
一抹のさみしさも感じる、今日この頃。
という訳で、本作、
『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』です。
本作は、
盲目(を装う)ピアニストが主役級に据えてありますので、
音楽のシーンは、割と多いです。
しかし、
踊りはありませんし、
基本は、サスペンス。
そう、
割と、ガチンコなミステリ、サスペンスとなっているのです。
盲目を装うピアニストが、殺人を目撃!?
さぁ、大変!!的なコメディに寄せる事も可能だったでしょう。
或いは、
盲目を装い、芸術を信奉し、自分勝手に生きて居た男が、
真実の愛に出会い、
改心する、的なヒューマンドラマにする事も可能だったでしょう。
丁度、今年公開された『イエスタデイ』の様に。
しかし、
逃げなかった。
「盲目」で、人を謀(たばか)る主人公、
そんな彼が巻き込まれる、殺人事件。
他殺死体が目の前にあるという非日常を、
似非ヒューマニズムや、
お笑いにて茶化さず、
虚実入り乱れた、ミステリ的な展開のサスペンスに終始しているのは、
本作のガチな所であり、美点なのです。
さて、
そうは言うものの、
速攻で、前言を翻すようですが、
本作は、
そこかしこに漂う、ユーモアというか、陽気さというか、
ブラックな笑いに満ちた作品です。
サスペンスを真面目にやればやるほど、
不意に挿入される「笑い」の要素が際立ち、
よくよく考えると、悲惨な状況ですが、
もう、笑うしかない、
そういった、
状況の落差を使ったブラックユーモアが、
作品に通底しています。
また、本作、
登場する人物に、悪人が多いですが、
その逞しさが、どうも、憎めないのです。
最早、笑うしかない、
そんな最低な状況でも、
絶対、乗り越えてやる。
そんな「足掻き」の必死さに、
どうにもこうにも、
応援したくなってくるのです。
悪人だけどね。
サスペンスとして、全うな作品、
ハラハラドキドキしながら、
けれども、何処か、笑えて楽しい、
それが本作『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』です。
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『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』のポイント
悪人たちの狂騒っぷり
ブラックなユーモアに満ちた作品
観た人間が、解釈を楽しむ物語
以下、内容に触れた感想となっております
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虚々実々、何がホントで、嘘なのか!?
サスペンスでありながら、
ブラックユーモアに満ちた作品、
『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』。
本作は、悪人達の狂騒っぷりが楽しい作品ではありますが、
鑑賞において、
一つ、注意する点があります。
それは、
本作が、主に、
アーカーシュの目線で描かれており、
画面に映されている「画」が、
必ずしも真実を描いている訳では無いという事です。
主役のアーカーシュも良いキャラしていますが、
本作はやはり、
シミーの悪人の魅力が高い作品。
パット見は、凄い美人なのに、
二進も三進も行かない状況で、
次々と罪を重ねて行くアホっぷりに、
独特の魅力を湛えています。
そんな彼女は、
結局、なんで、夫のプラモードを殺したのか?
シミー自身が言う様に、
本当に、突発的な事故だったのか?
それとも、計画犯罪だったのか?
結局、プラモードの所持していたお金は何処に行ったのか?
数々の疑問点があり、
その明確な答えは、本篇では語られません。
それを言えば、
アーカーシュ自身も、怪しい所。
物語の最後で、本作は、
海外で再会したソフィに、
アーカーシュが、顛末を語っているという形だったと明かされます。
つまり、
今まで観ていたもの全てが、
アーカーシュの「騙り」である可能性が高いのです。
つまり、
信じやすい、純粋なソフィ=観客という構図が取られているのですね。
誰も知らない海外で、
昔、ウケた事の再生産(盲目のピアニストのフリ)をする辺り、
如何にも、詐欺師っぷりが窺えます。
さて、クライマックス。
さも、アーカーシュは、
自分が善人であるかの様な振る舞いを見せていましたが、
本当に、そうでしょうか?
シミーの角膜を、アラブの富豪に売っていないのでしょうか?
そもそも、目は、本当に見えないのか?
目が見えないとしたら、
何故、
車が大破した時、
ウサギが跳ねた事を知っているのか?
杖に、ウサギの意匠が彫られていたのは、
目が見えている証拠なのではないのか?
この当りの「謎」を、
自分独自に読み解いて行く楽しみが本作にはあり、
そこが、
「単なるドタバタ悲喜劇」と一線を画する部分であると言えます。
サスペンス、ミステリとして面白く、
だからこそ、
ブラックなユーモアが際立つ作品、
『盲目のメロディ~インド式殺人狂騒曲~』。
悪人がそれぞれ、
因果応報を迎えるのは、
インドならではの価値観であり、
歌と踊りが無くとも、
如何にも、インド映画らしい文化を持った作品とも、
言えるのではないでしょうか。
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