映画『大河への道』感想  偉人の偉業のを支えるのは、名も無き者達の献身である!!

千葉県香取市の市役所に勤める池本保治は会議中、地域の偉人「伊能忠敬」を大河ドラマにする案を出す。その案が通ってしまい、プロジェクトリーダーに任命された池本。
県知事の要望で、半引退状態の脚本家・加藤幸造にプロットを依頼する池本。その加藤は資料を調べて、衝撃の事実を発見する。「伊能図」として知られる、精巧な日本地図「大日本沿海輿地全図」は、伊能忠敬が作り上げたものでは無かったのだ、、、

監督は、中西健二
監督作に、
『青い鳥』(2008)
『花のあと』(2010)
『恋する歯車』(2013)
『二度目の夏、二度と会えない君』(2017)等がある。

原作は、立川志の輔の新作落語『大河への道ー伊能忠敬物語ー』。

出演は、
池本保治/高橋景保:中井貴一
木下浩章/又吉:松山ケンイチ
小林永美/エイ:北川景子
加藤幸造/和尚:橋爪功
DJの梅さん/梅安:立川志の輔
山神三太郎/神田三郎:西村まさ彦
安野富海/トヨ:岸井ゆきの
各務修/修武格之進:和田正人
和田善久/綿貫善右衛門:平田満
知事/家斉:草刈正雄 他

中井貴一と言えば、
私が一番に思い浮かべるのは、

嘉門タツオの楽曲『替え歌メドレー』(1991)の1フレーズ、

サザンオールスターズの『チャコの海岸物語』の冒頭、
「海岸で若い二人が恋をする物語」の部分を替え歌して、

「海パンの中井貴一が腰を振る物語」と歌った部分です。

まぁ、それはさておき、

本作『大河への道』の企画は、
主演の中井貴一自身が手掛けている作品です。

それだけ、力がこもっており、
思い入れも大きいのでしょう。

そんな本作、

その設定が、興味深く、面白いです。

日本全国を歩き、
測量と三角法、天文学を駆使し、
手と足を使って、
それこそ、手造りで作り上げた、
「大日本沿海輿地全図」(だいにっぽんえんかいよちぜんず)。

しかし、
「伊能図」として知られるそれが完成したのは、
伊能忠敬の死後、3年経過した後だった。

つまり、
伊能忠敬が作っていない!?

立川志の輔の新作落語を原作とする本作、
「え!?それ、マ!?」
と思わせ、
視聴者の興味を惹くその設定が、まず、素晴らしいです。

で、
脚本家の加藤が語る形で、

「大日本沿海輿地全図」の制作秘話が描かれるのですが、

タイムスリップでも、
異世界転生でも無い形で、

現代と過去をリンクさせるその手法がまた、
イカしてます。

現代パートの出演者が、
過去パートでも、主要人物を演じている。

そこが、
本作の奇妙な面白さの一因でもあります。

偉人伝としての物語自体は、
まぁ、普通です。

しかし、
この興味深い設定を、
粋な描き方で映画化(物語化)した所に、

本作の面白さがあります。

一風変わった、コメディタッチとシリアスを行き来する時代劇として、
『大河への道』は楽しめる作品です。

  • 『大河への道』のポイント

現代劇と時代劇を行き来する面白さ

「大日本沿海輿地全図」の凄さ

偉業を支えるのは、知られざる一般市民

以下、内容に触れた感想となっております

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  • 「大日本沿海輿地全図」の制作秘話

本作『大河への道』は、
立川志の輔の新作落語を原作に、

伊能忠敬が作ったとされる「大日本沿海輿地全図」の制作秘話を描いた物語。

1800年から16年、10回に亘る測量遠征の後に、制作を開始し、
1821年に完成した。

しかし、
伊能忠敬自身は、
1818年に亡くなっていた!?

本作は、その、
18~21年の「タイムラグ」の部分に着目し、
「こうであったのでは」という「想像(創造)」を物語化したものです。

さて、
先ずは「大日本沿海輿地全図」の凄さについて、
ちょっと語ります。

私も博物館で、
実物の一部を見たことがありますが、

溜息が出ますね。

「ようこれを、作り上げたものだ」と。

本当に、細かい。
これを、完成までこぎ着けたというのは、もう、
どれだけ、背筋のイライラと戦ってきたのか、

正に、
体力と知性と根気の結晶といえる作品なのです。

今なら、ドローンとかで、
上空から撮影すれば簡単(でもありませんが)
に作る事が出来ましょうが、

そんな上空撮影技術など無い時代に、

「導線法」「交会法」「天体観測」「三角法」などを駆使し、
そのデータを集めるのは、実地での測量。

それを江戸に持ち帰り、
「下図」を制作、
それを基に、和紙に針穴を空け「寄図」を制作、
さらにそれを清書ようの和紙に重ねて、再度針穴を空け側線を引く。

出来上がった海岸線に、
簡単に風景を記し、
地名を記入する。

理論は理解出来ても、
それを実際に「やろう」というのは、
又、別問題です。

この、
一見、不可能事に思える事に挑戦し、
成し遂げた事に、深い意義があるのです。

  • 偉業を成し遂げるのは、歴史に残らぬ一般市民

「大日本沿海輿地全図」は、伊能忠敬が作り上げた、
と、
歴史上では記されています。

実際、
彼がプロジェクトリーダーだったからこそ、
為し得た偉業でしょう。

しかし、
本作で描かれるのは、

そういう、
後の世で「偉人」をして知られる人物が、
その「偉業」を成し遂げたのは、

歴史には残らない、
「偉人」を支えた一般市民の奮闘があったからだと語っているのです。

作中、
20年近く、筆を執っていなかった、
現代パートの脚本家の加藤は語ります。

「確かに、伊能忠敬の物語を作る事は可能だ」
「しかし、俺が(歴史の影に隠れた一般市民の)コイツらを書いてやらなきゃならん」と。

確かに、
世の中、
脚光を浴びる所に居る人たちが、
歴史や社会の方向性を作っているのでしょう。

しかし、それを支える名も無き「スタッフ」が居たからこそ、
「偉人」が輝く事が出来るのです。

同様に、
実際に、その社会を構成しているのは、
名も無き一般市民です。

インフラを整えたり、
物流を担ったり、
商店を営んだり、

「誰でも出来る」仕事を、
「誰かがやっている」からこそ、
私達は、
他の誰かの偉業を支えている、と言っても過言ではないのでは?

本作『大河への道』は、

「偉人」の事を描きつつ、
しかし、実際には、その「偉人」伊能忠敬は登場せず、
それでいて、

「偉人」の偉業を成し遂げる
「一般市民」の奮闘に脚光を当てた作品です。

我々、一般市民が、行う日々の業務、雑務も、
もしかすると、
他の誰かの偉業の礎となっているのかも?

そういう誇りを観る人にも抱かせる、
何故だか、爽やかな作品、
それが『大河への道』と言えるのではないでしょうか。

コチラは、立川志の輔の新作落語を小説化した作品です

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