ホラー雑誌に記事を寄稿しているライター・湯水と連絡が取れず、その担当編集者の藤間は自宅を訪ねる。湯水は死んでいた。目を自分でくり抜いて、血塗れで…。その彼の傍らに散らばっていた原稿。それを持ち帰ったバイトの岩田は、4日後に湯水と同様の死に様を見せる、、、
著者は澤村伊智。
『ぼぎわんが、来る』で第22回日本ホラー小説大賞の大賞を受賞してデビュー。
本作『ずうのめ人形』は続く第二作目。
他の著書に
『などらきの首』
『ししりばの家』などがある。
澤村伊智のホラー小説の第二弾、
『ずうのめ人形』。
『ぼぎわんが、来る』同様、
題名の響きからして、不穏な雰囲気を纏っています。
本書は、前作『ぼぎわんが、来る』と共通するキャラクターが登場しますが、
続篇という訳では無く、
単品でも楽しめる作品です。
湯水の死体の脇に散らばっていた原稿。
それを拾い集めて持ち帰った編集バイトの岩田はそれを読み、
原稿のコピーを藤間に渡します。
どうしても好奇心を抑えきれなかった藤間はそれを読み始めます。
どうやら、
中学生女子の一人称で進む、自分語りタイプのホラー小説の様。
頻りに「読め、読め」と勧める岩田。
しかし、
その彼は変死を遂げます。
その死の瞬間、
電話で会話していた藤間。
どうやら、原稿内に書かれていた
「呪い」の描写、そのものの被害を受けていたのです。
岩田は、日本人形が徐々に近づい来るのを怯えていました。
今は目の前にいる、そう言った後に絶叫し、死亡する岩田。
そして、
藤間にも、その日本人形が見えてしまった。
岩田が原稿を読んで、
死亡するまで4日間。
藤間に残された時間は、
残り、約2日間、、、
本作『ずうのめ人形』は、先ず、
リーダビリティが凄い。
続きが気になって、
グイグイ読ませて来ます。
そして、面白いのはその構成。
本書の主人公は藤間、
物語は彼の目線で進みます。
そして、
作中の原稿である、中学生女子の小説、
「■■■め■■の思■出」の主人公、
里穂の目線。
怪事件が起きている現在と、
その元凶であると思われる、小説の描写、
二者の視点が交互に繰り返されながら、
スリリングに展開されて行きます。
読めば死ぬという呪いの原稿。
しかし、
これを読み進める事で、
呪いを解く鍵が見つかるのではないのか?
原稿の小説の展開を追う様に重なる、
現実とのリンク。
そのキーとなるのは、
都市伝説「ずうのめ人形」、、、
立ち塞がる、恐怖と謎、
読者自身も、それをヒシヒシと感じられます。
とにかく面白い展開、
そして、オチも、
如何にもホラーっぽい。
これぞ、オススメの逸品、
『ずうのめ人形』です。
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『ずうのめ人形』のポイント
先が気になるリーダビリティ
原稿パートのホラーを、現実パートで謎解き
意外で面白い展開と、オチ
以下、内容に触れた感想となっております
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リング
澤村伊智の『ぼぎわんが、来る』。
この作品は、
ちょっと『リング』を意識しているな、
と思いました。
しかし、
本作『ずうのめ人形』はそれ以上。
『リング』の本歌取りみたいな作品となっております。
『リング』と言えば、
言わずと知れた角川ホラー最大のヒット作。
映画化、ドラマ化もされて、
『リング』自体を観た事ない人でも、
「貞子」というキャラクターの知名度は絶大なものがあります。
『ずうのめ人形』は『リング』同様、
呪いを受けた人間が、
その死のタイムリミットを迎える前に、
呪いの解除方法を探して、
過去の因縁を探るという展開をみせます。
この基本構成は、『リング』そのまま。
しかし、本作が
「単なるパクリ」に堕して無いのは、
その展開と構成に一味加えているからです。
それは、
「呪い」そのものの描写。
『リング』では、
「ビデオを観る」という行為が、
呪いを被るトリガーとなり、
その描写自体は極短いものです。
しかし、本作『ずうのめ人形』は、
「原稿を読む」事がそのトリガー、
(正確には、里穂を大元として「ずうのめ人形」を知る)
つまり、
「呪い」発動まで時間がかかる、
というか、
その「呪い」発動までの過程をジックリと体験する事が出来ます。
又、
「ビデオを観る」に比べ、
「原稿を読む」は、
「小説」という形態においては、
より読者に親和性を感じさせる構成となっています。
このアイデア的な面白さ、
原稿を読み、
「呪い」の解除方法を、
その中から探すというスリリングな行為を、
登場人物と共に、
読者も味わえるのです。
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ホラー + ミステリ
本作『ずうのめ人形』の面白さはそこ、
つまり、
ホラー描写もさる事ながら、
如何にして「呪い」を解くのか?
というミステリ描写の部分にあります。
ミステリの面白さというのは、
どの様にして、読者が騙されるのか?
この欺かれる快感、
謎を解く爽快感みたいな所にあります。
それには、
作中にフェアに謎を解くヒントが無いと面白くありません。
ラストで、
イキナリ今まで出て来ていなかったキャラクターが現われて、
「俺が犯人だ」とか言ったり、
全て夢でした、
なんて言われたら、興ざめもいいところですよね。
その点、
『ずうのめ人形』は、
里穂の原稿に、その謎を解くヒントがちりばめられています。
しかし、
一癖あるのが、
この「里穂の原稿」というのは、
ミステリにおける、いわゆる
「信用出来ない語り手」のタイプなのです。
しかし、
作中の現実の展開、
「呪い」を解くヒントになるハズだと、
野崎や藤間は「里穂の原稿」が現実そのものであるという裏取りをするので、
そこで、読者も、
「里穂の原稿」がそのまま現実だと信じ込んでしまう。
そこに、
ミスリードが仕込んである、
これが見事なんですね。
思えば、
『ぼぎわんが、来る』でも、
「信用出来ない語り手」を著者は仕込んでいました。
そして、
本作で最も挙動不審な人物は、
主人公の藤間。
何となく読んでいる間、
「コイツも大概怪しいぞ」
と、読者に思わせるのも、
真相を隠す上手い迷彩となっているのです。
さて、
角川ホラー小説大賞は終了し、
「横溝正史ミステリ&ホラー大賞」に生まれ変わりました。
正に、本作の様な作品こそ、
そのモデルケース。
ホラーとミステリの融合と言えるでしょう。
他には、
三津田信三の諸作品、
飴村行の諸作品などがありますが、
これが中々難しい。
ホラーだけでも、
ミステリだけでも難しい。
これを二つ融合させ、
尚且つ面白い作品、
確かに実現出来れば傑作ですが、
果たして、そういう作品は生まれるのか?
期待しつつ、
上がったハードルに不安もあったりします。
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恐怖とは、何か?
『ずうのめ人形』では、
都市伝説に絡めて、「恐怖とは何か?」について語ったシーンがあります。(p.87~98)
恐怖とは何か?
第一は「分からないから怖い」
第二に「それ自体が拡散して行く事が怖い」
と語っています。
本作では、
『リング』や「都市伝説」と絡めて語っているので、
そういうスタンスで、
「拡散する恐怖」を語っているのです。
『恐怖の構造』で平山夢明が語ったのとは、
ちょっと違う解釈。
そして、私が思う恐怖ともちょっと違います。
私が思う「恐怖」とは、もっとシンプル。
「恐怖」には
「知らない事」と「知っている事」の二種類があると思います。
人は「未知の事態」、
曲がり角の先や
暗闇を恐怖します。
それと同様、
「既知の恐怖(知っているから怖い)」、
ヤクザやいじめっ子、
違法残業や、休日出勤、
腕の骨折や、歯の治療なんかも怖がります。
そして、
ホラー作品においては、
その恐怖を読者に共感させる事で、
リアルな臨場感を演出しているのです。
都市伝説が怖いというのは、
本書の解説でも朝宮運河が指摘していましたが、
「怪異」という未知の恐怖と、
それが、身近にも起こり得るという可能性、
それを感じさせる事、
つまり、
「未知」を自分も体験して「既知」になってしまうかもしれない、
自分も当事者になってしまうかもしれないという共感性が肝になっているのです。
本作『ずうのめ人形』は正に、
都市伝説の当事者になってしまった恐怖を描いた作品と言えます。
傑作『リング』と同様の構成を持ち、
都市伝説の当事者となった人間が足掻く様子を描く『ずうのめ人形』。
しかし、
単なる『リング』のパクリには終わらず、
侵攻する「呪い」と、
その「呪い」を解決しようと奮闘する様子が交互に挟まれるという展開が面白さを演出しています。
ホラー的な衝撃と、
ミステリ的な解決とオチが結びついた、
新たなる傑作の一冊、
『ずうのめ人形』はそう記憶されるに値する作品です。
比嘉姉妹シリーズ
『などらきの首』はコチラのページにてそれぞれ語っております。
*書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています。
日本ホラー作品最大のヒット作、『リング』の原作本です
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