クラスの気になる美少女なずな。花火大会のある日、島田典道(のりみち)は親友の祐介と共に、掃除の為にプールに向かうとそこに彼女がいた。ひょんな事から50メートル競泳をする3人。なずなは「私が勝ったら何でも言う事を聞いて」と言ってプールに飛び込む、、、
監督は新房昭之。
TVアニメの監督として多くの作品を手がける。代表作に
『月詠 -MOON PHASE-』(2004)
『ぱにぽにだっしゅ!』(2005)
『ひだまりスケッチ』(2007)
『化物語』(2009)
『魔法少女まどか☆マギカ』(2011)等がある。
原作は岩井俊二の同名ドラマ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』。
連続ドラマシリーズ『if もしも』の一編として1993年にOAされ、再編集の後1995年に劇場版が公開された。
声の出演、及川なずな役は広瀬すず。
アニメの声の出演は『バケモノの子』(2015)以来2作目。
出演作として『三度目の殺人』が控えている。
島田典道役に菅田将暉。
アニメ映画への出演は本作が初。近作に
『帝一の國』
『銀魂』
そして『あゝ、荒野』の前編・後編と『火花』の公開が控えている。
他、声の出演に宮野真守、松たか子、花澤香菜、等。
アニメの制作会社シャフト、そして新房昭之と言えば実験的で挑戦的なアニメを思い浮かべる。
しかし、本作は
多くの人に観て貰う為にエッジをなるべく無くしている。
よく言えば観やすいが、ファンからしたら少々もの足りない部分があるかもしれない。
だが、作品がつまらない訳ではない。
いつも以上に背景に力が入っている。
背景が綺麗なので
ノスタルジックな夏の思い出に浸れる。
そして、本作『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』の力点の中心となっているのは「なずな」である。
とにかく、劇場の大画面で、いろんな角度から美少女が観たい!(アニメ絵)
という作り手の欲望を忠実に再現している。
なので、ストーリーについてとやかく言ってはいけない。
この映画は「絵」と「情動」を見て欲しいのだ。
この方向性に一緒にトキメクか、
それとも嫌悪するかで作品の評価は大きく変わる。
とは言え、日本人はアニメ好きである。
この夏の日の一日を楽しんでみてはどうだろう。
以下ネタバレあり
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夏の日のノスタルジー
本作『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』は背景が綺麗だ。
抜けるような青空と、緑豊かな地平。
自分がかつて見た夏のあの日、何とは無しにノスタルジーが喚起される。
それもそのはず。
作り手の念頭に、
『小さな恋のメロディー』
『スタンド・バイ・ミー』
『銀河鉄道の夜』といったノスタルジーの名作達があったそうだ。
『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』がテーマとして目指したのはノスタルジーなのだ。
そして、それを支える為に、背景美術で焼け付く様な夏の日を再現してみせたのだろう。
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主演の二人
広瀬すずと菅田将暉の二人は普段は俳優として活躍している。
だが、声優としても全く違和感は無かった。
むしろ、上手い部類である。
(8月23日追記:世間の評価は「棒読み」だと評判が悪い。私は自然な感じで良い演技と思ったが、もっと感情を込めた感じの方が受けがいい様だ。世間とズレた評価を下してしまったが、「自分の感じた事」なので、そのまま記している。)
特に広瀬すずのちょっとハスキーな声質が、「ちょっとセクシーなイタズラ少女」みたいな雰囲気を上手く表していて、役にピッタリだった。
菅田将暉も、「お、おう」みたいな「アニメならでは」の表現の足りない部分に無理矢理文句を付ける位で、演技としての不満は全くない。
俳優が声優としても活躍出来るのなら、顔が売れていて知名度のある方が、プロモーションとしても使いやすいだろう。
顔でアイドル売りしているアニメ声優が映画で使われないのは、そこに理由がある。
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美少女が観たい!
本作『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』において最も力を入れている部分は「なずな」を如何に可愛く描写するか、という点である。
花火どころではない。
とにかく少女を上から横から下から至近距離からいろいろ眺め回している。
360度眺め回す為、水中に入り、灯台から落下までする徹底ぶりだ。
一応、典道目線、というフィルターはある。
しかし、画面に向かってイタズラっぽく流し目で微笑み、儚い表情を見せ、時には真っ直ぐにこちらを見つめる。
そして、可愛い声で「ノリミチくふん♡」と呼ばわる。
その主観的演出にくらくらドキドキしてしまう。
ここで「あざとい」と感じるか、
「可愛い」と感じるかで、作品の評価が変わってくる。
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都合の良い世界
夏のあの日、
憧れの女子と二人っきりで出かけ、
手を繋いだり、キスしたり。
これは、あったら良いな、と思うピュアな男子の妄想の具現化である。
そして、作中では「あの時ああしていれば」という部分をいちいちやり直し、どんどん自分にとって都合の良い世界を作ってゆく。
セーブポイントに戻って何度もやり直し、ジリジリ進んでゆくRPGの気分である。
昨今流行っている「ループもの」を意識し、作り手は売れ線を狙っている。
しかし、自分の欲望、願望を突き詰めた先にあるものは何だろう。
そこに楽園ではなく、恐怖と絶望と破滅を見るのは私がホラー好きだからだろうか?
ラスト、二人はいなかった。
二人で手に手を取って青春を謳歌しているのか?
果ての無い欲望の先の先まで行ってしまったのか?
それとも欲望の終着点を越え、悟りの世界に二人で到達したのか?
いろいろな事を想像してしまう。
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作中補足
アニメ『化物語』を知る人は、「なずな」の見た目に「戦場ヶ原ひたぎ」を思いだした事だろう。
その「戦場ヶ原ひたぎ」の声優の斎藤千和さんも出演している。
看護師さん役だ。
また、典道宅で祐介とやっていたゲームは『キラキラスターナイトDX』を元にしている。
これは2016年に発売されたファミコン用ソフトである。
嘘の様なホントの話。
興味のある方は「コロンバスサークル」で検索してみるといいだろう。
(http://www.columbuscircle.co.jp/)
本作『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』を見て、あなたは
ノスタルジーに浸るか、
美少女との疑似恋愛を楽しむか、
欲望の行く末を案じて想像を膨らませるか、
あのビー玉(もしも玉)は何か?
なずなが語った「父が亡くなった」との回想で溺死?していた男が手に握っていた物がもしも玉なのか?
溺死していたのがなずなの父なのか?
回想ではもっと小さい子供の様だったが、それがなずななのか?
もしそうなら、なずなの証言と矛盾しないか?
語られないミステリーについて妄想するのも良し。
本作品はいろいろな楽しみ方がある。
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さて、次回は恐怖の世界に到達してみる『ドラゴン・ヴォランの部屋』について語りたい。