映画『エイリアン:ロムルス』感想  原点回帰とオマージュ!!これぞ観たかったエイリアン!!

年間日照時間「ゼロ」のジャクソン星にて、資源採掘の為の労働に日々を費やす入居者の一人、レイン。規定労働時間を全うし、移動許可を申請に行くも、役所にてにべもなく断られ、理不尽に労働時間を増やされるのだった。
そんな折、元カレが軌道上に誰も乗っていない幽霊宇宙ステーションを見つけ、コレを使って他の星への移住計画を持ちかけて来た、、、

監督はフェデ・アルバレス
ウルグアイ出身。
ホラー映画『ドント・ブリーズ』(2016)にて注目を集める。
他の監督作品に、
『死霊のはらわた』(2013)
蜘蛛の巣を払う女』(2018) 等がある。

出演は、
レイン・キャラダイン:ケイリー・スピーニー
アンディ:デヴィッド・ジョンソン
タイラー:アーチー・ルノー
ケイ:イザベラ・メルセド
ビヨン:スパイク・ファーン
ナヴァロ:エイリーン・ウー 他

SF、ホラー映画の金字塔の一つとして、
歴史に名を刻んでいる作品『エイリアン』(1979:リドリー・スコット監督)。

傑作、人気作であるが故に、
過去、多数のシリーズが作られてきました。

『エイリアン2』(1986:ジェームズ・キャメロン監督)
『エイリアン3』(1992:デヴィッド・フィンチャー監督)
『エイリアン4』(1997:ジャン=ピエール・ジュネ監督)
『プロメテウス』(2012:リドリー・スコット監督)
エイリアン:コヴェナント』(2017:リドリー・スコット監督)

外伝的な作品として、
プレデターとのコラボレーション作品である
『エイリアンVS.プレデター』(2004:ポール・W・S・アンダーソン監督)
『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』(2007:コリン・ストラウス&グレッグ・ストラウス監督)
なんてのもあります。

こうして見ると、
コンスタントに作品が発表されており、
また、
作品毎に監督が違い、
それぞれ、独自のトーンで「エイリアン」を解釈、再構築しているのも、
シリーズの魅力と言えます。

さて、そこで本作。
監督はホラー映画『ドント・ブリーズ』で評価されたフェデ・アルバレス。

フェデ・アルバレス監督は、
『死霊のはらわた』
『蜘蛛の巣を払う女』を監督し、
『悪魔のいけにえ -レザーフェイス・リターンズ-』(2022)で製作、脚本を担当。

シリーズ作品のディレクションに定評があると目されて、
今回、
「エイリアン」の新作を任せられたのではないでしょうか。

そんな本作『エイリアン:ロムルス』はどうだったのでしょうか?

簡潔に言うなら、本作

原点回帰とオマージュ

に満ちた作品であり、

シリーズファンは勿論、
初見でも楽しめる
SFホラー作品であると言えます。

過去に、
シリーズを監督した、
リドリー・スコット、
ジェームズ・キャメロン、
デヴィッド・フィンチャー、
ジャン=ピエール・ジュネ 達は、
揃いもそろって個性的。

アクの強い作品ばかりでしたが、

本作は寧ろ、
シリーズのお約束というか、
過去作オマージュをちりばめつつ
第一作目の雰囲気を目指して作られているな、と思いました。

そういう意味で本作は、

シリーズのファンには、
「ああ、これこそ、エイリアンだよな」という
懐かしくもブラッシュアップされた雰囲気を楽む事が出来つつ、

初見の方も、
何だか、舞台設定はよく解らない所がありつつも、
上質なSFホラー映画の雰囲気を楽しめるでしょう。

まぁ、
厳密なSF作品として観るなら
多少のツッコみは色々あるでしょうが

それでも尚、
原点回帰を目指した本作の作りは成功しており、

ちゃんと、
シリーズ作品としても、
単品の映画としても、面白い作品に仕上がっています。

『エイリアン:ロムルス』
これぞ、今観たい、
流石の完成度の作品と言えるのではないでしょうか。

  • 『エイリアン:ロムルス』のポイント

原点回帰と過去作オマージュ

若手多数のキャスティング

様々なエイリアンの形状と質感

以下、内容に触れた感想となっております

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  • ロームルスとレムス

先ずは『エイリアン:ロムルス』の題名の元ネタとなっている
「ロムルス」について記述してみようと思います。

劇中では、
船の二つのエリアが「ロムルス」と「レムス」に別れていると言及されていました。

そして実際の元ネタでは
「ロームルス」と「レムス」は双子の兄弟で、

王政ローマ(紀元前753~紀元前509)の初代の王が
ロームスルであるという建国神話があります。

「狼の乳を吸うロームルスとレムスの像」という芸術作品もあり、
産まれた双子は追放され、
狼に育てられた後、羊飼いに拾われ、
長じて、復讐を果たすという、
貴種流離譚が、その前半部分。

そして建国時、
兄弟同士で諍いが起こり、
ロームルスがレムスを殺すという経緯もあります。

そういう意味で、
実験棟の二つのエリアを、
「ロムルス」と「レムス」で分けるのは、
ぶっちゃけ縁起が悪く、
センスのあるネーミングとは言えないのではないか?と思うのですが、

何らかの意味があるのでしょうか?

恐らく、
厨二的で、格好良くね?ってノリだと思います。

  • ホラー映画としての「エイリアン」

さて、という訳で、
改めて『エイリアン:ロムルス』です。

本作の監督はフェデ・アルバレス。

『ドント・ブリーズ』(2016)というホラー映画が出世作の監督です。

ホラー映画というジャンルは、
2000年代初頭、
一時期、停滞していた印象がありましたが、
『イット・フォローズ』(2014)
『ドント・ブリーズ』
ゲット・アウト』(2017)
ヘレディタリー/継承』(2018)
ハロウィン』(2018)

辺りで、
現在は完全に息を吹き返した感があり、
良作が近年、多数製作されています。

停滞期に、
ホラー映画でデビューしただけあって、
フェデ・アルバレス監督は、
大作である本作でも、
ホラー映画魂を忘れる事なく製作しています。

豪華キャストで、
壮大な神話的な話であった『プロメテウス』と、

その続篇の『エイリアン:コヴェナント』に比べると、
ミニマムなスケール、

原点回帰というか、
一作目の『エイリアン』的な、宇宙船内という、
限定状況におけるサバイバル・スリラー要素が色濃く打ち出されています。

また、

製作費が比較的少なく、
アイディア勝負な所があるホラー映画は、
出演キャストが無名な若手である事が多いのですが、

「ロムルス」はそういう方向にも回帰しています。

本作では
ブレイク直前の若手俳優が多数起用されています。

主演のレイン・キャラダインを演じたケイリー・スピーニー
『プリシラ』(2023)などに出演、

妊婦のケイを演じたのはイザベラ・メルセド
マダム・ウェブ』(2024)等に出演おり、

他の出演者達も、
これから、という印象です。

そして、出演者という点に於いては
主要人物が6人というコンパクトさで、

それぞれ、

レイン・キャラダイン:主役、サバイバー、ラスト・ワン・スタンディング(最後の一人)
アンディ:道化、ジョーカー(切り札)
タイラー:勇者
ケイ:淫乱(の派生系)、スクリーマー(絶叫要因)
ビヨン:愚者
ナヴァロ:最初の犠牲者

という
ホラー映画ではありがちな役割分担が明確に成されている所にも、
ホラー映画畑出身の監督ならではの配慮が見てとれます。

レインは主役で、サバイバー属性。
ですが、過去シリーズの
エレン・リプリー(シガニー・ウィーバー)
レリザベス・ショウ(ノオミ・ラパス)
ジャネット・ダニエルズ(キャサリン・ウォーターストン)達と比べると
極端な生存本能の発揮は無く、
成り行きで生き残ったタイプとも言えます。

本作では、
ホラー映画で犠牲者に成りがちな
セックスに奔放な淫乱タイプの女性はいませんが、

その代わりに、
父親がわからない子供を身籠もっている妊婦のケイが、
絶叫ヒロインの枠を担っています。

いじめっ子タイプのビヨンは、
観客の良心が(比較的)痛まない、初期の犠牲者タイプ。

そして、
勇者でリーダータイプのタイラーが死ぬ事で、
物語はクライマックスへと突入して行きます。

ホラー映画では「まれによく有る」展開であり、

「エイリアン」シリーズに於いては、
勇者タイプが犠牲になって、
サバイバル・ヒロインが前面に押し出される事で、
物語が佳境になる展開が、お約束となっております。

  • リアルなエイリアン

出演者がホラー映画の類型で固められている一方、
『エイリアン:ロムルス』では、

もう一つのメイン出演者である、
モンスターである「ゼノモーフ」(エイリアン)にも
拘りが見てとれます。

それは、
なるべく、CGを使わず、
昔ながらの「アニマトロニクス」
つまり、
人形やロボット、ラジコンを駆使して、
実写の質感に拘っているという点です。

確かに、
現代のCG技術は大変進化しており、
実写と見紛う程のクオリティになりました。

しかし、
初代『エイリアン』は、
CGが発達していない時代に作られて、
今観ても傑作と言えるクオリティの作品です。

昔に出来て、
今、出来ないハズが無い、
そういう心意気なのか、
劇中に出演する「エイリアン」達は、
その殆どが、実在する作り物なのです。

フェイスハガー」は、

水に落ちても大丈夫な様にシリコン製のモノを作って、
それを釣り糸で操ったり、
スタッフが水の中から出演者の投げつけて襲わせていたそうです。

また、
床を走るラジコン製など
その殆どのシーンが、実際に作られたモノだったそうです。

チェストバスター」は

初代『エイリアン』で初披露した時、
最も印象的なシーンの一つとして有名です。

本作は初代のチェストバスターを忠実に再現しつつ、
大きさや質感などをアップグレードしているそうです。

最終形態の「ゼノモーフ」は

昔ながらの着ぐるみや、
アニマトロニクス(操作ロボット)をシーン毎に駆使しています。

しかし一方、
その造型は昔ながらの粘土の手造りでは無く、
コンピューター上で原型を製作したそうで、
そういう意味で、非情に機械的というか、均整の取れたデザインになったとの事。

また、
エイリアンではありませんが、
本作の
上半身だけのアンドロイド「ルーク」は、

先ず、パペットを作って撮影し、

一方、
代役の役者の演技と、
イアン・ホルム(初代エイリアンのアッシュ役:故人)のアーカイブ映像を組み合わせ、
CGのルークを作り、

それを、パペットと合成するという過程を経て作られています。

この様に本作では、
リアルとCGを多く組み合わせて、
観客が、
CGと実写の境目が解らず、
本物であると信じ込ませる様に腐心しています。

故に本作は、
観ている最中には
全く違和感の無い映像クオリティを実現しているのですね。

  • 過去作オマージュ多数

ホラー映画畑のフェデ・アルバレス監督が、
初代を意識して作った本作『エイリアン』。

故に、
過去シリーズを知らない初見の人が観ても、
本作は単品で楽しめるサバイバル・ホラー映画となっていますが、

しかし、
過去シリーズを知っている人が観たら、
多数のオマージュが込められおり、
「コレコレ」と、
ニンマリするシーンばかりです。

以下、ネタバレ多数

先ずは冒頭、
破壊された宇宙船に「ノストロモ号」の後半「ロモ」の部分が映し出されます。
そこから、宇宙船が何かを回収している模様。

カメラが引いて、
その回収して物体が、
エイリアン(ゼノモーフ)だと判明します。

このシーンにて、
シリーズを知っている人なら、
「ああ、初代の続きなのか!」
「リプリーが船外に排出したアイツね!」と
察する事が出来ます。

そして、本作の主役であるレインが登場。

日照時間「ゼロ」の星で、
資源採掘の奴隷労働に勤しむ移植者達。

陰鬱な雰囲気は、
『エイリアン3』の流刑地を思い起こさせます。

そして、
主役のレインが「弟」と呼ぶ、
アンドロイドのアンディ。

「エイリアン」シリーズに於いては
アンドロイドはお約束で、且つ、
重要な役割を担います。

また、
シリーズ毎に、
主役側に寄り添う人道的なタイプか、
はたまた
「ウェイランド・ユタニ」社の利益を優先する無感情なタイプか、

アンドロイドには二つのタイプがいますが、
人道的なタイプと会社の利益を優先するタイプを
一人二役で演じている点は、
『エイリアン:コヴェナント』的と言えます。

ここでシリーズ毎のアンドロイドのタイプのまとめです。

初代「アッシュ」:イアン・ホルム(演)、ウェイランド・ユタニ側
「ビショップ」:ランス・ヘンリクセン(演)、人道的
「ビショップ」同上
「マイケル・ビショップ」:ランス・ヘンリクセン(演)、ビショップ開発者の人間、ウェイランド・ユタニ側
「アナリー・コール」:ウィノナ・ライダー(演)、人道的、アンチエイリアン
プロメテウス「デヴィッド」:マイケル・ファスベンダー(演)、思惑不明、ウェイランド社の高性能アンドロイド
コヴェナント「デヴィッド」:マイケル・ファスベンダー(演)、非人道的、自らの計画を実行
コヴェナント「ウォルター」:マイケル・ファスベンダー(演)、人道的、知性はデヴィッドに劣る

アンディは一人二役のアンドロイドですが、
宇宙ステーションの「ロムルス」棟にて、下半身が失われたアンドロイド
科学主任のルークが登場します。

宇宙ステーション自体が実験棟というのは、
「4」を想起させ、

下半身が失われたアンドロイドと言えば、
2のビショップのオマージュですが、

しかし、
ルークの見た目は初代のアッシュと同じです。

顔を見せるまでに「溜め」があり、
いざ、その面を拝んだ時に、アッシュだ!!という驚きを覚えるシーンとなっています。

シリーズを知っている人なら、
リプリーの口に「平凡パンチ」を押し込んだアイツと同じ顔のヤツなんて
信用出来ねぇと不信感を持ちます。

そして、思った通りのゲス野郎である点は、
初代モチーフですね。

中盤、
アンディの助言にて、
フェイスハガーが多数いる部屋を突っ切るシーン。

フェイスハガーに気付かれない為に、
平静を装い、
ゆっくりと、音を立てずに進む場面。

ここは、
監督の過去作『ドント・ブリーズ』を彷彿とさせます。

迫り来るゼノモーフを銃で撃ちまくるシーンは、
「2」オマージュですし、

見捨てて置き去りにしたアンディの救出にレインが戻るシーンも、
少女ニュート救出に向かう「2」のリプリーを想起させます。

ラスト直前、
タンクトップと下着だけになって、
コールドスリープに入る直前に、

実は、終わっていませんでしたー!!」と
ラスボスが現れる展開は、

初代、コヴェナントと同じです。

しかし、
今回は「ゼノモーフ」では無く、
「4」の「ニューボーン」的な見た目の存在。

ちょっと「プロメテウス」のエンジニアにも、
似ていなくもないです。

「4」モチーフは勿論の事ですが、
妊婦が犠牲になって、
エイリアンが産まれる展開は、
『AVP2 エイリアンズVS.プレデター』も参考にしているかもしれません。

そして決着は、
船外に排出。

初代、2、コヴェナントで使われた手段を、
本作でも踏襲しています。

最期は、
レインの音声航海日誌で終了。
これも、初代と一緒ですね。

他にも、
シリーズ特有の、
ゼノモーフとのフェイスオフなど、

様々なシリーズのオマージュが鏤められています。

基本ホラー映画の文法を維持しつつ、
初代モチーフで、
現代に復活させた、新たなサバイバル・ホラー『エイリアン:ロムルス』。

初見でも楽しめて、
シリーズファンも面白い、

フェデ・アルバレス監督は、
見事に仕事を果たし、

本作は、中々の傑作になったと言えるのではないでしょうか。

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