映画『リコリス・ピザ』感想  フレッシュな二人の、まるで熟年夫婦の様な関係!!

1970年代、アメリカ、ハリウッド近郊、サンフェルナンド・バレー。
15歳のゲイリーは、学校の写真撮影の時、アシスタントに来ていた女性アラナをナンパする。
食事をする事になった二人。馴染みのレストランで、自信満々にアラナに語るゲイリー。「僕は役者なんだ。天性のショーマンさ」、、、

 

 

 

 

監督は、ポール・トーマス・アンダーソン
長篇映画監督作に、
『ハードエイト』(1996)
『ブギーナイツ』(1997)
『マグノリア』(1999)
『パンチドランク・ラブ』(2002)
『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007)
『ザ・マスター』(2012)
『インヒアレント・ヴァイス』(2014)
ファントム・スレッド』(2017)がある。

 

出演は、
アラナ・ケイン:アラナ・ハイム
ゲイリー・ヴァレンタイン:クーパー・ホフマン

ジャック・ホールデン:ショーン・ペン
レックス・ブラウ:トム・ウェイツ
ジョン・ピーターズ:ブラッドリー・クーパー
ジョエル・ワックス:ベニー・サフディ 他

 

 

名前がよく似ていて、
混乱する人達っていますよね。

竜雷太と、峰竜太とか、
水野美紀、水野真紀、坂井真紀、酒井美紀とか。

クリス・プラット
クリス・エヴァンス
クリス・ヘムズワースとか etc…

 

映画監督にも似たようなのがあって

ポール・W・S・アンダーソンと、
ポール・トーマス・アンダーソンです。

ポール・W・S・アンダーソンは、
映画の「バイオハザード」シリーズや、
モンスターハンター』(2020)
『エイリアンVSプレデター』(2004)
『デス・レース』(2008)等の監督。

ポール・トーマス・アンダーソンは、
本作の監督です。

 

個人的に、
ポール・W・S・アンダーソン作品は苦手ですが、

ポール・トーマス・アンダーソン作品は好きという、
両極端な印象。

 

で、そのポール・トーマス・アンダーソン監督の新作が、
本作『リコリス・ピザ』です。

 

主演の二人、
アラナ・ケイン役のアラナ・ハイム、
ゲイリー・ヴァレンタイン役のクーパー・ホフマンは、
どちらも映画初出演。

劇中の年齢は、
25歳(28歳?)の女性と、
15歳の男子という年の差カップルですが、

この二人の、
フレッシュでギラギラした初々しさが愛おしい作品です。

 

 

部活とか、
仕事とか、
初心忘るべからずと言います。

何事においても、
初体験時の素晴らしさは、代え難いものですよね。

始めて映画に出演する二人を、
ダブル主演の様に描く本作は、

正に、
若さの特権、
青春の淡い思い出を、
鮮烈に描き出した作品と言えるでしょう。

 

…しかし、

実は、この二人、

アラナ・ハイムは、
「ハイム」という三姉妹バンドで活躍しており、

一方、
クーパー・ホフマンの方は、
父親が、監督の作品の常連であり、盟友とも言えた、
故、フィリップ・シーモア・ホフマンの長男。

元々、ショービズ界には、
慣れ親しんでいた二人とも言えます。

 

そんな二人だからなのか、

くっついては別れる二人の関係性は、
まるで、熟年夫婦の有様!?

 

 

個性的で、我の強い人間同士の関わり、故に、
必ずしも、理想通りには行かない人間関係の綾を描いているのは、
流石の一言です。

 

また、舞台が70年代、
場所は、ハリウッド近郊という事もあり、

レトロフューチャーな雰囲気というか、

いつか見た、懐かしい雰囲気を漂わせつつも、
永遠に来ない「夢の様な未来」の幸せをも予感させます。

 

それはまるで、
自分には来る事の無かった、

輝かしい青春の1ページを眺める様な、

愛おしくも、切なくもなる、
そんな郷愁に駆られる映画、
それが、『リコリス・ピザ』なのです。

 

  • 『リコリス・ピザ』のポイント

フレッシュだけれど、個性的でギラギラした二人のキャラクター

なのに、熟年夫婦の様な関係性

永遠に来ない未来の様な、懐かしさを感じさせる舞台設定

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

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  • で、「リコリス・ピザ」って何?

本作『リコリス・ピザ』を鑑賞して、
先ず思う事は、
「え?結局、リコリス・ピザって何の事なの?」
という疑問です。

 

リコリス(licorice)とは、
甘草の事で、
古くから、薬草として知られる植物。

それのピザって言う位だから、
何か、ベジタブルな感じのする食べ物かな?
と思われます。

 

しかし、題名の由来となった「リコリス・ピザ」とは、

1970~80年代に、
カリフォルニア南部で展開していた、
レコードチェーン店の事。

「Licorice Pizza」の頭文字を取ると、
「LP」となり、
即ち、LP盤と言われる、レコードの事を意味するそうです。

そんな、
「70年代のカリフォルニア」を意識させる為に、

知る人が聞いたら、
ワンフレーズで理解出来るキーワードとして、
本作の題名に起用されているんですね。

 

まぁ、
日本に住んでいる私には、
調べないと全く理解出来なかったのですがね!!

 

  • 出演者と役柄

そんな、70年代のカリフォルニア、
サンフェルナンド・バレーが舞台の『リコリス・ピザ』。

主演のアラナ・ケイン役のアラナ・ハイムの出身は、
そのサンフェルナンド・バレーです。

 

そのアラナ・ハイム、
「ハイム」というバンドを、
三姉妹で結成し、活躍しており、
彼女は、その末っ子ですが、

本作のアラナの家族は、
何と、実際の彼女の家族そのものが出演しているとの事。

 

で、印象的なシーンに、
安息日の食事に、アラナが彼氏を連れて来る場面があります。

そのエピソードは、
彼女ではありませんが、
実際に、彼女の姉妹の身に起こった事だそうです。

更に、
彼氏を外に連れ出したアラナが、
「お前のチンポは皮被りか!!」と暴言を吐き捨てますが、
その台詞はアドリブだとか!?

う~ん、末恐ろしい新人です。

 

そんなアラナ・ハイムですが、
映画鑑賞中、ずっと、
「どっかで、観た事あるんだよな~」と思っていました。

で、気付いたのですが、
アラナ・ハイムって、
ちょっと、浅田真央に似てないですか?

顔が似ているなら、
直ぐに思い付きそうなのですが、

考えないと分からなかったのは、
恐らく、
キャラクターのイメージが全然違うからだと思われます。

 

ちょっと、
おっとりしたイメージの浅田真央、

対して、アラナ・ハイムが演じたアラナは、
常に、眉間にシワを寄せ、
喧嘩腰で、キレキレな印象。

クーパー・ホフマン演じるゲイリー・ヴァレンタインもそうですが、

ポール・トーマス・アンダーソンの監督作は、
いつも、登場人物が個性的ですが、

本作も、その期待は裏切りませんね。

 

アラナやゲイリーの他にも、
有名役者が、
個性的な登場人物を演じていますが、

どうやら本作、
各キャラクターに、実在のモデルが存在するとの事。

 

アラナ:ケイ・レンツ
ゲイリー:ゲイリー・ゴーツマン
ジャック・ホールデン:ウィリアム・ホールデン
レックス・ブラウ:マーク・ロブソン
ジョン・ピーターズ:同名
ジョエル・ワックス:同名

また、
作中に言及される、
グレース・ケリーや、
バーバラ・ストライサンドも実在の人物です。

 

ゲイリー・ゴーツマンは、
ウォーターベッドの販売や、
禁止されていたピンボールの解禁に伴い、
ゲーセンを作ったという逸話を持っており、

それが、
本作のストーリー展開にも反映されています。

他にも、
モデルになった人物を調べて見ると、
本作を深く理解出来る、元ネタが色々出て来て、

より、楽しめるのでしょうね。

 

  • フレッシュな二人の、熟年夫婦の様な関係

本作『リコリス・ピザ』の主演は、
映画初出演のフレッシュな二人。

アラナとゲイリーの恋愛模様(!?)というか、
関係性がストーリーの中心となっていますが、

これがまた、
初々しい関係というより、

付かず離れず、
程よい距離を保ち続ける、
まるで、熟年夫婦の様な関係となっております。

 

恋愛経験の無い、
或いは、奥手な人物って、

白馬の王子様というか、
理想のパートナーを妄想しがちです。

しかし、
実際には、相手にも個性があって、
自分の理想に完全に添う事は、
ハッキリ言って無くて、

恋愛相手とは、付き合うにはいいけれど、

性格の不一致があれば、
結局、別れる事になります。

 

けれど、
結婚となれば、
簡単にホイホイ別れる訳にはいかず、

妥協と寛容と忍耐が必要になって来るのですが、

それに加えて、
パートナーと長く付き合うには、
相手に、過干渉しない、という事もポイントとなります。

 

アラナとゲイリーの関係性は、
普段はギスギスしてても、いざとなれば、
病める時も、健やかなるときも、
共に乗り越えられるような、
絆というものが感じられます。

これって、
熟年夫婦の関係性なんですよね。

付かず離れず、過干渉せず、

それでも、相手を信頼している、
というね。

 

作中、
自分が最初に声かけたにも関わらず、
役者仲間のランスに、
アラナを奪われた形のゲイリー。

童貞的な思考ならば、
そこで、世界の終わりの様な雰囲気になりますが、

その後、
二人が別れたと知るや、
また、さりげなくアプローチするゲイリー。

そんな二人は、
ウォーターベッドの販売で手を組みますが、

15歳とつるむ20代の自分に、
嫌気が差したアラナは、

選挙活動のボランティアなら、
大人な感じじゃね?
みたいなノリで、
市長選に出馬するジョエル・ワックスの事務所に潜り込みます。

しかし、
そのジョエル・ワックスが、
恋愛相手をぞんざいに扱うのを目の当たりにし、

対人関係の誠実さには、
年齢は関係無いと気付き、

何だかんだで、自分を構ってくれるゲイリーの元に戻ってきます。

 

そんなこんななストーリーですが、
その後も、色々な事があって、

二人は、付かず離れずの距離を保って行くのでしょう。

そんな二人の言動こそ、
青春の1ページを思い出すような郷愁がありますが、

一方で、関係性においては、
お互いの立ち位置を尊重して、
自主性に任せつつ、
信頼関係を維持するという、
まるで、熟年夫婦の様な境地に辿り着いています。

この、
初々しさとこなれた感じのアンビバレンスさが、
本作の面白さの一端を担っていると感じますね。

 

未来への希望に溢れていた、
70年代のカリフォルニアという、
懐かしい舞台設定にて、

初々しい二人が、
一過性に終わらない人間関係を繰り返すという本作『リコリス・ピザ』。

郷愁と未来への希望、
初々しさと、熟年感、

そういう二律背反するものが、
上手い具合に混じりあっているバランス感覚が、

興味深く、面白い作品と言えるのではないでしょうか。

 

 

 

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