巨大ロボットを巡る騒動から9年たったある日、突如、ロンドンに2体目の巨大ロボットが現わる!!EDC(国連地球防衛軍)要する巨大ロボ「テーミス」を出撃させるべきか、否か!?しかし、巨大ロボのプレッシャーに晒された英国は、EDCや他国の思惑をよそに、独自に行動を開始する、、、
著者はシルヴァン・ヌーヴェル。
前作『巨神計画』にてデビュー。
本作は前作の続きの2作目である。
息も吐かせぬ展開で、
圧倒的なリーダビリティを誇った前作『巨神計画』。
前作の衝撃のラストから9年経ったある日、ロンドンに突如2体目の巨大ロボットが降臨する場面から始まります。
そんな本作は、確かに純然たる続篇。
危機、また危機の連続で、
前作にも増してページを捲る手が止まりません。
本作も前作同様、
記録文書で振り返る後語り方式。
インタビュー、
個人の日記、
通信傍受記録、
TV放映の様子、
手紙 etc…
謎の人物「インタビュアー」が収集した(と思われる)文書を、
記録ナンバー順に、時系列にそって辿ってゆく作品です。
これが、まるでドキュメンタリーの様な臨場感。
正に「読むモキュメンタリー」です。
本作は、メインに巨大ロボットが据えられている作品です。
とは言え、前作ではそれ程「ロボアクション」みたいな物はありませんでした。
本作は、多少のアクションがあります。
しかし、
やはりこのシリーズのメインの面白さは、
人間ドラマのサスペンス。
困難に直面した人間の「生」の声を綴って行くからこそ、
そこに最大の魅力がある作品です。
兎に角、読んでいて面白い。
読者を、如何に楽しませるか?
それに特化した、傑作エンタテインメント。
『巨神覚醒』は、前作に続いて、オススメの一冊です。
-
『巨神覚醒』のポイント
記録文書を辿るドキュメンタリー形式
危機、また危機の連続、圧倒的なリーダビリティ
予想を裏切る展開の妙
*前作のあらすじ
11歳の誕生日、ローズ・フランクリン少女が発見した巨大な「手」。
それは、巨大ロボットのパーツだった。
長じて物理学者となったローズは、
謎の人物「インタビュアー」が主導する組織に引き抜かれ、
全てのパーツを集めるべく奮闘し、それを果たす。
また、
インタビュアーはパイロット候補も選別。
ロボットは二人体制で動き、
当初はカーラ・レズニックとライアン・ミッチェルの二人を予定していたが、
実際に適合性があったのは、
カーラと言語学者のヴィンセント・クーチャーであった。
この二人により、組み立てられた巨大ロボット「テーミス」は起動。
その起動実験の事故により、ローズは命を落す。
リーダー的なローズの死により、組織は混乱、
それに乗じた各国の思惑が交錯する中、
遺伝学者のアリッサ・パパントヌはカーラやヴィンセントで人体実験をしようと企てる。
しかし、謎の人物インタビュアーは各国の微妙なパワーバランスを制し、
カーラとヴィンセントを奪還、
テーミスを国家主権の及ばない存在へと仕立て上げた。
そして、アイルランド、ダブリンにてとある女性が発見される、、、
それから9年後の物語、
それが『巨神覚醒』である。
以下、内容に触れた感想となっております
スポンサーリンク
-
題名
先ず原題に着目です。
前作の原題は『Sleeping Giants』。
「眠れる巨人」と言ったところでしょうか?
これを『巨神計画』という邦題にしたのはカッコイイですね。
そして、本作の原題は『Waking God』。
「神の目覚め」と言ったところでしょうか?
これを、前作との統一感を出す為に『巨神覚醒』としたのは、
これまた絶妙な訳ですね。
おそらく、予め、
前作と今作の題名が分かっていたので、
ちょうど統一感がある題名を考えて、邦題に宛てたのだと思われます。
しかし、3作目・完結篇の原題は『Only Human』との事。
日本版の仮題は『巨神降臨』。
「巨神」というフレーズに囚われて、ちょっと、原題から離れてしまった印象となっています。
「巨人」と「神」と「人」とは、
ギリシア神話や北欧神話では関係が深い間柄。
世界の主権が、
「巨人」→「神」→「人」へと移って行く様子が、
この3部作の題名で表現されているのかもしれません。
-
「引き」の上手さ
さて、やはり、
本作『巨神覚醒』も前作『巨神計画』同様に、
圧倒的なリーダビリティがあります。
それは先ず、
インタビューや記録文書で辿る、ドキュメンタリー形式の作風にて、臨場感がある事が一つ。
そして、もう一つが、
登場人物の行動が、
その後の展開にダイレクトに影響し、
後になればなる程、事態が雪だるま式に重大になって行く、
このドンドンインフレして行く構成の妙があります。
「巨神」シリーズは、
大まかな「部」があり、
それが、細かい「ファイル番号」という記録毎に分けられて描写されます。
本来は記録文書のハズ。
しかし、このシリーズは、
その文書の終わりが、強烈な「引き」になっているのです。
まるで、
週刊連載漫画で、毎号上手い所で終わっているかの様なノリなのです。
丁度気になる所で引きが来て終わって、
続きをどうしても読みたくなり、
その顛末が語られたと思いきや、
再び事件発生で、別の引きが出来上がる。
この連続で止め時が無いんですね。
細かく区切って、クライマックスを連続で積み上げる事で、
それが波状攻撃となり、
段々と面白さのボルテージも上がって行く。
このテンションを途切れさせず、
ラストまで突っ走ったからこその面白さなのです。
以下、強烈なネタバレとなっております。
-
『巨神覚醒』、ここが面白い!
本作『巨神覚醒』が面白いのは、
先ず、続篇の強みを存分に発揮している事です。
世界観やキャラクターは、
前作できちんと描写済み。
それを繰り返す愚は犯さず、
イキナリのクライマックスを冒頭に持って来るこの大胆さ。
しかし、読み進めれば、それはまだ序の口と分かるのですが、
最初っからアクセルをべた踏みした展開、
この出し惜しみをしない感性が良いのです。
そして、ちりばめた謎の回収の面白さ。
例えば、
『巨神計画』下巻(p.57)の描写が、
『巨神覚醒』上巻(p.23)に直接繋がっている所。
この様に、
巻をまたいだ伏線回収みたいな事をやってくれる、
それが嬉しい所です。
さらに、
前作で「全く知らない大勢の他人の死より、たった一人の自分の知人の死の方が重い」という様なセリフがありました。
本作は、
それを地で行く様な展開、
文章上で大勢の人間が死ぬことのショックより、
慣れ親しんだ主要キャラ、一人分のショックの方が大きい、
その事実をショッキングにも見せつけてきました。
そういう、予想外な展開には唸らされます。
期待に応え、予想を裏切る。
言うは易し、行うは難し、です。
その一番のサプライズは、
インタビュアーの退場です。
本作で、「ファイル番号」を振り分けた張本人と思われるインタビュアー。
謂わば、「語り部」であり、
記録を収集した「主人公」でもあり、
記録を後から読者が読んでいるという事実から、それを収集した人物は「絶対安全な死なない人間」
だと言う認識がありました。
その読み手の認識を逆手に取ったサプライズ!!
しかし、そうなれば、
今まで語られた「ファイル番号」の数々は、
最終的には誰が管理しているものになるのか?
そういう疑問点も発生し、
今後の予断を許しません。
前作『巨神計画』同様の面白さを持ち、
その危機の規模、深刻さのスケールがアップした『巨神覚醒』。
努力、奮闘しつつも、
それが叶わず空しく散って行くものもあり、
その一方、
想いを受け継ぎ、それを実行する物もあり、
SF的な仕掛けの面白さに、
人間ドラマのケレンミが上手く際立った作品と言えるでしょう。
今回も意外性のあるラストで終わった『巨神覚醒』。
完結篇も楽しみにして待ちたいです。
*前作『巨神計画』の感想はコチラのページから読めます。
*書籍の2018年紹介作品の一覧をコチラのページにてまとめています。
こちらは下巻
スポンサーリンク