宇宙を創世した巨人「セレスティアルズ」のエリシェム。
その存在の命を受け、深宇宙より来たる敵対的生命ディヴィアンツより地球を守るべく、
7000年前に派遣された者達、それが、エターナルズ。
彼達は、500年前にディヴィアンツを絶滅させ、現在は人類に溶け込み生活していた。しかし、サノスの「指パッチン」から5年後、巨大地震を境に、今再び、ディヴィアンツが襲来して来た、、、
監督はクロエ・ジャオ。
『ノマドランド』(2020)にて、
初の女性、非白人、として第93回アカデミー賞監督賞を受賞した。
(同作は他、作品賞、主演女優賞も受賞)
他の監督作に、
『兄が教えてくれた歌』(2015)
『ザ・ライダー』(2017) 等がある。
出演は、
セルシ:ジェンマ・チャン
イカリス:リチャード・マッデン
キンゴ:クメイル・ナンジアニ
スプライト:リア・マクヒュー
ファストス:ブライアン・タイリー・ヘンリー
マッカリ:ローレン・リドルフ
ドルイグ:バリー・コーガン
ギルガメッシュ:ドン・リー(マ・ドンソク)
エイジャック:サルマ・ハエック
セナ:アンジェリーナ・ジョリー
カルーン:ハーリッシュ・パテル
デイン・ウィットマン:キット・ハリントン 他
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)にて、
一区切りついた、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」。
そこから、
謂わば、
第二部的な展開が始まるのですが、
シリーズの
23作目『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』(2019)
24作目『ブラック・ウィドウ』(2021)
25作目『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)
は、
むしろ、前世代に属する印象の作品でした。
なので、
実質的な「マーベル・シネマティック・ユニバース」の新展開としては、
本作、
第26作目である『エターナルズ』がその先鋒と言っていいでしょう。
そんな大事な区切りの作品の監督を任されたのは、
クロエ・ジャオ。
奇しくも、
前年のアカデミー賞にて、
3冠を達成したばかり。
コロナウィルスの影響で、
公開が先送りにされた本作ですが、
寧ろ、
『ノマドランド』で獲った「アカデミー賞」という箔が付いて話題になるという、
奇跡的なタイミング。
世間的には、
未だ、無名だった監督を青田買いした、
マーベル・スタジオの先見の明には驚かされます。
さて、
その内容です。
本作では、
一気に、10名のスーパーヒーローが出て来ます。
普通、
10人も一気に登場人物がいたら、
覚えられないですよね。
しかし、本作は違います。
人種、性別が違う10人が、
個々の能力に特化しているので、
キャラクターとして、分かり易く、覚え易いのです。
セルシ:物質置換、ナチュラリスト
イカリス:飛行能力、目ビーム
キンゴ:霊丸、かめはめ波
スプライト:幻術、幻覚
ファストス:技術屋
マッカリ:スピード
ドルイグ:精神攻撃
ギルガメッシュ:近接パワー型
エイジャック:リーダー、ヒーリング能力
セナ:近接武器術
と、
最初の10分で、
自己紹介がてら暴れてくれて、
それでいて、能力と、顔も覚えられます。
最近のハリウッド映画は、
ダイバーシティ、
いわゆる「多様性」を掲げています。
これが、
出演者全員白人男性だったら、
顔と能力を覚えるだけで、
2時間費やしてしまいますが、
人種、性別が多用なので、
見た目で、すぐに分かり易いというのは、
本作の素晴らしい配慮だと思います。
また、その能力も、
予告篇では、
「アベンジャーズが雑魚レベルの超人」的な印象を受けましたが、
私が観た感じだと、
キャプテン・アメリカより強そうだけど、
サノスやキャプテン・マーベルよりは弱そうですね。
なので、
高卒ばっかりの会社で、
頑張って有名に、デッカくした後から、
大卒の幹部候補とかいう若造が後から入って来て、
デカい顔してる、
みたいな心理的な反発心が、
観る前にはありましたが、
まぁ、
実際に観てみると、
そんな感情はどっかに行きますので、ご安心を。
スーパーパワー的には
これまでのシリーズの登場人物とも比肩する程度ですが、
しかし、
本作は、
そのスケール、設定が宇宙レベル。
なにせ、
冒頭の解説にて、
宇宙創造したうんたらかんたらとか、言い出すからです。
つまり、何かって言ったら、
本作は、
謂わば、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」という世界観での、
神話、叙事詩を描いている
と言えるのです。
日本にも創世神話がありますし、
神話と言えば、
北欧神話
ギリシャ神話、
エジプト神話、
ヒンドゥー教や、
イスラム教、
キリスト教、
仏教などの宗教の神話なども沢山あります。
本作は、
新たなる神話的なスケールの話を作っているのですね。
では、
そんなスケールのデカい話、
全く、理解出来ないのでは無いのか?
と、思われるかもしれませんが、御安心を。
各神話も、
如何にもの、人間くささが物語の面白さになっていますが、
『エターナルズ』でも、
メインのストーリー展開は、
我々が感情移入出来るレベルの、卑近な物語となっています。
それは、愛です。
まぁ、
この辺が、
いつもの「マーベル・シネマティック・ユニバース」風味なので、
シリーズのファンなら、安心する所。
寧ろ、
今までのシリーズと比べても、
最も「愛とは何ぞや」を考えている作品とも言えます。
終始、抑えた調子で、
しかし、戦闘はド派手に、
設定は宇宙規模、
それでも語られるのは、身近な愛の物語。
アカデミー賞受賞監督が、
金をジャブジャブ使ったら、こんな映画が出来る、
やっぱり、一定の面白さは保証されているんだなぁと感心させられる、
『エターナルズ』は、そんな作品です。
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『エターナルズ』のポイント
宇宙スケールで語られるMCU神話
モキュメンタリー風叙事詩
最後にモノを言うのは、愛なんだなって
以下、内容に触れた感想となっております
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クロエ・ジャオが描くマーベル・シネマティック・ユニバース
本作『エターナルズ』の監督は、
クロエ・ジャオ。
第93回アカデミー賞にて、
作品賞、監督賞、主演女優賞を『ノマドランド』にて獲得しました。
『ノマドランド』は、
アメリカの最貧困層、
季節によって、全米を渡り歩く、
現代の「ノマド」とも言える車上生活者の様子を描いた作品。
と言うか、
演技をした事の無い、実際の車上生活者も、
メインキャストとして採用していたり、
その映像も、
まるで、ドキュメンタリータッチに描かれていたりしました。
私は、監督の別の過去作を直接は観ていませんが、
聞いた話によると、
過去作でも、撮影の現地の素人をキャストとして使用したという事なので、
この、
フェイク・ドキュメンタリー風味の作風
謂わば、
フィクションを「モキュメンタリー」として撮影する作風は、
彼女の持ち味なのかな、と思います。
ちょっと難しいですが、
「モキュメンタリー」とは、
ドキュメンタリー風に撮ったフィクションですが、
本作は、更に、
フィクションの世界観を、
モキュメンタリーとして撮っているという、
メタ的な多重構造となっているのが、
クロエ・ジャオ作品と言えるのではないでしょうか。
本作も、その手法を用いており、
現在の危機と、
過去エピソードが交互に入り交じる作品構成なのですが、
特に、過去エピソードなどは、
まるで、
TVの歴史クイズ番組の再現VTR的なノリとなっています。
つまり、
過去エピソードでは、
神話的な叙事詩の登場人物であり、
超然とした人物像として、
エターナルズの面々は描かれているのです。
その面々が、反面、
現在のパートでは、
長い年月を経て、
如何にも「人間らしさ」を獲得したという形で描かれます。
人を愛したり、
狭いコミュニティを作ったり、
有名になってみたり、
引き籠もったり、
この、過去と現在の落差というものが、
本作の面白さの一つとなっています。
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使命と感情
そんな「エターナルズ」、
当初は、人類を守る事が目的と思われましたが、
実は、
そう事は単純では無いと知らされます。
セレスティアルズが宇宙にバラ撒いた「卵」。
それは星に寄生し、
何時か「孵化」する。
その条件は、
星に、知的生命体が満ちる事。
本来、
星の環境の「Apex Predator」(頂点捕食者)を駆除し、
知的生命体の繁殖を促進させるための「機能」であったハズのディヴィアンツ、
このディヴィアンツが生物として暴走し、
頂点捕食者として君臨するに至って、
セレスティアルズは、
ディヴィアンツを更に駆除する「装置」として、
エターナルズを作り、派遣した。
その役割は、
ディヴィアンツを排除し、
星の知的生命体を繁栄させ、
新たなるセレスティアルズと成る、
「ティアマット」を「孵化」成さしめる事であった。
こうして、
古い星と生命大系を破壊し、
新たなる太陽系とセレスティアルズを生成する、
破壊と創造のサイクルこそが、
真の目的であるのです。
因みに、「セレスティアルズ」ですが、
過去の「マーベル・シネマティック・ユニバース」でも度々言及されており、
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)では、
死んだセレスティアルズの頭蓋骨をくり抜いて作った都市「ノーウェア」が登場し、
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』(2017)では、
登場人物のエゴが、自らを「セレスティアル」と名乗り、
宇宙を統べる者だと言いました。
また、
セレスティアルズの一体が、
「インフィニティストーン」の「パワー」を使う様子も描かれており、
もしかしたら、
「インフィニティストーン」自体も、
セレスティアルズのカラーリングも含め、
何か、関係があるのかもしれません。
さて、
作品の冒頭、セシルが
「Apex Predator」は何かと、学生に問います。
彼達は、
「ライオン」「狼」などと答えますが、
観客は当然、
「万物の霊長たる、人類だろ」と、
心の中で思うのです。
ここで、地震が発生して、
セシルの答えは有耶無耶になるのですが、
本作での頂点捕食者とは、
原生生物(人類)
→ディヴィアンツ
→エターナルズ
→セレスティアルズ
という関係であり、
人類とは、アリンコに過ぎないと、
物語が進むにつれ、分からされるのが、
面白い構成だと思います。
しかし、
ここで、
観客は当然、
作中のエターナルズと同様に、悩みます。
宇宙の生命創生サイクルを遵守するか、
地球の生命を守るか、
です。
この問いは、
実は、
『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』と
『アベンジャーズ/エンドゲーム』の命題の一つとして描かれたものです。
即ち、
大義の為の犠牲(大量虐殺)は是か非か
というものです。
先の2作品においては、
生命を喪った哀しみは、深い停滞を生み、
大量の生命が資源を食い尽くしていた世界とは、また別の意味で、
沈滞と、衰退へ向かっていました。
本作では、
本来の使命を遵守する事を選ぶ者と、
地球の人類に愛着を持ち、
それを守る事を選ぶ者とで分かれ、
エターナルズ内での内ゲバが始まります。
-
愛が地球を救う!?
宇宙スケールの危機に陥る地球ですが、
内ゲバを始めたエターナルズの面々は、
その実、
使命や信念に殉ずるというよりも、
その意思決定に、感情的なもの、
即ち、愛が存在しているのが、本作の特徴と言えます。
リーダーのエイジャックは、
サノスの「The Decimation」(指パッチン)が行われた後の世界を巡り、
正義感や使命の為に犠牲になった世界の悲惨さを目撃、
使命より、生命保護を訴えます。
そんな彼女を殺害するのは、
使命原理主義者のイカルス。
そんな彼も、
最後の最期には、
セルシへの、個人的な愛故に、
自らの信念と使命を完遂出来ずに終わってしまいます。
そのイカルスが愛したセルシは、
地球を一目見た時から、
その美しさを称賛し、
世界そのものを愛しました。
思えば、
最初の宇宙船から地球を見るシーンから、既に、
個人を愛したイカルスと、
世界を愛したセルシの対比が描かれていたのです。
キンゴは、
中立的な立場。
使命を守るべきだが、
それにより、
地球を守りたい同胞(エターナルズ)を攻撃したくないと言います。
これは、同胞=家族愛と、
もしかして、
個人的な、イカルスへの愛というか、尊敬の念との天秤の結果なのかもしれません。
そのキンゴが喝破したのが、
スプライトが持つ、
イカルスへの恋心。
キンゴは分かり易く、
イカルス=ピーターパン
セルシ=ウェンディ
スプライト=ティンカーベル
と、この三角関係を説明してくれます。
が、キンゴが個人的に好きだったのは、
もしかして、スプライトなのかもしれませんね。
で、スプライトは、
大人に成れない自分=
永遠に報われない愛故に、イカルスに荷担します。
ファストスは、
自らが築いた地球の家族の為、それを守り、
超然としているドルイグは元々、
精神攻撃を得意とするが故なのか、
人が無益に死に至る事に、怒りと哀しみを持っており、
その彼とツーカーのマッカリは、
引き籠もりつつも、
その判断は爆速で、ドルイグと同じものでした。
過去の記憶故に、
病んでしまったセナ。
それこそ、彼女が
大量虐殺に忌避感を持っている証拠であり、
そんな彼女に無償の愛を捧げるギルガメッシュ。
叙事詩では、
親友エンキドゥの死に哀しんだ「ギルガメッシュ」だが、
本作では、
逆に自らの死が、セナという親友(愛の対象)を哀しませる事となる。
本作では、
随分と大所、高所から、
物語が押し付けられている様な感じがしますが、
しかし、
その意思決定には、
愛という卑近な感情が大勢を占めており、
このロマンス部分が、
観客が楽しめる、感情移入出来る部分であるのです。
-
惜しげも無くパクる
そんな『エターナルズ』ですが、
まぁ、何と言うか、
クロエ・ジャオ監督が、元々持っていた、
自分の興味ある部分は独特ですが、
その他の部分は、
まぁ、ハッキリ言うと、
オマージュというか、パクリが多いな、と。
先ず、冒頭、
設定を文字で説明するのは、
まぁ、「スター・ウォーズ」ですよね。
そして、
誰もが思い、
作中でも、
ファストスとベンの養子である、
ちびっ子のジャックが指摘している通り、
イカルスは、その戦闘スタイルから、
目ビームまで、
「DCエクステンデッド・ユニバース」の
『マン・オブ・スティール』(2013)や
『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』(2016)
『ジャスティス・リーグ』(2017)の
ヘンリー・カヴィルが演じたスーパーマンそのまんまですよね。
スーパーマンと言えば、
マッカリの戦闘スタイルも、スーパーマンそのまんまで、
同じスピード系の、
DCの「フラッシュ」とか、
「X-MEN」の「クイックシルバー」とかに比べると、
スピードの説得力が足りませんでした。
それを言うなら、
ヒーリングファクターも、
「X-MEN」のウルヴァリンの方が上ですし、
戦闘面の描写は、
クロエ・ジャオは、全く拘りが無いというか、クリエイティビティが無いのが、
浮き彫りになっています。
また、監督は、
日本の漫画の『幽☆遊☆白書』のファンと公言しており、
キンゴの指鉄砲である光弾は、
『幽☆遊☆白書』の主人公・浦飯幽助の必殺技「霊丸(レイガン)」を参考にしたと言っています。
それだけでは無く、
キンゴはかめはめ波みたいな技も使いますし、
まぁ、明らかに、影響を受けてますね。
更には、監督は学生時代、
友人に『幽☆遊☆白書』の作中のイケメン人物である、「蔵馬」と呼ばれていたとか何とか。
は?
…蔵馬と言えば、
アニメ版で蔵馬を演じた声優は、緒方恵美。
緒方恵美と言えば、
アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公・碇シンジを演じた事でも有名ですが、
『エターナルズ』のクライマックスシーン、
ティアマットの誕生シーンって、
『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』(1997)の、
綾波レイですよね。
あと、セレスティアルズって、
そのデザインが、
『パシフィック・リム』(2013)の巨人ロボ兵器・イェーガーを想起させます。
なんか、
雑魚ディヴィアンツのデザインも、
何となく、『パシフィック・リム』の「カイジュー」っぽい感じですし。
多分、
気付かないながらも、
もっと、多くのパクリが存在するんでしょうね。
本作は、
そのストーリーや神話に挑戦する
物語のデザインは意欲的ながらも、
細部の構成に「借り物」が多いというか、
多すぎる所が、
ちょっと気になりますね。
それでも、
久しぶりに、
アンジェリーナ・ジョリーをアクション映画に引っ張り出したのは、
グッジョブと言えます。
やっぱ、彼女は「映える」なぁ。
-
セシルを巡る三角関係
最後に、ちょっと一言。
セシルを巡る三角関係に、
元カレのイカルスと、
人間の今カレ、デインという存在があります。
このイカルスを演じたリチャード・マッデンと、
デインを演じたキット・ハリントンには因縁というか、関係があって、
二人とも、TVドラマシリーズの
『ゲーム・オブ・スローンズ』にメインキャラとして出演していました。
リチャード・マッデンは、
ロブ・スターク、
キット・ハリントンは、
ジョン・スノウ、
本妻の長男ロブと、
私生児のジョンという関係が、
奇妙な友情で結ばれていたのですが、
時を経て、
三角関係になったのは、
まぁ、意図的な配役ですよね、コレ。
で、
エンドクレジット後のオマケエピソードでも描かれていましたが、
どうやら、
デインというキャラクターも、
「マーベル・シネマティック・ユニバース」の登場人物の一人であり、
今後、
呪いの剣?を持ったキャラクターとして、
活躍する?のかもしれません。
セナも、
エクスカリバーがうんたらと、言ってましたし。
静かなタッチで、
しかし、派手なアクションと、
現代に繋がる神話と叙事詩の形成にチャレンジした『エターナルズ』。
大所高所に立ちながら、
それでも、
あくまでも、語るのは、
愛の物語。
ここから、
新生「マーベル・シネマティック・ユニバース」が始まる、
その第一歩として、
中々に冒険した作品と言えるでしょう。
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