1979年、テキサス。
ポルノ映画を撮る為に、田舎の農場の小屋を借りた男女6人。
持ち主の老人・ハワードに悪態を吐かれたが、気にせずにSEXシーンを撮影する一行。
自身の出演シーンが来るまで手持ち無沙汰なマキシーンは周囲をうろつき、ハワードの妻の老女・パールと遭遇するのだが、、、
監督は、タイ・ウェスト。
ホラー系の映画を撮り続けている。
長篇映画監督作に、
『The House of the Devil』(2009)
『キャビン・フィーバー2』(2009)
『インキーパーズ』(2011)
『V/H/S シンドローム』(2012)
『サクラメント 死の楽園』(2013) 等がある。
出演は、
マキシーン:ミア・ゴス
ウェイン:マーティン・ヘンダーソン
ボビー・リン:ブリタニー・スノウ
ジャクソン:スコット・メスカディ
ロレイン:ジェナ・オルテガ
RJ:オーウェン・キャンベル
ハワード:スティーヴン・ユーア
パール:????
夏だ!
祭りだ!
SEXの季節だ!
しかし、開放的になったからって、
油断は禁物!
ホラー映画の文法として、
SEXしたヤツは、ぶち殺されるぞ…
そう、本作『X エックス』は、
昔懐かし、
正統派のスラッシャー映画です。
スラッシャー映画とは、
ホラー映画のジャンルの一つというか、
連続殺人鬼が犠牲者を襲って、
無惨に血塗れの殺人が起こる作品です。
犠牲者は6人!
死亡フラグを立てたヤツから死んで行く!
多くも無く、
少なくも無い、
ちょうどいい腹心地の人数だ!!
何も足さない、
何も引かない、
本当に、それだけの作品、
何も考えなくて良し!
ホラー映画が好きなら観に行けよ、
行けば分かるさ!
そうで無いなら、
回避でOK。
正統派で、
王道展開で、
文法に則った、
清く正しいスラッシャー映画、
『X エックス』。
冷えた映画館で、
ポップコーン片手の鑑賞に最適の作品です。
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『X エックス』のポイント
正統派のスラッシャー映画
殺人鬼と性行為の関連性
嫉妬、羨望、後悔、あり得る未来と過去の姿の合わせ鏡
以下、内容に触れた感想となっております
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恐怖!!スラッシャー映画!!
本作『X エックス』は、
清く正しいスラッシャー映画。
ホラー映画の文法に則り、
フラグを立てた人間から死亡して行きます。
作品の舞台は、
1979年、テキサス。
奇しくも、
一週間前に日本公開された『ブラック・フォン』(2022)は、
1978年が舞台の、
少年連続誘拐殺人鬼の作品。
その年代は、
ホラー映画全盛期というか、
スラッシャー映画黎明期とも重なります。
スラッシャー映画は、1970年代後半~80年代に多く作られました。
特徴としては、
犠牲者は、あくまでも無惨な供物であり、
物語的に、
サイコパスな連続殺人鬼の活躍(?)に、
焦点が当てられている印象があります。
『ハロウィン』(1978)
『13日の金曜日』(1980)
『エルム街の悪夢』(1984)などが代表作ですが、
そのジャンル的な起源は、
アルフレッド・ヒッチコックの『サイコ』(1960)とも言われています。
そして、
本作の直接の元ネタとも言える作品として、
トビー・フーパー監督の『悪魔のいけにえ』(1974)が上げられるでしょう。
『悪魔のいけにえ』は、
原題が『The Texas Chain Saw Massacre』、
直訳すると「テキサスでチェーンソー振り回して皆殺し」と言った所。
メインの犠牲者は5人で、
殺人鬼は、レザーフェイスというサイコパスを筆頭に、
その家族ぐるみで襲いかかって来るという内容です。
本作との共通点として、
他にも、老人が殺人鬼として活躍するという要素が上げられます。
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性行為としての殺人
スラッシャー映画である本作『X エックス』の殺人鬼は、
ハワードとパールという老夫婦です。
さて、
スラッシャー映画に限らず、
多くのホラー映画作品における「殺人」は、
実は、「性行為」の代替行為である場面が多いです。
『13日の金曜日』では、
引率員の大学生同士がSEXしている間に、
息子が湖で溺れ死んだ母親が、
その復讐として、
湖に遊びに来たパリピを殺して行くという話。
これは、
歪んだ復讐心なのですが、
その一方、
性行為を出来る年齢まで行かなかった息子に対する、
性行為の代替行為としての、殺人という弔いであるとも言えます。
もっとぶっちゃけて言いますと、
スラッシャー映画とかいうホラー映画の愛好家みたいな人は、
恐らく、
学生時代、モテなかったタイプの人間でしょう。
観客も、作り手も。
故に、
ビッチやヤリチンをみたいなパリピをブチ殺すのは、
童貞気質の人間の、
青春に対するリベンジ行為という側面もあります。
なので、
基本的には、
非モテの殺人鬼が、
性行為の代わりに、殺人を犯すという構図が成り立ちがちです。
しかし本作は、
その構図を転換し、
過去、ヤリまくった男女が、
現在、歳を取ってヤれなくなってしまったが為に、
性行為の代わりに殺人を犯すという図式になっているのです。
そこが、
本作のオリジナリティであり、
面白いテーマでもあるのです。
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恐怖、ババアゾーン!!
で、『X エックス』におけるサイコパスの老夫婦について見てみると、
メインの殺人鬼は、
実は、妻のパールであり、
ハワードは、
彼女の希望に添う形で、
結果的に殺人を行っているという形になっております。
ハワードは、
年齢的な問題で、
心臓に負荷のかかる性行為を行う事が出来ない。
故に、
若い男女が現われると、
その影響で、パールは欲情するのですが、
「抱いて」と若者を誘惑しても、
「おい、止めろ、ババア!」と拒否されます。
で、
パールは性行為の代わりに、
相手をブチ殺す、と。
それは、性行為の代替でありつつ、
若さへの嫉妬、羨望、鬱憤晴らしでもあるのです。
実際、
老人が若者をそんなにポンポン殺せるのか、
と疑問に思われるかもしれません。
しかし、例えば、
ボクサーがキックボクサーとキックの試合をすれば、
キックボクサーが勝ちますし、
そのキックボクサーが、
総合格闘家とMMAで試合をすれば、
総合格闘家が勝つでしょう。
そんな総合格闘家も、
路上の喧嘩だったら、
武器を使うヤクザや禁じ手を使う武道家に遅れをとりますが、
そんなヤクザや武道家をボクシングのリングに上げても、
ボクサーに絶対に勝てません。
つまり、何が言いたいのかというと、
相手のホームグラウンドで戦う事は、
圧倒的に不利であり、
地理的、心理的優位性により、
アッサリと、不意打ちを許し、倒されてしまうだろうという事です。
農場で襲われたら、
パリピでも、後期高齢者に屠られてしまうよ、と。
さて、
本作、物語の中盤、連続殺人が行われる前、
主人公格のマキシーンが、
パールと会話するシーンがあります。
パールは、マキシーンに、
まるで、過去の自分を見ているようだと、
自己投影し、
自分にも、輝かしい未来があった、
でも、二度の大戦があって、
思う様な人生を送れなかった、
と、人生の悔恨を吐露するシーンがあります。
この場面は、
マキシーンとパールが映し鏡である事を象徴するシーンです。
マキシーンは、
ポルノ映画を足掛かりに、
ハリウッドで女優として成功を夢見る若者ですが、
その夢、希望は、
敢え無く叶わなかった場合、
パールの様に、
後悔に囚われた人生になるという示唆でもあります。
つまり、
マキシーンにとって、パールは未来の姿であり、
パールにとっては、マキシーンは、過去の自分であるのです。
その証拠に、
マキシーンとパールは、
実は共に、ミア・ゴスが演じているのです。
つまり、パールが若者を殺すのは、
性行為の代替という側面もありつつ、
不遇な人生を送った事へのリベンジでもあるという事なのです。
つまり、
未来ある若者から、
その未来を奪う事で、
「他の人に、良い想いをさせない」
という、歪んだ復讐心の発露でもあるのです。
これは、
昨今の日本における、
未来に希望を持てない犯人が、
自殺を選択する位なら、
小学生や女性や、首相経験者を狙って、殺人を起こし、
劇場型殺人で死刑になる為に、
他人を巻き添えにしようとする心理に、
何処か、似ています。
ホラー映画というものは、
実は、
意識してか、無意識にか、
時代の恐怖の対象を反映している部分があり、
故に、
良く出来た作品は、
同時代的な共感が得られるのです。
そう言った意味でも本作は、
老後の性問題や、
未来に希望を持てないテロ犯人の心理など、
その同時代性をも象徴する、
名作と言えるのではないでしょうか。
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出演者の補足
本作の主演、
マキシーン/パールの二役を演じたのは、
ミア・ゴス。
スプラッター映画として有名な、
『サスペリア』(1977)のリメイク作である、
2018年の、ルカ・グァダニーノ監督の『サスペリア』に出演していました。
他にも、
『ハイ・ライフ』(2018)という作品にも出演しており、
美人というより、
その、インパクトの高い容姿にて、印象に残る役者です。
具体的に言いますと、
「ミア・ゴス」で検索しようとすると、
予測変換で「ミア・ゴス 眉毛」とか出て来るのが笑えます。
みんな、
彼女に眉毛が無い事が、気になるンですね。
因みに、
作中、マネージャーのウェインが
マキシーンの隠された才能の事を「Xファクター」と言いますが、
「Xファクター」と言えば、
対戦型格闘ゲームの「マーベルVSカプコン3」シリーズの逆転要素を思い浮かべたのは、
私だけではないでしょう。多分。
ブロンド美人、
典型的なブチ殺されビッチを演じるのは、
ブリタニー・スノウ。
作中、パールにビッチと揶揄されたのは、
「ピッチ・パーフェクト」(2012~2017)シリーズに出演しているからかもしれません。
また、
スラッシャー映画と言われる『プロムナイト』(1980)の、
同名のリメイク作(2008)に主演として出演しています。
他にも、
『ブッシュウィック ー武装都市ー』(2017)に主演格として出演しており、
大作の常連では無くとも、
何となく、印象に残る役者と言えます。
ロレインを演じたのは、ジェナ・オルテガ。
本作の予告篇でもフューチャーされた、
絶叫シーンの表情が秀逸です。
本作においては、他にも、
地下室のドアを斧で破壊し、
鍵をこじ開けようとする場面が、
スタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980)の、
ジャック・ニコルソン演じるジャック・トランスの様に鬼気迫っていましたが、
殺人鬼側では無く、
犠牲者側でオマージュシーンを演じているという転換ぶりが、
面白い所です。
他の出演作に『アイアンマン3』(2013)や、
予定として、
Netflix映画の、
ティム・バートン監督作、
アダムスファミリーの映画『Wendesday』にて、
主役のウェンズデー・アダムスを演じるとの事なので、
今後の活躍に注目です。
正統派のスラッシャー映画である、
『X エックス』。
ホラー映画の文法に則り、
サイコパスが犠牲者を屠って行きますが、
過去のスラッシャー映画、ホラー映画にオマージュを捧げつつも、
老夫婦の性事情など、
現代的なテーマを盛り込んでいる辺り、
正しく、
ホラー映画している作品だと言えます。
エンドロール後、
オマケ映像として、
1918年が舞台、
本作の殺人鬼パールが主演の続篇『パール』の紹介映像が流れました。
ああ、成程、これもオマージュで、
グラインドハウス的な、
嘘予告というか、偽予告を遊び心で入れたんだなぁ、
と、思っていましたが、
実は、マジのガチで続篇として、
ほぼ完成しており、
「A24」スタジオ配給映画として、
初のシリーズものになるとの事。
3部作構成という事なので、
本作では語られなかった伏線的な、
宗教との関係とか、
冒頭のシーンの死体の数と、
実際の犠牲者の数が合わない問題とか、
色々語られるかも、しれません。
本作と、
次作のヒットを願いつつ、
続篇も注視したいと思います。
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