戦争の影響で、海面が上昇した近未来。
戦後のマイアミにて「過去の自分の記憶の追体験が出来る」記憶潜入=レミニセンスの技術にて、生計を立てているニック。
ある日、鍵を無くした女性メイが現われる。彼女は、何処で鍵を落としたのか記憶潜入にてそれを発見したいと言う。一日の行動の追体験をする彼女の記憶を見たニックは、抗いようも無く、メイに惹かれるのだが、、、
監督は、リサ・ジョイ。
TVシリーズの『ウエストワールド』の製作を務める。
本作が長篇映画初監督作品。
出演は、
ニック:ヒュー・ジャックマン
メイ:レベッカ・ファーガソン
ワッツ:タンディ・ニュートン
サイラス・ブース:クリフ・カーティス
セント・ジョー:ダニエル・ウー 他
本作『レミニセンス』、
その題名の単語「reminiscence」の意味は、
「回想」。
英語弱者の私としては、
知らない単語だったので、
造語かと思えば、そうでは無く。
割と、普通の意味であり、
映画を彩るキーワードの一つでもあります。
さて、そんな本作、
予告篇を一見したところ、
その雰囲気から、
「お、クリストファー・ノーランの新作か?」と思いました。
まぁ、実際は、違ったのですが、
当たらずといえども、遠からず。
監督のリサ・ジョイの夫は、
ジョナサン・ノーラン。
TVシリーズの『ウエストワールド』を共同で製作しており、
また、彼は、
兄のクリストファー・ノーラン監督作品にて、
原案、脚本、を多く手掛けているのです。
やっぱり、
似た所があるから、
予告篇の雰囲気も、似たのでしょうかね。
さて、
そんな本作、
キャッチフレーズ風に簡潔に表すなら、
ハードボイルド探偵のロマンティックアドベンチャー
と言った所でしょうか。
記憶を見て、メイに惚れたニック。
彼女と付き合い、
幸せを感じたのも束の間、
メイは失踪してしまう。
しかも、
ニックの「レミニセンス」の副産物である、
顧客の記憶データを盗んで…
何故?
どうして?
ニックの、
メイを探す旅が始まる、、、
本作、
ジャンル的には、SFに属する作品ではあります。
しかし、
その内容は、
恋した男の失恋ストーリーというか、
過去の女を追い求める、
哀しきフラれ男の物語というか。
そういう意味で、
センチメンタルで、
ロマンティック。
そんな感じで感情面にスポットが当たっているので、
ゴリゴリのSF設定を活かした作品ではありません。
とは言え、とは言え、
「レミニセンス(記憶潜入)」というガジェットを存分に活かしており、
やはり、
これを表現する為に、
SFという土台が必要だったのでしょう。
そんな『レミニセンス』は、
カジュアル寄りのSFであり、
安定の役者、ヒュー・ジャックマン様が行く、
ロマンティックアドベンチャー、
万人が楽しめる作品なのではないでしょうか。
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『レミニセンス』のポイント
ハードボイルド探偵のロマンティックアドベンチャー
愛した相手を信じたい!
カジュアルながら、SF設定なればこその作品
以下、内容に触れた感想となっております
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レベッカ・ファーガソンを使ったミスリード
本作『レミニセンス』は、
「記憶潜入」というSFガジェットを展開に活かしつつも、
ストーリー的には、
エモーショナルな部分に焦点を当てた、
ロマンティックアドベンチャーとも言える作品です。
海外の評価では、
『ブレードランナー』(1982)
『ウォーターワールド』(1995)
『インセプション』(2010)などの、
過去のSF映画の焼き回しであり、
それに劣るという印象を受けたという意見もあり、
興行収入的にも、
いわゆる「爆死」。
しかし、個人的には、
感情面にスポットライトを当てたSF作品という意味で、
楽しめました。
さて、
本作での謎のヒロイン、
ニックを冒険へと誘うメイを演じるのは、
レベッカ・ファーガソン。
ヒュー・ジャックマンとも共演した『グレイテスト・ショーマン』(2017)にて、
妻子あるバーナム(ヒュー・ジャックマン)と、
良い仲になりそうになる、ジェニー・リンドを演じていました。
また、
映画版の『ドクター・スリープ』(2019)にて、
才能(シャイニング)を持っているものから、
それを奪って長命を得ている「ヴァンパイア」のヒッピー集団のリーダーを演じていたり、
そんな役柄のイメージで、
何処か、
「奔放な悪女」の印象があります。
ワッツや、観客の
第三者視点から眺めると、
ニックは、典型的な、
「悪女に騙された男」です。
騙された男って、
「自分は間違っていなかった」
と、信じたいが為に、
「正解探し」をしてしまいがちです。
ニックはその典型。
しかし、
例えば、
「性格が合わないから、別れましょう」と、
一方的にフラれた元カノにストーカーして、
実は、相手に、
既に他の彼氏が居た事を発見し、
あっさり諦めれば、
傷付かずに済んだのに、、、
みたいな展開は、
リアルな現実でも、
ままある事です。
そして、第三者は、
「やめとけ」と忠告しつつ、
フラれ男が傷付く事が分かっていても、
強くは、止められないのです。
ヒロインを演じるのは、
過去、
ヒュー・ジャックマンを誘惑した悪女のレベッカ・ファーガソンだし、
フラれ男の典型的な物語でもあるので、
ラストが、
騙されて、傷付くオチになる事を、
観客は、ある意味、覚悟していると思われます。
しかし本作は、
そういう、
観客のメタ的な目線を逆手に取り、
そのクライマックスにて、
「記憶潜入」というSFガジェットを使ったアクロバティックな告白を行う事で、
ほろ苦いハッピーエンドを演出しています。
本作の評価が低いというのは、
恐らく、こういう、
監督が仕掛けたメタ目線に、
気付かなかったり、
その設定を、ウザく感じたりしたからだと思います。
「お笑い」って、
ある程度の共通認識というか、
その設定(ネタ)に気付けるからこその、面白さという側面があります。
SFも、
そういう側面があり、
設定や世界観に「同意」出来ないと、
面白くありません。
そういう意味で、
監督の仕掛けが楽しめる、監督と同じ感性じゃないと、
どうにも楽しめない感じがするのかもしれませんね。
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ヒュー・ジャックマンの『神曲』
さて、
そんなフラれ男、ニックの冒険は、
過去の文学作品にも、類似性が見られます。
先ず、
ちょっと似てるな、と思ったのは、
上田早夕里の小説『火星ダークバラード』ですね。
『火星ダークバラード』も、
SFロマンティックアドベンチャー的な側面があります。
また、本作の、
メイを追い求めるニックは、
自分の理想の女性の影を追い求めて、
冒険、未知の領域に踏み込みます。
それは例えば、
ベアトリーチェに恋い焦がれる、ダンテの『神曲』だったり、
グレートヒェンとの幸せに思いを馳せる『ファウスト』であったり、
ハダリーの為に、人間を辞職する決意をする『未来のイヴ』のエワルド卿を思い浮かべます。
しかし、
これらの作品の共通点として、
モテない男の為の物語の宿命である所の、
結局、
理想の女性像というものは、
自らの願望の投影、
つまり、オナニー行為であるという問題点です。
そこを超える為に、
ダンテなり、
ファウストなり、
エワルド卿なりは、奮闘するのであり、
それが、
それぞれの作品の「物語」となるのです。
それは、本作のニックも同じ。
それが故に、
クライマックスにて、
「両思い」だった事が判明した時、
えも言われぬ感動があるのですね。
辛い現実の逃避として、
例えば、私なんかは、
映画を観たり、
娯楽小説を読んだり、
ゲームをしたりします。
しかし、
人が最も幸せを感じるのは、
「愛の記憶」であり、
その最も美しい瞬間を、
何度も体験出来るのなら、
それに耽溺してしまうのかもしれません。
SFのガジェットを効果的に使いつつも、
結局は、そういう人間の感情面を描いた作品、
それが、
『レミニセンス』という作品なのではないでしょうか。
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