映画『食人族』感想  やりたい放題の残虐性と、美しいとも言える構成の妙で魅せる傑作!!

アマゾンの奥地、「グリーン・インフェルノ」に住むという食人族。それをドキュメンタリー撮影しようと試みた撮影隊の4人組が消息を絶った。
救助隊を結成したモンロー教授は、白人を憎む現地の部族の反感にあいつつも、何とかジャングルの奥地を目指すのだが、、、

 

 

 

監督はルッジェロ・デオダート
イタリア出身。2022年、12月没。
主な監督作品に、
『バニシング』(1976)
『カニバル/世界最後の人喰い族』(1977)等がある。

 

出演は、
ハロルド・モンロー教授:ロバート・カーマン
チャコ・ロソホス:サルヴァトーレ・ベイジル
ミゲル:リカルド・フエンテス

フェイ・ダニエルズ:フランチェスカ・チアルディ
アラン・イェーツ:ガルリエル・ヨーク
ジャック・アンダース:ペリー・ピルカネン
マーク・トマソ:ルカ・ジョルジォ・バルバレスキー 他

 

 

尻から突っ込んだ木の棒が、口から飛び出る!!
無惨なり、串刺しになった女人の姿!!

このセンセーショナルなビジュアルイメージが有名な作品、
『食人族』(1980)。

公開当時、
あまりの刺激の強さに、
各国でフィルム回収、上映禁止などの憂き目に遭ったと言われています。

そんな阿鼻叫喚の地獄絵図が、
この度、「4Kリマスター無修正完全版」として奇跡の復活。

名作と名高い作品ですが、
今まで未見だったので、
この機会に、鑑賞して来ました。

 

いやぁ、劇場は盛況でしたね。
コロナ以降で、
久々、映画館にて両隣に人が座った状態で鑑賞しました。

 

とは言え、
まぁ、ぶっちゃけると、
人が喰われるのを観て喜ぶ様な連中が、
「これぞ、カルト作品」と過剰に持ち上げている
倫理観の欠如した変態御用達のゲテモノ映画なのではないか?

と、思っていたんです。

 

しかし、
これを実際に観てみてビックリ

ガチのマジで名作!!
映画作品としての構成の妙が素晴らしい!!

 

長らく、
名作、傑作の呼び声が高いのには、
訳があった!!

いや、コレは面白いワ。
正直、今年観た作品の中で、一番面白かったと言わざるを得ません。

かつての私の様に、
何となく、イメージで偏見を持って、
鑑賞を忌避する人は沢山いると思います。

しかし、
映画作品というものはやはり、
実際に自分で鑑賞しないことには正当な評価が出来ないもの、

今回、
食わず嫌いで観ていなかった作品を思い切って観てみたら、
予想外の大当たりで、儲けものの気分です!!

 

まぁ、とは言えですよ、

その『食人族』という題名で予想出来る通り、

目を覆いたくなる様な、
エログロヴァイオレンス描写がある事は事実。

 

故に、
これに耐性や素養が無いタイプの人間は、
どうしても、鑑賞は出来ないでしょう。

元々、
私はホラー映画好きだから、
本作も楽しめたのかもしれません。

 

しかし、
本当に、映画って、面白い!!

本作は、
人跡未踏の地で、食人族に出会う話ですが、

私にとっては、
未鑑賞の過去の名作が、
現代も色褪せないインパクトを持つというのが、
堪らなく嬉しいです。

B級映画だろうと、今まで切り捨ててしまっていた事に、
恥ずかしい思いがします。

 

確かに、
歴史に残る名作!!
それが『食人族』です。

 

 

  • 『食人族』のポイント

エログロヴァイオレンス!!

現代では撮影不可能!!動物虐待!!

意外!?映画としての完成度の高い構成の妙

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • ファンドフッテージ & モキュメンタリー

私は今まで『食人族』を観た事が無く、

しかし、
イーライ・ロス監督のリメイク版の『グリーン・インフェルノ』(2015)は鑑賞済みでした。

で、
映画を鑑賞する時って、
無意識に「ライン」を設定するじゃないですか。

例えば、5段階評価で、

それなりに面白いレベルの「3」
この手の作品なら、これ位の面白さなら大満足、というレベルの「4」
そして、
コチラの想定、予想を超える「5」
といった具合です。

今回、
リメイク版の『グリーン・インフェルノ』、
そして、数々のイタリアン残虐ホラー映画のイメージで
鑑賞前の心構えを備えていたのですが、

この、
元ネタの『食人族』には
リメイク版とは何だったのか?と思わずにはいられない、
遥かに超える面白さがありました。

 

そもそも、
「食人族」が登場する事以外、

映画の構成、作り、ストーリー等が、
全然違う映画なのです。

 

『グリーン・インフェルノ』が、
割とストレートな、
「何だかんだで、大丈夫だろう」と思いあがった白人が、
危機管理意識の欠如によって、窮地に陥る、
という話ですが、

元ネタの方の『食人族』は、
観やすいながらも、
遥かに凝って、且つ、美しい構成の作品となっていたのです。

 

先ず、『食人族』は、
ファウンド・フッテージものであり、
モキュメンタリーでもあるという点です。

 

ファウンド・フッテージとは、
映画のジャンルで、

死亡、或いは、行方不明になった撮影者の未編集の映像が、
後に第三者によって発掘されて公開されたというネタのもの。

モキュメンタリーとは、

本当の実録映像風に作った作品で、
疑似ドキュメンタリーと言われるものです。

なので、
ファウンド・フッテージは、
モキュメンタリーに、ジャンル的に含まれる事が多く、
この二つを兼ね備えた映画作品も多いです。

 

近年では、
『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)にて
ホラー映画との親和性が再確認され、
ジャンル、映画手法の一つとして、ちょくちょく使われています

 

他の例に、

モキュメンタリーものとして、
クロニクル』(2012)
ブッシュウィック ー武装都市ー』(2017)
search/サーチ』(2018)
ウトヤ島、7月22日』(2018)
アンフレンデッド:ダークウェブ』(2018)
『スプリー』(2020)等があり、

これに、ファウンド・フッテージ的な要素を兼ね備えたものとして、

『REC/レック』(2007)
『パラノーマル・アクティビティ』(2007)
トロール・ハンター』(2010)
『アンフレンデッド』(2014)
『ヴィジット』(2015)
女神の継承』(2021) 等があります。

 

つまり、
『食人族』(1980)は、この手の作品の元祖的な映画だったのですね。

 

  • ガチの動物虐待シーンの数々

ファウンド・フッテージのモキュメンタリーものである以上、
ある程度のメタ的な要素が含まれる作品である『食人族』。

日本公開時は、
「ドキュメンタリー」であると喧伝され、
また、
本国イタリアでも、
作中にて本当に殺人が行われているのか!?と疑われ、
テープが差し止めになったとか。

 

それ程、
映像に説得力があったという事ですが、

そのリアリティを担保する要素の一つとして上げられるのが、
数々の動物虐待シーンでしょう。

 

未だ、CGなど無い時代、
パペットや合成としては、
あまりにもリアル過ぎる、動物殺害シーンの数々。

今の時代では許されませんが、

これらは何と、
全て本物動物を本当に殺しているのです。

 

何の尊厳も無く、いきなり撃ち殺される豚、
生きたまま解体され、内蔵をさらけ出す亀、
頭蓋を両断され、脳をすすられる猿、
鷲づかみにされ、喉から腹にかけて一文字に切り裂かれる、何か分からない動物 etc…

今なら動物愛護団体が黙っていない、
というか、
当時から黙っていなかった為、数々の物議を醸したショッキングなシーンの数々、

それらが本物のリアルである為に、
食人や殺人のシーンさえも、本物であるという説得力を与えてしまっているのです。

 

因みに、監督のルッジェロ・デオダートは、
「殺した動物は食べた為に、何の問題も無い」という、
如何にも苦しい言い訳をしたそうです。

まぁ、そうだけれどもさ、
明らかに嗜虐的でしょう、と、ツッコまれますよね。

この前時代的な倫理観の欠如も、
皮肉にも、傑作たる所以になっているのが、
正当な評価を下す上で、悩ましい部分と言えますね。

 

因みに、
作中では、「撮影班のヤラセ」と言及された銃殺シーンは、

実際には実録映像だそうです。

この辺の転倒ぶりも、
本作のメタ要素を際立たせますね。

 

  • 美しい構成の妙

食人という要素、
動物虐待シーンの数々など、

物議を醸す要素がてんこ盛りの『食人族』ですが、

これ程に、内容的にはセンセーショナルなB級路線でありながら、
映画の構成的には、
非常に美しく、考え抜かれたものであるというのが、

何とも言えない趣がありますね。

 

本作は、
映画構成の基本である「起承転結」がしっかりしています。

起:
失踪した撮影班の捜索の為に、
モンロー教授が救助班として、南米アマゾンの奥地を目指す

承:
撮影班は死んでいたが、フィルムを回収、
遺作をTVドキュメンタリーとするべく、
モンロー教授監修の元、復元作業を開始する

転:
フィルムの映像から、
撮影班の行状が暴かれる

結:
死の顛末が描かれる

といった具合です。

 

本作、
メインとしては、
撮影班がブチ殺されるシーンだと思うのですが、

実は、
「起」の部分の、
モンロー教授の冒険パートも、
十二分に面白いです。

冒険をしたことなかった教授が、
攻撃的な原住民(ヤクモ族)の恐怖に晒されながら、
しかし、
優秀なベテランの助けをかりて、
『君の名は。』(2016)の様に「口噛み酒」を飲んだりして、
目的地まで到着。

食人族の「木族(ツリーピープル:ヤマモモ族)」の村に辿り着き、
フルチンになって親交を深め、
臓物をほおばり、
機転を利かせてテープを回収する。

 

未開の地を行くアドベンチャーとして、
十分楽しめる部分なのですが、

この部分は、
後の撮影班の行状のくだりとの比較で、

「上手く行った正解例」として機能する事になり、

ストーリー展開としては、
倒叙法の形となっております。

 

倒叙法とは、
物語の最初に、結末が解ってしまうタイプの作品手法。

ミステリーにおいては、
物語の最初に犯人の犯行が行われ、
その凶行を暴く探偵、警察の活躍が描かれたりします。

例えば、
「刑事コロンボ」シリーズや、
「古畑任三郎」シリーズが、その形式です。

本作では、
消息を絶った撮影班が、
何らの理由で喰われたのだと、
モンロー教授の冒険で明かされます。

 

甲羅だけ残っている料理の跡、
虫が巣くう、白骨死体の発見、
トーテムとされた4人のガイコツ、
飾られた撮影テープ etc…

何かが起こった、
その結末の痕跡を辿って、
教授は目的を果たします。

 

ですが、
それと比較される、答え合わせの
撮影班のテープによる、彼達の冒険は、
いわば「失敗例」

 

道中、
優秀なガイドのフェリペが死亡してしまい、
タガが外れた撮影班は到着したヤクモ族の村で暴虐を発揮。

未開の地では力こそ全てだと、
村人を銃で脅して、
一箇所に集め、
そこに火を付けて、
「部族間の争い」をヤラセ演出、
それを撮影し、逃げ惑う村人を焼き殺します。

食人族である「木族」の村では、
少女をレイプしてやりたい放題。

結局、
原住民の怒りの反撃を買う事となり、
リンチ、レイプの後、喰い殺されるのも已む無しと言った所です。

 

モンロー教授の冒険パートを観た時点では、

未開の地の、
攻撃的で、警戒心が強く、非文明的な食人部族が、

文化の違いを意識せず
危機管理意識の欠如した傲慢な白人を、
喰い殺しちゃった。

位の認識で物語を観ていました。

それは、
『グリーン・インフェルノ』でもそうでしたし、
鑑賞前にある程度想定していたストーリー展開でもあった訳です。

第一、
『食人族』とか言うゲテモノ映画ならば、
つまりは、そういう展開だろうと、高を括っていました

 

しかし、
答え合わせのパートである、
撮影班のテープの部分にて、

その、無意識の内の、
白人優先思考に痛烈な批判が浴びせられます。

 

視聴率こそ全てという資本主義に毒された撮影班は、

現地住民の尊厳を踏みにじり、
自分達の名誉と金儲けの為に虐殺、レイプという蛮行を繰り返し、
しかも、それを余さず撮影しています。
後で編集するから、どうとでもなる、と。

ここに至って、
映画鑑賞前にもっていた認識が、
180度転換します。

撮影班たる白人の方こそ、
金儲けの為に人間を喰いモノにする鬼畜だったのだ!!
と。

 

この価値観のパラダイムシフトこそ、
本作が時を超えて、
名作、傑作と言われる所以なのでしょう。

 

映画のラストシーンで、
モンロー教授が呟く台詞
「本当の食人族は、一体どちらを言うのだろう」というシーンは、

撮影班のみならず、
人が喰い殺される事を期待して鑑賞する、
ゲテモノ趣味の観客自体への批判であるとも言えるのです。

 

鑑賞前の想定を凌駕する展開、
観客それ自体すらも批判する、
作品を超えたメタ的なメッセージ性。

 

本作は、紛うこと無き傑作と言えるのです。
(構成、ストーリー展開だけで言えばね)

 

  • 音楽について

『食人族』は、
音楽の使い方も、面白いですよね。

音楽を手掛けたのは、
イタリアの作曲家のリズ・オルトラーニ。

イタリア映画にて数々の楽曲を提供しており、

「モンド映画」と呼ばれる、
フィクションとリアルな映像を混ぜて、
観客の嗜虐性、猟奇趣味を満たす様な作品、
一種のモキュメンタリーとも言える映画の代表作、
『世界残酷物語』(1962)にも関わっています。

 

本作においては、
フェリペの虫が巣くう白骨死体の発見場面のセンセーショナルな音楽や、

また、
残酷なシーンをそぐわない、
敢えての、爽やかな音楽など、

印象的なものが多いです。

 

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』(2009)においても、
場面にそぐわない昭和の歌謡曲が使われており

例えば、
3号機を虐殺するシーンで使われた『今日の日はさようなら』や、
クライマックスのニアサードインパクトのシーンで使われた『翼をください』など、

アンバランスであるが故に、
シーンを鮮烈に印象付ける効果があったと思います。

 

 

どうせ、ゲテモノ趣味のB級映画だろ?
信者が必要以上に持ち上げているだけだろ?

そういう鑑賞前の想定を遥かに超える、

まさに、オールタイムベスト級の作品であった
『食人族』。

 

過去の名作と言われる作品でも、
今観たら時代遅れと感じる事が多いですが、

しかし、

本作の残虐性のインパクト、
一方の、
美しいとも言える構成の妙は、

映画の鑑賞の楽しさが、
十二分に詰まった作品と言えるのではないでしょうか。

 

 

 

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