映画『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』感想  法廷劇と思いきや、オカルト探偵物語!!

デイビッド少年の悪魔払いに臨んだエドとロレインのウォーレン夫妻。しかし、悪魔の抵抗に遭い、苦戦していた。
そこに居合わせた、デイビッドの姉と付き合っているアーニーは、少年を助ける為に、悪魔に対して「自分に乗り移れ」と呼びかけてしまう。
デイビッドは正気を取り戻したが、程なく、アーニーの様子がおかしくなり、彼は殺人を犯してしまう、、、

 

 

監督は、マイケル・チャベス
「死霊館」シリーズと、世界観を共有する、
ラ・ヨローナ ~泣く女~』(2019)の監督でもある。

 

出演は、
ロレイン・ウォーレン:ベラ・ファーミガ
エド・ウォーレン:パトリック・ウィルソン

アーニー:ルアイリ・オコナー
デビー:サラ・キャサリン・クック
デイビッド:ジュリアン・ヒリアード

オカルト信仰者:ユージニー・ボンデュラント 他

 

 

 

今年の秋は、
ホラー映画の秋。

『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』(本作)
キャンディマン
ハロウィン KILLS
アンテベラム
マリグナント 狂暴な悪夢
ダーク・アンド・ウィケッド
ラストナイト・イン・ソーホー

注目作品が、
目白押しの連続公開となり、

本作は、
いわば先鋒と言った所です。

 

 

さて、

アメコミ映画の
「マーベル・シネマティック・ユニバース」とか、
「DCエクステンディッド・ユニバース」みたいなノリで、

ジェームズ・ワン監督の『死霊館』(2013)のヒットを受け、
それと世界観と同じくするシリーズが、数々と制作されて来ました。

名付けて、「死霊館ユニバース」!?

本作は、その8作品目。

その名も、
『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』!?

もう、邦題からして、興味津々と言った所。

つまり、悪魔に取り憑かれていたから、
殺人を犯してしまったと、主張しているって事なんです。

 

本作、
原題は『The Conjuring: The Devil Made Me Do It』

この「The Devil Made Me Do It」Case、
言うなれば、「悪魔が私に殺らせた」事件は、
1981年11月24日に起きており、
本作のモデルである、
ウォーレン夫妻が関わった、実話をベースにした物語です。

 

日本でも、
2015年9月14日、16日に起こった、
「熊谷6人連続殺人事件」にて、

犯人のペルー人の男が、
「私のせいでは無い、悪魔のせいだ」と言った旨の発言をしたと、
報道された事を思い出しました。

 

それはともかく、
この邦題から考えるに、
どうやら本作、
今まではホラー作品だったものが、
もしかして、法廷劇がメインとなるのか?

そう思うじゃないですか。

しかし、そこは、「死霊館ユニバース」。

 

本作は、
「悪魔のせい」と主張し、無罪を証明する法廷劇では無く、

むしろ、
「悪魔のせい」という証拠を探し、
事件に対処する、
オカルト探偵モノと言った作品です。

 

TVシリーズの「X-ファイル」のオカルト回みたいな感じですね。

なので、
法廷劇というより、
ちゃんと、ホラー映画している作品です。

 

本作を監督したのは、
同じ「死霊館ユニバース」の『ラ・ヨローナ ~泣く女~』も監督した、
マイケル・チャベス。

「ラ・ヨローナ」は、
「バーン」「ドーン」「ギャーッ」という感じの、
ビックリドッキリ系のホラーでした。

しかし本作は、
そういう「驚かせ系」のホラー映画では無く、

対処方法を探す、探偵モノであり、
プラス、悪魔の侵略の対処法を探すといった、
サスペンス要素の高い作品となっております。

なので、
「ラ・ヨローナ」みたいに、
心臓の弱い人は鑑賞注意とまではいかない感じですかね。

まぁ、
普通にホラー映画なので、
怖い映画である事は事実です。

 

むしろ本作、
「死霊館ユニバース」という世界観に配慮し、
シリーズの作品を観ている人が楽しめる小ネタをちりばめつつ、

それでいて、
初見でも普通に楽しめる独立した作品と言えます。

なので、
ホラー映画は好きだけれど、
何となく「死霊館ユニバース」は観ていなかったなぁ、
という人でも、安心して鑑賞出来ますね。

 

それにしても、
ウォーレン夫妻って、元ネタの宝庫なのか?

こんなに、映画向きの事件に色々関わっているとは、
何ともはや、
正に「事実は、小説よりも奇なり」を地で行く夫婦ですね。

事実ベースという事に驚きつつ、
それでもエンタメホラーである事を楽しめる、
『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』は、そんな作品です。

 

  • 『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』のポイント

法廷劇では無く、オカルト探偵モノ

悪魔に騙される、という事

やっぱり一番恐ろしいのは、人間!?

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

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  • 原題から考える「死霊館ユニバース」

さて、
『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』の原題は、
『The Conjuring: The Devil Made Me Do It』です。

「死霊館ユニバース」の第一作目である『死霊館』(2013)の時から
原題は『The Conjuring』。

 

この「conjuring」をグーグル翻訳すると、
「魅惑的な」という言葉が出て来ますが、

関連語として、
「conjuring trick」で「手品」的な意味合いがあり、
類義語は「magic」

動詞の「conjure」は「手品をする」という意味があります。

 

「conjure」に「er」を付けると、
「conjurer」となり、
これは意味が「magician」(魔術師)と同義となりますが、

ゲームの「カルドセプト」シリーズでは、
悪魔召喚士の事を「コンジャラー」と言っていたので、
より狭義の意味では、その専門家と言った所でしょうか。

 

また、
「conjuring house」で「霊館」という意味になり、

更に、
「the conjuring」と、そのままグーグル翻訳すると、
まんま「死霊館」と翻訳されました。

 

本作を含む「死霊館ユニバース」は、
人間が、悪魔に対抗する話ですが、

しかしその実、
本シリーズの「悪魔」とは、
力の源泉であり、手段、方法であり、

必ず、
悪意の媒介者としてのオカルティスト
=悪魔召喚士(conjuere)が背後に潜んでいます

 

つまり、
ウォーレン夫妻が挑む「悪魔祓い」は、

その目的は、悪魔を打ち倒すというより、
悪魔を呼んだ原因である、
オカルティストの悪意を打ち砕く事となるんですね。

 

悪魔を仲介として攻撃してくるオカルティストに対し、
その悪意のシステム(悪魔)を崩す事で、
ウォーレン夫妻は対抗する、

「攻撃」と「防御」が、
それぞれ「悪魔」を仲介しているという所に、

スポーツ的なルールに則しているというか、
漫画『ジョジョの奇妙な冒険』の、スタンドはスタンドでしか倒せないみたいな、

制限されたルールを利用した面白さが、
「死霊館ユニバース」にはあると、私は思います。

 

  • 心を折る、悪魔の所業

その上で、
私が本作で一番好きな場面は、

終盤直前、
エドが自宅にて悪魔の襲撃を受けるシーンです。

 

以下、ネタバレ含みます
未鑑賞の人は、この先は読まない事をオススメします

 

 

ロレインの姿が見えず、
自宅の不穏な空気に警戒するエド。

彼は落ちていたロレインのアミュレットを見つけ、
更には、悪魔の襲撃を受けます。

それに対抗し、
悪魔をアミュレットで追い祓おうとしますが、

すんでの所で、
助手のドルーに腕を掴まれて正気に戻ります。

エド自身は、
悪魔を追い祓っているつもりが、
実は、
ロレインにナイフを突き立てる寸前だった、

というシーンです。

 

これは、実に練られた構成の展開です。

先ず、この前段階とて、
死体安置所にて、
オカルティストの攻撃=悪魔の襲撃を受けていたという場面がありました。

だから、
襲われた時、「また来た!!」と悪魔の襲撃を疑いません。

しかし、
実際は、悪魔の所為で殺人を犯し、
収監されたアーニーの二の舞になる寸前だったのです。

 

映画を観ている我々としては、
実際は超常現象を、さほど信じていない人でも、
「物語のお約束」として、
その映画の中では、超常現象があり得るものとして鑑賞しています

なので、
アーニーが悪魔に乗り移られているという映画の設定も、
それを信じていなくとも、
映画の物語のルールとして、受け入れて鑑賞している、

言うなれば、
他人事として冷めた目線で観ているのです。

 

しかし、
物語の主人公であり、感情移入しやすいエドが、
あっさりと「物語の前提」と同じ手法で騙された、
ここに、衝撃があります。

恐らく、
私も含めて、観ていた多くの人は、
エドと同じように、悪魔に対抗していたと、
思い込むのではないでしょうか。

つまりこの場面は、
いざ、自分が同じ状況に陥ったら、
悪魔に唆されて、殺人を犯しかねないという事を、
観客に叩き付けるシーンと言えるのです。

自分は「オレオレ詐欺」に引っかからないと思っていたお年寄りが、
あっさりと銀行ATMで振り込みをしてしまう様なものです。

 

ふとした切っ掛けで、
正義や勇気が、
絶望へと反転する、

この、巧妙に仕組まれた悪意こそが、
悪魔の所業であり、

現実世界を生きる我々も、
いつ、この様な罠に陥るのか分かりません。

ホラー映画というものは、
こういう絶望に、予め対処する方法、
又は、
それをどう受け入れるのかという、事前予習をさせてくれます

だから私は、ホラー作品が好きだし、
これに触れる事が止められないのだと言えるのです。

 

  • 実際のモデルはどうなったの?

さて、
本作のモデルとなった、
1981年の「The Devil Made Me Do It」Cace (悪魔が私に殺させた事件)は、
現実の裁判では、どういう顛末を迎えたのでしょうか?

どうやら実際は、
裁判として「悪魔が憑依していた」という事を争点とする事は、
裁判所として認められず、

弁護方針としては、
過失致死では無く、正当防衛を主張する事になり、
結局、悪魔憑きとは全く関係無い、普通の殺人事件裁判となりました。

つまり、
現実のモデルの事件自体、
悪魔裁判の法廷劇には成り得なかったのですね。

だから映画も、
オカルト探偵モノになったという訳です。

 

 

邦題を一見すると、
裁判モノかと思いきや、
実際はオカルト探偵モノであった『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』

しかし、
ホラー映画としては、期待に違わぬ作品である事は間違いありません。

まぁ、一部、
ご都合主義的な無理矢理な展開もあります。

例えば、
悪魔を召喚したオカルティストの正体が、
知り合いの娘だったとかね。

しかし、それを差し引いても、
ホラー映画としての面白さが詰まった作品であり、

こういう仕掛けと工夫が練られた「死霊館ユニバース」が、
今後も発展して行く事を、
期待を持って願いたいと思います。

 

 

 

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