映画『ダーク・アンド・ウィケッド』感想  ひたすら不快、極まる憂鬱  

死に瀕した父を介護する母。それを助ける為に、田舎の農場に帰郷した、ルイーズとマイケルの姉弟。しかし、母は「何か」に怯えており、それなのに、姉弟に「帰れ」とにべもない態度を取る。
…翌日、母は自殺した。そして、二人も、恐怖の体験をする事になる、、、

 

 

監督は、ブライアン・ベルティノ
監督作に、
『ストレンジャーズ/戦慄の訪問者』(2008)
『戦慄ピエロの惨劇』(2014)
『ザ・モンスター』(2016)
『ストレンジャーズ 地獄からの訪問者』(2018)等がある。

 

出演は、
ルイーズ:マリン・アイルランド
マイケル:マイケル・アボット・Jr.

ソーン神父:ザンダー・バークレイ 他

 

 

スリラー映画が豊作の、2021年、秋。

死霊館 悪魔のせいなら、無罪。
キャンディマン
ハロウィン KILLS
アンテベラム
マリグナント 狂暴な悪夢
『ダーク・アンド・ウィケッド』(本作)
ラストナイト・イン・ソーホー

こうして、連続して公開されるホラー映画作品群の中で、
本作は、最凶の作品と言えます。

 

「純喫茶」ってあるじゃないですか。

アルコール類を「提供しない」喫茶店の事を、
そういうのですが、

本作『ダーク・アンド・ウィケッド』は、
正に、「純ホラー」。

「スリラー映画」と言ったら、
ミステリとかサスペンスも含まれる印象ですが、

本作は、純然たる恐怖を描いている
故に、純ホラーなのです。

 

?どんな意味?
と、思うでしょう。

もっと、直接に、解りやすく言うと、

上映時間中、
ひたすら不快な描写が続きます。

 

「自称、ホラー映画好き」の私でも、
あ、これ無理だ。
って感じの映画です。

なので、
率直に言うと、この映画、
「何となく興味がある」程度の覚悟で観に行く事は、止めた方がいいです。

映画を観終わった後、
確実に、不愉快な気持ちになって、劇場を後にする事になります。

 

例えば、
身の凍る様な恐怖と悪夢を描いた作品に、
ヘレディタリー/継承』(2018)や、
『レリック -遺物­-』(2020)がありますが、
これらは、
恐怖を描きつつも、この後、何が起こるのかという
興味をも、持続させていました。

また、
ハロウィン(2018年版)』の様に、
アクション的な要素を含んだ面白さだったり、

スプリット』(2017)の様に
サイコなミステリ要素とかも、

ありません。

 

ただ、不愉快な描写が続くのみ、です。

 

私は、
本作を観て、思い知りました。

ああ、結局私って、映画にエンタテインメントを求めているのだな、と。

 

本作は、エンタテインメント性、

ハッピーエンドやカタルシスとは、
無縁の作品です。

本作にあるのは、イジメです。
恐怖が、被害者をひたすらイジメ続けます。

 

ぶっちゃけ、
観ないで良いなら、
観なきゃよかったと、思いましたね。

 

では、
本作は、駄作かと言うと、そうでは無く、
出来が良いから、困った所

ここまで、
エンタテインメント性を排し、
不快描写に徹するのは、
それはそれで、至難の業です。

それを可能にしたのは、
本作が、描きたい事をハッキリと定め、
それをテーマとして表現しているからです。

 

そして、
本作は、出演者が、中々いい味だしています。

マイナーホラー映画あるあるですが、
然程、有名でない出演者であるが故に、

スター性の無さが呼ぶ、妙な親近感と、

そして、
過去の出演作という「色」が無い故に、
映画そのものを、純粋に、リアルに堪能出来るのです。

 

恐怖に直面する事になる、
姉と弟。

恐怖の表情が秀逸、
更に、顔を隠しても、その素振りで恐怖を伝えるという離れ技を演じる、
姉ルイーズ役のマリン・アイルランド。

木訥な様子が、
恐怖に直面した男性の反応をリアルに伝える、
弟マイケル役の、マイケル・アボット・Jr.。

 

面白くは無い、だって、本作は不快だもの。

だから、人には勧めません。

それでも、
観てみたいな、と、思った人は、
まぁ、観てみても、いいんじゃないかな。

あなたも是非、
不愉快な気持ちになって下さい!!

そんな作品、
『ダーク・アンド・ウィケッド』です。

 

因みに、
題名を英語にすると『The Dark and The Wicked』。
直訳すると「闇と邪悪」。

題名で、察するべきでしたね。

 

 

  • 『ダーク・アンド・ウィケッド』のポイント

邪悪が被害者をひたすらイジメる、不快描写

予期せず、因縁も無く、突然襲われる、これこそ邪悪

親の介護

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 

 

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  • 予期せずやって来る、邪悪

本作『ダーク・アンド・ウィケッド』は、
邪悪(wicked)を描いた作品です。

邪悪とは、通り魔的な存在。

特に、自分に非が無くとも、
過去に、因縁が無くとも、
それでも、無差別的に、惨劇に襲われる、
この理不尽さを、

本作は、描いているのです。

 

しかも、
この「邪悪」をいうものは、
何も、映画の中だけの話ではありません。

作中、神父も言っていました。

信じる、信じないに関わらず、邪悪は存在し、被害をもたらす」と。

 

自身や、家族に、
突然、ガンが発見され、余命3ヶ月宣告を受ける事だってあります。

社会状況の変化で、
突然、会社をクビになったりします。

又、
ただ、道を歩いているだけで、襲われる事も、今時あり得ます。

 

人は、準備が出来ていれば、
ある程度は、対応出来ます。

しかし、
不意打ちを喰らうと、
殆どの場合、
本作の様に、
状況に対応出来ず、右往左往するのみで、
為す術無く敗北してしまうのです。

 

邪悪とは、意図しない時に、突然やって来る。

それを、
常に意識しておくべきなのかもしれない、

その事を、本作は教えてくれているのかもしれません。

 

  • 邪悪と愛

本作『ダーク・アンド・ウィケッド』で描かれる「邪悪」。

それが凶悪たる所以は、
愛するものの姿で、犠牲者の前に現われるからです。

 

ルイーズの前には、父の姿で。
マイケルの前には、母の姿で。
神父の前には、娘の姿で。
敬虔な介護士の前には、キリストの姿(声)で。

自分が愛する者の「姿をしたモノ」が、
邪悪な言葉を発し、自分を闇に誘おうとする。

そこに、絶望感があるのですね。

 

また、古来より、
霊や妖怪、ヴァンパイアなどは、
住民に招かれる事で、家の中に入る事が出来る
という、特殊ルールがあります。

なので、扉越しに、
「入れて~」「ダメ~」と押し問答する怪談とか、
結構多いですよね。

有名なものでは、
渡辺綱の家に入ろうとする茨木童子とか、
そうですね。

 

本作では、
手を変え、品を変え、
様々な方法で、執拗に、家の中へ、押し入って来ようとします。
しかも、
それを何度も何度も繰り返します。

 

子供の頃、
親や先生に、「知らない人が来ても、家のドアを開けてはいけないよ」と
言われました。

この、基本的な忠告は、
実は、生きて行く上で、正しい忠告であり、

知りもしない人間の甘言に惑わされてはいけないよ
という意味なのだと言えます。

 

しかし、本作は、
知らない人どころか、
愛する人、親切な人に扮しているから、尚、質が悪いという訳なのです。

愛故に、人は、邪悪を招き、間違いを犯す。

邪悪は、
愛を利用し得るという事を、
本作は警告しています。

 

  • 介護の苦痛

邪悪の不意打ちの恐ろしさを描いた本作。

そのテーマを描く為に、
ストーリーとして選んだのは、親の介護です。

 

人が、死に瀕するという事は、
大変な事です。

介護により、
心身に澱の様に堪る疲労。
かさむ費用。

それが、愛する人、
大切な恩人であっても、
「ハァ~、いっそのこと、早よ死ね」と、
思ってしまう事も、あります。

そして、自分の中の、そんな邪悪に直面し、
日々、自己嫌悪に苛まれる事になるのです。

 

本作『ダーク・アンド・ウィケッド』は、
そんな、介護の苦痛を描いていると、私は感じました。

 

姉弟が、直接介護する描写、
また、それを嫌悪する描写こそ、殆どありませんが、

本作にて描かれる姉弟、そして母の苦悩は、
そのまま、
病人を介護する側の苦悩そのものであると変換出来ます。

 

介護疲れで、母が自殺。
対応出来ずに、右往左往。
介護の秘訣は、相手を愛する事という介護士。
助言する他人(神父)が現われても、プライドが邪魔して受け入れられず。
余命幾ばくもないという理由で、入院拒否する病院側。
親の遺産(ヤギ)が、知らぬ間に無くなっていて呆然。
介護鬱でノイローゼ。
責任放棄で逃げ出すも、その事が後ろめたくて、自分の家庭に戻っても自己嫌悪という呪いが解けない。
介護疲れで、共倒れ。

 

本作は、
死に瀕しながらも、
なかなか死なない「愛する人」が、

介護する側から見ると、
煩わしく思うようになり、
自分の中の「邪悪」と直面するようになる

 

それを、
外側から、
客観視して描いた作品と、
私は捉えたのですが、どうでしょうか。

 

 

本作『ダーク・アンド・ウィケッド』は、
月曜日、
火曜日、、、と、
曜日を重ねて、物語が進んで行きます。

まるで、
キリスト教の神が、天地を作った様子を踏襲しており、
しかしながら、
映画の展開は全く逆で、
破滅の終着点へと突き進んで行きます。

 

突然やって来る、
通り魔的な邪悪の恐ろしさ。

そして、
突然やって来る、親の介護という苦しい人生の局面と、
それに直面し、自分の中の邪悪と対面してしまう苦悩。

 

それを、
映画として、
救いの無いカタストロフィとして描いた作品が、
本作『ダーク・アンド・ウィケッド』と、
言えるのではないでしょうか。

 

 

 

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