映画『アリー/スター誕生』感想  対比される二人の物語!!スターの栄枯盛衰!!


ミュージシャンのジャックは、コンサート帰りに寄ったバーである女性に出会う。名前は、アリー。ドラァグクイーンの集まるバーで堂々と歌う彼女にジャックは惹かれ、彼女と一晩語り明かす、、、

 

 

 

 

監督はブラッドリー・クーパー
本作が初監督作。

本作は、元々クリント・イーストウッドが監督を務める予定だったというが、諸事情でそれが叶わず。

そのイーストウッドの監督作、
『アメリカン・スナイパー』(2014)にブラッドリー・クーパーが出演した時、
この作品の監督をやってみないかと勧められたそうです。

俳優としては、
『世界に一つのプレイブック』(2012)
『アメリカン・ハッスル』(2013)
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014)
アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)
等に出演している。

 

出演は
アリー:レディ・ガガ
ジャック:ブラッドリー・クーパー

ロレンツォ:アンドリュー・ダイス・クレイ
ボビー:サム・エリオット
ラモン:アンソニー・ラモス
レズ・ガヴロン:ラフィ・ガヴロン

 

 

 

『スタア誕生』のオリジナル版は1937年公開。

そこから、
『スタア誕生』(1954)
『スター誕生』(1976)と、

本作
『アリー/スター誕生』(2018)と、
実に、本作は4度目の「スタア誕生」なのです。

 

しかし、
そんな事を露知らずに観ると、

本作は

正に、
レディ・ガガ自身の人生の物語か!?

 

実際には違いますが、
そういう風に思うほど、
現代風にアレンジしてあります。

 

本作は、
場末で歌うアリーが、
あれよあれよと夢を叶えるシンデレラストーリー。

これを、

実際のポップ・スターの
レディ・ガガが演じるというのが、
何とも豪華な作品です。

 

 

そして、
そのレディ・ガガ演じるアリーの対としての、

実際はダブル主演の様な形の存在のジャックを演じるのは、
監督・脚本も同時に務める、
ブラッドリー・クーパー。

 

ショービズ界で生きるこの二人が、

男女の恋愛だけじゃない、
人間の関係性としての、
喜び、苦悩、悲哀、

それらを含めた、
スターの栄枯盛衰を描いた作品と言えます。

 

 

スターが演じる、
スター誕生の物語。

これがつまらないハズも無く。

しかし、
人により、
何処に感情移入するかは、それぞれ。

そういう幅広い懐を持っているからこそ、
4度も映画化された作品。

『アリー/スター誕生』は、
そういう作品と言えるのです。

 

 

  • 『アリー/スター誕生』のポイント

アリーのシンデレラストーリー

ジャックの転落ストーリー

劇中の歌の数々

 

 

以下、内容に触れた感想となっております

 


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  • アリーとレディ・ガガ

本作『アリー/スター誕生』は、
過去の『スタア誕生』のリメイク作品。

しかし、
それを知らずに観たら、
「あれ?これレディ・ガガの実話?」
と思う程、
レディ・ガガ要素も多い作品となっております。

 

先ず、これは有名な話ですが、
レディ・ガガが若かりし頃、
容姿を酷く言われて、それをずっと気にしていたというコンプレックスがあるそうです。

レディ・ガガの奇抜なファッションは、
容姿を誤魔化す為の「迷彩」として、身に纏っていたのです。

映画のアリーは、
「音楽業界のお偉いさんの男が、鼻がデカくて売れないと言った」
と、これまた容姿の事がコンプレックスなのだと言っています。

この台詞は恐らく、
アリーのみならず、レディ・ガガ本人のエピソードでもあるのでしょう。

 

また、アリーとジャックの出会いの場面、
その時、アリーは『ラ・ヴィ・アン・ローズ』を歌っていました。

レディ・ガガはデビュー前後の時期、
ストリップバーでドラァグクイーンに囲まれて働いていたのだと言います。

また、実際に、
監督のブラッドリー・クーパーがレディ・ガガの生歌を初めて聴いたのは
ガンの研究のチャリティイベントで、彼女が歌っていた『ラ・ヴィ・アン・ローズ』だったのだそうです。

ブラッドリー・クーパーはその時、
レディ・ガガにアリー役を決め、
そして、出会いのシーンに、実際この歌を使ったと言います。

 

いやぁ、
何だか、ロマンチックですねぇ。

 

  • ジャックの堕落と、3つの名言

そんな、レディ・ガガ要素を多分に含んだ『アリー/スター誕生』、
そのクライマックスは意外に早く、

「アリーがジャックに誘われ、初めて観衆の前で『Shallow(シャロウ)』を歌ったシーン」
で間違い無いでしょう。

 

 

 

そこから、アリーとジャックの蜜月がしばらく描かれますが、
ストーリーは次第に、

進行性の難聴という苦しみ、
そして、アルコール、薬物依存の度を深めるジャックの転落の様子へと視点が移って行きます。

アリーが成功の階段を登るのと時を同じくして、
ジャックは転落して行くのです。

 

さて、そのジャックの様子は、
劇中の3つの名言によって、さながら予告されているかのように思われます

 

町に掲げられている、アリーの巨大看板を前に、
ジャックはアリーに告げます。

表現者は、自分の心底から魂をすりつぶして吐き出さないと、嘘や手加減は観客に見破られてしまう
「何時まで、どの程度なんて考えずに、兎に角、今を出し切るしかない」と。

それは、
自分がスターダムへと押し上げたアリーへの、
かつてのスターであるジャックからの、

先輩としての、実質最後のアドバイスと言えるものです。

ここから、
アリーとジャックのスターとしての「格」が、
逆転してゆくのですね。

 

そして実際、
ジャックはこの言葉通りに、
自分の魂をすりつぶし、アーティストとして生きているのです。

音楽に携わりながら、
進行性の難聴に苦しむという、決定的なハンデ。

そして、
それを忘れる為か、
ステロイドにて体調管理を恃み、

そして、あまつさえ、
薬物や飲酒にて「耳鳴り」や「難聴」という現実から逃れる始末。

そうまでしてまで音楽にすがりつきながら、
ジャックは負のスパイラルに嵌ってしまっているのです。

 

ドロドロに転落して行く、
そんなジャックを救うのは、

メンフィス在住の友人、ジョージのセリフです。

人生という目的を持って航海している途中、偶々立ち寄った港が望外に心地良く、つい、長居してしまい、その内に目的が何かすら分からなくなる程に今に満足してしまう
「しかし、こんな人生も良い物だと、今朝、お前を見て気付いた」

 

人間、勝ち続ける事は出来ません。
いつかは敗北する時が来ます。

そして、どんなスターでも、
いつかは飽きられ、光を失う時がやって来ます。

そこから新しい人生を送れる様になるかどうかは、
敗北を認めるかどうかという、自分次第なのでしょう。

友人のジョージはジャックに、
お前はそういう時を迎えたのだと、そう言っているのですね。

魂をすりつぶしながら、アーティストをして生きてきたジャック。

その彼が帰るべき港として選んだのが、
アリーなのです。

 

そうして、アリーと結婚するジャック。

その結婚生活自体は幸せなもの。

しかし、
そこにも問題が噴出してしまいます。

ジャックがアリーと出会った初めての夜。
飲みに行ったバーで、ジャックはアリーに言います。

「人は誰でも何らかの才能がある」
「しかし、他人を感動させられる人間は、極一部であり、君はその才能を持っている」

 

アリーは、確かに才能がありました。

しかし、
ジャックが見出した、
歌声だけで勝負する「カントリー歌手」的な存在としてでは無く、

アリーがスターダムへと登りつめたのは、
歌って踊れる、髪だって染める、「ポップ歌手」としてだったのです。

 

よく、
バンドが解散する時の言い分に、
「音楽性の違い」と言ったり、

芸能人同士の夫婦が離婚する時に、
「互いの仕事が忙しく、人生がすれ違い」などという、

ふわっとした印象の説明がなされますよね。

その、真の意味は、
本作のアリーとジャックの関係を観れば、
腑に落ちる所があります。

 

人は自分の理想があり、
親しい人間にも、その自分の理想を求めがちです。

しかし、
その親しい相手に、
自分と同じ理想、才能があるとは限らないのですね。

 

アリーを帰るべき港として、
音楽を失う自分の最後の拠り所として選んだジャック。

しかし、
そのアリーの音楽性は、
自分の理想とは違ったのです。

だからこそ、
自分の存在は、アリーの邪魔でしか無い。

ジャックがそう決断してしまったのは、
自分の信念に添った判断だったのです。

 

人生を生きる時に、
支えとなり得る名言。

しかし、
その名言に縛られるが如く、
不器用過ぎる生き様にて破滅するジャックのストーリーは、

光輝くアリーのサクセスと対比され、
より一層悲劇の度合いが深まるのです。

 

  • Shallow

アリーのグラミー賞にて、

兄のボビーは、ジャックに仕事を持って来ますが、
それは新進歌手のバックバンドの一員という役割。

新人賞を獲得するアリーと比べると、
惨めで、落ちぶれたと感じてしまいます。

その事を、後悔しているボビー。

 

そしてアリーも後悔をしています。

アリーの後悔は、
「ツアーを断って、夏中、一緒に居る」
と、ジャックに告げた事。

そして、それが嘘だった事です。

 

直前の描写では、
マネージャーに、
「ジャックと一緒でないと、欧州コンサートツアーには行かない」
と言っていたアリー。

しかし、
ジャックの死後、「嘘を後悔している」という言葉により、
実際は、マネージャーの要求に応え、ジャックを切ってツアーに行く事を了承していた事が分かります。

 

アリーから見ると、
ジャックは、アリーのお荷物になる位なら、自殺した方がマシだと判断し、決行した様に見えます。

つまり、アリーにとっては二重に後悔が産まれているのです。

アリーの言葉は嘘だった事。

そして、その嘘は、
表面上だけでジャックに対して取り繕ったものだった事。

自分の浅はかさが、
ジャックを追い詰めたとアリーは自責の念に駆られているのです。

 

とは言え、
ボビーはこうアリーに言いました。

「ジャックが死んだのは、我々の所為では無い。強いて言えば、ジャック自身の所為だ」と。

ボビーは、
ジャックのメンタリティを性格に理解していたのです。

 

一方、アリーはどうでしょうか?

その言葉に納得したのでしょうか?

 

本作『アリー/スター誕生』は、
印象的なシーンで、アリー役のレディ・ガガのアップが多用されています

ジャックと初めて出会った夜、
鼻のデカさがコンプレックスだと言うアリーに、
それが魅力的だとジャックは言い、
アリーの鼻を触らせてもらうシーン。

メンフィスで結婚式を挙げ、
涙をながすアリー。

そして、ラストシーン。

ジャックが、アリーを想って作った曲「I’ll Never Love Again」を、
アリーが、ジャックの為に歌い上げるシーン、
そのラストの強い眼差し。

 

監督のブラッドリー・クーパー曰わく、
レディ・ガガの眼差しの美しさに惚れて、
アリー役を彼女に任せたと言います。

その彼女の力強い眼差しが最後のシーンを飾る。

その意味とは。

 

本作は、
印象的な音楽が多いですが、
やはり、
実質的なテーマソングと言えば、
アリーとジャックが二人で歌った「Shallow」でしょう。

「Shallow」には、こんな歌詞があります。

「I’ll never meet the ground」
「深く沈んで行き、それでも水底まで行き着く事が無い」

「Crash through the surface」
「Where they can’t hurt us」
「W’e are far from the shallow now」
「それでも、水面から抜けだす事が出来たなら、誰も私達を傷付けられず、浅瀬は既に遠くにある」

 

この「W’e are far from the shallow now」ですが、
二人の関係性で見た場合、
「浅瀬から遠くに居る=深みに嵌っている」
という意味にも取れます。

しかし、
この訳を、もう一声、私は解釈してみたいです。

ジャックが死に、
深く絶望に沈んだアリー。

しかし、
それでも、その絶望を乗り越えたら、
何時か振り返って見た時、
その絶望すら、大した事の無い、浅瀬(shallow)だったと思える様な時が、きっと来る

そういう意味も込められていると、
私は思うのです。

「Shallow」とはそういう曲であり、
それが、アリーの決意であり、

最後の強い眼差しはつまり、
真にアリーがここから生きて行くのだという決意表明。

つまり、
「スター、アリー」は、今ここに誕生したのだという意味が込められているのです。

 

  • 小ネタ解説

本作『アリー/スター誕生』は、
オリジナルの『スタア誕生』(1937)から続く、
3度目のリメイク作品、
つまり、都合4作の「スター誕生」があります。

それ故、
過去作を意識したメタネタも取り入れられています。

 

例えば、
バスルームでアリーがジャックにメイクするシーン、
ジャックは「こんな事初めてだろ?」と聞き、
アリーは「そうでもないわ」と答えます。

このシーンは、
アリーが実際に過去、こういう経験があったというより、

『スター誕生』(1976)にて、
同様のシーンがあった事から来る小ネタだと思われます。

 

本作を観て、気に入ったなら、
過去作を観て、
「あ、これはこういう意味」
「伝統の決めゼリフなのか」とか、
色々探してみるのも、面白いでしょう。

 

 

 

 

成功してゆくアリーに対比して、

堕落してゆくジャックを描く、

二人の様子から、
スターの栄枯盛衰を描き出した作品『アリー/スター誕生』。

ジャックのスターとしての人生は終わった。

しかし、
アリーはこの絶望を乗り越えて、
ここから生きて行くのだという、
強い意志をその眼差しで示した。

あの鮮烈なラストシーンは、
悲劇を描きながらも、
希望を謳った作品であるという、本作を象徴するシーンだと、
言えるのではないでしょうか。

 

 

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