妊婦のマディソンの夫、デレクはDV野郎。口論の末、マディソンの頭を壁に叩き付けた。
その夜、何者かが家に侵入しデレクを殺害、マディソンも気絶し、赤ちゃんはまたしても流産となってしまう。
その日を境に、犯人が殺人を犯す現場を、マディソンも幻視してしまうようになる、、、
監督は、ジェームズ・ワン。
親は中国人、マレーシア出身で、国籍はオーストラリア。
主な監督作品に、
『ソウ』(2004)
『デッド・サイレンス』(2007)
『狼の死刑宣告』(2007)
『インシディアス』(2010)
『死霊館』(2013)
『インシディアス 第2章』(2013)
『ワイルド・スピード SKY MISSION』(2015)
『死霊館 エンフィールド事件』(2016)
『アクアマン』(2018)等がある。
出演は、
マディソン:アナベル・ウォーリス
シドニー:マディー・ハッソン
ケコア・ショウ刑事:ジョージ・ヤング
レジーナ刑事:ミコレ・ブリアナ・ホワイト
ウィーバー博士:ジャクリーン・マッケンジー
エミリー:マッケナ・グレイス 他
長い夏が終わり、
秋が来たと思ったら、
急速に冷え込み、
早速、冬の足音が聞こえる様になってきた昨今。
そんな今年の秋は、
ホラー映画が豊富です。
『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』
『キャンディマン』
『ハロウィン KILLS』
『アンテベラム』
『マリグナント 狂暴な悪夢』(本作)
『ダーク・アンド・ウィケッド』
『ラストナイト・イン・ソーホー』
連続して公開されるスリラー映画の数々も、
そろそろ佳境を迎えているのではないでしょうか。
そんなクライマックスを任された(?)
本作『マリグナント 狂暴な悪夢』、
監督は、
このラインナップの中で、
最も有名とも言える、ジェームズ・ワン。
スリラー映画の「ソウ」シリーズ、
ホラー映画の
「インシディアス」シリーズ
「死霊館ユニバース」を手掛ける一方、
アクション映画のフランチャイズ作品、
『ワイルド・スピード SKY MISSION』
『アクアマン』
を監督し、
世界中で大ヒットを飛ばしています。
そんなジェームズ・ワンの、
久々の、自身が監督するホラー映画作品が、
本作『マリグナント 狂暴な悪夢』となります。
嫌が応にも期待の高まる本作、
一体、どんな作品だったのか言うと、
それは、
冒頭は古典的なホラー作品、
中盤はサイコなサスペンス、
終盤はアクション・スプラッタ
といった様相を呈しています。
ほほぅ、成程、そうきたか、
親子丼と思って食べていたら、
ウナギがご飯に挟まっていて、
一番下には牛肉が仕込んであった、
そんな、
夢の豪華欲張りドンブリといった感じです。
スリラー映画、
ホラー映画でキャリアを開始し、
「ワイルドスピード」シリーズと、
「DCエクステンディッド・ユニバース」のアクションフランチャイズ映画にて、
興行収入、観客動員という実績を積み上げたジェームズ・ワン。
本作はさながら、
自身のキャリアの融合というか、
これまでの経験を活かした作品作りになっているのではないでしょうか。
とは言うものの、
本作の基本はホラー映画、
冒頭から、
けっこう「エグい」画が映されます。
内容の方も、
結構ギリギリの線を攻めており、
人によっては、
倫理的な側面で、忌避感を覚える部分もあるでしょう。
題名となっている「Malignant」とは、
パンフレットの記述を参考にすると、
「悪意のある」という意味だそうで、
医学用語で言うところの「悪性」を意味します。
そんな、悪意のこもった本作『マリグナント 狂暴な悪夢』、
正に、邦題通りの、
悪夢の狂暴さを感じられる作品と言えます。
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『マリグナント 狂暴な悪夢』のポイント
古典的なホラー描写から始まり
ミステリ・サスペンスとして展開し
アクション・スプラッタでクライマックスを迎える
以下、内容に触れた感想となっております
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邪悪なピノコ!?
本作『マリグナント 狂暴な悪夢』の
「Malignant」の意味は、「悪意のある」「悪性」
医学用語として、
「malignant tumor」で、
悪性腫瘍となります。
映画の冒頭でも、
ウィーバー博士が「悪性腫瘍を切り離す」と言っていましたね。
しかし、
そんな言葉の意味を知らずとも、
ある程度の年齢以上なら、
本作の冒頭を観た途端、
オチまでの展開がある程度読めたという人も居るでしょう。
言うなれば本作は、
「ピノコ」+「ベトちゃんドクちゃん」なのです。
「ピノコ」とは、
手塚治虫の漫画『ブラック・ジャック』に出て来るメインキャラ。
主人公のブラック・ジャックの介添え人と言うか、
萌え系の癒やし枠と言ったところです。
…が、
その出自が特異で、
とある資産家の娘にくっついていた腫瘍、
その「包」の中に、
もう一人の人間の「材料」、
脳やら、目ん玉やらが、丸々、人間にならない形で入っており、
ある種の結合双生児であったのだが、
ブラック・ジャックが手術にて、その腫瘍を分離、
中の人間の材料を組み合わせ、
養女として預ったのが、ピノコという存在です。
「ベトちゃんドクちゃん」は、ベトナム出身、
80年代~90年代に日本のマスコミを騒がせた結合双生児で、
下半身が繋がった男子の双子です。
(1981年生まれ)
ベトナム戦争時、
米軍の撒いた「枯葉剤」の影響で生まれたと言われています。
1988年に、
日本赤十字の支援にて、分離手術を行いました。
兄のベトは2007年に死去しましたが、
弟のドクは、現在も存命です。
なので、
年齢的に40代以降の人なら、
少女(チラッと映ったパンダの靴下で分かる)の結合双生児を、
悪性腫瘍と称し、
ピノコみたいに切り離す
(そして実験動物として生かす)のかな?と、
本作のオチの部分まで、
かなりの精度で推察出来てしまいます。
更には、
殺人鬼「ガブリエル」の様相や、
その特徴、手が逆に付いているとかいう説明を聞くと、
「あ、頭の後ろにまだくっついているのね」
とも、予想出来ます。
これは、いわゆる、
「二口女(ふたくちおんな)」という妖怪。
漫画やアニメ化された
『ゲゲゲの鬼太郎』で有名で、
頭の後ろに、
もう一つ「口」がある女性の妖怪として描かれ、
案の定、
本作のガブリエルと
ビジュアルの傾向としては、似た感じになっています。
二口女は、
後頭部の、割れた口の部分が痛むが、
そこに、食べ物を入れると、痛みが引くとのこと。
『絵本百物語』の画では、
後ろの頭(口)が、意思を持ち、勝手に食事している様にも見え、
意思を持って、
勝手に本体(マディソン)を動かすガブリエルとの共通点もうかがえます。
いわば、本作の殺人鬼ガブリエルは、
「ピノコ」+「ベトちゃんドクちゃん」+「二口女」という合わせ技と言えるのです。
…まぁ、しかし、
監督のジェームズ・ワンが、
それらを知っているハズも無く、
しかし、偶然というには、
あまりにも奇妙なシンクロニシティではないでしょうか。
とは言え、
こういうネタを扱うのは、
フィクションとしては面白いアイディアでも、
倫理的には、ちょっと忌避感を覚えるのもまた、事実。
そういう意味で、
ホラー映画ならではの、
屈託の無さと、空気の読めなさを内包した作品と言えます。
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一粒で、三度オイシイ作品
本作『マリグナント 狂暴な悪夢』は、
基本、ホラー映画なのですが、
そのストーリー展開によって、
3種類の映画を観ている様な感覚があります。
序盤は、
古典的なホラー映画。
音や光、画面の演出にて、
見えるか見えないか、
そして、ビックリドッキリ殺人鬼登場!!にて、
観客の心臓に負担をかけるタイプの作品となっています。
中盤は、
ミステリ、サスペンスチック。
超常現象的な影響で(?)
殺人鬼の凶行の現場を幻視してしまうマディソン。
何故?どうして?何が目的で?
その謎と共に、
逆に、
この幻視にて、犯人を追い詰めようとする
サスペンス要素もあり、
ホラーとは別の意味で、
ハラハラする展開。
終盤はうって変わって、
スプラッタ・アクションが始まります。
ケコア・ショウ刑事のガブリエル追跡あたりから始まるアクションシークエンス、
そのクライマックスは、
警察署での、ポリス連続惨殺無双。
血飛沫が飛び、
骨が飛び出る展開で、
阿鼻叫喚が始まります。
この様に本作は、
展開によって、毛色が変わっているのが、面白い所と言えるのです。
この移行がスムーズなのが、
本作の展開、脚本の練られた所なのですすが、
それ以外にも、
小ネタとしてミスリードが鏤(ちりば)められているのが、
展開の面白さに繋がります。
例えば、
序盤、
レジーナ刑事が、
「夫のDVがあるなら、それが動機だ」と、
マディソン自身を疑っている台詞が出て来ます。
これは、
観ている観客としては、
「登場人物がそう言うなら、違うんだろう」と、
無意識に逆張りして、マディソン犯人説を排除してしまう展開です。
そういう「映画のお約束」を逆手にとって、
やっぱりマディソン(=ガブリエル)が犯人でしたというオチなのが、
面白いですね。
また、本作で表される超常現象として、
ガブリエルの「電気機器操作能力」があります。
これが何故出来るのかという説明は、
作品中では明かされませんが、
この「超常現象が存在する世界観」という先入観が、
マディソンが、テレパシー的な何かで、
犯人と繋がりがあるという誤判断を招きます。
これまた、作品の登場人物であるマディソンの妹シドニーが、
「超常現象的なテレパシー云々」という台詞があり、
観客も、無意識に、
それが映画の「当たり前」と思い込んでいる事の代弁となっています。
故に、
現場を見ている
=マディソン自身が犯人という、
最も常識的にあり得る判断が欠落してしまうのです。
(勿論、主人公だから違うという先入観もありますが)
こういうミスリードを鏤めつつも、
しかし、真相のヒントは、
隠すまでも無く、明らかに配置している、
そんな繊細かつ、大胆な伏線が、
本作の展開の面白さ、意外さを形作っているのです。
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キャストの小ネタ
キャストについて、一言。
ケコア・ショウ刑事を演じたジョージ・ヤング。
彼は、若い頃のイチローに似ていると思ったのは、私だけでしょうか?
実際は、イギリス出身で、
シンガポールにて有名になった俳優だそうです。
主人公のマディソンを演じたのは、アナベル・ウォーリス。
アナベル・ウォーリスは、
ジェームズ・ワンのプロデュース作品で、
「死霊館ユニバース」の第二作目、
『アナベル 死霊館の人形』(2014)でも、
主役のミア・フォームを演じました。
アナベルという役者が
「アナベル人形」の映画で、
ミアという主人公を演じるという混乱ぶり。
本作でも主役に抜擢され、
ジェームズ・ワンのお気に入りである事が窺えます。
個人的には、
クライマックスのシドニーの台詞
「ガブリエルは自分のエネルギーの為に赤ちゃんを犠牲にした」
と言われたときの、
マディソンの表情が秀逸だったと思います。
幼少期のマディソン、
=本名エミリーを演じたのは、マッケナ・グレイス。
「死霊館ユニバース」にて、
ウォーレン夫婦の娘、ジュディ・ウォーレン役にてレギュラー出演をしています。
チョイ役が多いとは言え、
彼女もお気に入りの一人なのでしょうね。
本作において、
映画監督デヴィッド・クローネンバーグの影響が指摘されています。
確かに、
『スキャナーズ』(1981)
『ヴィデオドローム』(1983)
『ザ・フライ』(1986)などの
往年のB級ホラー映画にて描かれた、
肉体の変容が、精神の変容をもたらすというテーマは、
本作にも共通する部分があります。
それを踏まえると、
本作『マリグナント 狂暴な悪夢』のガブリエルは、
ダークな変身ヒーローとも、
言えるのではないでしょうか。
DVの恨み、
切除された恨み、
自分を捨てた恨み、
それを晴らそうとしたガブリエル、
ある意味、同情の余地がある…、いや、無いか。
あれだけ惨殺したらね。
又、本作は、
ビデオテープとか、
ブラウン管テレビとか、
幼少期の、
エミリーにくっついていた状態のガブリエルは、
アニマトロニクス(操作ロボット)を使用していました。
その辺りからも、
80年代テイストというか、
ビデオ文化のテイストが醸し出されていたと感じます。
懐かしの技術、小道具を使いつつも、
現代版にアップグレードされている作品、
『マリグナント 狂暴な悪夢』。
古典的ホラー、
ミステリとサスペンス、
アクションと
一粒で、三度のオイシさを、
展開の上手さで実現した、
中々の職人技の作品なのではないでしょうか。
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