『SFが読みたい! 2018年版』を読んだ感想を書いてみたいと思います。
本書のアンケート対象作は、
本の奥付の発行日が
2016年11月1日~2017年10月31日
までのSF(とその周辺)作品となっています。
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既に発刊から1ヶ月以上経ち、
尚且つ出版元の早川書房のHPでも公開されていますので、
国内篇、海外篇、それぞれのベスト10を記します。
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国内篇ベスト10
1 :『自生の夢』飛浩隆
2 :『ゲームの王国』上・下 小川哲
3 :『公正的戦闘規範』藤井太洋
4 :『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』赤野工作
5 :『あとは野となれ大和撫子』宮内悠介
6 :『横浜駅SF』柞刈湯葉
7 :『裏世界ピクニック』宮澤伊織
8 :『ここから先は何もない』山田世紀
9 :『もはや宇宙は迷宮の鏡のように』荒巻義雄
10:『BLAME! THE ANTHOLOGY』
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海外篇ベスト10
1 :『隣接界』クリストファー・プリースト
2 :『母の記憶に』ケン・リュウ
3 :『エコープラクシア 反響動作』ピーター・ワッツ
4 :『アロウズ・オブ・タイム』グレック・イーガン
5 :『書架の探偵』ジーン・ウルフ
6 :『わたしの本当の子どもたち』ジョー・ウォルトン
7 :『無限の書』G・ウィロー・ウィルソン
8 :『ゴッド・ガン』バリントン・J・ベイリー
9 :『ジャック・グラス伝 宇宙的殺人者』アダム・ロバーツ
10:『巨神計画』上・下 シルヴァン・ヌーヴェル
年に1回の楽しみ、『SFが読みたい!』のベスト10。
順位を見て納得したり、
「え?これが高評価?」と戸惑ったり、
逆に「もっと上だろう!」と憤ったり、
色々紛糾するのが面白い一冊です。
分かり易いランキングを楽しむのも面白いですが、
やはり本書の一番の役割というのは、
SF作品の一年が網羅されている事でしょう。
自分が気付かず読み残した作品、
関心無くスルーするも、評価が高かった作品、
あらすじを読んでみて、にわかに興味が湧いてきた作品、
これらをチェックして、面白さを探究する事が最も楽しい行為だと思っています。
勿論、自分が読んだ作品が、他の人から見るとどう思われたのか?
それを確認する事も楽しみの一つです。
SFの一年の復習とまとめ、これこそ『SFが読みたい!』の効用なのです。
そして楽しみなのが、
「SF出版各社の2018年出版予定」のページです。
これを見て、
「今年は何か出るかな~」とドキドキワクワクするのが良いのです。
…とは言うものの、今年の特別企画「2018年のわたし」は、
単に作家の皆様から採ったアンケートを列記するだけのもの。
正直、年々手抜きになって行っている感が否めませんが、
とうとうここまで来たかといった印象。
また、数年前まで「読者投票ベストテン」もありましたが、これも無くなったままです。
ランキングとしては「読者投票」の方が信用出来たので、復活して欲しいと思っております。
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国内篇ベスト10について
1位は『自生の夢』。
私の個人的予想では、
『自生の夢』『ゲームの王国』『公正的戦闘規範』のどれかが1位だろうなと思っていました。
『自生の夢』の収録作品は、初出の時点で全て読んでいたので、その面白さは折り紙付きでした。
著者の飛浩隆は、11年ぶり三度目のランキング1位。
読者傾向がある程度定まっているとは言え、素直に凄いです。
個人的注目作は
『ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム』と『横浜駅SF』。
これらは、自分が全くノーマークだった作品。
文庫派の私は、その機を待って楽しみにして待っております。
スルーしていた作品で、あらすじを読んで興味が湧いた作品が『裏世界ピクニック』。
よくある異世界モノなのかとスルーしていましたが、
ホラーSFと書かれていたので手に取った作品です。
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海外篇ベスト10について
海外篇の1位は『隣接界』。
個人的にはクリストファー・プリーストの作品は面白いと思えないので、本作はスルーしていました。
ですが、1位になったので、その内読んで見ようと思います。
『母の記憶に』のケン・リュウ、
『エコープラクシア』のピーター・ワッツは
ここ最近ランキング常連になった作家。
また、
『アロウズ・オブ・タイム』のグレック・イーガン、
『書架の探偵』のジーン・ウルフは
ランキング上位常連の作家。
1位~5位まで、安定した作家がランクインしている印象ですが、
悪く言えば代わり映えしないな、とも思います。
個人的には、グレック・イーガンは読むのが難しいので、何でこんなに評価されるのか不思議な作家です。
面白さが分からないクリストファー・プリースト、
小難しいグレック・イーガン、
これらが毎回評価されて、心中苦い思いを拭えません。
6位以下は多彩なラインナップ。
『ジャック・グラス伝』は読んでいないので、「その内読む本」としてチェックしておきたいです。
では、本ブログでも紹介している書籍を簡単に取り上げてみます。
題字クリックで個別ページに飛びます。
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国内篇
7 :『裏世界ピクニック』宮澤伊織
女子大生のバディが異世界にてネットロア相手に冒険を繰り広げる連作短篇集。
ノリとしてはライトノベルです。
10:『BLAME! THE ANTHOLOGY』
漫画『BLAME!』を原作として、
九岡望、小川一水、野﨑まど、酉島伝法、飛浩隆の五人が書き下ろしの短篇を寄せたアンソロジー。
アンソロジーを評価する場合、
どの位原作を再現したか?
もしくは
オリジナル作品としてどれ位面白いか?
といった判断基準が発生します。
また、一冊の本として評価する場合、
面白かった作品を基準に評価するか、
つまらなかった作品があったので評価しないか、
という二択になります。
これらを勘案した原作ファンの私としては、
「原作とは全く関係無い非道い作品がある、しかもそれ単体でもつまらない」
という理由で評価が厳しくなってしまいます。
恐らく、このアンソロジーを評価出来る人は、原作『BLAME!』には全く思い入れが無い方なのだと思います。
26:『海王星市から来た男/縹渺譚』今日泊亜蘭
復刊作品がランクイン。
『SFが読みたい!』において、復刊作品はどういう判断基準で投票できるのかが、未だに分かりません。
恐らく、これは合本なので、新規として判断されたのだと思います。
とは言え、面白さは絶対的。
SF、幻想譚、ユーモア、旧仮名遣いを駆使した歴史物、捕物帖とバリエーションに富んだラインナップの中短篇集です。
特に中篇「縹渺譚」(ひょうびょうたん)は傑作なので、是非とも読んで欲しい一篇です。
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海外篇
6 :『わたしの本当の子どもたち』ジョー・ウォルトン
あの日、あの時、あの選択。
私は結婚を受け入れたが、
もしも違った選択をしていたら、人生どうなっていただろう?
結婚した人生と、しなかった人生が交互に語られるパラレル・ワールド作品。
家庭に生きるか、
個人の幸せを追求するか、
何か本当の幸せなのか、読む人間も考えてしまいます。
10:『巨神計画』シルヴァン・ヌーヴェル
太古の地層から発掘されたオーパーツ。
世界各国から出土されたそれらを集めたなら、巨大ロボが出来上がった!!
とは言え、メインはロボのアクションでは無く、
ロボの操縦士の人間関係や
ロボを巡る各国の政治的駆け引き。
この部分を肩透かしと思うか、
サスペンス的な面白さを楽しめるかで評価は分かれると思います。
私は好きですね。
12:『時間のないホテル』ウィル・ワイルズ
スティーヴン・キング的なJ・G・バラードというパワーワード炸裂の謳い文句。
不条理でありながら、リアル感も漂う前半から、
急転直下の怒濤の「B級ホラー展開」の後半がたまらなく面白い作品です。
14:『主の変容病院・挑発』スタニスワフ・レム
小説と評論の二段構えの作品集。
それらを結ぶは「大量虐殺」というテーマ。
著者はポーランド出身。
ドイツとロシアに蹂躙された過去を持つ国であり、
それ故に真摯で透徹した視線を作品からも窺えます。
17:『三惑星の探求 人類補完機構全短篇3』コードウェイナー・スミス
著者の「人類補完機構」シリーズのまとめられていなかった作品群の拾遺集。
作品としては
『スキャナーに生きがいはない 人類補完機構全短篇1』や
『アルファ・ラルファ大通り 人類補完機構全短篇2』の方が面白い。
とは言え、外伝的に世界観が拡がるので、シリーズのファンなら要チェックの作品となっています。
26:『迷宮の天使』ダリル・グレゴリィ
新薬の副作用で、自分だけの守護天使が見える様になった女性のロード・ムービー的アドベンチャー。
SF的なアイデアもさる事ながら、冒険モノとしての面白さのある作品です。
27:『火の書』ステファン・グラビンスキ
「炎」がテーマの怪奇小説集。
しかし、そこで描かれる真のテーマは凝り固まった情念が破滅を迎えるまでの道程を描く事にあります。
強烈な面白さですが、SFでは無いような、、、
29:『スペース・オペラ』ジャック・ヴァンス
まさかの出オチ作品。
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2017年度SF関連DVD目録について
本ブログでは映画も取り扱っていますので、
「2017年度SF関連DVD目録」のコーナーについても語ってみたいです。
星三つまでで評価されていますが、
個人的な意見としては、
『アイアムアヒーロー』
『エクス・マキナ』
『ドクター・ストレンジ』
『メッセージ』
は星を一つ減らしてもいいかなと思います。
逆に
『シン・ゴジラ』
『君の名は。』
『哭声/コクソン』
『ドント・ブリーズ』
『ハードコア』
は私なら星三つの評価にしますね。
こういうちょっとした所も楽しめるのが、本書の良い所です。
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来年はどうなる?
今現在(2018年3月26日)の時点で、来年の予想をしてみるまさかのコーナー。
国内篇は、
まず、ランキングに入って来るのは日下三蔵(編)の『日本SF傑作選』。
これは、まとめてランクインという形になると思います。
1位、2位を争うのは、
今の時点でも
『最後にして最初のアイドル』と
『半分世界』だと予想されます。
個人的には『半分世界』が好きですが、どうなりますかね。
また、『中野ブロードウェイ脱出ゲーム』も個人的にお気に入りです。
海外篇は、
『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』、『世界の終わりの天文台』はランクインすると思われます。
『世界の終わりの天文台』の情緒が凄く好きなのですが、どうなりますかね。
また、『ダーク・ジェントリー全体論的探偵事務所』の奇想天外な面白さもインパクトがあります。
いまの所はこんな感じですね。
来年の今頃、再び自分でチェックしてみたいですね。
それでは!!
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